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タイムレスな空間に合う黒とは!? 建築家・黒崎 敏が考える「黒の作法」

住宅用火災警報器まで揃った「BLACK DESIGN SERIES」レビュー

PRODUCT2023.12.21

インテリアデザインに必須となる住宅機器を「黒」で統一した、パナソニックの新たなコレクション「BLACK DESIGN SERIES」。スイッチやコンセント、照明器具やシーリングファン、さらに住宅用火災警報器まで黒で統一したことで、洗練された空間づくりが可能となっています。

特に今回、住宅用火災警報器の親器・熱式子器のBLACK色が新たに発売になったことで、すべての空間に対して黒の住宅用火災警報器が使用できるように。機能面では、ワイヤレス連動型は無線で連携し、火災検知時にすべての警報器が同時に鳴って火災を早期に知らせ、また火元の場所を明確に伝達。火災警報時にはあかりが部屋を照らし、夜間の避難をサポートする機能も備わります。

住宅用火災警報器を含めた「BLACK DESIGN SERIES」が秘める可能性、さらには黒という色の扱い方について、ハイエンドレジデンスを数多く手がける建築家・黒崎 敏氏に語っていただきました。

黒崎 敏 | Satoshi Kurosaki

建築家 / APOLLO Architects & Associates 代表取締役

1970年石川県生まれ。明治大学理工学部建築学科卒。大手メーカーの商品開発、設計事務所主任技師のキャリアを経て、2000年にAPOLLOを設立。邸宅、ヴィラ、リゾートホテル、ペントハウスの設計のほか、企業の商品開発やブランドデザインにかかわる。世界的デザイン賞である「Wallpaper Design Award」 で「Best New Private House」を受賞するほか、「Archiproducts Design Awards」では6年連続日本人審査員を務めるなど、海外でも高い評価を得ている。主な著書に『新しい住宅デザインの教科書』(エクスナレッジ)など。

黒は引き締める効果が高い色

—— インテリアにおいて「黒」は重要な色といわれます。黒崎さんが主宰する設計事務所APOLLOでは、これまで黒をどのようにデザインに取り入れてこられたのですか?

黒崎 1つのプロジェクトで用いる内装において、素材点数を非常に制限しているのが私たちの事務所の特徴です。最近はハイエンドでアッパークラスの大規模なレジデンスを手掛けることが増えてきたのですが、小規模なレジデンスのデザインをしていたころから、空間そのものをミニマムかつシンプルなかたちで見せたいという考えがあり、マテリアルやカラーをできるかぎり絞りながら表現することを心がけてきました。


〈ORTHO〉設計:APOLLO Photo: Masao Nishikawa

ORTHO

黒は、一般的に収縮色としてモノをタイトに見せる特性があります。そのため、枠や取手、プレート類のような小さな部分、あるいはスリットや目地といった部分で意識して使っていました。ベースカラーやメインカラーに対して、それを引き締めるカラーリングとして黒を使うことを、特に初めのうちはよくやっていたように思いますね。インテリアでいうと、空間全体の70%ほどがベースカラーとして、20〜25%が木などの色、そして残りの5~10%をアクセントの黒とする認識でしょうか。

空間の中での扱いが最も難しい黒

黒崎 ただ、APPOLOでは、黒の中でも「黒っぽいグレー」を採用することが多いですね。そのグレーでも無彩色はほとんど使わず、ブラウンが入ったブラウングレーを使っています。太陽光が当たったときの見え方を考えてのことなのですが、黒がマニッシュな雰囲気や重厚さ、自己主張的な部分を表現する色だとすれば、もう少し洗練された空間表現や少しフェミニンな雰囲気を持たせたいことから、黒に近いブラウングレーを用いることが多くなりました。力強さから上品さの表現へと移行する中で、徐々にブラウングレーを重宝するようになったという経緯です。

そもそも、黒とひと口にいってもたくさんの種類があります。テクスチャーやフィニッシュも入れるなら、無限のバリエーションがあるといえるでしょう。それらの中からその空間に最適な「黒」を選ぶという意味において、私たちは黒の一歩手前であったり、ときには黒の向こう側のようなものも探していかなければなりません。

パナソニックの住宅用火災警報器

また黒はハイコントラストを生み出しやすい色でもあって、黒は、実は扱いが最も難しい色だといってもいいと思います。パナソニックの「BLACK DESIGN SERIES」は、その難しい黒をあえて使ったプロダクトであり、すごいチャレンジだなというのが私の第一印象です。

とはいえ、例えばシリーズに新たに加えられた「住宅用火災警報器」にも感じることですが、既存の白やベージュのプロダクトに対して、どうすればうまく空間の中で調和するだろうかと考えられています。そうした思想は、とても優しくていいなと思います。APOLLOでは、すでにいくつかのプロジェクトでパナソニックの黒の住宅用火災警報器を採用しています。

黒を「影」として存在感をなくす方法

—— 黒色の製品は、空間の中でどのように納めていますか?

