岡山泰士・森田修平・仲本兼一郎の3名が共同主宰し、現在では京都と沖縄に事務所を構えて2拠点で活動する建築設計事務所、STUDIOMONAKA(スタジオモナカ)。
空間の設計だけでなく、プロジェクトの立ち上げから関わる機会が増えたという同事務所では、プロジェクトを共に動かしていくことができるメンバーを募集している。
幅広くユニークな活動をしている背景や、目指している姿はどのようなものか。
これからの働き方の展望、一緒に働く人に求めているものは何か。
事業の拡大に合わせて近隣での引っ越しを間近に控えた京都事務所で、岡山氏と森田氏に話を聞いた。
── 代表の3名とも30代半ばですが、すでに数多くのプロジェクトを手掛けてこられました。どのように活動を広げていったのでしょうか?
岡山:活動を始めて7年ほど、STUDIOMONAKAとして法人化して6年ほどになります。
僕たち3人は、同じ京都建築大学校の出身です。資格取得に特化したような学校で、アトリエ系の設計事務所に就職する学生はほとんどいないなか、3人ともアトリエ系事務所の道に進みました。僕と森田は独立を目指してそれぞれ仕事をしながら夜中に集まり、実績を得ようとコンペに応募していたんですね。
森田が勤めていた事務所を辞めるときに仕事もいくつかあり、仲本が合流することになりました。その頃にはちょうど、外国人が日本での投資を積極的に行う、インバウンド需要が高まった時期に重なりました。
森田:京町家をリノベーションして宿泊できるゲストハウスなどとし、1棟貸しするビジネスが出始めていました。当時はクライアントのうち7割くらいが外国人で、通訳を付けて打ち合わせることも多々ありました。
岡山:町家改修の相談があるとき、僕たちはブランドのコンセプトやネーミングまで考えて提案していました。そうしているうちに、他の業態でもプロジェクトの立ち上げから関わることが多くなったように思います。
森田:これまで手掛けてできたプロジェクトは、100を超えています。実務ベースで叩き上げられてきた感じですね。
岡山:どのようなプロジェクトでも「とりあえずやってみる」という精神で走ってきました。難しいなと思う話もありましたが、そうしたプロジェクトほど、意義があったり楽しかったりするものです(笑)。
岡山:現在でもさまざまなプロジェクトが動いているのですが、一般的な建築設計ではない仕事の1つに、農業の新しい事業〈OHARA FARMY〉というものがあります(https://farmyproject.com)。
京都の大原という自然豊かなエリアで、最初は店舗がほしいという相談から始まったのですが、予算が限られることもあって、畑をシェアファームにし、倉庫をリノベーションしてラウンジをつくる企画を立てました。
このように建物というハードありきではなく、仕組みやプログラムから議論してかたちにしていくプロジェクトも増えています。
── 京都と沖縄での2拠点の事務所は、どのように運営されているのでしょうか?
岡山:もとは京都で事務所を3人で始めたのですが、共同代表の仲本は出身が沖縄ということもあって沖縄の事務所を2018年に開設し、2021年11月からは仲本が常駐しています。
京都の事務所(取材時)は金閣寺に近く、大学や専門学校、保育園などがあるエリアにあります。団地の1階にあって、「HIROBA」というスペースを併設しています。今はコロナ禍で積極的にはできていないのですが、ワークショップを企画して開催したり。
バス停が目の前にあって、歩道との間のシートを開けていることも多いので、街の鼓動が感じられます。バスを待つ学生たちの会話が聞こえてきたり、子どもがフワッと入ってきたり、個性豊かな人が立ち寄ったりするのですね(笑)。コミュニケーションが取りやすく、いろんなつながりができるのは良かったなと思います。
森田:ただ、この京都事務所がある建物が老朽化で取り壊しになるというので、近くに引っ越します。公園の管理事務所として使われていた建物で、自分たちの事務所以外にもイベントなどを企画しながら活用していく予定です。
── 設計で大切にしていることは何でしょうか?
