ショップデザインでは床の占める割合と役割は大きく、全体のイメージを決定づける主要な要素となっている。
どのようなアプローチで床の仕上げを選定していけば、十分な効果を発揮させることができるのか。
既存の建物がもつ魅力を引き出しながら、独自の空気感を創出したショップ〈Little $uzie Apartment Osaka〉。水性コンクリートステイン塗料「aqua color(アクアカラー)」を用いた事例から、そのヒントを探る。
ショップを設計した加藤正基氏と松本光索氏、またオーナーの岡部大輔氏にデザインの背景と詳細を聞いた。
(TOP写真撮影:Natsumi Kinugasa、特記なき写真:TECTURE MAG)
大阪のファッションの中心街・心斎橋で創業したセレクトショップ「Little $uzie Apartment(リトル スージー アパートメント)」。自社ブランド「Little $uzie」の洋服を中心に扱う〈Little $uzie Apartment Osaka〉は、心斎橋に近い南船場エリアの〈大阪農林会館〉に2021年に移転した。
築90年を超えるこの建物には、国内外のアパレルや雑貨などを扱う感度の高いショップが数多く入っている。
Little $uzieオーナーの岡部大輔氏は、設計を依頼した加藤正基氏と松本光索氏に「建物の雰囲気を残しながら、ブランドの世界観と合わせること」を希望したという。
岡部氏は「重厚感のある雰囲気と天井が高い空間を活かしたいということ、またきれいにしすぎずミックス感をもたせたいと伝えました」と語る。
加藤氏と松本氏は、1/20の模型をつくりながら検討。大きなワンルーム空間の中で、スペースを用途に合わせて段階的に分けながら、造作や家具、ディスプレイ什器を配置していった。「フィッティングスペースなどの大きなボリュームは、機能を分節する壁ではなく、家具や洋服と同等に扱うようにスケールを調整しました」と加藤氏は説明する。
松本氏も「旧い建物のリノベーションの設計では新しい要素を入れて新旧の対比にしがちですが、既存空間と新しいデザインが混ざり合うことで、流行に左右されない普遍性を空間に持たせられないかと考えました。躯体の印象を残すために、サイズ感やディテールの調整を繰り返しました。造作や棚などは窓を遮らないようにして建物に馴染ませ、できるだけ抽象的になるようなディテールとしています」と語る。
造作物の寸法やディテールの調整以外に、加藤氏と松本氏が特に注意を払ったのは、素材感だ。
「ショップのインテリアの仕上げは既存の状態を覆うラッピングのようになりがちですが、ここでピカピカした光沢のある素材を使うことはイメージできませんでした。元の状態を肯定して壁はそのままにしましたし、造作物の素材は複数のものを取り入れながら、店内で主役となる洋服との中間的な素材感と色合いを選定しました」と2人は語る。
そして、床には店舗全体に「aqua color」の「モスカーキ」色を塗っている。以前の大阪店でも同じ「aqua color」を床に施していたといい、踏襲したかたちとなる。ただし、新店舗では既存のPタイルを剥がして補修をせず、接着剤などの跡はそのままに上に塗った。
「モルタル仕上げではきれいになりすぎるし、クリア塗装では少し冷たくなる。もとの下地の色や表情を残しながら中和させ、馴染むような表情が合うと考えました」と加藤氏と松本氏は語る。
岡部氏は「新店舗では、ブランドに合った空気感がよく出ているように思います。常連のお客様はゆっくりと過ごしていますし、『何度でも来たくなる』と言われる方もいます。建物を巡る中で立ち寄られる方も多いですね」と語る。
ネットショッピングが普及した今、実店舗を訪れる中で触れる情報と体験は、以前にも増して重要な意味をもつ。時を重ねた建物が持つ表情を引き出し融合させた〈Little $uzie Apartment Osaka〉での「aqua color」使用例は、ほかの空間での体験も豊かなものにするヒントとなっている。
aqua color for floor
コンクリートやモルタルの質感を残したままカラーリングできる床用の水性カラーステイン塗料。半透明に仕上げ、粉塵の発生を予防する。コート剤はマットとグロスの2種、カラーリングは20色+クリアから選べる。
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