
香川県・直島町に、建築家の安藤忠雄氏が設計した〈直島新美術館〉が5月31日にオープンします。
立地は、直島の東側。同島内の〈ベネッセハウス ミュージアム〉や〈地中美術館〉を手がけた安藤氏にとって、10番目のアート施設となります。
〈直島新美術館〉鳥瞰 撮影:GION
安藤忠雄設計による新美術館プロジェクトの速報(2023年9月5日)
安藤忠雄建築研究所による〈直島新美術館〉館内イメージパース ⒸTadao Ando Architect & Associates
建築概要
建築規模は地下2階、地上1階建て。地上から地下までを直線的な動線で結ぶ。トップライトからの自然光が入る階段室の両側に、4つのギャラリーを配置。地上フロアの北側には、多目的な用途で使えるカフェを併設。テラス席からは、瀬戸内海の雄大な景色を一望できる。
安藤忠雄建築研究所では、1992年のベネッセハウス ミュージアム開館以降、30年以上にわたり、直島において数々のプロジェクトを手掛けてきたが、この直島東側の集落では初の美術館建築となる。このため、本村(ほんむら)集落の景観になじむよう、外壁は集落で見られる焼杉のイメージにあわせた黒漆喰を、外塀では本村の民家から着想を得た小石を積んだデザインを採用している。館内へのアプローチや、丘の稜線をゆるやかにつなぐような大きな屋根などを含め、直島の歴史や、集落の人々の営み・体験が、緩やかにつながるような建築として設計された。
〈直島新美術館〉アプローチ 撮影:GION
〈直島新美術館〉内観 撮影:GION
〈直島新美術館〉多目的カフェスペース「&CAFE」 撮影:GION
〈直島新美術館〉多目的カフェスペース「&CAFE」 撮影:GION
〈直島新美術館〉では、日本を含めたアジア地域のアーティストの作品を収集・展示していく計画で開館準備が進められてきました。
「開館記念展示 原点から未来へ」では、ベネッセアートサイト直島を牽引してきた福武總一郎氏(福武財団名誉理事長)が、未来のために伝えたいメッセージとして、アジア出身の大御所から新進気鋭のアーティストを紹介しています。
参加作家は、日本、中国、韓国、インドネシア、タイ、インド、フィリピン、マレーシアなど、アジア出身の12組のアーティスト。絵画、彫刻、映像、インスタレーションといった多様な作品で構成され、それぞれの代表作のほか、本展のために構想された新作も発表され、それぞれの展示空間・場所にあわせた、サイト・スペシフィックな展示が行われます(2026年2月以降に展示替えを予定)。
開館初日の5月31日には、出展作家が参加するオープニングトークも開催されます(注.初日の入館チケットは予約で完売したため、新規聴講は不可)。
「直島新美術館 開館記念展示―原点から未来へ」展示風景 2025年 撮影:来田 猛
開館記念展 出展アーティスト
会田 誠(Makoto Aida|1965年新潟県生まれ、東京拠点)
マルタ・アティエンサ(Martha Atienza|1981年フィリピン・マニラ生まれ 同国バンタヤン島拠点)
蔡國強(Cai Guo-Qiang|1957年中国・泉州生まれ、米国ニューヨーク拠点)
Chim↑Pom from Smappa!Group(2005年東京で結成、同地拠点)
ヘリ・ドノ(Heri Dono|1960年インドネシア・ジャカルタ生まれ、同国ジョグジャカルタ拠点)
インディゲリラ(indieguerillas|1999年インドネシア・ジョグジャカルタで結成、同地拠点)
村上 隆(Takashi Murakami|1962年東京生まれ)
N・S・ハルシャ(N. S. Harsha|1969年インド・マイスール生まれ、同地拠点)
サニタス・プラディッタスニー(Sanitas Pradittasnee|1980年タイ・バンコク生まれ、同地拠点)
下道基行+ジェフリー・リム(Shitamichi Motoyuki + Jeffrey Lim|1978年岡山県生まれ 香川・直島拠点 / 1978年マレーシア・クアラルンプール生まれ、同地拠点)
ソ・ドホ(Do Ho Suh|1962年韓国・ソウル生まれ、英国・ロンドン拠点)
