現在開催されている大阪・関西万博では、6カ月という限られた会期が終了したのちに廃棄されることのないよう、再展示、再利用を念頭に設計されているパビリオン、施設が多く見られます。
同様に、年間数多く開催されている展示会も、その展示ブースのほとんどが2~4日間程度といった短い期間だけの使用に終わり、会期終了後の廃棄物がこれまで問題とされてきました。最近では再生材を使用するなど、解体後に自社製品の材料として使用できるものを活用してデザインされたブースなども増えています。

『非住宅・木造建築フェア2025』の大成建設ブース
今年6月4~6日、東京ビッグサイトで開催された『住まい・建築・不動産の総合展~BREX~ 非住宅・木造建築フェア』において、軽やかな木質空間で構成されたブースを出展していた大成建設。 釘や金具を用いず、24㎜角の短く細い部材を組み合わせたブースデザインで、地産地消、自社プロダクトの発信、技術の実験といった単なる資材の利活用だけでないさまざまなメリットなどがあるようです。設計本部 設計戦略部 クリエイティブ・デザイン室の山﨑氏、木村氏に話を聞きました。
山﨑信宏氏/大成建設 設計本部 設計戦略部 クリエイティブ・デザイン室 設計担当部長(以下、山﨑):幕張メッセや東京ビッグサイトなどで開催される大規模な展示会は毎年開催されているものが多くありますが、大成建設の場合、「今年出展したから来年も出展する」と決まっているわけではありません。私たちの部署は展示会ブースの設計を年間数件ほど手掛けているのですが、社内で出展が決定し、展示ブースデザインの依頼があるのが会期のおよそ半年くらい前です。
この段階では、出展するのが何の展示会か、ブースの広さ(出展コマ数)、予算、出展趣旨となるメインテーマなどはほぼ決まっていますが、出展場所(アドレス)は会場の奥なのか、手前なのか、入口に対してどちら向きの構えになるのか、来場者の流れはどうなのかといった展示計画に必要な与件は決まっていないので、まずはコンセプトメイクとブースデザインのイメージを何案かつくります。出展場所や環境が正式にわかってから、それらの与件と社内関係部署のニーズをふまえて本格的に設計にとりかかります。
木村吉邦氏/大成建設 設計本部 設計戦略部 クリエイティブ・デザイン室 副主務(以下、木村):以前は展示会ブースをデザインする部署は社内にはなく、外部のデザイン会社にお願いして、出てきたプランを受け取り、社内で意見を出し合うというくらいでした。
山﨑:私たち自身が設計者でこだわりが強いせいか、デザインを外注した展示会に足を運んでも、なんだか印象に残らなかったな、と感じたのです。なぜだろうと考えると、やはり私たちの意図が表現され切っていないことに気が付きました。
私たちクリエイティブ・デザイン室では設計コンペのドキュメントをつくったり、CGパースやムービーなどのビジュアルの制作のほか、建築作品紹介や技術などのパンフレットをつくったりもしています。お客様に向けて発信するコンテンツを多く手掛けている部署なので、「伝える技術」と「魅せる技術」というプレゼンテーションには欠かせないノウハウをもっています。
展示会は、何かを体験、体感して持ち帰れる場だと思うんです。「何を伝えたいか」を意識しながらストーリーを企画して、コンセプトがしっかり現れ、ビジョンが伝わるようなブースデザインにするには、ブースデザインの実績がある設計部門でやったほうがいいのではないか、ということで、広く社外に向けてさまざまなコンテンツ発信の実績がある私たちの部署で担当するようになりました。

