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[対談]佐藤可士和×谷尻 誠:画像生成AIで切り拓く未来のデザイン

空間画像生成AIサービス「MyRenderer」から何が生まれる?(前編)

PRODUCT2025.03.21

昨年6月にリリースし注目を集めている、デザイナーや設計者向け画像生成AIサービス「MyRenderer」。スケッチや写真などの画像をアップロードし、スタイルを選択するだけでデザイン案が自動作成され、建築CGパース制作会社ならではの高いクオリティや使いやすさの点で評価を得ています。

TECTURE MAGでの「MyRenderer」連続企画の第2弾は、クリエイティブディレクターとして幅広く活躍する佐藤可士和氏と、建築家また起業家として多方面の事業を手掛ける谷尻 誠氏との対談記事。

画像生成AIに対する2人の考えを語っていただいた後、あらかじめ体験してもらった「MyRenderer」の使用感やサービスへの感想、また今後期待することなどを話し合っていただきました。

佐藤可士和|Kashiwa Sato
クリエイティブディレクター

ブランド戦略のトータルプロデューサーとして、コンセプトの構築からコミュニケーション計画の設計、ビジュアル開発まで、強力なクリエイティビティによる一気通貫した仕事は、多方面より高い評価を得ている。グローバル社会に新しい視点を提示する、日本を代表するクリエーター。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパンのブランドクリエイティブディレクション、ふじようちえん、カップヌードルミュージアムのトータルプロデュースなど。近年は日清食品関西工場や武田グローバル本社など、大規模な建築プロジェクトにも従事し、〈ユニクロパーク横浜ベイサイド〉〈くら寿司浅草ROX店〉は、特許庁による日本国内初となる内装意匠に登録された。2022年より京都大学経営管理大学院特命教授を務め、クリエイティブ人材の育成にも尽力している。
Red Dot Design Award 2024 Best of the Best、D&AD Yellow Pencil、ICONIC AWARDS2023 BEST OF BEST、東京ADCグランプリ、日本空間デザイン金賞ほか多数受賞。
京都大学経営管理大学院特命教授(2021-)慶應義塾大学特別招聘教授(2012-2020)、多摩美術大学客員教授(2008-)。
主な著書に『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版社)ほか。
http://kashiwasato.com/

 

谷尻 誠|Makoto Tanijiri
建築家・起業家 / SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役

谷尻 誠 / Makoto Tanijiri

1974年 広島生まれ。2000年建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、近年「絶景不動産」「tecture」「DAICHI」「yado」「Mietell」をはじめとする多分野で開業、事業と設計をブリッジさせて活動している。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど事業の幅を広げている。
主な著書に『美しいノイズ』(主婦の友社)、『谷尻誠の建築的思考法』(日経アーキテクチュア)、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』(エクスナレッジ)、『1000%の建築~僕は勘違いしながら生きてきた』(エクスナレッジ)、『談談妄想』(ハースト婦人画報社)。
作品集に『SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context』(FRAME社)
https://suppose.jp/

前編 INDEX

  • AIが当たり前になった中での新たな設計プロセスの可能性
  • 「MyRenderer」は時間をつくり出すサービス
  • 直感的に操作しイメージできる強み

AIが当たり前になった中での新たな設計プロセスの可能性

── これまで、画像生成AIは試されていましたか?

佐藤可士和氏

佐藤可士和(以下、佐藤):はい。まだデザインプロセスに取り入れていませんが、複数のサービスを触りながら実験しているような状況です。この2年ほどで、画像生成AIは長足の進歩を遂げた印象がありますね。

谷尻 誠(以下、谷尻):本当にそうですね。今回「MyRenderer」を見ても、考えることができないデザイナーは本当にいらなくなってしまうなと感じましたよ。AIによる業務自動化で作業が自動化されることで、企業が社員を大幅に減らすようなニュースも聞くようになりました。特に大きい会社になるほど、人件費を減らしてAIや機械によって売り上げを伸ばすことが顕著に現れてくる気がします。ある種の事務作業とか、例えばコールセンターみたいな応答サービスなどはAIでよさそうですよね。

佐藤:クリエイティブな分野はAIが不得意と言われてきましたが、状況は変わってきているかもしれません。とあるイベントで、AIの研究をしている大学教授と対談したときにお聞きした話なのですが、人間とは思考プロセスが異なってはいても、AIもクリエイティブな答えをいくつか出すようになってきているそうです。

谷尻 誠氏

谷尻:AIが人間に代わってできる領域は、さらに増えそうですね。ある種の仕事ができない人が増えるともいえると思うんですよ。AIによって、いらない職業が増えるのはもう周知の事実で、だとしたら人間が何をするべきなのかということを考えざるを得ない社会になっていくでしょう。過酷かもしれないけど、必要なことのような気がするんですよね。

佐藤:そうですね。人間がやるべきことはたくさんあるはずです。ただ、AIが浸透する過程で、考えることにより時間を使う人と、そうでない人たちが出てくるでしょうね。

谷尻:2極化するでしょう。ChatGPTなどでは、ある程度の答えを出してくれるようになりました。AIはテキストでも画像でも、Wikipediaのようなものかなと思います。Wikipediaに書かれていることは答えっぽいけれど、「本当にそうなのか?」と自分で考えなくてはいけません。

「MyRenderer」は時間をつくり出すサービス

── 「MyRenderer」はどのような場面で有効だと感じられましたか?

