海運業を中心とした事業を展開し、広島県福山市に拠点を構える常石グループ[*1]が、東京における新たな拠点となる[TATOU TSUNEISHI(タトウ ツネイシ)]を日比谷に開設、先ごろ内部をメディアに公開しました。
同グループは、2025年1月に、ファッションデザイナーでクリエイティブディレクターの落合宏理氏をチーフ・デザイン・オフィサーに迎え、「ツネイシデザインプロジェクト」[*2]を推進中で、本拠点はその活動の一環として新設されました。落合氏が施設を監修、空間設計を建築家の向山裕二、上野有里紗、笹田侑志の3氏が主宰する設計事務所・ULTRA STUDIO(ウルトラスタジオ)が担当しています。
『TECTURE MAG』では3月3日にメディア向けに行われた内覧イベントを取材しました(フォトクレジットなき画像はすべて常石グループからの提供)。

2026年3月3日にメディアに向けて行われた内覧会の様子 Photo: TEAM TECTURE MAG
ULTRA STUDIOはテーブルなどの家具や照明器具のデザインも手がけ、一部はマテリアルの開発から施工まで行っている

ブックディレクターの幅 允孝氏の選書と配架によるライブラリーを併設した執務スペース Photo: TEAM TECTURE MAG

ツネイシカムテックスで製造しているリサイクルマテリアルを用いた壁の左官材について説明する笹田氏 Photo: TEAM TECTURE MAG

執務空間 サロンスペース Photo: TEAM TECTURE MAG
*1.常石グループ:1903年に海運事業で創業、代表取締役社長は神原勝成氏。「未来の価値を、いまつくる。」をスローガンに掲げ、主に5つの事業(造船、海運、商社・エネルギー、環境、ライフ&リゾート)を展開。2025年に新設した社会貢献推進部を通じて地域貢献活動へのサポートも拡大中。同年秋には一般財団法人神原・ツネイシ文化財団(代表 神原勝成氏)の主催で「ひろしま国際建築祭 2025」を開催している(詳細はこちら)
*2.ツネイシデザインプロジェクト:2025年1月1日に発足し、ファッションデザイナーでクリエイティブディレクターの落合宏理が同グループのチーフ・デザイン・オフィサー(CDO)に就任。2025年5月1日に「ツネイシデザインプロジェクト」の第1弾となる新コーポレートアイデンティティ(CI)を発表している(詳細:常石グループプレスリリース「常石グループ 新コーポレートアイデンティティ(CI)を発表」)
2024年12月2日に翌年1月1日付の新体制を発表。2025年5月1日には「ツネイシデザインプロジェクト」の第1弾となる新コーポレートアイデンティティ(CI)を発表している(詳細:ツネイシホールディングスプレスリリース)

メディア内覧会で挨拶する落合宏理氏(常石グループ チーフ・デザイン・オフィサー)。背景のロゴマークは、グラフィックデザイナー 鈴木 聖氏によるデザインで、常石の頭文字「T」と、創成期における第1号船舶「天社丸」の「天」の字に由来する
常石グループでは、企業理念である「社員の幸せ」を一層追求し、「徹底的にひと重視」のミッションを2025年念頭に発表。「デザイン」をグループ共通のキーワードに掲げています。
グループの新拠点となる[TATOU TSUNEISHI]は、海運業を中心にさまざまな事業を展開するグループ[*1]のうち、東京に拠点のある10社の連携をはかるとともに、社外に対して開かれた情報発信拠点と位置付けられています。
従来の オフィス」の枠を超え、多様な人々が集い、感性を磨き、新たな発想が創出されることが期待されています。
立地は、東京都の歴史的建造物にも選定されている、1938年竣工の旧第一生命館を保存・リノベーションしたオフィスビルの7階。T字型の平面の左右に執務スペースを寄せ、ほぼ同等の面積を有する中央部分を大きく空けた「余白」を核としているのが特徴です。
この設計について、ULTRA STUDIO 笹田氏は次のように語っています。
「常石グループの10社が一堂に会する場をつくりたいという依頼でした。10社の業種は多岐にわたり、いずれかの1社をフィーチャーしたデザインはふさわしくない。考えに考えて、グループの発祥の地である瀬戸内海をイメージした空気感をつくるというコンセプトに至りました」(ULTRA STUDIO 笹田氏談)