自社でデザインした大判CLTによる『CEATEC2019』の大成建設ブース。CLTは上質でサイズも大きかったため、会期後廃棄せずに、さまざまなサイズにカットして展示壁や展示台、家具などを制作して再利用(次の写真参照)
山﨑:2019年に当社として初めて『CEATEC』に出展しました。『CEATEC』はアジア最大級のIT技術とエレクトロニクスの国際展示会で、それまでは建設会社の出展は多くありませんでしたが、来たるべきSociety5.0に向けて、建設業もさまざまな技の社会実装への取組みが始まっており、当社も他社に負けじと当時先端的に取り組んでいたデジタル技術をアピールしたいとのことで出展が決まりました。
会社の出展目的を踏まえ、私たちが考えたのは、「人・モノ・コトがつながる、みんながワクワクする環境を表現しよう」ということで、神社にある紙垂(シデ)をモチーフに、近未来に建材としての活用が期待されていた大判CLTを使ったブースをデザインしました。
木村:目に見えないどこかと、目に見える身近な世界がつながる、豊かな暮らしを願いみんなの“つながりたいと想う心”を形にしました。1枚の紙を折るように組み上げた空間と本物の木の香りは、新たな形で木と共生する、来るべき未来社会の空間体験を提供できたと思います。
そして、このときに使用したCLTはサイズも大きく上質なものでしたので、会期後廃棄せずに当社の『技術センター60周年記念技術フェア』に活用しました。さまざまなサイズにカットして展示壁や展示台、家具などを制作してほぼすべてのCLTを再利用しました。

『CEATEC2019』で使用した大判CLTを再利用した自社『技術センター60周年記念技術フェア』の展示
山﨑:展示空間の設計においては「体験をデザインする」ということを心掛けていると同時に、展示会を自社が保有する技術のアピールの場にしたい、という意図もあります。大成建設には技術センターをはじめとする技術開発・研究のための施設がありますが、そこでは社外に向けて効果的に発信することがそれまでできておらず、説明パネルやサンプルをただ展示しているだけという状態でした。そこで、私たちがそれら技術のショールーム機能を担う展示ブースのデザインに携わるようになり、社内で保有する技術そのもので展示ブースをデザインする、いわば”技術をカタチにして魅せる”実践の場として展示会を活用するようになりました。
木村:当社の木質化技術で「T-WOOD® SPACE Light」※というものがあります。木質部材で構成されたユニットを特殊な金物を使わずに接合し、木質空間を短期間で構築できる構工法技術で、デザインの自由度が高いのが特徴です。一般的な製材の1/9程度、重さは半分程度の小断面の製材4本を綴り材で接合して構成した中空の軸材ユニットを組み合わせることで、さまざまな空間を構成することができます。京都で開催された『WOODRISE 2021 KYOTO』では、地域(関西)産の吉野杉を使って初めて本技術によるブースデザインで出展しました。
※ 屋内に木材のみを使用した空間を構築する技術として、容易に運搬、施工でき、高い構造性能を有する木質フレーム

吉野杉30㎜角の小断面製材を使った『WOODRISE 2021 KYOTO』の大成建設ブース
山﨑:環境面から考えて、地域産の木材を使うことは部材の運搬時に排出されるCO2を抑えられるメリットがあります。T-WOOD® SPACE Lightは一般流通材で構成できるため、どの地域でも材料を入手できますし、複雑な加工も不要なので特殊な加工機をもたない製材所でも製作できます。準備期間がタイトな展示会デザインではこれらは大きな利点となります。
このときの展示会は京都だったのですが、関西地方の木材でつくりたくて、奈良県にある吉野製材協同組合の方にお願いしたところ、「吉野杉のアピールにもなるから」と快く協力してくださいました。とても上質な材料だったので、会期終了後は廃棄せずに当社の技術センターに展示し、その後一部をバラしてソロワークブースや家具などに再利用しました。
これをきっかけに、自社の横浜支店のリニューアルでは同技術で神奈川県産のスギを使い、コミュニケーションのための木質空間をつくりました。

大成建設横浜支店内のコミュニケーションスペース
山﨑:2023年の『第1回グリーンファクトリー EXPO』名古屋展では、比較的長尺のT-WOOD® SPACE Lightで展示ブースをつくり、数か月後の東京展では、同じ部材を使いながらも名古屋展の展示ブースに改良を加えて異なるプランの展示ブースを実現しました。「グリーン」というキーワードを私たちなりに解釈し、脱炭素や自然共生といった主題に対し、木質デザインのトランスフォーマブル・ブースとして発信しました。