佐藤:どんな仕事でも、締め切りがない仕事はほぼありません。時間が限られているので、どこに時間をかけて何を検討するかにアウトプットの質はかかっています。自分の考えたことがすぐにビジュアライズできたら、それはすごいことだと思います。僕たちはプロとはいえ、実際にビジュアライズしないとわからないこともありますよね。ディテールの微細な違いとか。

谷尻:そうですね。とりあえずつくって見てみよう、となります。

佐藤:空間デザインの仕事では、「MyRenderer」で生成されるクオリティのパースを制作するには、相応の時間がかかります。CG制作者から上がってきたものをチェックして、直して、というプロセスを何度か繰り返すためですが、「MyRenderer」はプロンプトが不要で直感的に操作できることが従来の画像生成AIと大きく異なる点だと思いますし、仕事の進め方が変わる可能性がありそうです。「MyRenderer」の使用により、イメージを短時間でビジュアライズできることが可能になり、「根本的に違うことを考えてみよう」など、より多く思考するための時間の余剰ができるようになるでしょう。もっとアイデアが広がるのかなと思います。

ホワイトモデルからのデザインスタディの例。左から「モノトーン」「ナチュラル」「シャビーシック」のスタイル(画像提供:CGworks)

谷尻:便利な時代になるということは、便利なサービスに時間が奪われる時代でもあるわけです。AI時代では、本質的なところを考える時間が取れるようになるということが最も大きいのかなと思います。なぜこのデザインなのかとか、背景にあるストーリーや想いといったことは人間の情緒の部分で、AIでは生まれないですよね。また空間のデザインでは、たぶんAIの完成度がいくら上がっても、プロポーションの決定自体は人間に委ねられています。空間を定義する意識をしっかりともつ設計者やデザイナーにとっては、よりクリエイティブな思考の時間を確保できるようになるので嬉しいことだと思います。

佐藤:「MyRenderer」は本質を考えるための時間をつくるサービス、ということですね。俯瞰してみると、こうしたテクノロジーの進化によって、空間デザイン全体のレベルが上がる可能性がありますよね。例えば、写真をスマートフォンで撮れるようになったことで、これまでまったくカメラを扱えなかった人が雰囲気の良い写真を撮れるようになり、全体的に、写真のレベルが上がってきました。画像生成AIについても、空間デザイン全体ではボトムアップを支えていくような側面があると思います。

直感的に操作しイメージできる強み

── おふたりには「MyRenderer」をご自身のスタッフの方々と一緒に試していただきました。感触はいかがですか?

谷尻:「MyRenderer」は、現状あくまでアイデア出しのツールとして想定されています。でも、これくらいのクオリティでできてしまうと、僕らはもうこれで仕上げてしまいたいくらいの気持ちになります。そこの使い勝手みたいなところですね、気になるのは。

佐藤:逆に言うと、プレゼンテーションで使えるレベルのクオリティに見える、ということですね。

谷尻:そうです。実際の空間写真は自分で加工できないという諦めがあるけど、「MyRenderer」で生成された画像を、操作画面でさらにいじることができないかなと思ってしまいます。

佐藤:「MyRenderer」を、自社で建築チームと一緒に触ってみました。直感的に操作し、イメージを生成できるのは大きなメリットだと思いました。スケッチから画像を生成するときには、うまく認識してくれるように描く線を工夫する必要があって、多少慣れがいるなという感想を持ちました。現場のスケルトンの写真に床素材などのマテリアルを当てはめて、家具を入れることも試してみました。

興味深かったのは、抽象的なボリューム模型の画像から建物を生成すると、実現していそうな建築が現れてきたことです。

SAMURAIによる「MyRenderer」の試行。左上が模型の写真、右上が「商業施設/ナチュラル」、左下が「ショップ/ナチュラル」、右下が「ショップ/グリーン建築」のスタイル(画像提供:SAMURAI)

谷尻:これは面白いですね。

佐藤:また「MyRenderer」では、画像生成時のデザインテイストを決める「スタイル」が数多く用意されています。面白い機能だと思いますし、設計者やデザイナーの方針によっては、いろいろと試しながら使う方もいらっしゃるとは思うのですが、SAMURAIでのデザイン設計で求める機能とは少し異なるのかもしれません。SAMURAIではコンセプトから初期のイメージをつくるときの幅は、かなり明確に絞られているのですが、そのイメージを、より質の高いものにするためにどうしたらよいかをもっと細かく検証したい、となってきます。

谷尻:例えば「モダン」というスタイルの中に、もう少し枝分かれした状態がほしいというのが、デザイナーが求めていることでしょうね。

「モダン」スタイルで生成した例(画像提供:CGworks)

佐藤:そうですね。生成された画像について、例えば床だけをさらにバリエーションを出したい、というリクエストに対応できたら良いなと感じます。素材の色や質感であったり、フローリングの張り方であったり。「MyRenderer」の機能としてさらに求めるなら、部分的な修正と、多くのパターンを一気に上げてくれるようなサービスがほしくなりました。

(2025.02.13 SAMURAIにて)


佐藤可士和氏と谷尻 誠氏、それぞれの「MyRenderer」のインプレッションはここまで。

サービスへの具体的な要望が出てきたところで、後編では開発元にも登場いただき、AI時代のデザインの展望を描きます。

MyRendererについて

ラフスケッチや写真などの画像をアップロードし、スタイルを選択するだけで、AIが質の高いデザイン案を自動作成。建築やインテリアに携わる設計者やデザイナーの想像をかたちにする、空間生成AIサービスです。

 

Photographs: toha(提供画像をのぞく)
Text: Jun Kato

「MyRenderer」対談:佐藤可士和×谷尻 誠

PRODUCT2025.04.03

[対談]佐藤可士和×谷尻 誠:画像生成AIで切り拓く未来のデザイン

空間画像生成AIサービス「MyRenderer」から何が生まれる?(後編)

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