
藤原徹平氏により2012年に設立されたフジワラテッペイアーキテクツラボ(以下、FUJIWALABO)。手掛けるプロジェクトの幅を広げ、より深く取り組むため、領域を横断して思考する未来の建築家を募集しています。常に対話し、前提を疑うことから始めるというFUJIWALABOの仕事について、同社が手掛けた〈KURKKU FIELDS〉でインタビューしました。
〈KURKKU FIELDS〉
藤原徹平氏(以下、藤原):本日来ていただいている〈KURKKU FIELDS〉は、音楽家・小林武史さんのビジョンで、農業、文化の新しい場をつくり、日本の文化、社会そのものの未来の姿の実験をしていくという複合施設です。30haの農場に新しい消費や食のあり方を「農業」「食」「アート」、3つのコンテンツを軸につくっています。計画当時は事務所のスタッフも10人に満たないころでしたが、メンバーの考えのぶつかり合いとアイデアの出し合いで面白いものができました。
私たちは建築家の事務所なので、サステナブルや農業と食のつながりといったクライアントのビジョンをかたちにしていかなければなりません。そのために、クリエイティブチームには多様な才能や興味、スキルをもった人が集まっていることが重要です。
今は20人のスタッフがいて、建築以外にもランドスケープの専門家やアート、まちづくりのプレイヤーなど、多様な領域の人が集まっています。ここからさらに仕事の幅や可能性を広げていくため、所員を増やしたいと思っているタイミングです。20人の設計事務所と30人の設計事務所とでは、実はできることが大きく異なります。FUJIWALABOも徐々に大きくしたいと考えているところです。
藤原徹平氏
藤原:FUJIWALABOでは主に国内のプロジェクトを手掛けていますが、クライアントのもってくるテーマや課題のバリエーションはとても多いです。都市部では公共空間をどうやって改変していくかという課題がたくさんあるし、郊外では団地をどうしようか、小学校はどうしようといった、誰も答えが出せないし、解決する方法がまだ分からないことが多くあります。
過疎地域では人口減少がとめどなく進み、産業も弱くなっている。持続可能性が深刻な状態になってきているなかで、手をこまねいて何もできないかというとそうではありません。それぞれの自治体でいろんなプレイヤーがいろんな場をつくり、21世紀の日本社会を再生していこうとしています。僕たちも建築やランドスケープを起点として地域の問題を解決したり、可能性を広げられるよう設計活動を行っています。
藤原:僕が隈事務所に在籍中はアリババやネイバー、朝日放送、ルイ・ヴィトンなどの本社ビルの計画、中国の新都市計画、渋谷の再開発公共コンペといった、基本的にゼロイチで新しいものをつくるプロジェクトにたくさん関わらせてもらいました。そのなかで「建築の設計からよりも構想段階からつくったほうが絶対に面白いな」ということは当時から経験していたので、FUJIWALABO設立当初より構想からクライアントと一緒に考えるスタイルでやっています。
〈KURKKU FIELD〉Photo: TEAM TECTURE MAG
藤原:クリエイティビティは与えられたフレームの中だけで考えていると、どうしてもたこつぼ化していまい、同じようなことしか出てこなくなる。設計の前から、プロジェクトの前提自体をクリエイションの一部だと考えていくと、「そんなアプローチがあったのか」という発見につながります。
決まった企画のなかで建物をつくるだけでなく、本当に理想的な状態とはどういう状態なのかということをきちんと提案できる建築家や設計事務所でなければならないですし、所長の僕だけではなく、スタッフ全員がそういう感覚で働いてほしいなとすごく思っています。
藤原:鹿児島県で〈小浜ヴィレッジ〉というプロジェクトが完成したばかりなのですが、地元のハウスメーカーであるクライアントが本社を移動するということだけは決まっていて、よく聞いてみると、要望としては「村みたいな場所をつくりたい」という面白い依頼でした。何をつくるべきか分からないが、大変面白そうだと思い、そこで最初の1年間、ひたすらにリサーチをやったんです。まずは土地の価値、場所の価値を理解しようとしていきました。
〈小浜ヴィレッジ〉Photo: Shigeo Ogawa
藤原:建物が1つだけあっても村にはならないので、〈KURKKU FIELDS〉でご一緒した四井真治さん(パーマカルチャーデザイナー)や三浦 豊さん(森の案内人)、〈京都市立芸術大学〉でリサーチをお願いした本間智希さん(文化的景観学)といったスペシャリストと一緒に敷地の外も含めて集落全体を歩きました。歩くことで、都市計画というか集落のあり方をみんなで考えてプログラムをつくり、それを敷地にぎゅうぎゅうに詰めていきました。とても面白いプロジェクトのつくり方だったと思っています。
