2021年9月11日初掲、9月13日DO.DOによる会場構成コンセプトを追記
1970年代より小説、漫画、絵本、エッセイや広告など、多方面で活躍したイラストレーター、安西水丸(1942-2014)の回顧展が、東京・世田谷文学館で9月20日(月・祝)まで開催されています。
安西水丸プロフィール:
1942年東京生まれ。本名・渡辺 昇。イラストレーター。
日本大学芸術学部美術学科造形コース卒業。電通、ADAC(ニューヨークのデザインスタジオ)、平凡社でアートディレクターを務めた後、フリーのイラストレーターに。広告、雑誌の表紙や挿絵、書籍の装画ほかで活躍のかたわら、小説、エッセイ、漫画、絵本などの自著も多数。逝去してのちも高い人気を博している。2014年没。
主な受賞に、朝日広告賞、毎日広告賞、1987年日本グラフィック展年間作家優秀賞、1988年キネマ旬報読者賞など多数。
安西水丸は、日本大学芸術学部を卒業後、広告代理店や出版社に勤務。デザインなどの仕事をしながら、嵐山光三郎(1942-)の勧めで『ガロ』に漫画を掲載し、南房総で過ごした日々などを題材とした『青の時代』が高い評価を受けます。
イラストレーターとして独立した後は、村上春樹(1949-)をはじめとする本の装丁や、『がたん ごとん がたん ごとん』などの絵本、和田 誠(1936-2019)との展覧会、広告や執筆活動など、幅広く活躍しました。「その人にしか描けない絵」を追求し、身近なものを独自の感性で表現した安西の作品は、私たちをユーモアと哀愁あふれる世界へと誘います。
本展は、2016年6月に京都会場の美術館「えき」KYOTOを皮切りに、全国各地を巡回。この世田谷文学館での展示は集大成として開催され、東京会場で初めて披露される作品や、オリジナルの関連展示もあわせて見ることができます。
「小さい頃よりずっと絵を描くことが好きだった」という安西の幼少期から晩年に至るまでの足跡を、原画と関連資料あわせて500点以上で紹介。加えて、「旅」をテーマにした特別コーナー「たびたびの旅」では、旅にまつわる原画、原稿、郷土玩具、民芸品など初出品資料を含む約130点を展示。生涯で国内外のさまざまな場所を訪れた「旅する人」・安西水丸にも迫ります。
これらの作品を、デザイナーの原田 圭氏が代表を務めるデザイン事務所のDO.DO.(ドド)が手掛けた、安西水丸のイラストレーションの世界に入り込んだような世界観が展開する会場とともに鑑賞できるのが大きな見どころです。
会場デザイン コンセプト:
世田谷文学館で行われた「イラストレーター 安西水丸展」の会場デザインを担当するにあたり、作家のモチーフに対するモノの見方や、製作方法が伝わる空間を考えた。もともと常設展用につくられた展示室は、特徴的な下天井や、可動しない大型のガラスケースが、空間を決定づける要素として既に存在していた。それを無視して構成していくことは、空間の持つポテンシャルを発揮できないと思い、下天井のラインにあわせ、壁を建て、空間における最大限の高さの壁をつくり、ガラスケースの周りの開口を空けながら壁を建てる事で、違和感を吸収し、既にあった特徴的な要素を取り込み、最小限で最大限の効果を生むことを考えた。
さまざまな開口部をあけたり、切り抜かれたシルエットが、大きな書割(かきわり)[*]になったりすることで、展示品を覗き込む楽しさや、世界観をつくり出すだけではなく、小さな作品が500点以上も並んだ展示の中で、良い意味で集中力が緩和されるような狙いもあった。
*編集部註.芝居の大道具の1つ。木製の枠に紙や布を張り、建物や風景などを描いて背景とする。由来はいくつかに割れるところから。(小学館デジタル大辞泉より)水丸さんのイラストの製作方法として、まず、線を引き、その上に透明のフィルムを重ね、カラーシートを切り抜き、貼っていくというものがある。その方法に習い、イラストを切り抜いたり、貼り付けたりして、工作のように空間を構成していった。その行為自体が、空間と作品の調和を生み出してくれたように感じる。
“隠れ水丸さん”というサブコンテンツをつくったのは、動線のない空間で見落とした作品と出会える機会をつくりたいという思いと、小説でいう伏線のように、既に物語の中に入り込んでいたような気分を空間デザインに取り入れることで、疲労感の軽減や、展覧会を訪れたことへの満足感を感じられるのではないかという実験でもあった。