『第1回グリーンファクトリー EXPO名古屋展』の大成建設ブース

『第1回グリーンファクトリー EXPO東京展』の大成建設ブース。名古屋展開催時よりも通路に対して開き、来場者を引き込むデザインにトランスフォーム
山﨑:先に開催された名古屋展では、展示コンテンツが少ないことや、内向きのプランで来場者が入りづらかったという反省点もあったので、その後の東京展ではそれらを改善すべくプランを変更し、外へ開くデザインにトランスフォームを図りました。このとき同じ部材の再利用で異なるデザインを実現できることがT-WOOD® SPACE Lightの強みだとあらためて感じました。

トランスフォーム0となる『第1回[九州]半導体産業展』では、力学的解析を実施したトラス状の個性的なデザインで来場者の目を惹きつけた
木村:今年6月に開かれた『非住宅・木造建築フェア』のブースは、2024年9月に開かれた『第1回[九州]半導体産業展』に出展したときの材料で構成しています。同展をトランスフォーム0とすると、『非住宅・木造建築フェア』が3度目のトランスフォームになります。
『第1回[九州]半導体産業展』は半導体がテーマの展示会でしたので、シリコンの結晶構造をモチーフにしたブースデザインを考えました。前述の『グリーンファクトリーEXPO』と大きく異なるのは部材が短くなっている点です。
このときは開催地の福岡県にある大川家具工業組合に協力を依頼したのですが、きっかけはある講演会で、成長がとても早くCO2の固定量も多い一方で、クセが強く成長段階で曲がってしまい、それまで長尺の材が取れず家具などにしか使えていないセンダン(栴檀)という樹種を知りました。センダンは九州で多く自生しているので、地産材としてT-WOOD® SPACE Lightに採用しました。
技術自体は同じでも、細くて短い材とすることで、輸送のパレットに納まったり、運搬のしやすさにつながったり、保管場所の融通が利いたりするなど、メリットが多くありました。脱炭素や林業活性化という点でセンダンを使う意義は大きいと思っています。
山﨑:展示会の設営は限られた日数、時間のなかで各社ブースの設営対応で多くの大工さんが入ってブースを造作します。その点、短尺の小断面木材で構成されるT-WOOD® SPACE Lightは長くて重い軸材や大判のパネル材などではないので、搬入もしやすく、重機も不要で短時間のうちに組み立てられます。展示会ではパネルの掲示だけでなく、配布用のパンフレット類を置くことも多いのですが、T-WOOD® SPACE Lightなら家具のようなデザインも可能です。

トランスフォーム1回目|『JAPAN BUILD TOKYO 2024』の大成建設ブース
山﨑:材が軽く、容易に組み立てられることを活かし、『JAPAN BUILD TOKYO 2024』では、避難所での応急的なブースにも転用できることを実物展示してアピールしたところ、本技術に興味をもってくれたいくつかの自治体や企業から問い合わせをいただきました。

避難所でのプライバシーブースへの転用を想定した実物展示(『JAPAN BUILD TOKYO 2024』)

