2026年1月:月間PVランキング 設計者インタビュー - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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月間PVランキング1位から読みとく、いま注目される建築

[インタビュー]藤原・室 建築設計事務所|葉山の家

多くの読者の関心を集める建築には、必ず理由があります。設計の巧みさや空間の魅力はもちろん、いまの時代や住まい手の感覚と、どこかで強く接続しているからこそ、人の目に留まるのではないでしょうか。

「PROJECT」月間PVランキングで上位となった作品を起点に、設計背景や思考のプロセスを設計者自身の言葉から掘り下げるインタビュー企画をスタートします。多く読まれたという事実を1つの手がかりに、建築がどのように構想され、かたちになっていったのかを紐といていきます。

2026年1月の月間PVランキングの1位は、藤原・室 建築設計事務所による〈葉山の家〉。共同代表の藤原慎太郎氏、室喜夫氏にインタビューを行いました。都市住宅でありながらリゾートのような開放感を宿すこの住宅について、設計の背景や空間に込められた意図、そして設計において大切にしている価値観を聞きました。

INDEX

  • 曲面がつくる、暮らしの中心と建築の表情
  • 感覚と論理を往復する設計プロセス
  • 対話から導かれる建築のかたち
  • 25年の実践を、次の世代へひらく
  • なぜ、この建築は読まれたのか

藤原・室 建築設計事務所

藤原慎太郎|Shintaro Fujiwara

1974年 大阪府生まれ。1999年 近畿大学大学院工学研究科 卒業。2002年 藤原・室 建築設計事務所 設立。2020年- 近畿大学建築学部 非常勤講師。

室喜夫|Yoshio Muro

1974年 愛知県名古屋市生まれ。1999年 近畿大学理工学部建築学科 卒業。2002年 藤原・室 建築設計事務所 設立。2020年- 近畿大学建築学部 非常勤講師。

藤原・室 建築設計事務所
https://aplan.jp/

 

葉山の家 / 藤原・室 建築設計事務所

 

曲面がつくる、暮らしの中心と建築の表情

── 改めて、〈葉山の家〉の概要について教えてください。

室喜夫 氏(以下、室):敷地は神奈川県葉山町の、比較的人気の高いエリアです。クライアントは親子2人暮らしで、3匹の犬と一緒に生活されています。サーフィンを趣味とされていて、日常的に屋外との関係性が強いライフスタイルであり、「リゾートで過ごすような開放感」と「愛犬と気兼ねなく過ごせるアウトドア空間」という要望を起点に計画がスタートしています。

中庭は、〈葉山の家〉にとって暮らしの中心となる場所です。一般的な住宅では、玄関から一度室内に入り、そこから中庭へと向かう構成が多いと思いますが、本作では中庭を住宅への入口として据えています。2階へとつながる外階段を設け、中庭そのものを動線の起点としました。

主に眺望の観点からLDKは2階に配置しています。一方で、中庭を外壁でぐるっと囲う計画であることから、1階のほうがプライバシーを確保しやすく、浴室や寝室といったプライベートな機能は1階にまとめています。

中庭。階段の下にはシャワースペースを配置。Photo: 平 桂弥

── 曲面が建築を特徴づけていますよね。

:クライアントは外観に、丸みを帯びた形状をイメージされていました。そのイメージを中庭やリゾート感といった要望と結びつけながら、建物全体へとどのように膨らませていくかが、デザインの軸になっています。

ファサードには余計な要素を付加せず、曲面壁そのものを活かしたノイズの少ない表情としました。この曲面は中庭へと連続し、さらに中庭に面する庇やデッキ、屋内では造作キッチンなどへと展開することで、曲線が空間全体の構成を緩やかに束ねています。

2階LDK。Photo: 平 桂弥

── 「リゾートで過ごすような開放感」という要望に対しては、どのようにアプローチされていますか。

:もともと感覚的な要素ではありますが、あからさまに表現してしまうと、空間体験としてかえって安っぽくなってしまいます。そのため、その匙加減は設計として難しい部分でした。

たとえば、ファサードに用いた白色の左官仕上げの素材感や、中庭を囲むバルコニーのウッドデッキ、庇によって円弧状に切り取られた空の見え方など、特定の要素を強調するのではなく、暮らしのなかでふと立ち上がってくるような体験として空間に落とし込んでいます。その延長として、光の入り方についても入念に検討しました。さまざまな機能的要素とのバランスを見ながら、何度もシミュレーションを重ねています。

感覚と論理を往復する設計プロセス

── そうした空間体験とクライアントのもつイメージは、どのように擦り合わせていきましたか。

:打ち合わせの段階では、図面とあわせてCGパースを用いながらイメージを共有することが多かったですね。ただ、すべてを計画段階で決め切るのではなく、施工段階に入ってからも、現場で確認しながら進めていく部分がありました。

たとえば造作のキッチンカウンターは、図面上で大枠を固めつつ、最終的なかたちは現場で収まりを確認しながら詰めています。仕上げのテクスチャについてもパターンを用意し、実際に見比べながら検討しました。バルコニーや外階段の柵も同様で、犬が落ちないように下部の横材の密度を高くしていますが、これは施工段階で判断したものです。

キッチン。Photo: 平 桂弥

すべての部分でこうした対応をしたわけではありませんが、クライアントがとくにこだわりたいポイントについては、現場でしか得られない感覚も重視しています。図面やCGだけでは把握しきれない、その場所に立ったときの印象を大切にしたいという考えからです。こうした「詰めどころ」は、どのプロジェクトにも必ずあると感じています。

ほかのプロジェクトでも同様ですが、クライアントが最初に抱いているイメージは、必ずしも言葉やかたちとして明確なものではありません。その曖昧さを前提に、機能や形状を与えながら、現実の建築として成立させていくことが重要だと考えています。その際、論理的な思考だけで完結させるのではなく、現場で得られる感覚も、設計の判断材料として欠かせません。

たとえば外壁の曲面壁も、母屋のボリュームとの間にあえてスリットを設けることで、かたちの関係性を調整しました。その理由は明確に言語化できるわけではありませんが、「つなげてしまうと違和感がある」というデザインのバランス感を反映しています。こうした判断が随所にあり、その積み重ねが最終的な空間体験を大きく左右します。

Photo: 平 桂弥

Photo: 平 桂弥

対話から導かれる建築のかたち

── 設計活動で大切にしている価値観はありますか。

:あらかじめ決まったかたちに当てはめないことです。当たり前のことのようですが、設計においては、その敷地や環境に即した合理的な判断が求められます。一方で、環境的には必ずしも合理的とは言えない、クライアントの強い要望が示される場合もあります。どちらも建築にとって重要な要素であり、その両義性が重なり合うことで、結果として、そのプロジェクトでしかなし得ない建築のかたちが立ち上がってくるのだと思います。

藤原慎太郎 氏(以下、藤原):はじめから要望がはっきりしていない場合でも、必ず何かしらのヒントはあります。こちらから何かを提案する際には、複数案を提示するようにしています。要望が少なかったり、まだ曖昧だったりするクライアントでも、選択肢があればその中から「良い」と感じる案を必ず選ばれます。その理由を丁寧に掘り下げていくことが、設計のスタートラインになる場合もあります。

そうした意味でも、対話はとても重要です。〈葉山の家〉では施工現場で判断を下す場面もありましたが、それは決してその場のノリで進めるという意味ではありません。むしろ、図面や模型、CGパース、実空間での体験を共有しながら、互いの感覚や思考をすり合わせていく、セッションのようなプロセスだと考えています。

