オフグリッド実験住宅〈奄美大島の家〉から見えた、課題解決というものづくりの原点― 建築家・酒井一徳×ミラタップ社長・山根太郎対談 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
オフグリッド実験住宅〈奄美大島の家〉から見えた、課題解決というものづくりの原点― 建築家・酒井一徳×ミラタップ社長・山根太郎対談

オフグリッド実験住宅〈奄美大島の家〉から見えた、課題解決というものづくりの原点― 建築家・酒井一徳×ミラタップ社長・山根太郎対談

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TECTURE AWARD 2025でグランプリを受賞した〈奄美大島の家〉は、「地鎮祭の10日前に送電網を断つ決断をした」という酒井一徳氏(Atelier NODE※)の自邸です。酒井氏は自然災害やパンデミックなど、予測不能な事態に対して備え、かつ自治体が消滅していくという将来にも向き合い、インフラを自ら整備するプロジェクトに取り組んでいます。まず市街地において、実験的に循環する暮らしを試みた自邸の設計についてうかがいました。

また、自社での企画・開発に加え、国内外のメーカーや工場から製品を厳選し、適正価格で販売する設備・建材メーカーのミラタップが、設計者が向き合うさまざまな課題について、どのようなソリューションを提供しているか、お互いの思想や取り組みを、酒井氏と同社代表取締役社長・山根太郎氏との対談で探ります。

※ 受賞時の名称、酒井建築事務所から2026年7月にAtelier NODEへ改称

株式会社酒井建築事務所

Photo: Toshihisa Ishii

—– 酒井さんにお聞きします。〈奄美大島の家〉について、オフグリッドの自宅を設計された背景をお話しいただけますか?

酒井一徳氏(以下、酒井):僕は奄美大島生まれ、奄美育ちで、アメリカの大学院時代に世界中の国でその地域の暮らし、文化、気候に合わせた建築をつくるプロジェクトに携わり、「最適解をどのように導き出すか」ということにずっと取り組んできました。奄美に戻ってからは父の設計事務所(酒井建築事務所)で住宅などの設計をしていました。

近年、異常気象の常態化で離島は台風などの災害が多く、停電もよく起こります。そのような環境のなか、建築において「災害へのレジリエンス」というものをもっと広げていきたいという思いがあります。その理由として、自然災害への対策だけでなく、自治体の数がこれから15年ほどで大幅に減っていくと言われている問題があります。自治体が機能しないことでインフラ自体を保持できなくなる地域が出てきますし、田舎で暮らしている、暮らしたい人たちが暮らせなくなってしまいます。

それを解決できる取り組みができないかと始めたのが、2022年に奄美の山を購入し、山で生活に必要なインフラを自ら整備しながら小屋のような自邸を建てるプロジェクトです。パンデミックや災害など予測不能な事態に備え、消滅しつつある地域で自立したマイクロインフラの可能性を模索することを進めています。

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Atelier NODE 代表 酒井一徳氏

酒井:奄美というと南国で、燦々と太陽が照っているイメージをもたれますが、実は常に曇っていて日照時間は短く、東北地方に並んでワーストに近い状態が何年も続いています。天気予報も当たりにくく、晴れと曇りがかなり激しく入れ替わる土地です。そんな奄美の山でいろんなインフラをつくりながら自立する環境、仕組みをつくろうと多くのエンジニアに相談するなかで、まず、自分がどれだけエネルギーを消費して、どのように排出しているかも分かっていないことに気づいて、けっこうグサッときました。何をどう最適化すればいいか分からないまま、とりあえずマイクロインフラの可能性を模索する小屋をつくろうとしていたんです。潤沢な資金を使えばインフラをすぐに整えられますが、個人で小さくやろうとするとそれなりにコスト面は厳しくなってきます。

ちょうどその時期に奄美の市街地にも自宅を建てていたので、インフラが整ったその市街地でまず実験してみようと思いました。山では浄水を地下水で、浄化槽を循環型で構築していく予定なのですが、市街地の自宅ではまず電気の部分を切り離して試してみようというところから始まったのが〈奄美大島の家〉です。完成後はすぐ停電したり、それなりに苦労も多く、設備を追加、変更、修正しながら、8カ月ほど経ったころからようやく、まともな暮らしができるようになった感覚があります。

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山根太郎氏(以下、山根):「まともな暮らし」というのは、限られた電力で生活することに順応できたという意味でしょうか? それとも電力供給自体が安定してきたということですか?