プレゼンテーション中のULTRA STUDIOの3氏(左から、上野有里紗氏、向山裕二氏、笹田侑志氏)

ULTRA STUDIOによるプレゼンテーション、フロア平面図をもとに「余白」のコンセプトを説明中

“薄明”をイメージした照明下での「余白」の全景、この左右に執務空間が分かれている
中央の「余白」エリアの床はステンレスで、長方形の平板がびっしりと張られています。大判のステンレスではなく、サイズ30×15cm(t=1.5mm、バイブレーション仕上げ)にカットされた板を馬踏み目地で職人が1枚1枚張って施工。手仕事ならでは”ゆらぎ”によって、穏やかな海の水面のような視覚効果が生まれています。

“東雲”をイメージした照明
対照的に、記者発表の席が設けられた側の床は、金属製のOAフロアのパネルに黒いウレタン樹脂を塗装して仕上げています。下の画は、夜の海にのぼった月の光で水面が照らされたような情景がうつし出されています。

“月影”をイメージした照明。奥がステンレス仕上げの床、手前はウレタン樹脂を塗装して仕上げたOAパネル

記者発表とオープニングトークが行われたフロア。
ULTRA STUDIOによる[TATOU TSUNEISHI] の空間デザインでは、昨秋に初開催された「ひろしま国際建築祭2025」のメイン会場のひとつとなった神勝寺 禅と庭のミュージアム(福山市)の常石グループでの重要性に着目した。和紙・障子・左官・格子といった日本建築にみられる要素を取り入れ、単なる再解釈を超えた「見立て」をデザインに込めているのが特徴です。例えば、上の画に写っているペンダント照明は、黒い海に浮かぶ月をイメージしたもので、多面体のフレームに和紙を張ってつくられています。
カウンターは、ULTRA STUDIOが素材を開発、型枠もつくって自社で制作したオリジナルです。素材は、壁の一部の左官仕上げでもみられる、常石グループで産業廃棄物処理・リサイクル・環境事業を営むツネイシカムテックスが製造しているアークサンド(人工砂)に、英国企業の次世代型マテリアル(ジェスモナイト)と鉄粉を混ぜた特注素材。さらに、表面を瀬戸内海から運んだ海水で磨いており、海水に含まれる塩分によって鉄粉が錆び、表面に茶色い色の模様が出ているとのこと。
「テーブル、床、家具、建具の素材は、ステンレス、鉄、アルミ、和紙、木といったさまざまなバリエーションがあるのですが、それぞれに異なる由来があります。”工業、”和”といった要素を使いつつ、それらが一体として見えてきたときに瀬戸内海の風景が生まれることを狙って決めています。」(笹田氏談)

メディア内覧会にて行われたトークイベント2には、ULTRA STUDIOの3氏のほか、昨年開催された「ひろしま国際建築祭2025」に出展した建築家の石上純也氏と中山英之氏も登壇

「TATOU LIBRARY(タトウライブラリー)」
ブックディレクターの幅 允孝氏が設定した15のジャンルがゆるやかにつながる選書と配架で、デジタルツールやAIの活用が盛んな昨今、あえて「紙の本」に触れる体験を重視。業務と直接結びつかない分野の書籍も揃え、新たな視点や発想の広がりを生み出すことを企図している

ミーティングルーム
向かって左が「余白」側。右は建物の躯体壁側で、格子模様のテキスタイルがほどよい目隠しとなり、柔らかな光を透過させる

[TATOU TSUNEISHI] エントランスドア
読み:タトウ ツネイシ
所在地:東京都千代田区有楽町1丁目13番2号 第一生命日比谷ファースト7F(建物位置 / Google Map)
床面積:1,163.54m²
監修:落合宏理(常石グループ チーフ・デザイン・オフィサー)
設計デザイン:ULTRA STUDIO
着工:2025年9月20日
竣工:2026年2月28日
業務開始(順次予定):2026年3月9日
詳細 / 常石グループ プレスリリース(2026年3月3日)
https://www.tsuneishi-g.jp/news/press/2026/03/29975/