東京・銀座3丁目の松屋銀座の8Fイベントスクエアにて、日本デザインコミッティー主催の企画展「Tsu-tsu-mu展 世界をやさしく繋ぐデザインの作法」が10月13日まで開催されています(主催:日本デザインコミッティー)。
『TECTURE MAG』では、開幕前夜に行われた内覧会を取材。本展をレポートします(会場写真 Photo: TEAM TECTURE MAG)。

本展は、単なるパッケージデザインや包装技術の紹介にとどまらず、「包む」という行為に関するさまざまな事象に潜む「包む」という概念に、「ケア」の視点を見出し、デザインの方法論として多角的に捉え直そうとしているのが特筆点です。
約100点の展示品は、鳥の巣、松屋銀座の包装紙、書籍、プロダクトやインテリア、建築まで大小さまざま多岐にわたり、「本展ではこれも”包む”に含まれるのか」と何度も驚かされます。
メッセージ
企画・構成・アートディレクションを担当した色部義昭氏
「今回の展覧会のタイトルの『Tsu-tsu-mu(包む)』は、日本デザインコミッティーメンバーの田川欣也さんと鈴木元さん、そして私の3人で、早朝ミーティングを重ねながら練り上げてきたものです。企画当初は、松屋銀座の開店100周年にちなんだテーマがいいのではと、包装をテーマとして考えていましたが、議論を重ねるうちに、もう少し大きな概念としての『Tsu-tsu-mu(包む)』へと発展していきました。その後、よりクリティカルな視点を入れようと、デザインジャーナリストの土田貴宏さんにも参画してもらい、企画をブラッシュアップしていきました。今回、あえて、漢字やひらがなではなく、アルファベットの『Tsu-tsu-mu』としたのは、いわゆるパッケージデザイン展だと誤解されないようにしたかったのと、新しいデザイン言語として、この『Tsu-tsu-mu』というものを世界に提示したい、そんな野心を込めています。
『包む』をテーマにした展覧会としては、アートディレクターの岡 秀行さん(1905-1995)が目黒区美術館でやられた展示と、書籍も有名です。本展は、そこでみられたような、ラッピング的な、意味が限定される”包む”ではなく、もう少し新しいデザインのタイポロジーとして提示し、それを読み解いていこうというものです。具体的には、卵やみかんなどの自然物、おにぎりや小籠包のような食べ物、日本の伝統的な折形、現代のプロダクトや家具、建築に至るまで、さまざまな事例を選び出しました。
また本展では、”Tsu-tsu-mu”を、”ケア”という側面からも捉えています。これには、いま世界各地で起こっている紛争による分断、あるいはナショナリズムの高まりといった、厳しい現状に対するささやかな応答といった意味合いも込めています。むき出しのコミュニケーションではなく、例えば、たった1枚の紙を介して、人を思いやる振る舞いや、環境を思いやる優しさのようなものを感じ取ってほしい。思わず微笑んだり、なるほどと膝を打ったり、そんな優しい気持ちを、持ち帰っていただけたら嬉しいです。」内覧会の冒頭で挨拶する色部義昭氏(左)と、出展者の1人である柴田文江氏(右)
〈9 hours スリーピングポッド〉などを出展したデザイナーの柴田文江氏コメント
私は主にプロダクトデザインの仕事をしています。今回の展覧会の企画を最初に聞いた時、実は、自分には関係ないんじゃないかと思っていました。けれども、今日こうして出来上がった会場全体を見てみると、今の時代に受け入れられる、受け入れやすい、アクセクタブルなデザインとは、この『包む』というキーワードで包括できるのではないかと思いました。色部さんはこれまで、私が手がけたデザインについて、よく『すごく包んでますよね』と言うのですが、私は実はそのことにあまりポジティブな印象をもっていませんでした。我々プロダクトデザイナーは、そのようなスタイリング的な言葉を好まないのです。でも、結果的に、包んでいるようにつくっていく、つくってあるということは、使われている状態や、柔らかさをもつ私たちの身体との関係性について、デザイナーがどれほど心を砕いているかということに結びつくのではないかと思いました。そして、色部さんたちが本展の7つの章で用意したキーワードも、まさに、私がものをつくるときにでてくるキーワードともリンクしていました。『Tsu-tsu-mu』を通してさまざまなものを見ていくと、もしかしたら、いいデザインとはなにかと定義するうえで、1つの基準になりうるのではないか。会場には、実に多様な『Tsu-tsu-mu』があり、それぞれに丁寧な解説も付いています。私たちがこれまで考えていた以上の『Tsu-tsu-mu』の概念が、ここにはたくさん提示されています。ぜひ、1つずつ、じっくりと見ていってください。」

