FEATURE
【Special Interview with Haruka Misawa & Takashi Kubo】"WHO ARE WE" And What Can We Learn From Observation?
Collection of the National Museum of Nature and Science, Tokyo | Vol. 01 Mammals
FEATURE2022.02.24

国立科学博物館と三澤デザイン研究室が共同開発した巡回展キット「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」関係者インタビュー(後編)

発見と観察、さらに"体験"を持ち帰るまでを什器でデザインしたプロジェクトが展覧会初日を迎えるまで

インタビュー 前編

FEATURE2022.02.22

国立科学博物館と三澤デザイン研究室が共同開発した巡回展キット「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」関係者インタビュー(前編)

発見と観察、さらに"体験"を持ち帰るまでを什器でデザインしたプロジェクトの開発ストーリー
巡回展キットのイメージ(デザイン:三澤デザイン研究室)

#そのまま巡回できる展示什器が誕生

独立行政法人国立科学博物館(以下、カハクと略)と、日本デザインセンターのデザイナーで、三澤デザイン研究室を主宰する三澤 遥氏が、共同で開発した巡回展キットのプロジェクトを紹介する特集記事の後編。

昨春誕生した巡回展キット「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」は、カハクが誇る膨大かつ貴重な標本資料を資源として有効に活用し、地方へ容易かつ安全に貸し出せるようにつくられたもの。
剥製の姿は見えども、この箱のどこに標本類があるのか? なんと三澤氏は、四角い箱に引き出しをしつらえ、その中に隠してしまった。引き出しという、誰もが知っている極簡潔なアイテムをベースに、鑑賞者に能動的な意識と行動を促す展示什器である。

『TECTURE MAG』では、国立科学博物館 科学系博物館イノベーションセンター展示開発・博物館連携グループ(開発当時の所属、現在は事業推進部企画展示課)の久保 匡氏と、三澤研を主宰するデザイナーの三澤 遥氏にインタビューを行い、詳しい話を聞いた。

巡回展キット「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」インタビュー

左:三澤 遥氏 / 右:久保 匡氏  東京・銀座 日本デザインセンター ライブラリーにて

「巡回展キット」の誕生と開発のプロセスについては、本稿の前編を参照されたい。
後編では、三澤氏による「巡回展キット」の細部のデザインを見ていくとともに、大分県立美術館(OPAM)にて、初披露となる企画展の初日を迎えるまでを追っていく。

NDCならではのビジュアライズ・デザイン

——「巡回展キット」では、引き出しの端に白いタグを付けるなど、引き出しの存在感はそれとなく感じられますが、どこに何があるといった説明はほとんどありませんね。

三澤:はい。ただ、開けてほしいなと思う順序はあって、そこを想定して設計しました。

それぞれの展示台に少し大きめのテーマのタグが設置されているのですが、最初に開けてほしい引き出しをその一番近くに配置しています。引き出しの向き、高さ、大きさ。そして動線順。引き出しの中身や外の剥製たちとの関係性。そのあたりのスタディは、三澤研のスタッフと何度も何度も繰り返しました。鑑賞者が「へーぇ、ふーん」で終わらずに、「なんでだろう?」「ひょっとして?」「もしかすると?」と頭の中で考えを巡らせてくれるようなところまでもっていけたらいいなと。

三澤:今回のデザインでは、存在感を「消していく」ことにも意識を向けました。前述の治具もですが、引き出しを開けた時に、鑑賞者の影を極力、落としたくなかった。展示の体験として、それはノイズとなってしまいますからね。施工を担当いただいた有元利彦さんや照明デザイナーの藤原 工さんたち、職人のスペシャリストにもプロジェクトに参入していただきました。
引き出しの中にLED照明を仕込んだほか、大分の展示では、ものすごく繊細なライティング、絶妙な光の当て具合で、影が気にならなくなりました。これらは本当に凄かった。実際にぜひ見て欲しい精緻な光の設計でした。

久保:照明も造作も、展示チームの全員が、同じ方向を向いて、三澤さんのデザインビジョンを共有できていたことが大きかったですね。

三澤:什器のデザインでも、人がぶつかって怪我をしないよう、角の部分にアール加工を施しているのですが、四角い木製の箱にアールをつけるのって、実はすごく難しい注文なんです。でも、施工チームはみごとな精度で応えてくださいました。

久保:おかげで、ずっと触っていたくなるような、気持ちのいいアール形状になっています。

会場写真からも、什器と引き出しの角にアール処理が施されていることが確認できる ©︎Gottingham

人を惹きつけるタイトルとエディション

——什器のハコごとに、キャッチーな展示テーマが付けられているのも、斬新でした。

三澤:「かもしれない模様」とか「まさかの細部」とか。シマウマの剥製を設置した什器では、そのすぐそばの引き出しを開けると、「シマシマさまざま」な標本を見ることができます。縞模様をもつ昆虫や貝殻とか、身近なものを集めました。見て、「へーぇ」で終わるのではなく、普段の生活に戻ったときにふと、「これもシマシマ、あれもシマシマだな」と思い出してもらえるような、その人の心に溶け込む、入り込めるような体験をつくり、その感覚を家まで持って帰ってほしいなと。
私たちの編集内容におかしなところがないかどうかは、カハクの川田伸一郎先生に監修していただきました。

久保:いくらデザイン的に優れていても、科学的な正しい知見の裏付けがないといけませんので。学術的なエビデンスをとることも、カハクのプロジェクトとして重視したところです。

「かもしれない模様」什器の引き出しの1つ、「シマシマさまざま」 ©︎Gottingham
標本に付帯するのは解説ではなく、観察するための「視点」の提示 ©︎Gottingham
「見ること」に集中してもらうため、アクリル板では低反射仕様が採用されている ©︎Gottingham

大分での展覧会初日

——開発から約1年を経て、2021年7月22日に大分で展示の初日を迎えました。入場者には白い手袋を配付しただけで、什器の取り扱いについてはあまり説明しなかったそうですね。

久保:はい。私たちとしては、説明なしで引き出しを開けてもらえて初めて、このプロジェクトは成功したことになると考えていました。開場と同時に、子供たちがワーッと駆け寄って、あちらこちらですぐに引き出しが開いたのを見たときは、感動しましたね。

三澤:嬉しかったですね。今回の引き出しに込めた「観察と発見」の体験が、ちゃんと伝わっているように思えて。

久保:コロナ対策もあり、入場者に白手袋を配ったことが、貴重なものを扱っているという意識を促したのか、心配していたような什器の破損もありませんでした。
引き出しを全部、開けて、帰っていかれる来場者の背中を見たときは、泣きそうになりました(笑)。小さなお子さんでも、何度も引き出しを開け閉めして、2時間くらい滞留していったり。

会場では、撮影とSNS投稿にOKを出していたので、初日からSNSにたくさんの写真がアップされたり、詳細なレポートを個人のブログに書いて下さった方もいて、本当に嬉しかったです。

大分での展示の様子(撮影:岡庭璃子)
企画展「WHO ARE WE 観察と発見の生物学 国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類」フライヤー
ある動物の部位にズームして撮影したビジュアル(©︎Gottingham)も「これは何?」と興味を抱かせる三澤氏の仕掛け

企画展「WHO ARE WE 観察と発見の生物学 国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類」概要

会場:大分県立美術館(OPAM)
会期:2021年7月22日(木・祝)〜9月12日(日)※終了

学術監修:川田伸一郎
制作統括:久保 匡、中山美樹
企画・構成:日本デザインセンター 三澤デザイン研究室
アートディレクション:三澤 遥
デザイン:三澤 遥、佐々木耕平、竹下早紀
コピーライティング:磯目 健
什器制作:HIGURE 17-15 cas
照明計画:灯光舎
進行管理:松本 敦
主催:独立行政法人 国立科学博物館
https://www.kahaku.go.jp/

大分県立美術館 アーカイブ
https://www.opam.jp/exhibitions/detail/725

「巡回展キット」の今後の展開

——今後の「巡回展キット」の展開についてお聞かせください。

久保:要望があれば、例えば商業施設などにも貸し出します。話題性のある、集客イベントを地方で催行することで、地域活性化にも貢献できると考えています。博物館の持つ標本資源を、全国規模で循環させたい。

三澤:大分での展示タイトルは、末尾を「Vol.01 哺乳類」としていて、これには、Vol.02、Vol.03と、続けていけたらいいなという願いを込めています。今は哺乳類にフォーカスを当てていますが、植物や鉱石など・・・、大げさに聞こえるかもしれませんが、地球規模で「WHO ARE WE」の思想が広がっていったらいいなと・・・。

久保:大分でのアンケートで、「Vol.02にも期待してます!」という嬉しいご意見が寄せられていました。東京・上野でのお披露目も時期をみてやりたいですね。

「博物館の裏方で、ここまでデザインのことを深く考えてくれる人はそういない。とても感動して、一緒に仕事をしたいと思いました」(三澤氏談、久保氏の第一印象について)

デザイナー プロフィール

三澤 遥(みさわ はるか)
1982年群馬県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、デザインオフィスnendoを経て、2009年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動開始。
2019年、毎日デザイン賞受賞。主な著書に『waterscape』(出版:X-Knowledge)などがある。

三澤デザイン研究室では、ものごとの奥に潜む原理を観察し、そこから引き出した未知の可能性を視覚化する試みを、実験的なアプローチによって続けている。主な仕事に、水中環境をあらたな風景に再構築した「waterscape」、takeo paper show 2018 「precision」への出品作「動紙」、上野動物園の知られざる魅力をビジュアル化した「UENO PLANET」、ロゴの自在な展開性を追求したKITTEやTOKYO BIG SIGHTのVIがある。
2021年7月に島根県隠岐の島に開業したジオホテル「Entô」では、アートディレクションを手掛けている。

三澤デザイン研究室
https://misawa.ndc.co.jp/

編集後記

本プロジェクトに関して、国立科学博物館と三澤デザイン研究室への合同取材を申し込んだのは、『TECTURE MAG』が初めてとのことで、両氏はとても嬉しそうに、これまでの経緯を語ってくれた。
巡回展キット「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」によって、博物館というアカデミックな場で、新たなデザインの引き出しが開かれたことは間違いない。[了]

インタビュー日時:2021年10月8日

Interview & Photo by Jun Kato
Interview & Text by Naoko Endo

参考資料
文化庁プレスリリース【国立科学博物館】収蔵庫コレクションを活用した巡回展キットの貸出スタート 地域振興を目的とした新たな巡回展を開発
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000282.000047048.html

インタビュー 前編

FEATURE2022.02.22

国立科学博物館と三澤デザイン研究室が共同開発した巡回展キット「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」関係者インタビュー(前編)

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