〈小浜ヴィレッジ〉
藤原:FUJIWALABOが行うリサーチでは、自分の「こうだな」と思うことに没頭して自分に集中するスタッフもいるし、いろいろな方法論の元で協力してリサーチもします。スタッフそれぞれがもっている軸足や専門性がいろいろあると面白い。いわゆる求人情報にある「こういう職能の人が欲しい」「前職で何々を経験した人を募集」と限定するのはFUJIWALABOの今のフェーズには合っていないと感じるんです。いろんなタイプの人がいてほしいと思っているので、建築、ランドスケープ、まちづくりを区別なく考えたい。
そしてFUJIWALABOでは多くのディスカッションもします。ディスカッションは事務所内だけでなくて、社外の人たちともセッションします。〈KURKKU FIELDS〉を一緒に手掛けた四井さんとは、その後もいろんなプロジェクトで関わっていますが、四井さんとうちのスタッフの会話からクリエイティブが生まれたりするんです。所長の僕を通して社会に接するんじゃなくて、スペシャリストと事務所スタッフとの信頼関係が構築されることでクリエイティブな対話が起きているというのが、ここ数年の手ごたえとしてすごくあります。
隈事務所でも同様の経験をしていたのですが、プロジェクトのチーフが隈さんともセッションするし、そのチーフが社会ともセッションする感覚。そういう核になる人材や体制がFUJIWALABOにもできつつあって、事務所内で学びの連鎖が起きています。
藤原:〈KURKKU FIELDS〉を手掛けたときは小林(武史)さんも僕たちも本当に手探りでしたが、面白いもので1回できてみると次に考えるときの基準になります。そのとき進行中のプロジェクトで言われている抽象的な哲学をかたちにするとどうなるのかというのを、ここに来るとすごく自分の頭が勝手に考えるんです。「あのときはこう言われたものが、こういうかたちになったんだよな」ということが別のプロジェクトで手掛かりになるので、実は〈KURKKU FIELDS〉にもいろんな人を連れて年間10回くらい来ているんです(笑)。
建築的思考は「モノ」の世界、実在の世界に落とし込む特徴があります。僕らはどんな話をしていても、柱が何でできているのか、屋根がどうなっているのかといった、最終的にモノの世界にしていく責任のなかでしゃべっているんです。それが建築家的な面白さなのですが、建築以外のいろんな専門性をもっている人でも、最終的にどんなモノ、どんな場所にするかを決める具体性を理解できる人と仕事をしたいと思っています。
藤原:〈KURKKU FIELDS〉ができたあとに、このような新しい場所をつくりたいというお仕事の話を多くいただくようになりましたが、スタッフからすると大変です。大きなサイト全体を新しい場にして、ちゃんとかたちになるまでは難題だらけなんですけど、できたあがったものは本当に特別な場所になるし、こういう実験的なプロジェクトが現実化することでそれ自体が人間の思考モデルになったり、思考のプロセスがその後の自分へのヒントになったりするのが面白いなって思います。
あるときは農業建築をやり、急に地域芸術祭的なものをやらなきゃならなくなることもある。森そのものを建築として考えるというような、難しくユニークなプロジェクトもうちではよくあります。新しくFUJIWALABOに入っていただく方には、あらかじめプログラムがないものをつくったり、その要求されるものがハチャメチャだということも面白がれる、そういうフロンティアスピリッツに期待したいですね。
久米雄志氏(左)、野寺理恵氏(右)
久米雄志氏(設計スタッフ / 以下、久米):私は入って4年目なのですが、民間のプロジェクトを多く担当しています。今は街への影響や人の暮らしに関心があり、公共建築を手掛けてみたいと思っているので、もちろん通常業務と並行してですがコンペを出し続けています。日ごろ担当している民間のプロジェクトでも公共性を求められることが多くなっていると感じますね。すべて思考としては連続していますし、どんどんやっていきたいなと思っています。
藤原:設計者において、駅前や街のど真ん中のプロジェクトをコンペに勝って手掛けるっていうのは晴れ舞台ですよね。しかし実際は大変で、やりたいという仲間を増やさないと絶対コンペは勝てないというのが僕の隈事務所のときの経験です。それにどうにか勝ったって1人じゃ大変なことになりますよね(笑)。
コンペも依頼されたプロジェクトも、やれるチームをつくることが重要なんです。コンペは勝つことが先だと思われがちですが、僕はそうじゃないと思います。社会的責任が負えるチームビルディングができれば、おのずとプロジェクトは動いていくし、コンペも勝てる、と思っています。