柔らかな素材、やさしい色調で展示空間が用意されている(企画・構成:色部義昭+日本デザインセンター色部デザイン研究所 / 空間デザイン:中原崇志、HIGURE 17-15cas)
展示構成
第1章:包むをデザイン作法としてとらえなおす
Tsu-tsu-mu=「包む」行為にあるケアの視点を、あらたなデザイン作法として提案第2章:Tsu-tsu-muは自然生まれ
卵、バナナ、鳥の巣。自然界にあるTsu-tsu-muのお手本たち第3章:Tsu-tsu-mu、こんなところにいたのか
おにぎりや苺大福など、食のシーンの意外なところで働くTsu-tsu-muをCTスキャンや断面展示で可視化第4章:Tsu-tsu-muの思考、Tsu-tsu-mareruの形
たまごつと、aiboのパッケージ、PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE BASICS、ECLISSE、Organic Chair、田根剛「Tane Garden House」など、パッケージ、プロダクト、家具、建築まで、デザインのなかにあるTsu-tsu-muを収集第5章:クリエイターたちのTsu-tsu-mu学
日本デザインコミッティーのメンバーでもある8人のクリエイター(深澤直人、原 研哉、小泉 誠、隈 研吾、面出 薫、佐藤 卓、柴田文江、須藤玲子)に聞く、Tsu-tsu-muの技に関するインタビュー第6章:日本生まれのTsu-tsu-muの精神
折形デザイン研究所の監修のもと、折形に込められた7つの精神を紐解く第7章:世界にTsu-tsu-muというデザイン作法を
平野啓一郎氏の寄稿小説家・平野啓一郎氏が『包むことの豊饒』を寄稿
本展の見どころ
「色部さんからの声がけで本展に参画し、構想と、書籍と展示の編集やテキストを担当しました。『包む』というテーマは展覧会としては難易度が高い。そのもののなりたち、素材、機能、構造など、多岐にわたるリサーチが必要です。メンバーが持ち寄った展示候補リストを削りに削って100点ほどに厳選していますが、なぜこれが”Tsu-tsu-mu”なのか?という議論、背景の一部を、展示解説として短く添えています。
本展でもっとも大きな面積を占めるのは、第4章「Tsu-tsu-muの思考、Tsu-tsu-mareruの形」です。プロダクト、家具、建築と、前半は小さなものが中心で、何かが何かを包んでいる、その包まれているということが、何かしらに人のために役立っているもの。さらには、人が包まれている状態を作り出すものとして、建築作品の模型を展示しています。この章でモバイル茶室〈浮庵〉(2007年)を出展した建築家の隈 研吾さんは、日本と西洋の建築における包まれるという感覚の相違について、本展のために私がインタビューした中で語っていて、会場中央の第5章で上映しています。ぜひこちらもご覧ください。」(土田貴宏氏によるガイドツアーより

第2章:Tsu-tsu-muは自然生まれ

鳥の巣、みかんなど、自然界にあるTsu-tsu-muの手本たち

百貨店包装紙、化粧品、ISSEY MIYAKEのプロダクトのためにデザインされた特別なパッケージなど

赤子のための”おくるみ”と、aibo(アイボ)のパッケージが並んで展示されている

手前:東北地方に伝わる「卵つと」は海外にも知られている
その奥:豪華峰『歌麿 The Beuty』(ブックデザイン:原 研哉ほか、2016)

衣類、マヨネーズの樹脂製ボトル、照明器具、家電製品など

右端:NASAが1960年代に開発した技術を用いたエマージェンシーブランケット

手前:Blue Bricks(デザイン:森山 茜、2013)
現代建築にテキスタイルを持ち込んだ第一人者であるペトラ・ブラーゼに師事した森山は、その可能性を自ら発展させています。この作品は、3種類のブルーと9段階のグラデーションを用いて、重層的な表現をつくり出したもの。見たことのないようなテクスチャーが空間を漂い、カーテンとも壁とも異なる体験を生んでいます。(展示テキストより)

椅子やソファー、バスタブなど

左:カプセルホテル・ナインアワーズのために開発された〈9h スリーピングポッド〉(デザイン:柴田文江、2009)
右:モバイル茶室〈浮庵(ふあん)〉(設計:隈研吾建築都市設計事務所、2007)

手前の建築模型:ヴィトラミュージアムに建設された〈Tane Garden House〉 (設計:ATTA / Atelier Tsuyoshi Tane Architects、2023)

手前の建築模型:(うめきた公園 大屋根施設)(設計:SANAA / 妹島和世+西沢立衛、2024)

館内に”グローブ”と呼ばれるドームを展開する〈ぎふメディアコスモス〉(設計:伊東豊雄建築設計事務所)

