FEATURE
Techniques for fashionable interiors taught by RENOVERU
Vol.2 "Rediscover the charm of American Mid-Century modern"
FEATURE2022.03.29

「リノベる。」直伝! インテリアを整えるテクニック

Vol.2「アメリカンミッドセンチュリーの魅力を再発見」

FEATURE2021.10.01

「リノベる。」直伝! インテリアを整えるテクニック

Vol.1「フレンチミッドセンチュリーを極める」

インテリア上級者に聞く! 再注目のアメリカンミッドセンチュリーをインテリアに取り入れるコツとは?

(タイトル画像提供:ハーマンミラー ジャパン)

20世紀中頃、1940年代後半から70年代ごろにかけて、世界では新しいデザインがさまざまな分野で次々と生み出された。

この時代の潮流の中心にあったのは、アメリカ。高い工業力を背景に、戦時中に開発された新技術を取り込んだまったく新しいデザインが相次いで生み出されていく。

「アメリカンミッドセンチュリー」と呼ばれるこれらの家具は、オリジナルはもちろん、現行品や復刻版も人気を集め続けている。

Eames Molded Plywood Dining Chair, Upholstered〈Eames Molded Plywood Dining Chair, Upholstered〉(画像提供:ハーマンミラー ジャパン)

住宅のリノベーションや、店舗・オフィス・商業施設の設計施工およびコンサルティングを行っているリノベる株式会社で、インテリア事業の部門を立ち上げた古久保拓也氏に、前回のフレンチミッドセンチュリーに続いて、アメリカンミッドセンチュリーをインテリアに取り入れるコツを聞いた。

古久保拓也氏

古久保拓也(ふるくぼ たくや)氏 プロフィール
グラフィックデザイナーを経て渡英。アートディレクターとして企画制作を行う傍らアンティークのバイヤーのキャリアスタート。帰国後、中古マンション購入とリノベーションのワンストップサービス「リノベる。」を展開するリノベる株式会社へ入社。2018年「インテリアからはじまる住まいづくり」をテーマにインテリア事業を立ち上げる。2021年には、リノベる東京本社に多目的スペース「b1.(ビーワン)」をオープン。企画展などを開催している。

日本では古着ファッションの流行とともに来航

ミッドセンチュリーの家具を考える際、「アメリカンミッドセンチュリー」をおいて語ることはできないでしょう。

ミッドセンチュリーとは、その名の通り「世紀の真ん中」、つまり20世紀の1940年代から70年代ごろにかけて流行した家具や建築物のデザインのこと。世界的にさまざまなデザインが生まれましたが、特にアメリカ西海岸で生み出されたアメリカンミッドセンチュリーの家具はその時代の中心的存在で、現在でも高い人気があります。

(画像提供:ハーマンミラー ジャパン)

日本でアメリカンミッドセンチュリーのデザインが流行し始めたのは、僕の記憶ではおおよそ30年ほど前のことで、古着を取り入れたアメカジファッションが流行った頃と同じ時期だったように思います。

大戦モデルのリーバイスなど、ジーンズをはじめとするおしゃれな古着を扱うショップのバイヤーらが、ショップのオブジェとして買い付け始めたのではないでしょうか。歌手の藤井フミヤさんなど、ファッションカルチャーや音楽シーンの先端にいる人たちがコレクターになったこともあって、アメリカンカルチャーの流行とともに、ビンテージ家具も人気を集めていきました。

代表的なブランド、デザイナーはやはりジョージ・ネルソン(George Nelson | 1908-1986)がデザインディレクターを務めていたハーマンミラー(Herman Miller)や、チャールズとレイ・イームズ夫妻(Charles & Ray Eames)のイームズ(Eames)、フローレンス・ノル(Florence Knoll | 1917-2019)のノル(knoll)、フィンランド出身で建築家でもあったエーロ・サーリネン(Eero Saarinen | 1910-1961)などでしょう。

