まちづくりにつながる「事業企画」「設計施工」「店舗運営」を国内外で手がけているクリエイティブ集団UDS。建築だけでなく、「運営」やそこから広がるコミュニティづくりまで見据えた企画・設計を行う同社では、その強みをより生かすための新たなチームを立ち上げ、現在プロジェクトデザイナーを募集している。
クライアントとのコミュニケーションから新たなクリエイティブを生み出している同社の取り組みや、求める人材などについて、黒田哲二・代表取締役をはじめ新チームを担うメンバーに話を聞いた。
—— はじめにUDSという会社について教えてください。
黒田哲二・代表取締役(以下、黒田) UDSは都市デザインシステムという名前で30年前に創業しました。創業当初注力していたのが、「コーポラティブハウス」事業です。これは、土地の取得から建物の設計、工事発注、監理などすべての過程を自分たちで共同して行う手法による住まいづくりです。
建物をつくる、空間をつくるということを通して小さなコミュニティをつくっていくこと、そうしたコミュニティが増えていくことでまちを変えていきたいという思いが、UDSの出発点にあります。
私自身、もともと別の会社で建築家としてキャリアを積む中で、住む人と向き合っていなかったという反省点がありました。つくる人と使う人をうまくつなげることが必要ではないかと感じていたとき、UDSの「コーポラティブハウス」という事業を知り、まさに自分がやりたいと思っていた仕事だと思い入社しました。
これまで携わったプロジェクトを振り返ると、沖縄でのリゾート開発がコーポラティブハウスのようなホテルをつくるきっかけになりました。そのプロジェクトでは、建物というハード面をつくる段階から、総支配人はじめ料理長やスタッフなどサービスに当たる人たちを全員集めて、これからどういうホテルにしていきたいかを一緒に考えることができました。
私たちの強みは、単なる「事業企画・建築設計」ではなく、「運営」まで含めた企画・設計ができるところにあります。ホテルであれば部屋数、店舗であれば席数といった運営の側からの視点を企画・設計に反映させながらデザインを最適化させられるところに、UDSの強みがあると思います。
この強みは、そこで働く人を含めた建築、あるいはまちづくりの可能性を広げます。たとえば、地方のホテルの事業企画を考えるときでも、運営の面からいえば、働く人を集めにくいという点が多くの場合課題になりますが、そうした運営側の課題まで踏まえた事業企画・設計施工ができれば、例えばホテルの近くにシェアハウスを設けて地元の人やゲスト、働く人がコミュニケーションできる場所を隣接させるといった提案ができます。ホテルだけでなく、そこで働く人も住みやすいコミュニティづくり・まちづくりまで含めたデザインを提案できると思うのです。
働く人の目線で与件を整理しつつ、企画・設計・運営を有機的に回していけば、それが最適なまちづくりにもなるはずだと考えています。
—— 今回設立された新チームについて教えてください。
黒田 いま申し上げたような強みを持っているものの、建物ができた後のことを考えると、運営で得たノウハウやフィードバックを、企画・設計チームに迅速かつ確実に落とし込むことへの課題もありました。
そこで、よりコンパクトなチームを立ち上げて、企画から設計、運営までを回せるようにしていくことで、弊社が得意とする事業エリアにおいてノウハウを最大限活かせるような組織づくりの一環として、2022年4月に「SDU」(System Design Unitの略)を発足させました。
—— 具体的にはどのような業務をされるのでしょうか?
三浦宗晃・事業企画部ゼネラルマネージャー(以下、三浦) SDUは、事業企画と運営を担う事業企画部の新チームとして発足しました。SDUはプロジェクトの方向を決定づける「仕事の入り口」を自由な視点でデザインするチームです。
プロジェクトを構築する中で、アウトプットの質を上げるにはユーザーやクライアントとじっくり対話を重ね、ともに「探索」していくことが欠かせません。むしろプロジェクトとしての形を成す前から一緒にデザインをしていくことができれば、後からでは伝わりにくいことも伝わりやすくなるのではないか、という実験的な取り組みでもあります。
—— プロジェクトのかなり初期から携わるということですね?
三浦 そもそも企画という仕事には4つの段階があります。リサーチやビジョンづくりの「妄想」、コンセプトをもとに事業計画を立てる「構想」、ヒト・モノ・カネのマネージメントを代行する「伴走」、これらが出来上がったあとに実際に運営していく「実装」です。
特に「妄想」の段階で、戦略的かつ積極的に情報発信をしていくことで、共感してくださったクライアントと相談しながら関係性を築いていければと考えています。動き始めてからお話をいただくと、どうしてもビジョンから考え直すことが難しかったり、与件から整理し直すことが困難だったりします。これまでの自分たちの成功例を振り返ってみても、クライアントとの対話がごく初期の段階からしっかりできていたので、その点をもっと活かそうという思いがあります。
そのためSDUでは「妄想」の段階から携わっていきたいと考えています。与件から一緒に発想していけるようなチームでありたい、ということです。そのため、今回採用したいポジションとしては、建築だけではなくプロジェクト自体をデザインできる人、ヒト・モノ・カネ、ひいては周辺のまちを含めた「仕組み」をデザインするという発想で取り組んでいただける方です。妄想から実装まで幅広い業務をこなす必要があるので、1つのフェーズだけでなく全部に関わりたいという方には、やりがいのある仕事だと思います。
—— そうした取り組みはどのようなかたちで具体化されているのでしょうか?