森田:つくるものには、余白を残そうとしています。デザイン的に格好いいものだけに目を向けることなく、クライアントの状況やプロジェクトの特性を踏まえて、つくり込みすぎないことも大切だと思うからです。
岡山:プロジェクトの性格や時間軸によっても異なりますが、人の営みの背景になる建築をつくりたい、と考えています。人が関わることができる余白があり、予期していなかったような出来事がそこで生まれるようなところです。
森田:僕たちの事務所では1人で考えたものをかたちにするトップダウン型ではなく、チームで考え、クライアントや職人さんたちと一緒につくることを大切にしています。こうした姿勢が、空間デザインに現れるといいなと思います。
── 今回募集するのは、どのようなスタッフでしょうか?
岡山:今は、50ほどのプロジェクトが進行しています。僕たちの事務所は比較的若いので、経験があり1人でプロジェクトを担当できるスタッフを特に募集しています。
今、僕たちの事務所では京都と沖縄で、アルバイトを含めて12名ほどが働いています。外国人スタッフや産休中のスタッフもいますし、広報や経理のスタッフもいます。
フランス人のスタッフは最近、「パートナーと一緒に沖縄へ行って働きたい」といって沖縄に滞在しました。価値観や文化の違いを感じる毎日ですが、そういうのもいいなと。さまざまな業種や状況の人がいることで、設計にも活かしていけるのではないかと期待しています。
コロナ禍もあって、これまで考えていなかったことも問われる世の中になっていますよね。僕たちには「こうでなければならない」ということがないようにしています。不確実なことを受け入れて、一緒に議論するカルチャーがあるといいなと。
事業を立ち上げるような複雑なプロジェクトでは、クライアントと踏み込んで話し合うことが必要です。好奇心を持ってイチから考えられる姿勢、どんな状況もポジティブに捉えてつくっていける力が大事なのかなと思います。
森田:数百万円規模の店舗内装から億単位のプロジェクトまであり、振り幅が大きいことは僕たちの事務所の特徴です。
例えば京町家の改修と大規模なプロジェクトでは、押さえるポイントが異なります。京町家では現場で大工と詰めていくことが必要ですし、大きな案件では組織の合意形成をとっていくなど、マネジメントの能力が必要です。その間にはグラデーションがあり、それぞれの難しさはさまざまですね。プロジェクトの規模の大小や種類を横断しながら楽しめる人材を求めています。
岡山:最近、滋賀県大津港でのサイクルステーションの公募型プロポーザルの仕事が決まりました。今後はさらに、公共性をもった建築に領域を広げていきたいと考えていて、事務所はチャレンジする機会を持ちながら、人を育てる場所であり続けたいと思います。
森田:僕は学生たちと一緒にものをつくってみたいですね。さまざまな意見を取り入れる意味もありますし、パワーや勢いを取り入れる意味でも。
さすがに今は、僕たち代表3人が深夜に集まってコンペ案をまとめるようなことはしていませんが、やりがいのあるプロジェクトをまとめて乗り切るためには、熱量が必要です。健全なチームと組織をつくり、“火”を入れながら、次の成長を見込んでいけたらと思っています。
── スタッフの方に伺います。STUDIOMONAKAでのやりがいを教えてください。
征矢野優太(そやの・ゆうた):STUDIOMONAKAには学生の頃からインターンで出入りするようになり、その後に他の事務所で働き、戻ってきました。現在は、飲食やホテルなどのインテリアを多く担当しています。
代表の3人は、最初から印象が変わりません。3人ともウェルカムな雰囲気で、働くことへの苦手意識を持ったことはないですね。
最近担当した日本料理屋さんは、大工さんと話し合いながら原寸でディテールを詰めて完成した、思い出深いプロジェクトです。予定を立てながらどんどんクリアしていく感覚が楽しく、プロジェクトに携わっています。
水田栞菜(みずた・かんな):大学卒業後はハウスメーカーに就職して賃貸住宅の設計をしていたのですが、アトリエ事務所で働いてみたいと資格を取った後に転職しました。STUDIOMONAKAでは、新築住宅やリノベーション住宅、カフェなどを担当しています。
代表たちとは、日常の会話や雑談をする中で「ここはどう思います?」と気軽に意見を聞きながら設計しています。
関わっているプロジェクトでは、何をしたらいいかというところから代表やクライアントと一緒に考えますし、施工現場で話し合う量も多い。プロジェクトに確実性はないので毎回ドキドキしますが、かたちにしていくことを醍醐味と感じています。
(2021.12.07 STUDIOMONAKAにて)