野寺理恵氏(設計スタッフ):コンペに限らず、FUJIWALABOは基本的にどんな小さい案件でもチームで動いています。だいたいの方向性は同じだけど、いろんな考えをもった人と思考を共有しながら設計していくことはこれからの建築にとても必要なことなのかなと。以前は大学で助手をしたり、スイスの設計事務所で働いていましたが、そういう仕事の仕方をしているFUJIWALABOに参画したいなと思って転職しました。
〈KURKKU FIELDS〉Photo: Yurika Kono
藤原:2023年に竣工した〈京都市立芸術大学〉は、o+hの大西麻貴さんから声をかけていただき、乾久美子さんにリーダーになってもらい戦略を組みながら、最終的には乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計という共同体で設計を行いました。公共建築をやるときは頭数が多いほうがよいときもありますが、5つもの事務所がバラバラにやったらうまくいきません。
そこで、JV事務所にスタッフを出向させ、1つの事務所として4年間運営する「アンダーワンルーフ」と呼んでいる手法で進めました。プロジェクトの前のチーム編成そのものがクリエイティビティの始まりなんです。
〈京都市立芸術大学〉Photo: ToLoLo studio
藤原:成功も失敗も含めてチーム編成については隈事務所で何度も経験しましたが、やはり一緒の空間にいないとバラバラになってしまいます。じゃあJVじゃなくて最初から1つの事務所でやればいいかというと、ほかの仕事も忙しいのでどうしても効率よくやろうとしてしまう。そうならないように外部の人を巻き込んで、広がりと深さの両方をもたせないといい建築にならないと思っています。
久米:事務所内の対話はもちろんですが、建築の仕事はクライアントとも関係業者や施工会社とも常に対話が必要になります。対話ができる人だと仕事は面白いと思います。藤原とも議論しますし、ほかの専門家、外部の専門家ともスタッフベースで議論したりするので。
藤原:冒頭にも話しましたが、答えのない問題や建築だけでは解けない問題があるということについて、日頃葛藤を抱えている人はFUJIWALABOでやりがいが見つけられるのではないでしょうか。
数学もそのままだと解けないのに、かっこでくくるといきなり解けたりするように「フレーミングを変えたら解ける」ということは建築にもたくさんあります。それが視点を変えるとか前提を疑うとか、違うフレーミングをかけるための発想の転換みたいなものです。建築はどうしても箱になってしまうのですが、最終的に「きれいなだけの箱」ではなく、転換して、その後も深めていくとすごく面白い場所になります。
僕にとっては建築をつくることを通じてそこに文学が生まれたり、産業が生まれたり、そこから人が育っていくということがすごく大事なんです。建築を通じて未来の人が育つ。そういう場所をつくりたいと強く思います。
藤原:よくアトリエ事務所はちょっと修行して独立するところみたいに思われがちなんですけど、隈事務所の経験からするとそれは違うなと思っています。
会社というのは公共財だから、みんなで会社を大きくしていって社会的役割を広げていったほうが、給与にしても自由にしても、みんなが得られるベネフィットが大きくなるんですよ。僕も隈事務所が大きくなることで知り合える人の幅も広がったし、やれるプロジェクトの場所も広がっていきました。
事務所を少しずつ大きくするために、個々のリサーチ、CADや図面のセットアップ、素材やランドスケープなど、どんな専門性でもいいんです。何かの専門性に依拠しながら、未来に僕ら建築家がつくれるものの領域を拡張するような集団でいたいですね。僕自身も会社もそれぞれ成長して広がっていくような意識で事務所運営をしていきたいと思っています。
〈小浜ヴィレッジ〉Photo: Shigeo Ogawa
藤原:大学や大学院で学んだことだけでは実務には足りないので、FUJIWALABOでも最初は修行というフェーズはあります。それでも早い人だと1年以内くらいに修行段階は抜けていって、セッションのフェーズに入っていきます。セッションのフェーズはもう探求、研究、表現の領域です。
ただ依頼された建物を建てるだけならそれでもいいのですが、FUJIWALABOのスタイルでは学び続けないと新しいものは生み出せなくなります。建築家的なものを目指すとするならば探求とそれに対する実験は必須だと考えます。FUJIWALABOのマネージャークラスはそれぞれ建築分野の研究テーマをもっていて、論文を書くくらいの勢いで研究していますし、実際に論文を書くことは将来の選択肢を増やすことにもつながりますから、もう少しで建築家的な自意識が出てくると思います。
