FEATURE
NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 2(2/2)
Interview with Yoko Takaike(2/2)
FEATURE2024.06.12

高池葉子:常に競い合う環境に身を置く

[Interview]次代の建築をつくる 第2回(後編)

[Interview]前編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 2

FEATURE2024.06.05

高池葉子:常に競い合う環境に身を置く

[Interview]次代の建築をつくる 第2回(前編)

暮らしに溶け込んだ建築のために、土地の特徴や歴史的な背景だけでなく、そこで暮らす人々とのコミュニケーションからも設計の手掛かりを見出す高池葉子建築設計事務所。社内でも競争し合うことで向上心を保ち続ける高池氏たちは、今後どんな建築をつくっていくのか。

高池葉子氏

INDEX

  • 実験的な書庫と離れ
  • 茶畑の中の道の駅
  • 天井から空間をデザインする
  • プロポーザルに挑戦し思考をトレーニング
  • 建築を通して社会に貢献する

実験的な書庫と離れ

── 進行中のプロジェクトをいくつかご紹介いただきたいです。

高池:〈森の書庫と離れ〉は、私の父がクライアントのプロジェクトで、これまで収集してきた1万冊以上の本を収納する書庫が欲しいとのことでした。当初は書庫のみでしたが、母屋に保管してもらっていた私の事務所の建築模型が溜まってきていて、それらも収納できる離れも計画しています。どちらも「人が主役にならないこと」がテーマとなりました。

まず書庫について、ジグザクの平面形が壁面の強度と本の収納量を確保し、そのまま外壁として立ち上がることで、建築の主役が本であることを現しています。日光で本が傷むのを防ぐため開口部は最小限に留めつつ、屋根の登り梁の隙間から差し込む光が本と向き合う環境を整えます。登り梁の天端の角度がすべて異なるので、3Dプレカットにより製作していて、複雑な形状を実現するため一部の梁は鉄骨としました。

〈森の書庫と離れ〉イメージパース。Image: 高池葉子建築設計事務所

1/50模型。書庫と離れは、夏みかんの樹を囲うようにハの字で配置。

── この規模で混構造というのは珍しいですね。

高池:敷地が確認申請不要の都市計画区域でもあり、小さなプロジェクトながらさまざなことに挑戦しています。書庫に収める本は専門書が多く、将来的には小さな図書館として研究者たちに開放する予定です。結果的にいくつかの企業から素材の協賛をいただくことができ、コストとの折り合いを付けています。

協立工業提供の透明で軽量なETFE(熱可塑性フッ素樹脂)フィルムを、書庫の天窓に使用。Photo: 高池葉子建築設計事務所

高池:湿気が溜まりやすい環境であることから土壁にできないかと検討しています。また棚の一部に近隣で採れた竹を使用するなど、工事を進めながら新しいアイデアも取り入れていて、ここぞとばかりに、普段出来ないことを盛り込んだプロジェクトになりそうです(笑)。

田島ルーフィング提供のルーフィング材を書庫の天井、離れの外壁下地に使用。Photo: 高池葉子建築設計事務所

学生とのワークショップで、周辺から伐採した竹の油抜きを行う。Photo: 高池葉子建築設計事務所

── 設計のスタディには、模型を用いることが多いのでしょうか。

高池:模型で検討することのほうが多いですね。場合によってCGと使い分けていますが、CGはつくり込んでもあくまで2次元的で、確信をもってスタディを進められない感覚があります。模型による検討では、敷地模型から作成し徐々にスケールアップさせながらディテールを詰めていきます。スケールアップの延長で完成形をイメージできるので齟齬が少ないのです。

私たちの事務所はプロジェクトごとの担当制ではありません。特に検討初期の段階では、皆との思考の共有が容易であることが必要です。模型を囲みながらああでもないこうでもない、と議論する方が事務所のスタイルに沿っているように思います。

