アメリカ近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト(1867-1959)の展覧会が、1月11日から東京・パナソニック汐留美術館にて始まりました。
『TECTURE MAG』では、1月10日に開催され、大村理恵子学芸員による展示解説も行われたプレス内覧会を取材。本展の見どころを中心に伝えます(会場写真は許可を得て撮影、掲載している)。
本展は、日本におけるライト建築を象徴し、昨年9月1日に竣工100周年を迎えた帝国ホテル二代目本館を中心に、7つの章立てで構成されています。
貴重なドローイングや図面、再製作を含む模型や家具など、92歳で没するまで約70年におよんだライトの活動の多様さと彼の建築思想を物語る内容で、さらにはあくなき知的好奇心の対象などについても、約360点の展示により複合的に紹介しています。
会場の広さの都合で、豊田市美術館の総展示数(420点)より縮小せざるをえなかったものの、フランク・ロイド・ライトという人はこんな仕事も手掛けていたのか、こんな先駆的なことをやろうとしていたのかと、改めて知る好機となるでしょう。
セクション構成
セクション1:モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観
浮世絵の影響が明らかなライトの建築ドローイングや、ライトが手がけた浮世絵のコレクション室の展示プランを紹介。初期の重要な建築〈ユニティ・テンプル〉の図面や模型、ライトの師であったルイス・サリヴァンのもとで手がけた緻密な装飾ドローイングも展示されるセクション2:「輝ける眉」からの眺望
“輝ける眉”とは、米国ウィスコンシン州スプリング・グリーンにライトが構えた自邸兼スタジオ「タリアセン」のウェールズ語名。環境や気候に適った、人々の生活を豊かにする建築として、ライトが活動の初期に設計したプレイリー・スタイルの代表的な住宅を紹介。〈旧山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)〉や幻の「小田原ホテル 計画案」の資料も展示されるセクション3:進歩主義教育の環境をつくる
後年、タリアセンに実践的な建築教育の場を開設したライトは、先進的な考えをもった女性運動家や教育者たちとも交流があった。〈クーンリー・プレイハウス幼稚園〉や〈自由学園明日館〉などを取り上げるほか、ライトの仕事をスタッフとして支えたアーティストのマリオン・マホニー(のちに米国イリノイ州で初の女性建築家となる)にもスポットをあてるセクション4:交差する世界に建つ帝国ホテル
1967年に解体された帝国ホテル二代目本館で使用されていた家具や当時の図面などの貴重な資料のほか、同ホテルと同時期に設計された〈ミッドウェイ・ガーデンズ〉のドローイングが比較展示されるセクション5:ミクロ / マクロのダイナミックな振幅
ライトが生涯にわたって抱いていたコンクリートへの関心と、ユニバーサルな建築システムの探求、またそのシステムを用いた住宅を紹介セクション6:上昇する建築と環境の向上
水平ラインを意識したプレイリー・スタイルで知られるライトだが、その一方で垂直方向・高層建築にも早い段階から関心を示していた。〈ジョンソン・ワックス本社ビル〉や超高層建築として計画された「マイル・ハイ・イリノイ」などを紹介セクション7:多様な文化との邂逅
ライトと米国以外の作家たちとの交流にスポットをあてるとともに、重要なインスピレーション源としての「イタリア」に着目。また、非西洋への眼差しとして、イスラム圏への提案としての「大バグダッド計画案」の鳥瞰ドローイングなどが展示される
大正期に建てられた帝国ホテルの設計で知られるライトですが、強い関心があった浮世絵の蒐集が来日の理由の1つであったことが、近年の研究で明らかになっています。
本展のセクション1「モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観」にて、歌川広重の浮世絵が展示されているのも、米国シカゴで世界初となる広重の展覧会を企画・開催したライトの知られざる実績の一端を示すとともに、日本を離れた後も長く続くライトのキャリアにおいて描かれた数々のドローイングや建築意匠の中に、浮世絵から受けた影響が少なからずあったことを伝えるものです。例えば、手前に植物の枝や葉を大きく配置し、その奥に遠景の風景を添えるという近接拡大図法など。そのほか、建築のドローイングや図面の中に、草花などの植物を描き込むのも、当時の欧米諸国の建築の成果物にはみられなかったとのこと(大村理恵子学芸員によるギャラリーツアー解説より)。
続くセクション2では、今の時代では当たり前となっている、自然環境と建築との関係性をライトが重視していたこと、ランドスケープデザインを中心とした構成です。ライトの理想が具現化した「タリアセン(輝ける眉の意)」、プレイリースタイルが顕著な住宅作品や、自然と一体となった落水荘こと〈エドガー・カウフマン邸〉、ライトの薫陶を受けた日本人建築家の遠藤 新(1889-1951)らが実施設計を担当した〈旧山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)〉のほか、幻の計画となった「小田原ホテル」の資料なども展示されています。