トランスフォーム2回目|『大成建設千葉支店 カーボンニュートラルフェア』での部材再利用

3回目のトランスフォームとなった今年の『非住宅・木造建築フェア2025』での展示ブース
山﨑:今年の『非住宅・木造建築フェア2025』では、同じ材を使用して3回目のトランスフォームとなったのですが、部材自体はまったく問題なく使えました。とは言え、センダンはクセが強いので若干、曲がりや反りが出てきてしまう場合もありますが、矯正しながら使う方法がこれからの課題だと思います。
ひと言で再利用といっても、保管料や保管場所への輸送費など費用はかかりますので、使用する建材を運搬しやすいサイズにするなど、さまざまな工夫の余地はまだまだありますが、地産地消や林業に目を向けて取り組む意義も大いにあると思っています。
木村:外注だとデザインや予算コントロールがなかなかできなかったという点もありました。もちろん意見を出し、それらに十分対応してくれていたのですが、自分たちでやったほうがもっと意図通りにできますし、なんといっても私たちは木が好きなので、終わって廃棄するデザインは避けたいと思っていました。実際は会期後に廃棄すれば簡単で安上がりかもしれませんが、木を前にするとどうしても「もったいない」という意識がはたらくんです。
木村:自社技術のT-WOOD® SPACE Lightは屋内の使用に限られたものですが、展示会によってさまざまなデザインを試してみることも、簡易的に屋根を付けてインスタレーションなどで屋外に置いてみたりすることも、すべてが実験の場だと思っています。

『大成建設150周年記念技術センター見学会』において「やわらかい木」を初採用して構築した木質のパーゴラ
山﨑:木質系部材の屋外設置と言えば2023年の当社の150周年記念のときに、「やわらかい木」※ を使ったデザインにチャレンジしました。このときつくったのは、木質技術を展示する建物の入口に設置した木質のパーゴラ・ゲートです。
※ 木質単板をシート状接着剤で積層接着した複合材。自在に曲げ・ねじることができる木質素材
「やわらかい木」を使って空間を創るのはこのときが初めてだったのですが、いきなり屋外での設置になってしまって正直不安しかなかったですが、長期間の設置ではないので実験を兼ねてやってみようと。写真(上)にあるようなシンプルな門型のパーゴラなのですが、「やわらかい木」を構造的にも効くようなデザインに昇華させたくて、「やわらかい木」を帯材にしてメインフレームに編み込むことで構造部材として使用できる木質網代(あじろ)構法「T-WOOD® Goo-nyaize」を開発しました。技術としてはインパクトもあったのですが、やはり風雨にさらされる環境下での設置でしたので多くの課題が残りました。

街行く外国人が思わず足を止めて記念撮影した『グリーン・マルチモビリティハブステーション』で社会実証された木質のパーゴラ
木村:そのときの経験を生かしながらも、懲りずに(笑)また屋外設置にチャレンジしました。昨年末から今年の春まで、横浜みなとみらいで行われた『グリーン・マルチモビリティハブステーション』の社会実証実験中に、パーソナルモビリティのガレージとして同じ「T-WOOD® Goo-nyaize」で製作したのですが、そのときは施工にかかる時間の課題をユニット化工法で解決しました。
先例では現場施工に3日間費やしていたところを、基礎の既成鉄骨利用と工場でのプレファブリケーションで、現場での施工期間を半分の1.5日に短縮できました。また、再度屋外での設置でしたので、暴露試験として木材の表面処理仕様について、あらかじめいくつかのパターンを用意して臨みました。まさにこのパーゴラも実証実験そのものでしたが、街なかで新技術とデザインをあわせてアピールできたことは、今後の進化につながっていくと思っています。
山﨑:技術そのものをストレートにコンテンツとして見せてきたことで、今では展示会に来られた方に「大成さんって、こんな面白いことをやっているんだね。詳しく聞かせてよ」という問い合わせをいただくようになりました。
木村:展示会は社外にクライアントがいる建築物ではないため、社内の自主企画として自分たちがやりたいことができることが一番の面白さでもありますね。
山﨑:これからもエンジニアを巻き込んで、「こうしたら面白いんじゃないか」ということを考え、デザインで遊びながらも、性能や強度だけでなく、経年変化の過程などもしっかり検証もしていきたいですね。木材を扱う企業として、脱炭素などの環境負荷軽減や地産地消に役立つ技術を高めつつ、何より自分たち自身が楽しみながらクリエイティブであることを発信していけたらいいなと思っています。
インタビュー:2025年7月3日 大成建設 設計本部にて
写真提供:大成建設株式会社一級建築士事務所