FEATURE
NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 1(1/2)
Interview with Kei Sasaki(1/2)
FEATURE2024.04.24

佐々木 慧:正しさの先にある「面白い建築」を求めて

[Interview]次代の建築をつくる 第1回(前編)

TECTURE MAG では、若手の建築家の手がけた事例を積極的に取り上げている。今回の連続記事では「次代の建築をつくる」と題し、これから本格的に活躍する建築家たちにインタビュー。これまで何を大事にして自らの基軸を見出してきたのか、これからどのように建築をつくろうとしているのかを浮き彫りにする。

「建築家」と一概にいっても、人々の暮ら方・働き方が多様化する現代においては建築活動の領域や方向性は多岐に渡る。この記事では、さまざまな視座からその活動が特徴的な建築家たちに注目していくことで、現代の建築界の全体像と、その次代を探ることを試みる。

第1回目は、建築設計を軸として福岡を拠点に活動し、家具、インテリア、ランドスケープ、都市計画、デザインコンサルティングなど、包括的に空間をデザインする axonometric (アクソノメトリック)代表の佐々木 慧氏に、現在進行中のプロジェクトや独立後の活動、今後の展望などについて聞いた。

            

佐々木 慧 | Kei Sasaki
建築家 / axonometric代表

1987年長崎県生まれ。九州大学卒業、東京藝術大学大学院修了後、建築家の藤本壮介に師事。独立後、2021年に福岡を拠点にした建築設計事務所axonometricを設立。主なプロジェクトに〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉〈2025年大阪・関西万博ポップアップステージ〉など。Under35 Architecture Exhibition 2022 ゴールドメダル賞受賞。
https://axonometric.jp/

INDEX

  • 福岡での設計活動と、建築へのリテラシー
  • 都市と自然の多様な関係性
  • 1歩引いた視点で考える
  • 「正しさ」を超える建築

福岡での設計活動と、建築へのリテラシー

── これまでのプロジェクトで、印象深いものは何ですか?

佐々木 慧氏

佐々木 慧(以下、佐々木)どのプロジェクトも糧になっているので、特段これだと挙げることは難しいですね。ありがたいことに福岡に拠点を移してから、共に面白いことを企てようとする同志に出会う機会に恵まれています。

あくまで肌観ですが、福岡で活動していると、同業者に限らず考え方に共感できる同年代の方に会いやすいように思います。人口や土地の規模感が程よく若い世代でも目立ちやすいのか、常に面白いことを求めていると、似たような人々が業界を跨いで集まってくるのです。 

── その拠点とされている福岡について、建築を考えるうえでの魅力は何でしょうか。

佐々木実は axonometric のプロジェクトは敷地こそ福岡近辺ですが、クライアントが東京の企業であるケースが多いのです。事業本体は東京に置きながらも、福岡という土地にポテンシャルを感じて出資する人が多いということなのかもしれません。

社会全体にリモート環境が整ってきているから、場所が離れていることによる設計のデメリットはほとんどありません。僕が藤本事務所に勤めていた頃でも、海外のプロジェクトで現地に行くことなく指示するなんてことはザラでした。どこにいても設計はできるという経験と期待が、福岡を拠点に選んだ理由の1つでもあります。

── 佐々木さんの近作では〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉があります。

佐々木立地にとらわれないという意味で「NOT A HOTEL」は分かりやすいプロジェクトですね。クライアントは東京のベンチャー企業で、全国各地に事業を展開しています。僕たちは〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉を設計しましたが、クライアントとの打ち合わせは終始オンラインで進行していきました。

〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉鳥瞰。段々と積みあがるボリュームが、周辺の戸建住宅、庭、公園、街並みと連続する。Photo: Kojima Yasutaka

佐々木:福岡を拠点にして間もない頃のプロジェクトだったのですが、住民の「新しいことを受け入れようとする」気質には驚きました。この建物は児童公園の目の前に建っていて、公園の緑と連続する外観が1つの特徴です。自分で言うのも何ですがユニークな形ですよね。受け入れられるのか不安な中で現地住民への説明会を行ったのですが、この一帯の地主のような方がまず「画期的でいいね。これが自分の街にあったら嬉しいね。」と言ってくださったのです。普通、この外観だったら少しは警戒されてもおかしくないと思います。