カオスのような表現の中に、実は、関係性を持ってつながり合っている、そんなデザインを、文学館全体をつかって表現しようと試みた。最後に、下記に記したのは、プレゼン時にコンセプトとして掲げた三か条である。
01.「あるものをいかす。」
世田谷文学館の展示室の特徴を生かしたいと思います。普段は使いづらいと思われている部分を逆に個性ととらえます。文学館に既にあるものの見方を変え、新たな価値を見つけ利用する、そんな展示空間を目指します。02.「視点。」
水丸さんの独特のものへの眼差しは、きっといろんなものの見方によるものだと思います。見方にはいろんな見方がある事を作品と共に体感してもらうような展示空間を目指します。03.「感覚(センス)。」
水丸さんの持つ感覚(センス)が伝わる空間を目指します。新しいものより、よく使い込んだものが好きな水丸さん。そんな水丸さんだからこそできる設え。好きな音、空気感、ユニークさ・・・。訪れた人が、きっともっと作品や水丸さんのことを好きになる展覧会を目指します。(DO.DO.原田 圭)
1.遊び心あふれる会場デザイン
覗き穴や顔はめスポット、絵から飛び出した特大モチーフなど、最初から最後まで遊び心あふれる展示空間に。全てのコーナーで写真撮影も可能。
2.初出品の原画など新規展示
2020年末に新たに発見された小説『アマリリス』のカバー原画や、村上春樹共著『ランゲルハンス島 の午後』の原画など、貴重な作品約15点が本展で初めて披露される。
3.特別展示「たびたびの旅」
「旅」をテーマにした東京会場オリジナルの展示コーナー「たびたびの旅」が新たに加わります。旅の持ち物、旅先で 作家が求めたスノードームや郷土玩具など、「旅」にまつわる品々を、イラストレーションや原稿とともに紹介。
絶筆となった『地球の細道』原稿(第93回、単行本未収録)も初出品されます。
1.ぼくの仕事
装丁・装画、絵本、漫画、雑誌、エッセイ、広告、立体物など多様な仕事を紹介
2.ぼくと3人の作家
特に関係の深かった嵐山光三郎、村上春樹、和田誠との交流のなかで生まれた作品に焦点をあてる
3.ぼくの来た道
イラストレーターを夢見ていた幼少期からの作品や資料、生涯にわたって愛した品々を紹介
4.ぼくのイラストレーション
安西水丸が描いた原画や本展のために復刻制作された作品などを展示
Special たびたびの旅
旅する人・安西水丸に着目。『地球の細道』『a day in the life』を中心に、旅にまつわる作品やオブジェなどを紹介する東京会場特別展示
本展の関連展示として、世田谷文学館1階の文学サロンにて、〈どこでも文学館〉新作パネルの特別展示のほか、安西水丸の絵本をテーマにした”出張”展示パネルが登場。幅広い世代に人気の絵本『がたん ごとん がたん ごとん』、『りんご りんご りんご りんご りんご りんご』のほか、絵本のラフ画と完成した本を比べることができる『ピッキーとポッキーのかいすいよく』の展示など、安西水丸の絵本の世界をさらに堪能することができます。(en)
会期:2021年4月24日(土)〜9月20日(月・祝)
※混雑時は入場を制限
※当初の予定では8月31日までのところ、東京都の休業要請に伴う臨時休館により会期を延長
※会場ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を実施
会場:世田谷文学館 2階展示室
所在地:東京都世田谷区南烏山1-10-10(Google Map)
開館時間:10:00-18:00(※入場およびミュージアムショップの営業は17:30まで)
料金:一般 900円、65歳以上・大学・高校生 600円、小・中学生 300円、障害者手帳をお持ちの方 400円(ただし大学生以下は無料)
※「せたがやアーツカード」の提示で割引あり
休館日:月曜および臨時休館期間
主催:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館
監修:安西水丸事務所
協力:嵐山オフィス、村上事務所、和田誠事務所、東京イラストレーターズ・ソサエティ、SPACE YUI、クリエイションギャラリーG8(リクルートホールディングス)
企画協力:クレヴィス
後援:世田谷区、世田谷区教育委員会
会場設計:DO.DO.
※本稿の会場風景写真提供:DO.DO.
http://do2.jp/
世田谷文学館公式ウェブサイト
https://www.setabun.or.jp/