酒井:供給が安定してきた、という意味です。僕は意識高い系といわれるタイプでも、ヒッピー的な暮らしがしたいわけでもありません。現代的な文明の暮らしをしながら妻には楽をさせたいと思っていたのですが、初めはオーブンや食洗機はまったく使えませんでした。それが徐々に使えるようになってきた、という感じです。

暮らしながら太陽光パネルを増設したり、蓄電池を増やしたりしたのですが、それらを増やせば当然発電量は増え、蓄電もできる一方で、ある程度まで増設すると今度はとんでもない量の発電をして余剰電力が発生するようになりました。今では夏場は電気自動車に回せるほど電力が余るまでになったのですが、冬は普通に生活で使い切るレベルです。もっと予算をかければ冬も電気自動車までいけると分かっているのですが、夏と冬の差が激しく、夏はかなりの電力を捨てている状態です。

奄美大島

Photo: Toshihisa Ishii

酒井:この需要と供給のバランスを探るなかで、追加で工事を予定しているのが風力発電です。日照に関係なく、風力により年間を通じて24時間一定のエネルギーを自給できる仕組みをつくろうとしています。風力発電というと、山や海上にある巨大なもので、住宅街では騒音公害になるのでは?と思われる方が多いですが、最新のものは小型の垂直式で回り、低騒音、高効率で発電するものが出ており、それを取り入れようと思っているところです。冬は日照時間が短く天気が悪くてもそのぶん風が吹く日が多いので、太陽光と風力のハイブリッドで、より安定した供給ができるようになるのではないかと考えています。

山根:オフグリッドで設計し、暮らし方や環境まで考えられている酒井さんは「課題に対するソリューション」をデザインされているのですね。フィロソフィとして、ミラタップと酒井さんとは近いものを感じています。

ミラタップは建材や設備を提供していますが、ただデザインのいい製品を販売しているのではなく、「ソリューション」を提供しています。今年の5月に14万円台で導入できるビルトイン冷蔵庫「INVIERA(インヴィエラ)」を開発、発売したのも、「どれだけかっこいいカップボードをつくっても、家電量販店の冷蔵庫を横に並べて置いた瞬間にそこだけ浮いてしまう」という課題に対するソリューションの1つです。それならビルトインの冷蔵庫をつくろう!というわけです。私たちは空間の中にあるさまざまな課題に対してソリューションを提供し続けることを目指しています。

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ミラタップ代表取締役社長 山根太郎氏

—– 酒井さんが設備や建材の選択で、基準とされている点はありますか?

酒井:可能な限りシームレスにしていきたいので、私たちが製品を採用するときに検討する一番の項目は「ノイズが出ない」ことをベースに選定しています。特に、どうやって冷蔵庫の存在感を消すかということをどの事例でも意識していたので、ビルトイン冷蔵庫(インヴィエラ)は衝撃でした。これまで冷蔵庫の色味やバランスが空間に合わないことが多く、毎回パントリーなどの別室に設置していましたが、それがストレスなくビルトインできるようになったのは革命的だと感じています。

早速、進行中の喜界島の事例で導入します。製氷機もあればよかったかもしれませんが、言い出したらキリがないですし、すっきり隠せるという時点で僕もお施主さんも満足しています。

山根:ありがとうございます。「シームレスであること」「ノイズが少ないこと」というのは、まさに先代からの商品開発コンセプトにも通じます。「造作のように見せる」ことが僕たちのコンセプトなので、ロゴなども入れていません。

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山根:「インヴィエラ」シリーズのカウンター下に入れられるタイプや、ほかにも後付けエアコン、食洗機などの展開も考えています。タイムパフォーマンスが求められる時代において、洗濯乾燥機や食洗機は必須の設備になっていますよね。大所帯だと1日に何度も洗濯機を回して干すなど、洗濯は頻度の高い家事ですが、ビルトイン型の洗濯機、乾燥機の選択肢は多くありません。食洗機も同様で、今はフロントオープン型が人気ですが対応できるサイズやバリエーションが少ないと認識しています。

ミラタップは後発だからこそ、大手が手掛ける「売りやすい商品」「量が出る商品」ではなく、本当に建築家が求めているものを届けるため、企画する家電はビルトインが基本です。キッチンやリビングだけでなく、ランドリーやパウダールームの課題解決も今後取り組んでいきたいテーマの1つです。

酒井:最近の現場は職人不足が非常に大きな問題ですが、加えて建設費の高騰が本当に厳しいので、施主支給率が以前よりかなり高まっています。僕の事務所では、僕が設備などを探して提案し、施主支給にしながらマージンを抑えるということをやっています。最近手がけている石垣、与論、喜界島などの離島の物件では、資材の輸送コストを抑えるため、最終的に施主支給が増えます。ミラタップさんの製品はバリエーションも豊富で選びやすいので、施主にミラタップさんのサイトを教えることで選択肢も増え、僕との打ち合わせもスムーズにできる点が非常に助かっているところです。

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—– 酒井さんはホテルやヴィラなど、非住宅の設計も多く手掛けられていますが、設計面で意識されている点はありますか?

