東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3にて、ジオ・ポンティ(Gio Ponti|1891-1979)の回顧展「ジオ・ポンティの眼:軽やかに越境せよ。」が開催されています。入場無料、会期は3月31日まで。
『TECTURE MAG』では、3月18日に行われたプレスカンファレンスを取材。本展についてレポートします。
本展会場 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3 外観 Photo: Satoshi Nagare
ジオ・ポンティはイタリアンモダニズムを代表する巨匠。60歳を超えてからのプロジェクトも数多く、近年になり、知られざる家具やプロダクトの名作の数々がモルテーニ社などから復刻されており、約60年にわたり活動したポンティの多面的な魅力を改めて浮かびあがらせる契機となっています。
ジオ・ポンティ(GIO PONTI) ©︎Gio Ponti Archives – Archivio Storico Eredi Gio Ponti
1891年 イタリア・ミラノ生まれ。1921年ミラノ工科大学卒業後、建築設計事務所を設立。1923年に磁器メーカー、リチャード・ジノリ(当時)のアートディレクターに就任。1928年建築誌『domus』を創刊。以降、建築、デザイン、編集、舞台美術など、多岐にわたる分野で数多くの作品を手がける。代表作に〈ピレリ高層ビル〉(1960年竣工)、超軽量の椅子〈スーパーレジェーラ〉(1957年発表)などがある。近年、再評価が進み、複数のメーカーから家具、プロダクトの復刻が進められている。
本展では、イタリアのジオ・ポンティ・アーカイヴスの協力のもと、主にポンティがミラノ、デッツァ通りの自宅のためにデザインした家具から、モルテーニ社(Molteni&C)により復刻されたアームチェア、コーヒーテーブル、ブックシェルフなどが展示されています。セラミックタイルを用いて床に大胆に導入されていたインテリアの一部も再現され、これらの展示を通して、ポンティ独自の空間世界をインスタレーションで紹介します(会場構成:トラフ建築設計事務所)。
会場風景 Photo: Satoshi Nagare
安藤建築で知られる21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3の特徴的な屋根の傾斜に、ポンティが1955年にベネズエラ・カラカスで手がけた〈ヴィラプランチャート〉に見られるストライプのインテリアから引用されたデザインを施している。なお、会場構成を担当したトラフ建築設計事務所は、2013年に愛知・常滑のINAXライブミュージアムで開催された展覧会「建築の皮膚と体温―イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」でも会場構成を担当した(詳細は同事務所のウェブサイト WORKを参照)
会場風景(夜間ライティング時の撮影) Photo: Satoshi Nagare
安藤忠雄の設計で知られる21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3の展示空間のエントランス付近から最深部まで展開する年表は、約60年にわたった巨匠の仕事を振り返るもので、1920年代に製作された貴重なジノリの磁器製品や、ポンティの手によるドローイングなども展示。さらに、映画監督のフランチェスカ・モルテーニ氏によるドキュメンタリー映像「Amare Gio Ponti」も特別に場内のモニターで視聴することができます。
会場風景 Photo: Satoshi Nagare
会場風景 Photo: Satoshi Nagare
会場風景 Photo: Satoshi Nagare
会場風景 Photo: Satoshi Nagare
会場風景 Photo: Satoshi Nagare
会場風景 Photo: Satoshi Nagare
展示されている年表によれば、ポンティはミラノの生まれ。第1次世界大戦では工兵大尉として従軍しています(1916年〜1918年)。1921年にミラノ工科大学を卒業後、建築家のミラ・フィオッキとエミリオ・ランチャとともにミラノ市内に事務所を構え、同年に結婚。1923年にはジノリのアートディレクターに就任し、7年にわたりジノリのプロダクトを手掛けました。1933年にはアントニオ・フォルナオーリ、エウジェニオ・ソンチーニとともに建築設計事務所を設立。1936年からは母校・ミラノ工科大学の教授を務め(〜1961)、この間には2度目の世界大戦も経験しています。
ポンティは、その長きにわたる活動の中で、世界的なデザイン・アートの潮流も体験したはずです。ウィーン分離派、イタリア合理主義、モダニズムといった時代ごとの”イズム”に留まることなく、また、建築、プロダクト、グラフィックなど分野の細分化にも与せずに、統合的に自身の「眼」を追求した人物だと言えます。
ジオ・ポンティの眼で世界を視れば、大量生産に対するアートと工芸、またミニマリズムに対する装飾、という世の中に横たわる二元論を軽やかに超えた、住まいの風景が、未来に向けて開かれてきます。スプーン1本から高層ビルまでデザインし、部分から全体を統合的に捉える「眼」を備えていたジオ・ポンティ。彼が見据えていたであろう暮らしと未来について、会場を訪れた人々とともに考察を試みる企画展です。
本展キュレーターを務めた田代かおる氏コメント:「おそらく日本では、ポンティの建築作品といえば、ミラノの〈ピレリ高層ビル〉が最も知られていると思いますが、そういった建築以外にも、さまざまなデザイン表現があるということを、本展を通してより多くの人々に知ってもらいたいと考えています。また、例えば、ル・コルビュジエ事務所が日本人を含めて多数の建築家を輩出したことが知られていますが、ジオ・ポンティも同様で、日本人建築家・デザイナーを何人も育てました。本展では、その1人である上松正直さんの遺族にコンタクトをとり、大切に保管されていた書簡を借用することができました。本展では、そういった知られざるジオ・ポンティ象というものもいくつか提示しています。展示の年表で紹介しているものは、ポンティの仕事のほんの一部、ダイジェストです。本展の後、もっととり上げて紹介できる場へとつながるような、その契機となれば、キュレーションを担当した者として、本展をモルテーニ社とともに主催したアルフレックス ジャパン社ともども、大変嬉しく思います。」(3月18日に開催されたプレスカンファレンスでの挨拶より抜粋して『TECTURE MAG』編集部にて要約)
21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3 外観 Photo: Satoshi Nagare
Lo Sguardo di Gio Ponti: Attraversare i Confini con Leggerezza
会期:2025年3月19日(水)~3月31日(月)
休館日:3月25日(火)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
所在地:東京都港区赤坂 9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン(Google Map)
開館時間:10:00-19:00
入場料:無料
主催:Molteni&C、アルフレックスジャパン
監修:サルヴァトーレ・リチトラ /ジオ・ポンティ・アーカイヴス、フランチェスカ・モルテーニ / ミューズ・ファクトリー・オブ・プロジェクツ
キュレーター:田代かおる
会場構成:トラフ建築設計事務所
グラフィックデザイン: 田部井美奈
スタイリング:川合将人
施工:HIGURE 17-15 cas
編集協力:雑誌『CONFORT』(建築資料研究社)
プレス:ハウ
特別協力:愛知県陶磁美術館
協賛:秀光
協力:CERAMICA FRANCESCO DE MAIO、GINORI 1735、Olivari、Rezina、上松正直 建築設計事務所(遺族)、カッシーナ・イクスシー、コビト、サンズ、メトロポリタンギャラリー、ロイヤルファニチャーコレクション、LIXIL