三浦 例えば今いる〈SHIMOKITA COLLEGE〉という居住型教育施設は、まさに事業企画部のチームで手がけました。これは高校生・大学生・社会人が2年間寝食を共にする中で、互いに学び合い、新たな価値を生み出す全寮制の教育プログラムでもあり、小田急電鉄と一緒に、下北線路街のまちづくりプロジェクトの一環として取り組んでいます。
居住型教育施設をつくるという段階から小田急電鉄と一緒に「妄想」し、事業計画を立てて、教育事業を展開するベンチャー企業のHLABと相談しながらサイトを立ち上げ集客してきました。開業後はUDSで食堂を運営しつつ、入居者との契約のあり方の仕組みづくりをやっています。
そうしたデータの積み重ねやアイデア、課題などはチームのメンバーと密に共有しています。〈SHIMOKITA COLLEGE〉だけでなく、シェアハウスやコワーキングスペースを運営しているメンバーとも課題や企画へのフィードバックなど、ユーザー目線で毎週共有していて、それらをすぐに現場に反映させられる点は、コンパクトなチームならではの良さだと思っています。
—— 新チームで求める人材は、どのような人が向いているでしょうか?
三浦 「こういうものがあったらいいな」と日々考えて、それを実現していく野心がある方です。クライアントも「面白いことをやりたい」という期待を抱いているので、同じパターンを繰り返すのではなく、そのつど一緒に考えていく姿勢を持っていてもらいたいです。その中でナレッジや経験値を徐々に積み上げ、常に学ぶことを楽しめる人は、ぜひ私たちも一緒に仕事をしたいなと感じます。
とはいえ、いま挙げたようなことを最初から全部できる人はいません。こうした環境の中で自分の強みを活かすという気持ちを持っていてもらえればと思います。「妄想」の段階から関わるので、クライアントとのやりとりも経営者や経営に近い方々がメインになります。3年から5年の建築の実務経験、あるいはビジネスコミュニケーションに長けた方であれば、プロジェクトの大きな進め方も分かっていると思うので、自分の領域をより広げてもらえると思います。
—— 事業企画部でマネージャーをされている川口さんも中途でUDSに転職・採用されたそうですね?
川口貴之・事業企画部マネージャー(以下、川口) はい。私自身、もともとハウスメーカーで住宅設計をしていて、この職種に移って4年目になります。大学では図書館や小学校といった公共施設の意匠について学んでいました。その中で将来を考えたときに、若いうちから自分の裁量権を持って建築の仕事をしていきたいと思い、最初に選んだのが住宅メーカーでした。
お客さんにとって住宅というのは大きな買い物になるので、そのぶん施主の思い入れが強くなります。設計者として要望を叶えるために与えられたコスト配分のなかで提案していましたが、設計者としてだけではなくお金周りから考えて、事業を組み立てるところから携わる必要があるなと感じました。もともと住宅だけでなくいろいろな領域でやっていきたいと思っていたこともあって、自分のキャリアが生かせるUDSに転職しました。
—— UDSに入った印象はどうでしたか?
川口 予想していた以上に裁量権があって、入社してすぐからやりたいことをさせてもらっていると思います。入社後数週間で携わらせてもらった初めての仕事は、IT企業の社宅をコンペから出すというものでしたが、前例のないプロジェクトをコンペから勝ち取って進めていくということを、三浦さんと2人で考えながらできたというのは、自分自身の成長につながったと感じます。
▲〈BASECAMP TOKYO〉(Photo: 阿野太一)
また、私は宮崎出身なのですが、地元のホテルから相談があったときは自分から手を挙げて担当させてもらいました。自分の身近なところの仕事がしたいと思っていたので「僕がやります」と食らいついて任せてもらいました。ホテルが完成し、私の家族も利用してくれたときは、大きなやりがいを感じました。なにより、手を挙げた私に任せてくれた会社に感謝しています。
—— 川口さんの日々の業務フローについて教えてください。
川口 弊社の企画、設計職種のメンバーは基本的にフリーアドレスでフレックスタイム制です。今は飲食チームともプロジェクトを進めているので、夜や休日に打ち合わせがあったりと働く時間や場所は柔軟ですが、しっかり休みも取れるので生活と仕事を自分でコントロールできています。
1日の流れとしても、特に決まったルーティーンはありません。その時々のプロジェクトに携わる人に会いに行って、いろいろな話を聞かせてもらいながら仕事を組み立てています。自分のプライベートの時間と上手く時間配分をしてストレスなく過ごせています。
この業種における仕事の明確なスキルというのはありません。どんな業務であっても、モノやヒトへの愛情があれば最後まで粘り強くできます。プロジェクトデザインは、妄想から組み立てて最後まで伴走していくことが一番大事で、最後まで添い遂げる忍耐力が、最も求められるスキルかもしれません。
社会のニーズ自体が変化していく中で、それに応える新しい提案をしていくことはとても難しいことでもありますが、クライアントのパートナーとしてチャレンジできる領域はどんどん増えていっているのかもしれません。UDSでの仕事はますます面白くなっていくのではないかと思います。
(2022.10.04 〈SHIMOKITA COLLEGE〉にて)