パナパン・ヨドマニー(Pannaphan Yodmanee|1988年 タイ・ナコーンシータンマラート生まれ、同国バンコク拠点)
ギャラリー1
マルタ・アティエンサ:
自身が拠点とするフィリピン・バンタヤン島に取材した映像作品。
経済発展の名目のもと観光産業に左右されてきた島の歴史を踏まえ、抑圧的システムに対抗する上で土地に根ざした記憶の継承が重要との考えから、映像を通して島の文化を伝える。ヘリ・ドノ:
海、山、森などの自然風景のなかに作家がこれまで制作してきた彫刻、インスタレーション、パフォーマンスの要素が組み込まれ、数十年にわたる画業とその背景にあるインドネシアの近現代史等が反映された10枚組絵画大作などを展示する。
天井から吊るされた、魚雷を抱えた天使像は、自国において言論の自由が制限されていた時代に言及しつつ、未来の構築のために夢見る自由、想像する自由の大切さをあらためて唱えた作品。ヘリ・ドノ&インディゲリラ(合作):
いかにアートが異なる考えをもつ人々を繋ぎ、調和をもたらすことができるかを強く訴える作品。
ジャワの伝統的な皮革製の人形劇やカートゥーンといったモチーフを組み合わせ、多様性の美しさや人類の繁栄についての思索を促します。あわせて7点の作品には、自然への敬意、共生や協働などに関するメッセージが込められている。パナパン・ヨドマニー:
仏教的な宇宙観と近代科学、日常との関係から、変化や開発、進展、破壊といった意味について考察を試みる巨大な壁画・彫刻インスタレーション。第11回ベネッセ賞受賞作品。
ギャラリー2
ソ・ドホ:
ソウルやニューヨーク、ロンドンなど、作家自身がこれまで暮らしてきた家の玄関や廊下などを布で再現した作品シリーズ「Hub」の新作。直島新美術館のための作品を構想する過程で訪れた、直島の民家の廊下部分を新たに加えた8連作が展示される。同本シリーズの長期展示としては最大級のものとなる。
人生にはいろいろな通過点があることを悟った作家自身の経験に基づく私観的な作品であり、鑑賞者はその中を移動することで、国内外の人が行き交う直島での経験や自分自身の記憶を振り返りながら、その構造物にそれぞれの意味を見出すことができる。
ギャラリー3
Chim↑Pom from Smappa!Group:
Chim↑Pom from Smappa!Group「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」(2016〜)の一環で、東京・高円寺キタコレビルにて制作された作品〈道〉における、ビルの解体を見据えた移設構想のもと「輸送中」の状態を展示する。
アスファルトや路盤材に用いた建築廃材――戦後期や1964年の東京オリンピックに象徴される高度経済成長期、バブル期のもの――が、時間の層を成し、タイムカプセルのように収められた輸送コンテナや、移設計画の青写真などを通して、「作って壊された」ものたちの「スクラップ」から自らの手で未来を「ビルド」することの可能性を示唆した作品。村上 隆:
近世京都の名所や市井の暮らしを俯瞰で描いた屏風絵、岩佐又兵衛筆〈洛中洛外図屛風・舟木本〉(17世紀、国宝)を参照して制作された、13メートルの大作の展示。
2024年に京都で開催された個展での初披露を経て、今回の展示に際してさらに手が加えられている。生活の様子が緻密に描かれた画面上では、2,700人もの人々に加えて、DOB君やカイカイとキキといった村上 隆作品ではお馴染みのキャラクターたちも京都の街を”闊歩”している。華々しい都市と、そこを満たすドクロの金雲は、賑やかな都人の裏側にあった戦の動乱やさまざまな災害などを想起させ、生と死、明と暗が隣り合って存在しているという現代にも通じる普遍的なメッセージを発している。会田 誠:
2008年より同氏がさまざまなかたちで展開しているシリーズ「MONUMENT FOR NOTHING」の最新作。
「日本という国がどのように変質したか / しつつあるか」というテーマのもと、1990年代から現在までの約30年間を中心とした過去の日本における、メディアによる膨大なイメージの記憶を辿るかのごとく巨大な彫刻モニュメントを展示。忘却に抗い、回想するための装置のようでもあり、「なんらかのあり方による再生への希望」を投影したものでもあるとのこと。