分散された各テラスには木々が植えられ、周辺からの視線を切るように角度が振られている。Photo: Kojima Yasutaka

佐々木:その後も福岡でプロジェクトを重ねてきましたが、共通して福岡には同じような気質があるように思います。実際、度々話題に上がるのですが、僕たちの提案がスムーズに受け入れられる理由の1つとして、〈アクロス福岡〉のような、街の風景を積極的につくりあげてきた建築の存在は大きいと思います。〈アクロス福岡〉も建設当時はなかなか新規性のある建築だったと思いますが、今では街の風景として当たり前に溶け込んで、福岡の人々に親しまれています。30年掛けて証明してきたこの説得力が、福岡で新しい建築を受け入れるリテラシーの底上げに繋がっている気がします。

〈アクロス福岡〉設計:エミリオ・アンバーツ&アソシエイツ、日本設計、竹中工務店。Photo: TECTURE MAG

〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/4385

都市と自然の多様な関係性

── 自然との距離が比較的近いことも、福岡の魅力の1つですよね。

佐々木そうですね。例えば〈DILLY DALLY〉は、サンセットが綺麗な海岸沿いにあります。森と海に挟まれた自然豊かな立地でありながら、博多からは車で30分程度の場所に位置していて、夏場は多くの観光客で賑わいます。砂浜を持ちあげたようなボリュームは、風量解析などを用いて決定していて、海岸を吹く強風から広場を守りながら、広大な自然への景色を切り取ります。

〈DILLY DALLY〉外観。Photo: YASHIRO PHOTO OFFICE

佐々木:先ほどの〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉では、都市の街並みと隣接する公園の自然との関係性を建築に落とし込んでいきしたが、〈DILLY DALLY〉では豊かな自然環境とその景色を拠り所に設計しています。都市と自然の距離感の違いによる、多様な設計条件に挑戦できるのも福岡の良いところです。

強風から守るようにボリュームを立ち上げている。Photo: YASHIRO PHOTO OFFICE

海側はガラス張りのレストランとし、広場からはレストランの大きな窓越しに海を眺めることができる。Photo: YASHIRO PHOTO OFFICE

〈DILLY DALLY〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/4386

1歩引いた視点で考える

── 佐々木さんが思う、ご自身の設計する建築の特徴を教えてください。

佐々木手掛けた作品数もまだ少なく模索している段階で、作家性のような共通する何かを見出せてはいません。ただ、設計条件に対してフレキシブルに対応していくほうだと、自分では思っています。これまでもクライアントとの会話の中で案の方向性を変えたり、その場で簡単に書いたスケッチがデザインの軸になったり。自分の考えを押し付けるような設計にならないようにしています。

事務所名の「axonometric」には、なるべく引いた視点で、与件も含めたコンテクストを俯瞰して眺め、複雑な状況を受け入れながら、空間を包括的にデザインしたいという思想を込めています。

〈DILLY DALLY〉配置計画のスケッチ。Written by Kei Sasaki

「正しさ」を超える建築

── 建築を考えるうえで、特に大切にされていることは何ですか?

佐々木この建築が面白いかどうか、ということを徹底的に考えるようにしています。プロジェクトによって程度に差はあれど、建築には社会的な「正しさ」が求められます。一方で人が心躍る空間とは、正しさにとらわれない非合理性や、遊び心の中にこそあると思うのです。

プロジェクトの規模が大きくなるほど多くの人とお金が動くため、クライアントは当然、社会の目に晒されることに敏感になります。そんな中でも、設計の拠り所に固定化された正しさのみを求めてしまわないようにしています。

── 建築が「面白いかどうか」は、「正しいかどうか」よりも相手に伝えることが難しそうですね。

佐々木そうですね。なので axonometric ではプレゼンテーションを重視し、そのための資料も1つの作品だと捉えるようにしています。正しい建築がクライアントや社会にとって必ずしも良い建築になるとは限りません。正しさを超えて「これ良いね、面白いね。」と言ってもらえるレベルにまで、用いる言葉やビジュアルを昇華させようと心掛けています。

思想の共有という意味では、SNSなど自社の考えを発信するチャンネルを増やしはじめているところです。まだ axonometric には実績があまりありませんが、僕たちが考えていること、信じていることを積極的に発信していきたいです。一緒に面白いことをやってやろう、という同志との出会いは何よりも大切ですからね。独立してから強く実感しました。そのような人たちに出会うためには、こちらから発信していく必要があります。

自社チャンネルには社内向けに、という側面もあります。今回のようなインタビューの場でもないと、社内ですら自分の思想を共有する機会って意外と少ないんですよ。将来的に自社チャンネルは、僕以外の社員も書き込めるような体制にして、僕も社員も相互に思想を共有し、深めていくためのイチ手段としても活用できないかと考えています。

(後編へ続く)

Interview & text: Suzuki Naomichi
Photo: TECTURE MAG

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