アトリエ事務所を経て独立することがいいことか、インハウスでパートナー的なアーキテクトになることが悪いことなのかというと、正直分かりません。分かっていることは、独立したばかりの事務所は小さく、資本力もパワーも弱いので社会を変えるのは難しいということです。「独立したい」という気持ちは大事なのですが、実際に独立するかどうかは重要ではなくて「価値のあるものをつくれるチームであるかどうか」が重要なのだと思います。
〈小浜ヴィレッジ〉Photo: Shigeo Ogawa
藤原:1人事務所ではなく、集団であることはデザイン面でも経営面でもメリットが多くあります。今、FUJIWALABOは5人のマネージャーがいて、僕たち夫婦と合わせて7人が経営陣となっています。みんなで売り上げをにらんで、どうやったらみんなの給料が上がるかという点も当然議論します。そういったむしろ経営や社会のなかでの建築家の在りようをみんなで考える経験をしたほうが、結果的にいずれ独立にもつながるし、独立してもやっていける人材になれるのかなと思っています。
「なんだか今の状況は違うんじゃないか」と思いながら仕事をしている設計者は結構いるのではないかと感じています。自分はこんなに図面を描けるのに納得のいかないプロジェクトしか回ってこない、もっとランドスケープをやりたいのに狭い外構ばかり…など、プライドをもっているからこそ感じることもあると思います。そういう人に応募してもらって、FUJIWALABOがまだできていないことをやって、一緒に会社を大きくできたら嬉しいですね。
インタビュー:4月14日 KURKKU FIELDS(千葉県木更津市)にて
トップ画像〈KURKKU FIELDS〉Photo: Yurika Kono
Photo: Shun Fukuda(人物)
募集職種 | 領域を横断して思考する未来の建築家
建築、ランドスケープを中心に、産業、福祉、教育、文化、暮らしなど、さまざまな領域を横断し、場所の未来をひらいていける建築家を募集します。 |
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業務内容 | ■基本構想業務 土地、環境、産業、文化的景観などを多角的にリサーチし、場所の価値を高めていくプロジェクトの基本構想を計画します。領域を横断する対話能力、編集能力、これからの社会的景観を探る熱意を期待します。
■設計監理業務 建築、ランドスケープ、インテリアなどの設計監理業務を行います。住宅規模から公共建築まで、庭から森まるごとまで、大小さまざまな規模とビジョンのプロジェクトに関わっていただきます。専門家としての秩序やディテールへのこだわり、構想と応答した新しい形や美しさを探求したい人を期待します。
■ワークショップや自主施工などの「場所づくり」の企画運営業務 リサーチワークショップや庭の自主施工など、さまざまな人々と協働して、「場所」づくりから、建築の活動を創造していきます。ものと活動を横断できる、能動性をもつ人を期待します。 |
応募資格 | 【必須】 大学院、大学などで建築、ランドスケープ、都市計画、コミュニティデザインなどを学んだ方
【歓迎】 建築士、技術士などの国家資格がある方 設計監理業務における3年以上の実務経験がある方 公共建築の実務経験がある方 |
待遇 | 【給与】(経歴、保有資格などにより決定します) ■新卒・未経験者:月額22.5万円~ ■経験者(3年以上):月額27万円~ ※ 建築士資格手当、奨学金返済補助手当あり ※ 年1回の昇給あり
【賞与】年0~1回 ※会社業績による
【保険】社会保険完備
【休日】土日、夏季休暇(3日間)、年末年始休暇(5日間)、有給休暇、慶弔休暇
【その他】資格取得支援制度あり / 試用期間(3カ月程度)を設ける場合があります |
応募方法 | ■書類選考 履歴書、職務経歴書、ポートフォリオにより書類選考を行います。書類選考後、10日以内に審査結果をメールにてご連絡いたします。
■設計試験、面接選考 簡単な設計試験と面接選考(対面)を経て、採用の是非を判断いたします。 |
勤務地 | 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-6-14 第2神宮前ビルディング503 |
会社情報 | 社名:株式会社フジワラテッペイアーキテクツラボ 採用担当者:本田真衣
E-Mail:info@fujiwalabo.com 電話番号:0368045615
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