「第5章:クリエイターたちのTsu-tsu-mu学」:日本デザインコミッティー・メンバーの深澤直人、原 研哉、小泉 誠、隈 研吾、面出 薫、佐藤 卓、柴田文江、須藤玲子の8氏へのインタビュー(深澤氏による椅子デザイン考、柴田氏が〈9h スリーピングポッド〉をどのような発想でデザインしたかなどを語っている)

贈答品などを和紙で包む、日本古来の礼法の1つ「折形(おりがた)」の展示(監修:折形デザイン研究所)
会期:2025年9月26日(金)~10月13日(月・祝)
開場時間:11:00-20:00(最終日は17:00閉場、入場は閉場30分前まで)
※店舗営業日・営業時間の詳細は松屋ウェブサイトを参照
会場:松屋銀座8階イベントスクエア
所在地:東京都中央区銀座3-6-1
当日入場料(税込):一般 2,000円、高校生 1,500円、小中学生 1,000円
※入場割引あり・詳細は松屋銀座本展案内ページを参照
主催:日本デザインコミッティー
企画・構成:色部義昭+日本デザインセンター 色部デザイン研究所
構想:色部義昭、土田貴宏、田川欣哉、鈴木 元
アートディレクション:色部義昭
グラフィックデザイン:本多万智、谷口美鄉
編集・テキスト:土田貴宏、長瀬香子
設計・施工:HIGURE 17-15 cas
空間デザイン:中原崇志、香坂朱音、梶田ひかる
照明監修:面出 薫
映像ディレクション:小野陽平(展示物)、羽深俊幸(インタビュー)、柳 忍(インタビュー)
会場音楽:畑中正人
題字:塩川いづみ
本展詳細(松屋ウェブサイト)
https://www.matsuyaginza.com/jp/ginza/events/exhibition/tsu-tsu-mu-exhibition-20250916
※本展は、松屋銀座の開店100周年を記念するアニバーサリー企画の一環として行われている
本展の企画・構想を手掛けた2氏によるギャラリーツアーを開催決定!
日時:2025年10月11日(土)18:00-19:00予定
登壇者:色部義昭、土田貴宏
※聴講無料、ただし本展の入場料が必要
※最新のイベント情報と詳細は、日本デザインコミッティー公式SNS、展覧会公式ウェブサイトなどを参照
日本デザインコミッティー インスタグラム
https://www.instagram.com/japandesigncommittee/

図録『Tsu-tsu-mu 世界をやさしく繋ぐデザインの作法 Tsu-tsu-mu:Design Typology for Care and Inclusion』(アートディレクション:色部義昭 / 発行:パイインターナショナル / 発行予定日:2025年10月15日) ※本展会場にて先行販売中(詳細はこちら)
本展の会期中に限り、京都の大垣書店とコラボレーションによるオフィシャルブックカフェ[Tsu-tsu-mu Café by OGAKI BOOKSTORE]が会場に併設して営業中。ドリンクや軽食メニューあり(詳細はこちら)。

日本デザインコミッティーメンバーによる選書コーナー「私が影響を受けた一冊」のコーナー
建築家の内藤 廣氏は、ロシア文学を代表する1冊、フョードル・ドストエフスキー著『悪霊』をセレクト

隈 研吾氏は吉田健一著『ヨオロッパの世紀末』(岩波新書)を推す
オフィシャルブックカフェ営業期間:本展覧会会期に準じる
会場:松屋銀座 8階イベントスクエア
席数:79席
営業時間:松屋銀座の営業時間に準じる ※ラストオーダーは閉店30分前
空間計画:小泉 誠
メインスポンサー:大垣書店
協力:マルニ木工、能作、菅原工芸硝子、スキャンデックス、バルミューダ、わざわ座+相羽建設
展覧会公式ウェブサイト
https://designcommittee.jp/event/2025/08/tsutsumu_ten.html
日本デザインコミッティーとは、戦後の日本デザイン界を牽引したデザイナーや建築家、評論家らによって1953年に設立された団体。デザインの啓蒙を掲げ、松屋銀座を拠点に活動。優れたデザインを選定・紹介する「デザインコレクション」や、企画展を開催する「デザインギャラリー1953」の運営などを行なっている。現在のメンバーは31名(一覧)。

商品選定中の剣持 勇、丹下建造、滝口修造、岡本太郎ら日本デザインコミッティー創立メンバー(1955年撮影、写真提供:日本デザインコミッティー)

日本デザインコミッティー メンバー Photo by Yoshihiko Ueda
日本デザインコミッティー 公式ウェブサイト
https://designcommittee.jp/
Photo & Texed by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG