建築をきっかけに、その土地を訪れてみたくなることがあります。
日本各地には魅力的な建築が点在し、それらはその土地ごとの風土や文化とともに地域で大切に受け継がれています。本記事では、静岡県の建築15作品を体験別・マップ付きで紹介します。
ストイックに巡るのもよし、ホテルでゆったり味わうのもよし。
週末や休暇に自分なりのプランを立てて、地図を片手に建築の旅へ出かけてみませんか。
INDEX
体験する(教育・文化施設)
・静岡県富士山世界遺産センター|坂茂建築設計
・静岡県草薙総合運動場体育館|内藤廣建築設計事務所
・駿府教会|西沢大良建築設計事務所
・静岡市歴史博物館|SANAA
・浜松市立秋野不矩美術館|藤森照信+内田祥士
・日本盲導犬総合センター|千葉学建築計画事務所
・静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ|磯崎新
・資生堂アートハウス|谷口吉生 高宮真介
・沼津市芹沢光治良記念館|菊竹清訓建築設計事務所
・静岡市立芹沢銈介美術館|白井晟一研究所
食べる(レストラン・カフェ)
・とらや工房|内藤廣建築設計事務所
・COEDA HOUSE|隈研吾建築都市設計事務所
・cafe/day|スキーマ建築計画
泊まる(宿泊施設)
・沼津倶楽部|渡辺明
・水/ガラス|隈研吾建築都市設計事務所
体験する(教育・文化施設)
静岡県富士山世界遺産センター
設計:坂茂建築設計
竣工:2017年
所在地:静岡県富士宮市宮町5-12
〈静岡県富士山世界遺産センター〉は、2013年6月にユネスコ世界文化遺産に登録された「富士山─信仰の対象と芸術の源泉」の価値を発信するために建てられた施設。坂 茂氏が手がけた建築は、逆円錐形のシルエットが富士山の象徴性を反転的に表現し、建物の強いアイコン性が特徴です。内部には螺旋状のスロープが設けられ、映像展示を見ながら徐々に上階へと上がっていくことで登山体験を想起させるような構成になっています。

stock.adobe.com
静岡県草薙総合運動場体育館
設計:内藤廣建築設計事務所
竣工:2015年
所在地:静岡県静岡市駿河区栗原19-1
〈静岡県草薙総合運動場体育館〉は、静岡県草薙総合運動場リニューアル事業の一環で、既存施設の建替えとして計画された多目的体育館。設計は内藤廣氏が手がけ、静岡県産天竜杉の集成材を用いた構造が特徴的です。256本のスギ集成材と鉄骨ブレースによるハイブリッド構造で支えられた大屋根が、2×46mの広大な楕円状の無柱空間をつくり出しています。

あんみつ姫 – stock.adobe.com
駿府教会
設計:西沢大良建築設計事務所
竣工:2008年
所在地:静岡県静岡市葵区相生町15-1
2008年に西沢大良氏が設計を手がけ、現在の線路沿いの敷地に建て替えられたプロテスタント教会である〈駿府教会〉。礼拝堂の内部では、木ルーバーは上部ほど木ルーバーの幅が細くなるように設えられ、天井から差し込む光が時間とともに移ろい、柔らかく拡散され、心が落ち着くような空間をつくり出しています。また、厚さ約760mmの壁によって外部の音は遮断され、内部の音響は最適化されています。

photo by soi
静岡市歴史博物館
設計:SANAA
竣工:2022年
所在地:静岡県静岡市葵区追手町4-16
徳川家康が晩年を過ごした駿府城の跡地として知られる駿府城公園。その南側に建つ〈静岡市歴史博物館〉は、静岡の歴史や文化を発信することでその価値や魅力を伝えることを目的とした施設です。外観は、1階の木製の建具や庇と、軽やかな印象を与える上部のアルミエキスパンドメタルの組み合わせが印象的で、伝統と現代性を巧みに融合しています。1階では、建設前の発掘調査で見つかった戦国時代末期の道と石垣の遺構がそのまま展示されており、来館者は遺構を囲むスロープを通じて、2階の展示室へと進むことができます。

©︎静岡市歴史博物館
浜松市立秋野不矩美術館
設計:藤森照信+内田祥士
竣工:1997年
所在地:静岡県天竜市二俣町二俣130
〈浜松市秋野不矩美術館〉は、画家・秋野不矩の作品を収集・展示する美術館で、彼女の出生地である静岡県浜松市天竜区の丘の上に位置しています。藤森照信と内田祥士が手がけた建築は、石、木、土といった自然素材を仕上げ材に使用し、時間の経過と共に風土に溶け込むようなデザインが特徴です。1階展示室は靴を脱いで入るスタイルとなっていて、籐ござや大理石を足で感じながら、漆喰の壁に展示された作品を鑑賞。作品と空間が一体となり、より深い体験を提供するように設計されています。

©︎浜松市秋野不矩美術館
日本盲導犬総合センター
設計:千葉学建築計画事務所
竣工:2006年
所在地:静岡県富士宮市人穴381
千葉学氏が手がけた〈日本盲導犬総合センター〉は、盲導犬の誕生から引退後までを総合的にケアする目的で建設されました。盲導犬の訓練や繁殖、研究の場としての機能性を備えつつ、一般来訪者への開放性も兼ね備えている、日本初の施設です。富士山の裾野を蛇行するように、点在する片流れ屋根の棟が回廊で繋がり、各室はフリーランスペースと隣接するように設計されています。地面とフラットな開口部や、部屋ごとに素材が異なる床など、犬と人のどちらにも配慮した設計がされています。

©︎公益財団法人 日本盲導犬協会
静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ
設計:磯崎新
竣工:1998年
所在地:静岡県静岡市池田79-4
〈静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ〉は、磯崎新氏が設計を手がけた文化・交流複合施設です。楕円と放物線を基本とする3次元曲面で構成された、巨大な船を想起させる造形が特徴的です。コンサートホールや展示スペース、会議室などが多様な空間が組み合わさり、文化活動と交流の拠点として機能しています。

©︎(公財)静岡県文化財団
資生堂アートハウス
設計:谷口吉生 高宮真介
竣工:1978年
所在地:静岡県掛川市下俣751-1
〈資生堂アートハウス〉は、資生堂が近現代の美術品を収集・保存し、それらの展示を行う美術館。銀色の磁器タイル、ミラーガラス、ステンレス目地で仕上げられた、曲面と平面が巧みに組み合わせられた外観が特徴的です。曲面ガラスに周囲の自然が映り込むことで、建築の美しさがより浮かび上がるようなデザインとなっています。

©︎資生堂アートハウス
沼津市芹沢光治良記念館
設計:菊竹清訓建築設計事務所
竣工:1970年
所在地:静岡県沼津市我入道蔓陀ケ原517-1
菊竹清訓が設計を手掛けた〈沼津市芹沢光治良記念館〉は、沼津市出身の作家・芹沢光治良の文学と生涯に関する資料が展示されている文学記念館で、2009年に旧財団法人芹沢・井上文学館から沼津市に寄贈されました。天井高5mの大空間やコンクリートの螺旋階段といった建築の力強さと、芹沢氏が強く影響を受けたフランス文学的思想が融合するようにデザインされています。

©︎沼津市芹沢光治良記念館
静岡市立芹沢銈介美術館
設計:白井晟一研究所
竣工:1981年
所在地:静岡県静岡市駿河区登呂5-10-5
弥生時代の登呂遺跡に隣接して建つ〈静岡市立芹沢銈介美術館〉は、静岡市出身の染色家・芹沢銈介の作品と、彼が収集した世界各地の工芸品を展示する施設です。〈渋谷区立 松濤美術館〉とともに白井晟一の代表作ともいわれ、どちらも中庭の噴水と石積みの外壁、銅板葺きの屋根で構成され、館内は中庭を囲むように展示室が配置され、自然光が差し込む落ち着いた空間をつくり出しています。また、白井氏が好んだ京都・高山寺の石水院に因み「石水館」とも称されています。

©︎静岡市立芹沢銈介美術館
合わせて訪れたい!
・〈静岡市清水文化会館〉槇総合計画事務所・大成建設設計共同企業体、2012年
静岡県静岡市清水区島崎214
・〈ねむの木こども美術館〉藤森照信+内田祥士、2006年
静岡県掛川市上垂木ねむの木学園内
・〈紙のハニカム構造 ねむの木美術館〉坂茂建築設計、1999年
静岡県掛川市上乗木3534-1
・〈伊豆の長八美術館〉石山修武+ダムダン空間工作所、1984年
静岡県賀茂郡松崎町松崎23
・〈紙の資料館 特種製紙総合技術研究所 Pam〉坂茂建築設計、2002年
静岡県駿東郡長泉町本宿437
食べる(レストラン・カフェ)
とらや工房
設計:内藤廣建築設計事務所
竣工:2007年
所在地:静岡県御殿場市東山1022-1
「和菓子屋の原点」を今の時代に再現しようと、静岡県御殿場市につくられた「とらや工房」。吉田五十八氏の設計による東山旧岸邸に隣接する敷地に建てられています。竹林に囲まれたアプローチを抜けた先に建つ建築は工房や物販、喫茶を内包し、自然と向き合うように円弧状に配置され、大開口によって室内のどこからでも庭を見通すことができるようになっています。

©︎虎玄
COEDA HOUSE
設計:隈研吾建築都市設計事務所
竣工:2017年
所在地:静岡県熱海市上多賀1027–8
〈COEDA HOUSE〉は、静岡県熱海市の海岸沿いに位置するカフェです。8cm角のヒバ材をランダムに積み重ねて一本の大樹を想起させる構造で成り立っています。カーボンファイバーロッドによる補強によって、外周部に柱のない開放的な空間が実現され、太平洋を望む絶景を楽しむことができます。

©︎ Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office
cafe/day
設計:スキーマ建築計画
竣工:2010年
所在地:静岡県沼津市沼北町1-14-26
〈cafe/day〉は、「みんなで作る」というコンセプトのもとデザインされたカフェ。表情の共通性はもたせつつ、多くの参加者を巻き込んでつくっていくことによって、竣工後も利用者が愛着を持ち、継続的に手を加えていくことで成長する空間として設計されています。

photo by Kenta Hasegawa
合わせて訪れたい!
・〈とらや御殿場店〉内藤廣建築設計事務所、2006年
静岡県御殿場市新橋728-1
・〈BIRD’S NEST ATAMI〉NAP建築設計事務所、2014年
静岡県熱海市水口町2-13-1 リゾナーレ熱海内
泊まる(宿泊施設)
沼津倶楽部
設計:渡辺明
竣工:2008年
所在地:静岡県沼津市千本郷林1907-8
〈沼津倶楽部〉は、約3,000坪の庭園に建つ、築110年を超える数寄屋造りの「松岩亭」と、2008年に渡辺明氏が増築した宿泊棟からなるホテル。2023年には既存の意匠を継承しながら修繕が行われました。宿泊棟は、版築壁やスギの大屋根など、自然素材を活かした現代的な構成でありながら、この場所の歴史性や静謐さを引き継ぎ、数寄屋造りや庭園と調和した佇まいとなっています。

photo by Ben Richards
水/ガラス
設計:隈研吾建築都市設計事務所
竣工:1995年
所在地:静岡県熱海市春日町8-33
1995年にゲストハウスとして建設され、現在はホテルとして利用されている〈水/ガラス〉は、建築と自然が融合することを追求したデザインが特徴です。建物の周囲には水でできた「縁側」が広がり、太平洋の海面と一体化することで、境界が曖昧になるような印象を与えています。ガラスの箱は水面に浮かぶように配置され、庇越しに柔らかな光が内部に取り込まれます。また、設計の際に大きく影響を受けたとされるブルーノ・タウトによる〈日向邸〉が隣地に建っています。

©︎ Mitsumasa Fujitsuka
ほかのエリアにも泊まりたい!
〈三養荘 プリンスホテルズ&リゾーツ〉村野藤吾、1989年
静岡県伊豆の国市ままの上270
〈泊まれる公園 INN THE PARK〉Open A、2017年
静岡県沼津市足高220-4
〈下田プリンスホテル〉黒川紀章、1973年
静岡県下田市白浜1547-1
〈ホテルジャパン下田〉吉村順三設計事務所、1986年
静岡県下田市吉佐美名古山2131