〈葉山の家〉照明のモックアップを用いて見え方を検討。

〈葉山の家〉施工中の打ち合わせの様子。

25年の実践を、次の世代へひらく

── 今後、取り組みたいことがあれば教えてください。

藤原:昨年の年末から、設計実務者向けのスクール事業を始めています。昔から、学校で教えられている設計と、実務としての設計とのあいだには、どうしてもギャップがあるという声を多く耳にします。とくに、社会に出て実際にクライアントと向き合いながら設計を進める段階で、何から手を付ければよいのか分からないという若手設計者は少なくありません。

こうした課題意識を背景に、実務に即した内容を伝えるスクールを立ち上げました。現場での判断や設計の進め方、設計の方向性、デザイン思考のポイントなど、実践的な内容を体系的に学べる講義やワークショップを用意しています。

スクールの講義風景。

藤原:事務所として25周年を迎えたこともあり、これまで積み重ねてきた経験を少しでも広く共有したいという思いが強くありました。

実際、設計事務所や小さな工務店は、どうしてもクローズドな仕事環境になることが多く、ノウハウやマニュアルづくりまで手が回らないという現実があります。身の回りを見ても、小規模な設計事務所や工務店が減少している印象があり、設計・ものづくりの現場の基盤が弱くなってきているようにも感じています。

一方で、組織的に設計を進める大規模な事務所が力をつけてきているとも感じています。もちろんそれ自体は否定されるものではありませんが、小さな会社だからこそ生まれる建築も確かにあります。そうした設計事務所や工務店の力を引き出し、持続可能な設計環境を共有していきたいという思いが、活動の根底にあります。

── ホームページやSNSだけでなく、noteなどで情報発信もされていますが、その位置づけを教えてください。

藤原:情報発信は、仕事に直結する重要な活動です。私たちはホームページでこれまでの設計実績や作品の考え方を公開しているほか、設計に関わる日々の情報もこまめに更新しています。そうした日々のアウトプットも、設計を巡る思考を伝える1つの方法だと捉えています。

加えて、最近ではnoteでも積極的に発信しています。ちょうどこの2月に、これまでの設計活動で蓄積してきたノウハウを「住宅建築マニュアル」として公開しはじめることにしました。今後さらに更新を重ねながら、内容を充実させていく予定です。これは単なる設計論ではなく、現場で役立つ実務的な情報や、組織運営・マニュアル化に関する内容なども含めて、実際の業務に活かせることを意図したものです。

スクールでの講義やワークショップと同様に、こうした情報発信は設計力や現場感覚を育てるためのプラットフォームとして位置づけています。スクールだけでは届けられない層にも、これまで培ってきた知見や考え方に触れてもらえる機会になれば嬉しいですね。

note 藤原・室 建築設計事務所:https://note.com/fujiwaramuro

なぜ、この建築は読まれたのか

── 月間PVランキングで1位となった理由を、設計者の視点でどのように分析されていますか。

藤原:正直なところ、はっきりとした理由は分かりません。ただ、手仕事感のある曲面のファサードは、目を引く1つの要因だったのかもしれません。今回の計画では、敷地条件としては都市住宅でありながら、要望としてはリゾート感としての余白が求められていました。その両者のバランスを取ることが、設計としてはもっとも難しい部分だったと感じています。

機能的に整理するだけであれば、計画自体は比較的シンプルにまとめることもできます。しかし、機能やプライバシーを確保しながら、どのように余白を成立させるか。その試行錯誤の過程が、結果として外観や空間の「引っかかり」となり、多くの方の目に留まったのかもしれません。

前面道路から見た外観。Photo: 平 桂弥

── 最後に、事務所でお気に入りの場所を教えてください。

藤原:事務所の2階にあるキッチンです。休憩中に飲み物をいれたり、昼休みには有志で昼食をつくったりと、自然と人が集まる憩いの場になっています。

藤原・室 建築設計事務所のキッチン。

(2026年2月19日 オンラインにて)

特記なき図版・画像提供:藤原・室 建築設計事務所
Interview & text: Naomichi Suzuki

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