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永山祐子が語る〈松坂屋名古屋店〉リニューアルで果たす床の役割

[Interview]「スリムウッドシリーズ シンシア」採用のプロセス

PRODUCT2025.03.31

2024年、大規模リニューアルにより生まれ変わった〈松坂屋名古屋店〉。

共用空間全体の設計・デザインを手掛けた永山祐子氏(永山祐子建築設計)によると、エスカレーターを囲む楕円形の共用スペースがリニューアルで重要な役割を果たしているといいます。

機能性を確保しつつエレガントで落ち着きがある空間は、どのように検討し実現したのでしょうか。

永山氏に、計画の背景や設計のプロセス、そして床に用いた薄型フローリング「スリムウッドシリーズ シンシア」採用の狙いについて聞きました。

(トップおよび特記なき写真:toha)

永山祐子 | Yuko Nagayama

永山祐子氏 近影

1975年 東京生まれ。青木淳建築計画事務所を経て、2002年 永山祐子建築設計設立。主な仕事に〈豊島横尾館〉〈ドバイ国際博覧会日本館〉〈東急歌舞伎町タワー〉など。JIA新人賞(2014年)、山梨県建築文化賞、東京建築賞優秀賞(2018年)、照明デザイン賞最優秀賞(2021年)、WAF Highly Commended、IFデザイン賞(2022年)など。現在、2025年大阪・関西万博で2つのパビリオン、パナソニック『ノモの国』とウーマンズパビリオン、TOKYO TORCH Torch Towerなどが進行中。

永山祐子建築設計ウェブサイト
http://www.yukonagayama.co.jp/

INDEX

・老舗百貨店で共用部に特別な役割をもたせる
・床を天然木のフローリングにして精度を高めたい
・色味と張り方の調整で空間の体験の質を変える
・来店者数の増加につながったリニューアル

老舗百貨店で共用部に特別な役割をもたせる

── 今回のリニューアルの概要から教えてください。

永山祐子(以下、永山):名古屋で創業した松坂屋は400年ほどの歴史があり、〈松坂屋名古屋店〉本館は1925年に建設され現在に至るまで増築を重ねながら使い続けられてきました。100年という大きな節目に合わせた全館リニューアルの計画で、デザインパートナーとしてお声がけをいただきました。

リニューアルに先駆けて、私たちは松坂屋の会員制ラウンジを設計していました。その際にコンセプトから一緒に構築したいという要望があっため、松坂屋の歴史をリサーチしながら特徴を捉え、これからの百貨店の役割について考えていったのですね。松坂屋は、戦前と戦後を通じて暮らしを中心に文化を伝えるマインドがあります。さまざまな文化であふれる現代では、自分たちの足元の文化の良さを東海地方である多治見のタイルなどで取り入れた空間をつくりました。本館のリニューアルでも、長い歴史を踏まえて松坂屋らしさを掘り下げた空間にできないだろうかと考えました。

永山祐子氏

本館のフロアはとても広く、上下階をつなぐエスカレーターがいくつもあり、以前は迷子になってしまうような印象を受けました。来店者にとっては、自分の位置がわかることがすごく大事です。それで、エスカレーターそれぞれに「真鍮」と「銅」のキャラクターを与えて、大きくエリア分けをしました。

 

本館の断面ダイヤグラム。縦動線となるエスカレーターまわりの一方を「真鍮」、もう一方を「銅」のテーマとした(提供:永山祐子建築設計)

店舗の区画をつなぐ通路では仕上げや照度を控えめにした一方で、エスカレーターの間にある百貨店が企画する特徴的な売り場は少し華やかな場所として、同じフロアや異なるフロアを移動する人の回遊を促すことを考えました。

床を天然木のフローリングにして精度を高めたい

── エスカレーターまわりの仕上げは、どのように決定されましたか?

永山:3階のエスカレーターまわりの柱や壁には、真鍮と銅の板を張りました。1段下げた天井面には、真鍮と銅の箔シートを張っています。そして、天井と対応した部分の床はフローリングとし、それぞれの金属の色に合う色味にしたうえで、ヘリンボーン張りとしています。

3階の共用部。久屋大通側エスカレーター周辺は「真鍮」のテーマをもとに仕上げられた(Photo: OMOTE Nobutada)

3階共用部の大津通側のエスカレーター周辺は「銅」のテーマ。床はヘリンボーン張りのフローリング(Photo: OMOTE Nobutada)

最上階の8階ではエスカレーターの付近に設けたカフェのスペースの柱や壁を暖かみのある色とし、床は3階と同じようにフローリングのヘリンボーン張りにしました。緑やアートが配されたカフェからは、フロア中央のオープンギャラリーの様子が垣間見えます。

8階のカフェ。壁画やグリーンも配された。右手奥にはオープンギャラリーが続く。”Group Show CADAN “Contemporary Manners” 展示風景(2024)(photo: OMOTE Nobutada)

── 百貨店での床材選びでは、どのようなことを考えられましたか?