茶畑の中の道の駅

── こちらの模型は、進行中のプロジェクトでしょうか。

〈道の駅(仮)さかべ〉1/100模型。

高池:日本を代表するお茶の産地、静岡県牧之原市に計画している〈道の駅(仮)さかべ〉です。高橋茂弥建築設計事務所と協働していて、私たちは主にデザイン面を担当しています。牧之原市初の道の駅なので市のPRとしても重要な位置づけのプロジェクトで、コンセプトづくりから参加することができました。周囲の茶畑の中には民家が点在し、敷地の南側には中世の池泉回遊式庭園とされる宮下遺跡があります。この長閑な場所で人々が憩える緑地公園のような場所になるように、敷地全体を一体的に整備したいと考えました。

中心に起伏のある芝生広場をつくり、子供たちが斜面を利用して遊べるようにします。施設は、農産物直売所、レストラン棟、トイレ・休憩施設を、ボリュームとして3棟に分けています。3棟の施設間は段々状の休憩スペースとなっていて、親御さんが芝生広場で遊ぶ子供たちを見守れるようになっています。

中央の起伏のある芝生広場などは、ランドスケープアーキテクト大野暁彦氏によるもの。Image: 高池葉子建築設計事務所

高池:建物全体を覆うボールト状の屋根は周囲の茶畑をモチーフにしていて、その軒高の差により多様なスケール感をもつ居場所をつくります。工期短縮のため、また基礎に負担をかけないよう徹底的に軽くしたジョイスト梁とサンドイッチパネルにより構成していて、柱は直径100mm程度の丸柱とすることで、アイレベルではヒューマンスケールに落とし込んでいます。

この場所が牧之原の魅力を高め、歴史的資源の文脈を感じられる場となり、地元の人々の交流を促すような憩いの場所となることを願っています。

周辺の茶畑を想起させるボールト屋根。Image: 高池葉子建築設計事務所

屋根の重なる休憩スペースから芝生広場を見る。Image: 高池葉子建築設計事務所

天井から空間をデザインする

── 駅のプロジェクトも、最近リリースされましたね。

高池:〈日吉駅(東横線・目黒線)天井のリニューアル〉計画は、駅の中に4つの特徴的なエリアを位置付け、街への出発点として異なる天井デザインで表現しています。散策しながら日吉の魅力と出会える、遊歩道のような駅であることをコンセプトにしています。

たとえば、日吉駅での待ち合わせによく使われる「銀玉」と呼ばれているオブジェがあるエリアでは、高い天井が日向のように明るい空間をつくり、地域の成長を促す空間を表現しています。半鏡面のアルミパネルに銀杏並木や人の往来を柔らかく映し込むことで、開放的な空間を演出します。

駅から慶應義塾大学のキャンパスに向かうエリアの天井「Sunny spot(日向)」。Image: 高池葉子建築設計事務所

高池:駅と商店街とを繋ぐエリアでは天井を低くし、神奈川県産材の杉を並べた垂れ壁と間接照明により、木の間から光が差し込む木陰特有の穏やかな空間を表現します。既存の折り上げ天井を活かしつつ、木の垂れ壁により空間を刷新します。

設計は既に終えていますが竣工は約2年後の予定です。終電から始発までの4時間しか工事ができず、その時間の中で仮設組みと撤収も完了する必要があるため、毎日コツコツと進められています。多くの方の目に留まるプロジェクトになるので竣工が待ち遠しいですね。

駅と商店街とを繋ぐエリアの天井「Tree shade(木陰)」Image: 高池葉子建築設計事務所

プロポーザルに挑戦し思考をトレーニング

── プロジェクトの規模も機能もさまざまですね。それぞれ取り組むうえで、考え方の違いなどがあるのでしょうか。

高池:設計の考え方やそのプロセスに違いはありません。ただ公共性の高いプロジェクトほど、コンセプトの明快な言語化が求められます。当たり前のことですが利用者が多いので、より受け入れられやすい言葉でのアウトプットが必要です。道の駅と日吉駅の2つのプロジェクトでは特に、コンセプトを徹底的に話し合ったことで共感と信頼を得られた実感があって、私たちの提案そのままに進めることができました。 

