「あの日」から10年。
未曾有の震災の影響を受けた東北地方では、インフラや土木建造物の再整備が着々と進み、景色が変わってきています。
そうした中で、地域のこれからの活動を支え、人々に寄り添うような建築物も次々と生まれてきました。
2月中旬に訪れた宮城県石巻エリアから、注目建築を巡ったレポートをお届けします。
(Report & photographs: jk)
まずは、2020年秋に竣工・オープンした〈石巻ホームベース〉から。
設計は、芦沢啓治建築設計事務所。
カフェや宿泊スペースなどが入る複合施設で、シンプルな形状の大屋根と大きなデッキが目印。
大きなガラス引き戸を開けて中に入ると、大きな吹き抜け空間とカフェスペースが現れます。
これまでの石巻にはなかった、おおらかでスッキリとした雰囲気の空間です。
震災後に地域の復旧・復興のために芦沢氏が中心となり2011年6月に発足した「石巻工房」は現在、世界が注目するユニークなDIY家具メーカーとして発展。
店内に置かれた石巻工房の家具や小物のラインナップをじっくりと体験し、確かめることができます。
2階はゲストルームとなっており、石巻工房ゆかりの建築家やプロダクトデザイナーが、客室をデザイン。
トラフ建築設計事務所による「Takibi」ルーム。
宿泊室のために製作されたランプシェード「TAKIBI LIGHT」、「ISHINOMAKI BIRD KIT」などのオリジナルプロダクトが並びます。
寺田尚樹氏のデザインによる宿泊室「Hato」。
海と森をイメージした世界観に包まれます。
ドリルデザインによる宿泊室「Eda」。
ツリーのようなハンガーには、コートや照明など、さまざまなものを掛けられます。
藤森泰司氏のデザインによる宿泊室「Noki」。
大屋根の「軒」の下に居るような心地良さが追求され、大きなソファなどが新たにつくられました。
宿泊者専用のキッチンとダイニング。
家具や小物類に至るまで、石巻工房によるもので統一されています。
続いては、石巻工房の発祥の地でもある、石巻市中央に。
石巻駅から徒歩10分ほどの中央商店街の入り口に、現在は「ISHINOMAKI 2.0」の拠点となっている〈IRORI石巻〉があります。
設計は、西田 司+勝 邦義 / オンデザイン。
コーヒースタンドや半個室スペースなどが入り、仕事や打ち合わせがはかどります。
被災したガレージをDIYで改修し、当初は石巻工房のギャラリー兼作業スペースに。
さらに2倍のスペースへと拡幅して改修し、〈IRORI石巻〉は「街のロビー」となっています。
2021年に開催予定の総合芸術祭「Reborn-Art Festival」でも、玄関口として機能する予定。
〈旧観慶丸商店〉は、IRORI石巻の至近距離にある歴史的な洋風建造物。
展示施設、文化発信拠点として見学が可能。室内外にあしらわれた多種多様なタイルも見応えがあります。
今度は、石巻から女川に。
女川も被害が大きかった街ですが、行政と住民が一体となり、いち早く復興への歩みを始めて新たなまちづくりが進んでいることで知られています。
なかでも目を引くのは、坂 茂氏による設計の〈JR女川駅+女川温泉ゆぽっぽ〉。
坂氏は、避難所に紙管を用いた間仕切りシステムをつくる活動を女川でも行っていたことから、その後に輸送コンテナを利用した2層・3層の仮設住宅を建設。
さらに女川町の依頼を受け、女川にもともとあった温泉施設とJR女川駅が一部に入る複合施設を設計することになりました。
女川湾に見られるウミネコが羽ばたく姿をイメージしたという、特徴的な屋根形状。
力強く復興を遂げる街のシンボルとなっています。
2階にあるのが「女川温泉ゆぽっぽ」。
日本画家の千住 博氏が手掛けた、富士と鹿を描いたタイルアートを楽しむことができます。
1階のギャラリーでは、紙管を使ってつくられたベンチが。
曲線を描く天井にも、紙管は利用されています。
女川駅から海に向かってまっすぐに伸びる「レンガみち」の両側を含めたエリアは、ランドスケープ計画がされています。
6棟の平屋からなるテナント型の商業施設〈シルバーピア女川〉の設計は、東 環境・建築研究所 / 東利恵。
分散した建物の間には、小道がいくつも用意され、散策できるように配慮されています。
女川港に面したエリアは、公園として整備。その中に、「東日本大震災遺構」として〈旧女川交番〉が保存されています。
津波の影響で、基礎ごと引き抜かれて倒れたRC造の建物は、津波の計り知れない力を静かに物語ります。
2021年の3月末にオープンする注目の施設が、〈石巻市複合文化施設 まきあーとテラス〉。
設計は、藤本壮介建築設計事務所。
石巻の旧北上川近くに建つ施設は、大小さまざまな形状の屋根のシルエットが特徴です。
被災した文化センターと市民会館を統合し、大ホールが入る「市芸術文化センター」や文化財を展示する「市博物館」などを備えます。
今回は、こちらのカットを1つ。
近くで見ると、スケール感がつかみにくい、不思議な感覚を覚えます。
グランドオープンと正式なお披露目を、待つことにします。
石巻は牡鹿半島の入り口付近にある〈もものうらビレッジ〉も訪問。
山と海に囲まれた牡鹿半島の桃浦地区につくられた宿泊・研修施設で、全体計画は筑波大学貝島桃代研究室 + 佐藤布武研究室。
〈メインハウス〉の設計は、アトリエ・ワン。
〈炭庵〉の設計は、Satokura architects。
〈三角庵〉の設計は、ドットアーキテクツ。
石窯のある小屋や、開放的なバーベキューエリアも新たに設けられていました。
そして牡鹿半島は、アート・音楽・食の総合芸術祭「Reborn-Art Festival」のメイン舞台の1つ。
現在でも常設的に、いくつかの作品を目にすることができます。
名和晃平氏による「White Deer (Oshika)」は、その代表作。
訪れる季節や時間帯により、異なる表情を見せてくれます。
〈もものうらビレッジ〉から遠くはないので、足を運んでみることをオススメします。
(見学可能な日時や注意事項は、公式サイトなどを確認ください)
2021年と2021年にわたって開催が予定されている「Reborn-Art Festival」も、無事にとりおこなわれることを祈念しつつ。
これからの建築の姿を見せてくれる石巻エリアへの探訪を、ぜひ予定ください。