タリアセンに総合的な建築教育の場となる「タリアセンフェローシップ」を開設するなど、熱心な教育者でもあったライト。本展では、彼が自身の息子に買い求めた、ドイツの教育者フリードリヒ・フレーベルが幼児向けに考案した教育玩具「恩物(Fröbel Gifts)」がセクション5に展示されています(恩物とは、遊びながら人間に内在する創造性をはぐくむにふさわしい道具の意)。
帝国ホテル二代目本館やプレイリーハウスなど、高さを抑えた水平のラインがライト建築の特徴という印象が強いライトですが、晩年は垂直方向に伸びる”高層”建築も手掛けており、セクション6「上昇する建築と環境の向上」にて、内部のインテリアとともに紹介されています。
さらに最終章となるセクション7では、イタリア、オランダ、イスラム圏でのプロジェクトを紹介。同世代に活躍した建築家らとの交流の記録なども見ることができます。
遺作となった〈グッゲンハイム美術館〉などの公共建築も手がけたライトですが、中・低所得の人々が負担なく快適に暮らすことができる住宅を、いかにローコストで提供できるかを追求し続けた建築家でもありました。
1911年から1917年にかけては、米国のリチャーズ社とともにプレファブで建てられる「アメリカ式システム工法住宅」の設計に取り組み、30以上の設計仕様を記した960枚以上の図面を残しています(セクション5にて展示)。
会場の出口付近では、各国で開催されたライト展のポスターや、土浦亀城&信子夫妻、アルヴァ&アイノ・アアルト夫妻との交流がわかる写真などの貴重な展示があるほか、ライトによる未来都市提案「プロードエーカー・シティ構想」を具現化した2分半の映像をループ上映。1929年から1935年にかけてのアイデアでありながら、現在のドローンのような飛行物体が画面を横切るなど、ライトの先見性の高さに驚かされます。
本展は、帝国ホテル二代目本館が竣工して100周年を迎えた2023年に、豊田市美術館にて始まり、本会場と、青森県立美術館の3会場にて開催されます。
2012年にフランク・ロイド・ライト財団から図面をはじめとする5万点を超える資料がニューヨーク近代美術館とコロンビア大学エイヴリー建築美術図書館に移管されて以降、現在も続いている調査・研究によって、建築のみならず、デザイン、アート、著述、造園、教育、技術革新、都市計画など、ライトの幅広い視野と知性が明らかになりました。本展は、これら近年の研究成果を踏まえて開催されるものです。
会期中、研究者による講演会や、本展を監修したケン・タダシ・オオシマ氏によるオンライン講演会なども開催されます(聴講方法など詳細は、パナソニック汐留美術館ウェブサイトを参照)。
会期:2024年1月11日(木)〜3月10日(日)
※会期中、一部展示替えあり(前期展示2月13日まで / 後期展示2月15日から)
開館時間:10:00-18:00 ※2月2日(金)、3月1日(金)、8日(金)、9日(土)は20:00まで開館(入館は各日とも閉館30分前まで))
休館日:水曜(3月6日を除く)
会場:パナソニック汐留美術館
所在地:東京都港区東新橋1丁目5-1(Google Map)
観覧料:一般 1,200円、65歳以上 1,100円、高校・大学生 700円、中学生以下無料
※障がい者手帳の提示で本人および付添者1名まで無料
※2月15日以降に再入場の場合は半券の提示で100円割引あり
主催:パナソニック汐留美術館、フランク・ロイド・ライト財団、東京新聞
後援:アメリカ大使館、一般社団法人日本建築学会、公益社団法人日本建築家協会、一般社団法人DOCOMOMO Japan、有機的建築アーカイブ、港区教育委員会
特別協力:コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館、帝国ホテル
助成:公益財団法人ユニオン造形文化財団
展示協力:有限責任事業組合 森の製材リソラ
監修者:ケン・タダシ・オオシマ氏(ワシントン大学建築学部教授)
会場構成:佐藤熊弥(tandem)
パナソニック汐留美術館ウェブサイト
https://panasonic.co.jp/ew/museum/
今後の巡回スケジュール
2024年3月20日(水・祝)〜5月12日(日) 青森 / 青森県立美術館
『TECTURE MAG』への感想など、簡単なアンケートにお答えいただいた方の中から、本企画展の観覧券を5組10名さまにプレゼント!
受付期間:掲載から1月23日(火)まで ※受付終了
※応募者多数につき抽選 ※主催者側からのチケット到着が遅れたため、2月9日以降の発送となります
※結果発表:チケットの発送をもって了 ※個々の問合せには対応しません
※発送完了後、都道府県を除く住所情報は削除し、データとして保有しません