── 独立前あるいは直後から現在に至るまでに変化したことがあれば教えてください。

高池:年々、プロポーザルに挑戦することが多くなりました。1年目は仕事にもゆとりがあったのですが、2年目から集合住宅の仕事をいただき急に慌ただしくなりました。打ち合わせをして、模型をつくって、図面を引いて、現場を回って、当時は息も絶え絶えでプロポーザルに取り組む余裕もありませんでした。

事務所の所員も2人、3人と増やして、これからだというタイミングで抱えていた仕事がすべてなくなってしまったんですね。展覧会に出展した小田原でのプロジェクトがあったのですが、途中で計画がなくなってしまって。そのプロジェクトはクライアントが土地を持て余している状態で、何をつくるか提案するところから依頼を受けていました。なくなりこそしましたが、ほかに仕事もないので、せっかくならと半分架空のプロジェクトとして検討していきました。

結果的に展覧会を通して多くの建築家からの批評をいただくことでき、それまで目の前の仕事でいっぱいいっぱいだった思考の良いトレーニングになりました。事務所としても成長できた実感があって、それ以来、事務所では積極的にプロポーザルに挑戦しています。

〈女川町認定こども園及び社会教育施設〉プロポーザル案。Image: 高池葉子建築設計事務所

〈神田のオフィスビル〉プロポーザル案。Image: 高池葉子建築設計事務所

建築を通して社会に貢献する

── 最近、興味のある事柄があれば教えてください。

高池:子供の教育に関わる建築に興味があります。とあるプロポーザルがあって、そのリサーチとして、いくつかの児童養護施設で子供たちの様子を見学し、そこで働く方のお話を聞くことができました。大袈裟でもなく、「この人たちのための建築に携わることができれば、社会全体をより良い方向に変える一助になれる」と思ったんです。

また参考になると思い、司法福祉の世界で働いていた私の母からも色々な話を聞きました。私が小さかったころ母は全国を飛び回るように働いていて、帰って来るのは週末だけで、どんな仕事をしているのか具体的に聞いたことがありませんでした。今回のことを通して、はじめて母が人生を捧げてきた仕事がどんなものだったのか、少しは理解できたような気がしたんです。

結局、プロポーザルは獲れませんでしたが、また機会があれば、子供たちの成長に寄与できるような建築を手掛けてみたいと考えています。建築を通じて社会の課題に取り組むことは、これからも重要なテーマの1つです。

〈東京サレジオ学園児童園舎〉プロポーザル案。円弧状の屋根が敷地全体に連続感と一体感をつくる。Image: 高池葉子建築設計事務所

〈東京サレジオ学園児童園舎〉イメージパース。それぞれの家が周辺環境に対して異なる開き方をし、子供たちの個性が自然と滲み出る。Image: 高池葉子建築設計事務所

〈東京サレジオ学園児童園舎〉イメージパース。Image: 高池葉子建築設計事務所

高池:また先日、能登半島の被災地を訪れました。発災から数カ月経っていますが、想像以上に現場は深刻です。半島の狭い道は重機が通ることもままならず、まだ水道が復旧していない地域もたくさんあります。何より、今回の被害は、地震による建物の倒壊が原因で亡くなった方が多く、復旧が進まずに、壊れたままの建物が並ぶ風景を目にして、無力感と悔しさが込み上げてきました。

能登半島地震で倒壊した家屋。Photo: 高池葉子

高池:黒光りした能登瓦による屋根の風景が本当に美しいのですが、瓦が重いせいで建物が倒壊したというマイナスイメージが被災者の皆さんにあるようです。このイメージを払拭し、今後街を再建していく際に、崩落して残った能登瓦を再利用できるように、場所を取らずに保存する方法はないか、考えています。

現場の最前線で汗を流している方たちのお話を伺いながら、何か自分にできることはないかを考え、これから復興のお手伝いをする予定です。

(2024.03.28 高池葉子建築設計事務所にて)

Interview & text: Suzuki Naomichi
Photo: TECTURE MAG

[Interview]前編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 2

FEATURE2024.06.05

高池葉子:常に競い合う環境に身を置く

[Interview]次代の建築をつくる 第2回(前編)

【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン TECTURE NEWS LETTER

今すぐ登録!▶
【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン
お問い合わせ