WW2で開発された新素材を応用

椅子を例に考えてみると、これらのブランドの最大の特徴は、従来は直線を中心に構成されていた家具を曲線的なものへと変えたこと、さらにその材料にFRP(繊維強化プラスチック)といったそれまでにない新素材を採用したことにあります。また、異素材の組み合わせやプライウッド(成型積層合板)などの新技術も積極的に活用しました。

安くて軽く、丈夫なFRPは、第2次世界大戦(WW2)時にアメリカの航空機産業で注目を集め、開発が進められたものです。戦後、この技術をイームズなどが家具に応用します。その代表作が〈イームズアームシェルチェア〉。座面から背もたれ、肘掛け部までを一体で成型することで、大量に生産することが可能になりました。また、デザインの自由度も飛躍的に上がったのだと思います。

Eames Molded Fiberglass Armchair, Wire Base〈Eames Molded Fiberglass Armchair, Wire Base〉(画像提供:ハーマンミラー ジャパン)

〈SAX Fiberglass Arm Shell Chair X Base Zenith Rope Edge〉。1950年代初期にゼニス社によって生産されたファーストモデル。Photo provided by Takuya Furukubo

こうしたデザインは、「最小の材料で最大の顧客に最高の商品を」と心がけていたイームズらのフィロソフィーを体現したものだといえるでしょう。アーティストであろうとするのではなく、ビジネスとしてその根底に「庶民に愛されるデザイン」「庶民の手に届くものづくり」という考えがあったのだと思います。同様の哲学はサーリネンの〈チューリップチェア〉などにも見ることができます。

加えて、そうしたFRP素材の脚部に鉄や木材を使用するという異素材の組み合わせも当時は非常に斬新でした。もともと木製の部品を組み合わせてつくられていた椅子を再解釈し、一体成型したボディに鉄のベースを組み合わせるというのは、画期的なアイデアだったと思います。異素材を組み合わせて家具をつくるというデザインの可能性を広げるきっかけともなりました。

デザインの背景にあるのは戦後アメリカ社会の明るさ

この時代の色合いは戦後のアメリカ社会を反映させたように明るくポップなものが多いのも特徴です。アンディ・ウォーホルやジャスパー・ジョーンズのアートに共通するものがありますね。

たとえば北欧を代表する家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナー(Hans Jørgensen Wegner | 1914-2007)などは、中国・明時代の椅子にインスピレーションを得たデザインを発表したりしていますが、イームズをはじめとするミッドセンチュリーのデザイナーたちがインスパイアされたのは、花や樹木などの身近な自然だったといわれています。

Eames Molded Fiberglass Side Chair, Dowel Base〈Eames Molded Fiberglass Side Chair, Dowel Base〉(画像提供:ハーマンミラー ジャパン)

アンティーク家具に詳しくない人でも、アメリカンミッドセンチュリーの家具を見てなんとなく「かわいい」「かっこいい」と感じるのは、そうした自然の要素がデザインに含まれているからかもしれません。「古い」という印象を感じさせないのは、デザインの中に普遍性があるからでしょう。

その一方で、デザインだけに特化しているのではなく、非常に丈夫で頑丈なのもこの時代の家具の魅力の1つです。
イームズのデザインなどは大量に安く生産可能だったために学校や商業施設でも取り入れられましたが、当時の椅子はいまでも十分に使えます。

先進的なデザインフィロソフィーと、それらを可能にする新素材が開発されていたこと、時代のタイミングなど、さまざまな要素がガシっと噛み合って生まれたのがアメリカンミッドセンチュリーの家具なのです。

ちなみにですが、非常に多く生産されたためにバリエーション違いや、FRPに配合されているガラス繊維の量の多寡(初期型には特に多く含まれていました)など、こだわりたくなるような要素が多いことも、マニアやコレクターが多い背景の1つかもしれません。

