この時期恒例となった、オカムラ主催の企画展シリーズ「OPEN FIELD(オープン・フィールド)」の第4回が、東京・紀尾井町のオカムラ ガーデンコートショールームにて開催されています。会期は9月12日まで。
『TECTURE MAG』では、会期初日の夜に行われたオープニングレセプションを取材しました。

オープニングレセプション風景(画面右側のスクリーンでは映像作品をループ上映) Photo: TEAM TECTURE MAG

Photo: TEAM TECTURE MAG
「OPEN FIELD」は、建築史家の五十嵐太郎氏監修のもと、異なるジャンルで活躍するクリエイターの協働により、約2週間限定で形成される実験的な場(フィールド)です。
今回のコラボレーションは、建築家の原田真宏と麻魚の両氏(MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO共同)と、美術家の野老朝雄氏の2組。五十嵐氏も交えたディスカッションを経てつくりあげられた「虚実の鏡、あるいは異空間のOPTICAL CORNERS」と題した本展は、「写真だけでは伝わらない、この会場に実際に足を運ばなければわからない」と五十嵐氏らが繰り返し語る展覧会となっています。
会場には、ステンレス製(鏡面仕上げ)による三面鏡を足元と頭上に取り付けた鉄骨フレームの構造体が4つ、ミラーの入り隅が長方形をつくるように配置されています。このいずれも、その前に立つと、鏡の奥(入り隅)には黒い線の幾何学形状(”黒線”による”ジオメトリカルな立体”の”虚像”)と、鑑賞者自身の像が映り込みます(五十嵐太郎氏がXに投稿した写真を参照)。鏡の中の”ジオメトリカルな立体”は展示エリアの中央付近にも設置されており、立ち位置によって”正円”があらわれます(以下「本展について」4枚目の画像を参照)。
本展について
僕らがいつもデザインしている建築的環境というものは、フィジカルな「場所」とアイディアルな「空間」の重なり合いでできているんでしょう。だから、こと空間に関して言えば、考え始めた途端にそれはもう本質的には実存してしまっていて、スタディーの中でパラレルかつ無数に発生したそれら空間群の中から、この世界の数理的秩序に整合するものが、抽象/具象間の境界を越えて実現していくようなイメージを、僕は持っています。
今回はXYZ軸間のそれぞれ3面を持ったSUS製鏡面コーナーを、d5・w7.07・h2.26(m)の直方体の8頂点に置くことで、まずは典型的な親・空間を生み出しました。この親・空間は、それぞれの鏡面コーナーを介して隣り合う子〜孫〜曾孫〜の空間群とパラレルに繋がってしまっています。
それぞれの鏡面コーナーはある一定の距離で「正円」となり、その時だけは平面と立体という異なる次元が一致する。この距離・時点において、それら無数の空間-間を「黒線」による「ジオメトリカルな立体」が、虚像として、あるいは具体性を帯びたりしながら行き来している…、そんな状態をつくり出そうと考えたわけです。こんな風にして「可能性としての空間群」を認知可能にし、それらへのアクセスの経路を示すことで、この世界がより広大な世界の氷山の一角のように思えてきはしないでしょうか。今回のインスタレーションは、世界をより広く、自由なものとして捉える一つの実験なのだと思っています。
まずは次元を跨ぐ距離、正円を探してみてください。原田真宏
ダイアグラム(提供:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
パースペクティヴ(提供:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
Photo: Chu Liren
“これらは実像のための虚像であり虚像のための実像である”
建築家とは複雑な状況に方向性を示したり、社会課題に新しい解決を示す人、と、皆さんは思っているかもしれません。確かにそういう役割も多いのだけれど、あえて、建築家を複雑な世界のスープにそっと放してかき混ぜるかのように、キュレーターの五十嵐太郎氏に「何をやってもいい」という展覧会「OPEN FIELD」の話を持ちかけられました。しかも指定されたコラボレーターの野老朝雄氏は、言うなれば”つかみどころのない人”で、話していても、どこに話が収束するのかわからないなーと思っていると、突如としてこの世界から幾何学を手繰り寄せるという、実は丁寧な世界観察の名手であり美術家でした。
本展は、いつも真面目にがんばる我々に与えられたご馳走のような「何をやってもいい」展覧会です。それは、グラフィックデザイナーが幾何学を手繰り寄せる時の「世界との対話の一場面」であり、その場面をそっと「混沌とした世界スープに溶かす」連環する試みでもあります。
製作は茨城のあずま工房さん。卓越したものづくりと理解力によって実像および虚像が実現しています。その完成度高い物質としての作品のみがつくり出す場と、私たち観察者が介在することで現象する空間の重なりが見られることを期待します。原田麻魚
手前:作家陣が「バケラッタ」と呼称している立体作品 Photo: Chu Liren