永山;百貨店などの施設リニューアルでは、どうしても階高が限られています。また既存駆体の床面の不陸が大きかったりするので、厚みのある床材は使えないことがほとんどです。そして大勢の人がピンヒールを含めてさまざまな靴で歩くので、耐傷性や耐久性、メンテナンス性を含めて施設側と協議していくと、ほとんどの場合で塩ビシートになるのですね。

 

でも木のきめ細やかな質感や表情という点で、本物の木とシートではケタ違いの情報量の差があると思います。私が設計するときにマテリアルを大事にしているのは、精度を高めたいからです。本物の木で仕上げることで空間全体の質感が変わってくると施設側にも説明して理解いただき、ボードの「スリムウッドシリーズ シンシア」を採用するに至りました。ボードの製品は百貨店で納入された実績が多く、施設側には耐久性という点でも信頼をいただくことができています。

 

私たちは以前〈西武渋谷店〉のリニューアルで「スリムウッドシリーズ シンシア」を販売フロアや渡り廊下の床に使ったことがあります。そのときに決め手となったのも、材の薄さです。そして色味に変化をもたせたり、パーケットのような複雑なパターンで張ったりと、ボードの担当者には柔軟に対応いただきました。それまでは本物の木やパーケット張りの床などは諦めがちだったのですが、〈西武渋谷店〉で実現し効果が大きかったので、以降のプロジェクトでの検討は天然木フローリングを含めてバリエーションが増えました。

色味と張り方の調整で空間の体験の質を変える

── 〈松坂屋名古屋店〉でのフローリング材の色味や張り方は、どのように検討されましたか?

永山:エスカレーターごとに施されている「真鍮」と「銅」の素材の色に合わせてもらいました。金属と木なので色はまったく同じではないのですが、真鍮であれば黄色味があり、銅は赤味がある色相にフローリングを寄せるようなイメージです。ボードの担当者に「シンシア」の色味を調整したサンプルを制作してもらい、それらを見ながら何度かやり取りしました。

3階の「真鍮」をテーマとしたVMDエリア(Photo: OMOTE Nobutada)

4階の「銅」をテーマとしたVMDエリア(Photo: OMOTE Nobutada)

日本ではインテリアも外部でも、グレーの色調が多いですよね。私たちの事務所では最近、色を使うようになってバリエーションが一気に増えていますが、いかにも色を使ったとは見えない自然さを求めています。素材自体がもつ色を、きちんと扱っていきたいのですね。それで、異なる素材を組み合わせるときの色合わせにはすごく気を使っています。〈松坂屋名古屋店〉のときも、隣り合う素材のサンプルを横に置きながら色を決めていきました。

真鍮や銅などのサンプルを隣り合わせてフローリングの色味などを検討した

また、床はシーンを切り替える重要な役割をもっています。照度は一定でも、床の色味によって照り返しが変わるので、白っぽい床を張ったエリアに行けば明るく感じますし、濃い色の床を張ったところに行けば少し暗く感じます。例えば、百貨店の共通売り場では視界を遮る壁を立ててはいけないというセオリーがあるのですが、エリアの雰囲気を変えるために床の色を変えることがあります。そうすると、来店者はエリアが変わった瞬間に何かが違うと感じ、気持ちが切り替わるのです。

3階の「銅」をテーマとしたエスカレーターまわり(Photo: OMOTE Nobutada)

〈松坂屋名古屋店〉で「シンシア」をヘリンボーン張りにしたのは、華やかになることを期待したためです。やはり施設全体やフロアの中でランドマークになるエリアであり、高級感を持たせたいと思いました。そしてやはり、パターン張りをするときにも、天然の木の表情と質感が出ることが大事です。ヘリンボーンのように板の角度を変えながら張ると木目の向きが変わりますから、もとの素材の色味に加えて、光の当たり方や見る角度によって色が変わって見えます。

来店者数の増加につながったリニューアル

── リニューアルオープンしてからの反応はいかがでしょう?

永山:2024年の11月に本館3階と4階、北館地下1階、12月に本館8階と順次リニューアルオープンして、来店者数が増えていると聞いています。若い層の方々も増えましたし、年齢層の高い方々も変わらずに来店されているということで、施設側からは当初こうなったらいいと想定した効果が得られていると喜んでいただいています。私たちとしても、共用部を中心として全館で人の流れが変わったことを実感しています。

 

〈松坂屋名古屋店〉のプロジェクトでは、「シンシア」が特にリニューアルに向いていることを改めて実感しました。予算が限られている場合でもメリハリを付けながら本物の木を使うことで、質感の高い空間をつくり、訪れる人に特別な体験をもたらしたいと考えています。

(2025.3.7 永山祐子建築設計にて)

Photo: toha(特記をのぞく)
Interveiw & text: Jun Kato

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