どう合わせる? アメリカンミッドセンチュリー家具

インテリアへの取り入れ方は、それほど難しくないと思います。ヨーロッパの古いレンガ造りのようなテイストに取り入れても、モダンな雰囲気に取り入れても、置いた場所に合わせて表情を変えるのがアメリカンミッドセンチュリーの良さです。

インダストリアルな雰囲気で無垢の天板のテーブルなどと合わせてもハマりますし、もちろんKnollのメラミン素材テーブルなどとの相性もいい。あるいは和風の玄関の軒先にポンと置いてあったとしても、味があって良いと思います。

(画像提供:ハーマンミラー ジャパン)

ただ、アームシェルチェアなどは比較的大振りなので、置く空間はある程度の広さがほしいところです。あまり窮屈に並べるとテイストを損なう気がします。カラーバリエーションが多いので、たくさん並べるというよりも全体の中でアクセントになるカラーを1、2点自然に取り入れたいときに、アートやオブジェ的に置いてみると良いかもしれません。

椅子だけでなく、ジョージ・ネルソンのデザインによる〈ネルソンバブルランプ〉なども人気です。彼がこれをデザインしたのは1950年代ですが、いまもまったく古い感じがしませんし、実際イサム・ノグチ(Isamu Noguchi | 1904-1988)の照明器具〈AKARI〉と並んでとても人気があります。

ネルソンバブルランプ〈​​ネルソンバブルランプ〉のシリーズ(画像提供:ハーマンミラー ジャパン)

アメリカンミッドセンチュリーの家具は、一時はあまりの人気に価格が高騰したこともありましたが、現在は比較的安定しています。かといって暴落しているわけではなく、市場が成熟し、適正な値段で取引されるようになってきたというところでしょうか。

また、人気なだけにアメリカンミッドセンチュリーの家具には類似品も多いのですが、構造の堅牢さなどはやはり本物のほうが上です。

ビンテージにしかない味わいに再び注目

バブルランプをはじめ、アメリカンミッドセンチュリーの家具は現行品も多くあります。現行品でも十分にその魅力を味わえますが、ビンテージには「新品では出せない色」があるのも事実です。

〈Swivel Base by Seng Chicago〉回転式のベース部分。Photo provided by Takuya Furukubo

私はイームズのPKW(Pivot K-wire Wood-base)を十数年かけてようやく入手したことがあります。背もたれのカバーがビキニのようにくびれており、俗に「ビキニパッド」と呼ばれる内部のワイヤーメッシュにカバーをかけて座りやすさを向上させてもデザイン性を損なわないシェイプになっています。

この脚部は「デュアルベース」といって座面の下に回転構造がある回転式と、そうでないものの2種類が生産されていました。丈夫とはいえ、やはり可動部位があると壊れやすく、しかももともとのベース素材は脚の一部が木材のため、回転式のほうは現在復刻されておらず、ヴィンテージでも現存しているものは少なくなっています。

私は十数年かけて3脚の椅子からパーツを組み合わせてPKWを完成させました。そういう楽しみもあるかもしれません(笑)。

リノベるのお客様を見ても、アメリカンミッドセンチュリーをインテリアに取り入れている事例を見かけます。以前は「ミッドセンチュリー」一色のインテリアをよく見ましたが、最近はほどよくアクセントとして取り入れるスタイリングが増えているように思えます。

Original Eames PKW-2 Wire Chair on Dowel Swivel Base古久保氏の自邸に置かれた〈Original Eames PKW-2 Wire Chair on Dowel Swivel Base〉。Photo provided by Takuya Furukubo

ブームがひと回りして、再び人気が出つつあるのがこの時代かもしれません。インターネットでも情報を得られますし、専門に扱うアンティークショップもあります。一度目にしてみて、まずはその魅力を知ってもらえればと思います。

リノベる。
https://www.renoveru.jp

 

FEATURE2021.10.01

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