Photo: TEAM TECTURE MAG

会場への搬入の都合上、SUS製ミラーは溶接されておらず、打ち込まれた楔(くさび)で固定されている。鏡面の”歪み”の調整はオープン直前まで行われた(原田麻魚氏コメントより) Photo: TEAM TECTURE MAG
「建築と美術とで分野は異なりますが、野老さんには、同志、のような、ある種の複雑な世界の中に存在するであろう単純な原理を探していこうとしている方という印象を抱いていたので、五十嵐さんからの声がけはとても嬉しかった。今回ご一緒できて光栄でした。五十嵐さんには『用途は要らない』と最初から言われていました。でも建築家とは、ほぼほぼ用途がある空間が求められ、それを長いスパンをかけてつくりあげていきます。ふだんの設計では、いろいろな空間を頭の中に思い浮かべ、その中で、そのときの世界のルールに合うものがポッと嵌って、建築になっていく。そこに至るまでには無数の空間が、自由な空間がそこらへんにある。そんな様(さま)をかたちにしてみようと思いました。五十嵐さんと野老さんと僕たちとで話し合い、転がし、ドライブ感を楽しみながら、つくり出したものになっていますが、純粋な空間だけがたちあらわれるだろうという予感はありました」(原田真宏氏コメントを要約)
「”OPEN FIELD”という企画展のシリーズタイトルが、私たちのやろうとすることを支えてくれました。『よし、遊んでいいんだな、楽しんでいいんだな』と。今回、素敵な自由をいただいたことに感謝しています。ただ、仮にどんなに素晴らしいものをつくっても、実際に見てもらえないと意味がないし、そこに立ちあらわれる経験といったものが作品になるのだろうと考えています。子供の頃にはおそらく誰しも一度は疑問を覚えたことがあると思うのですが、もしも今、目を瞑ったらそれまで目にしていた世界に自分以外の人間が存在するのだろうか?とか、いわゆる”シュレーディンガーの猫”で指摘されていたような虚像と実像、とても淡い淡い世界への疑問が、本展でかたちにしたかったことです。大人になると、そんな淡い疑問を覚えるきっかけすらなくなってしまうけれども、あれ? なぜ? どうして? と感じるような体験を、ここ紀尾井町、日本有数のホテルが隣接する建物の中、現実の世界の中で、少しでも共有してもらえたなら、私たちがこのフィールドで”遊ばせてもらった”意味があったと思います」(原田麻魚氏コメントを要約)
*.理論物理学者のエルヴィン・シュレーディンガー(1887-1961)による思考実験に基づく考え方

オープニングレセプションで挨拶する五十嵐太郎氏(右端)と、2組の出展者(左から原田麻魚、野老朝雄、原田真宏の3氏) Photo: TEAM TECTURE MAG
「幾何学が共通項になるのではと考えて、野老さんとマウントフジのおふたりに出展を依頼しました。でき上がった空間は僕の予想を遥かに超えていて、かつ今回も、この場に来てみないと良さとか企図がわからない(笑)。ぜひ会場に足を運んでいただきたい」(五十嵐氏コメントより)
タイトル:
企画:五十嵐太郎(建築史家、東北大学大学院工学研究科教授)
参加作家:原田真宏+原田麻魚(建築家 / MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)、野老朝雄(美術家)
製作:あずま工房
会期:2026年8月28日(金)〜9月12日(土)
会場:オカムラ ガーデンコートショールーム
所在地:東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート3F(Google Map)
開場時間:10:00-17:00
休館日:日曜・祝日
入場料:無料(予約不要)
主催:オカムラ
オカムラ Webサイト「OPEN FILED」特設ページ
https://www.okamura.co.jp/corporate/special_site/event/openfield/