酒井:国内観光客のロケーション需要も昨年からかなり伸び、現在は1泊10万円前後、あるいはそれを超えるような1棟貸しのヴィラのプロジェクトが増えてきています。連泊での利用スタイルも増えている印象で、空間的、体験的な非日常性や付加価値が求められています。そこで、先ほどの冷蔵庫や洗濯機、乾燥機といった日常の家庭にもあるものをいかに隠せられるかといった処理の仕方がテーマになります。いかに隠して「ないように見せるか」というところが毎回一番苦戦するポイントです。

ビルトイン冷蔵庫の選択肢がなかったころは、パントリーや扉の中に冷蔵庫を入れるのですが、見えないように綺麗に扉を付けながら排熱経路も確保する、という工夫をする必要があります。そうしなければ海外製の高級ラインの製品か、業務用を入れるしか選択肢がなかったので、既製品で解決できるようになったのは設計者にとって革命です。ビルトイン設備が増えていくことで、僕らとしても選びやすくなっていくだろうと思っています。

山根:「インヴィエラ」については住宅以外にも、オープンキッチンの店舗で使いたいというお客様もいらっしゃいました。ミラタップではどの製品も住宅と非住宅とを分けた商品開発はしていません。住宅、非住宅や、新築用、リノベーション用などでアイテムの構成を変えるのではなく、対応できる高さや幅にバリエーションをもたせた耐久性の高い商品をつくり、これからも全体の品質を底上げしていく方針です。

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—– 酒井さんが設計者として、今後、ミラタップへ期待することはありますか?

酒井:国産材や林業と紐づいた製品のレパートリー、ラインナップの拡充があると嬉しいです。環境の問題を紐解いていくと、電気のほかにも、自分たちが排出したものをどうするか、有機物のこと、水のこと、どのような循環する仕組みがあるかも考えなければなりません。森が健全でないと川から海への有機物の流れ、治水、下流地域の浸水被害などすべてに影響します。

林業は言うまでもなく日本の環境のベースになっていて、木造建築や木質材料の使用も含め、国も国産材の活用を推進していますが、林業について業界全体も、国民の理解もまだ十分ではないという課題があります。国民は林業がどれだけ大事かを理解しリスペクトしないと、これから土砂崩れなどの災害が増える一方だと感じています。1つ前の時代に戻れるような取り組みの起点があればいいと思います。

Atelier NODE

〈喜界島の家〉イメージ(提供:Atelier NODE)

山根:僕自身は、「自分たちの子ども世代によりよい地球を残したい」という感覚を大事にしています。林業に関していうと、ミラタップのこれからの事業10年分に相当する温室効果ガス排出量をオフセットする目的で、九州の大規模専業林家から森林由来のJ-クレジットを2024年に購入しました。カーボンオフセットの取り組みだけでなく、製品としても国産材や間伐材を利用したものを考えていきたいと思っています。

ヨーロッパでは多少高くてもサステナブルな製品を選ぶ文化がありますが、日本のエンドユーザーや事業主には、環境負荷やサステナビリティに対する意識がまだまだ希薄な印象を受けます。例えば、多くの飲食店で導入されている節水ノズルを扱う知人の企業があるのですが、水道使用量がかなり抑えられる素晴らしい製品で、ヨーロッパなどでは積極的に導入されるのに対し、初期費用が少し高いこともあって日本の飲食店では「水道代が安くなるなら導入する」という発想になりがちです。日本は水資源を節約するという意識が低いので、「コストを下げる」というモチベーションに左右されるのかもしれません。

ミラタップには200〜300社ほどの取引先があるのですが、そのほとんどが国内の中小企業です。ミラタップをかたちづくっているのは、それら中小企業の技術の集合体です。世界に誇れる企業や職人の技術を活用させてもらい、環境負荷が減らせるような予測技術の開発や、建築家、エンドユーザーが求めるものを企画して提供する姿勢をこれからも続けていきたいと思っています。

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ミラタップ 2026年版 最新カタログ請求受付中!

ビルトイン冷蔵庫「INVIERA(インヴィエラ)」をはじめ、今年発売の新商品やミラタップの哲学を反映した多彩なプロダクトを多数掲載したカタログ最新号「Best Selection2026-2027」「Materials2026-2027」(どちらも5月8日発行)の請求を受け付けています。

インタビュー:2026年8月31日 ミラタップ 大阪ショールームにて
Photograph:Shun Fukuda(特記以外)

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