黒崎 APOLLOでは、同一の平面上で異なるマテリアルを隣り合わせるとか、切り替えるといったことをほとんどしていません。また、黒は人工的な色で異物感が出ることから、どのように建築空間に入れるかについては、いつも苦労しています。

黒は空間の中に点在する場合、きちんとデザインしないと大きなノイズになる可能性もあります。そうしたノイズを生みたくないので、あえて黒を連続させた装置を考え、その中に埋め込んでいくことも多いです。

例えば、今いるAPOLLOのオフィスでは天井の一部をボーダー状にくり抜き、内部に照明器具を設置しています。木の天井面を彫り込んで黒いボックスを埋め込み、光を反射させない「影」の存在とすることで、奥行き感を感じさせないような工夫をしています。彫り込んだ部分のエッジも板材にテーパーを取って、木の厚みを見せないようにすることで、木のマテリアルと黒の取り合いをつくりつつ、奥行きのディテールは消しています。

金属製のボックスを天井面に彫り込んだように設置し、黒い照明器具などをまとめる

—— 住宅用火災警報器が取り付けられる天井では、木を使う事例もAPOLLOでは多いようですね。


〈COVER〉設計:APOLLO Photo: Masao Nishikawa

COVER

黒崎 そうですね。最近では石や革、ガラスを使用した、大きなサイズのイタリアの家具を使うことが多いのですが、木のフローリングとは調和しないこともあります。それで石やタイルといった硬質なものを床に用いることが増えたのですが、そうすると全体を俯瞰した時に、天井が最も目に入ってくる空間だと再認識したんです。そのぶん、何かを付けるとノイズとして目立ちやすい部位でもあります。

それで、天井にある要素は極力集約させようといつも考えています。その時、黒という色は、僕にはすごくハマる色なんです。つまり、黒を「色」として見せようとするのではなく、目地のように見せて「影」として見せたい。

例えば料理でも、イカスミのような黒色の食材は扱いが難しいですよね。素材がいかに上質であっても、それをどう調理するのかという「調理法」つまり「設計」と、それを盛り付ける「器」つまり「空間」の美しさが必要です。調理法から器までをトータルで考えることで、素材の味を最も生かした本物の料理になるのです。

何が言いたいのかというと、プロダクトが黒になったからデザイン上の問題が解決するわけではないということです。「黒」という素材をどのような空間で、どのような使い方をすることを想定しているのか。そうしたトータルな提案をパナソニックのようなサプライサイドから、我々のようなディマンドサイドに与えてもらえるのだとすれば、それはすごく興味深いし、そこからさらにいろいろな使い方が生まれていくのではないかと思います。

タイムレスな空間に合う黒とは

—— APOLLOではハイクラスなレジデンスデザインを多く手掛けていますが、近年の傾向に変化はありますか?

黒崎 現代のハイクラスレジデンスの空間デザインは、個人の趣味嗜好よりもパブリックな空間づくりに移行していると感じます。家族だけでなく、会社の仲間が来て食事や趣味をしながら過ごしたり、友達やゲストを招いてパーティーも楽しめる、包容力のある空間をつくる必要が出てきたのです。つまり「プライベートレジデンス」から「パブリックレジデンス」へと移行していると思います。

そのとき、私たちが当初から目指してきたミニマムかつシンプルな空間デザインというのは、多様な人々の生活背景を受け入れるという点で、より親和性が高いと感じています。

私は「古くならないものが唯一新しいもの」と考えています。ミニマルな空間は時に流されず、時間が経っても古びない空間であって、タイムレスな空間を目指していきたいと思います。

空間の色の要素として黒をどのように取り入れるかは、もっと考えていかなければなりません。黒は必ずしも「高級感」を与えるだけでなく、ともすればカジュアルな雰囲気にもなるためです。部材としてではなく、それを活かした空間を徹底的に検証したうえで、「究極の黒」を考えることも必要でしょう。

今回見せていただいた黒の住宅用火災警報器は、単独のプロダクトということではなく、本来は「空間商品」なのだと思いますし、すごく評価できる試みだと感じます。個人としては、パナソニックは個々のプロダクトだけではなく、美しい器としての空間装置をつくるインフラブランドとなっていくべきではないかと感じますね。そのとき、建築家も一緒になって開発ができれば、これまでにない面白いものができるのではないかと思います。

(2023.11.17 APOLLO オフィスにて)

 

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