ギャラリー4
蔡國強作品:
2006年にベルリン・グッゲンハイムでの個展のために制作された、99体の精巧な狼の群れが全力で走り、ためらうことなくガラスの壁にぶつかる大型のインスタレーション〈ヘッド・オン〉を中心とした展示。
ベルリンの壁と同じ高さのガラス壁は人と人、異なる集団の間に存在する、見えないが確かにあるイデオロギーや文化の隔たりを象徴し、壁にぶつかり続ける狼の姿は、人類が特定の集団意識に過度に従属し、過ちを何度も繰り返してきた運命を思わせる。このような変動の時代において、本作はあらためて鋭く問いを投げかける。
エントランス
瀬戸内海地域の景観、風土、民俗、歴史などの調査、収集、展示を通してアーカイブ空間を創出する、下道基行が展開する「瀬戸内「 」資料館」プロジェクト(2019~、直島・宮ノ浦)のサテライト展示。
2024年「直島における人々の出入り=“流動性”」に着目し、ジェフリー・リムとともに直島諸島の漂着物からボックスカメラを手づくりし、直島の風景の中で撮影した直島町民の家族写真と、会期中に撮影された町民らの写真を改めて紹介する。
多目的カフェスペース「&CAFE」
N・S・ハルシャ:
屋外と屋内、島内外の様々な人びとが交流する開放的なカフェ空間にあわせて、幸福感のある場所を作り出すべく、人間が生きる上で重要な、内側に目を向ける「内観」と外側に目を向ける「外観」の2つのビジョンの融合を結婚式に見立て、色彩豊かな絵画のコラージュを作家が構想、作品として発表する。
カフェ空間の3面の壁には、それぞれ「結婚式」「調理」「食事」の様子が描かれ、その模倣能力から人間が自然を模倣し、自然から学んできたことを示すメタファーとして、描かれたインコが人と自然の関係の考察を見るものに促す。
屋外
サニタス・プラディッタスニー:
※2026年完成予定、完成に先んじて瞑想ワークショップを実施
島内に点在する「直島八十八箇所」に敬意を抱き、禅の公案である「隻手の声―片手で鳴らす音を心耳をもって聞く」という経験を通じてのみ理解できるマインドフルネスの状態から着想した、瞑想体験に誘うストゥーパ(仏塔)を中心とする展示を美術館屋外で展開する予定。
来年の完成に先んじて、仮設のパヴィリオンが出現、折々で瞑想ワークショップを実施予定。
蔡國強〈ヘッド・オン〉2006年 撮影:顧剣亨
ソ・ドホ〈Hub/s 直島、ソウル、ニューヨーク、ホーシャム、ロンドン、ベルリン〉 2025年 撮影:来田 猛
N・S・ハルシャ〈幸せな結婚生活〉 2025年 撮影:来田 猛
人々が島を繰り返し訪れ、島内外の多種多様な人々と出会う交流・連携の場として機能することを意図して建設された〈直島新美術館〉では、アート作品の展示のほか、各種パブリック・プログラムなどを通して、より多様な視点や表現、時代や社会に対する多義的なメッセージを発信していくとのこと。
〈直島新美術館〉を含む直島 東側鳥瞰 撮影:GION
開館日:2025年5月31日(土)
所在地:⾹川県⾹川郡直島町3299-73(Google Map)
開館時間:10:00-16:30(最終入館 16:00)
休館日:月曜(祝日の場合は開館し翌平日休館)
※不定休あり(ベネッセアートサイト直島ウェブサイト開館カレンダーにて要確認)
電話番号:087-892-3754(福武財団)
入館料:オンラインチケット(日にち指定)1,500円、窓口販売チケット 1,700円 ※15歳以下無料
※2025年6月のオンラインチケット発売中、2025年7月以降は2か月前の第2金曜10時より予約販売受付開始(オンラインチケットはベネッセアートサイト直島ウェブサイト「美術館予約」ページにて取り扱い)
※瀬戸内国際芸術祭 作品鑑賞パスポート対象施設
※駐車場:一般車両(20台)、自転車(15台程度) いずれも無料
ベネッセアートサイト直島ウェブサイト オンラインチケット予約ページ
https://benesse-artsite.jp/general-information.html
同サイト 直島新美術館ページ
https://benesse-artsite.jp/art/nnmoa.html