
LIXILの窓・ドアブランド TOSTEMのフラグシップモデルで、2023年に登場した次世代玄関ドア「XE(エックスイー)」。業界初となる錠やラッチ、電気錠などのデバイスを機能ユニット(子扉)に納めるドアロック機構を採用し、ハンドルの意匠や自由度を高めたシンプルで美しいデザインを実現しています。
そして、XEのもつ「先進機能」「素材美」「造形美」の3つの基本価値を向上させた2025年モデルが4月に登場しました。
SUPPOSE DESIGN OFFICEを主宰する谷尻 誠氏と吉田 愛氏には昨年、「XE」を実際に見てレビューしてもらいましたが、今回の大幅なバージョンアップをどう見るのでしょうか。
「XE」が期間限定で展示された会場で、アップデートされた「XE」の感想や進化したポイント、そしてエントランス空間デザインのこれからを語っていただきました。
谷尻 誠・吉田 愛 / SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)
SUPPOSE DESIGN OFFICE / 谷尻 誠(左)、吉田 愛
谷尻 誠
建築家・起業家 / SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
1974年 広島生まれ。2000年建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、近年「絶景不動産」「tecture」「DAICHI」「yado」「Mietell」をはじめとする多分野で開業、事業と設計をブリッジさせて活動している。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど事業の幅を広げている。
主な著書に『美しいノイズ』(主婦の友社)、『谷尻誠の建築的思考法』(日経アーキテクチュア)、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』(エクスナレッジ)、『1000%の建築~僕は勘違いしながら生きてきた』(エクスナレッジ)、『談談妄想』(ハースト婦人画報社)。
作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)吉田 愛
建築家 / SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
1974年広島生まれ。SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外で多数のプロジェクトを手がける。JCDデザインアワードなど多数受賞。主な作品に〈NOT A HOTEL NASU〉〈ONOMICHI U2〉〈千駄ヶ谷駅前公衆トイレ〉など。近年では絶景不動産や社食堂などの新規事業のプロデュース・経営総括を担う。2021年、新たに空間プロデュースやインテリアスタイリングを事業の核とする「etc inc.」を設立。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートすると同時に「yacone」というアイスクリーム事業もスタートするなど事業の幅を広げている。建築を軸に分野を横断しながら活動。
作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)、20周年記念のノンフィクションブック『美しいノイズ』(主婦の友社)がある。SUPPOSE DESIGN OFFICE Website
https://suppose.jp/
Contents
■ ホスピタリティを感じる顔認証システムと自動開閉
■ 鍵を持ち歩くストレスから放たれて暮らしを自由に
■ 表面材のバリエーションが増えてより使いやすく
■ 触感の良さとシャープさを両立したハンドル
■「XE」で変わるエントランス空間インタビュー動画はページ末尾に掲載
── アップデートされた「XE」について、全体的な印象はいかがですか?
吉田:すっきりとしてシャープな印象で、とてもいいと思います。ドアの高さが2730mmまであると、やはり高級感がありますね。また、ドア単体というよりは面でデザインされている感じが構成的に美しく、デザインされた住宅にすごく合いそうだなと思いました。
谷尻:取っ手がないのも綺麗だよね。シャープに見える。
吉田:取っ手がまったくないというのは、最も美しい形ですからね。普通は取っ手がありますし、私たちはLアングルなどで取っ手を必死につくってきました。取っ手とは見えないようなディテールを考えて。
── 取っ手をなくすことを実現する、顔認証システムと自動開閉についてはどうでしょう?
吉田:ホスピタリティを感じますね。荷物が多いときや子供を抱えているときなど、手を使わずに開閉できますから。日常での使い心地としては、けっこう大きいと思います。会社帰りに荷物を腕にかけて持っているような状況もありますよね。鍵がカバンの奥から出てこないと、「どこ?」とイライラして(笑)。そうしたことが顔認証システムと自動開閉でなくなるのは、嬉しいです。
顔認証システム+自動開閉でスムーズな施解錠操作を実現する
谷尻:ドアの開き方は以前よりもスムーズになって、ストレスを感じませんでした。さっき、顔認証はどの範囲まで感知されるのだろうかとドアの前でいろいろ動いてみたんですが、けっこう離れていても顔を捉えられて(笑)。すごい性能だなと思いました。
あらかじめ登録した人が玄関ドアに近づくと、カメラが顔を感知して自動的に開く
── 鍵を必要としない点を評価されているということですね。
吉田:住宅の玄関に対して、どういう錠前がベストなのかは、いつも迷うところです。
谷尻:以前は錠の開けにくさを重視して選んでいたけど、今は必要とされる機能がさまざまだからね。
吉田:今は玄関ドアに求められるのはサムターンやシリンダーの機能というよりは、「多人数が使える」とか、「持ち主プラス他の人も使える」というように、使い方に関わる要望が増えてきています。そうしたシチュエーションに合わせた錠前をチョイスしないといけないので、選択肢が増えるのはいいなと思います。
谷尻:テクノロジーが進むと、物質は減っていくと思うんです。そうなるとデザインは、シンプルで洗練されたものになっていく。
吉田:そうね。多拠点の生活はしやすくなるでしょうね。私、鍵をたくさん持っているんですよ。広島、鎌倉、東京に家があって、その他にも関連する会社があって、それぞれに鍵がありますから。遠方の家にたまに帰ったら、普段は重くて外していたので入れない、なんてこともありました。鍵を持ち歩かなくてよくなるというのは、すごく大きな進化だと思いますね。別荘を持っている方も多いですし、どこでも働くことができる時代なので、鍵のストレスから解放されるということは、暮らしを自由にしていくことにもつながるはずです。
谷尻:個人の別荘を他者が使うことはシェアリングの観点からも増えていくので、顔認証で登録できる機能があると喜ばれるだろうね。
「XE」の表面材とハンドルのバリエーション
── 表面材の種類が増えたことについては、いかがでしょう?
谷尻:良さそうですね。僕たちはドア単体というよりも、隣り合う材料とのバランスで決めて設計しています。例えば、外壁が木のときにドアも木にするかというと、色味が合わなくて難しいことがあります。そのとき「XE」で新しくラインナップされたブラウン色のスチール調の建具を持ってくると、バランスが良くなるということがありそうです。表面材の種類が増えることで、「XE」がいっそう選ばれるようになってきている感じがします。
吉田:普通のメーカー品ではバリエーションが増えても、あまり使わなさそうな色も増える傾向があるように思います。XEではその点、キッチリと渋めの素材感とか、グレーやブラウンのトーンを基調としながら増やしていますよね。左官や木などの素材にも合いそうなラインナップが揃っていて、全部使えるなという感じです。
── 「エクスクルーシブガラス」の表情について、感想を口にされていましたね?
ガラスドアには周囲の景色が映し出される(デザイン:エクスクルーシブガラス、カラー:メタリックディープグレー)
吉田:シャープなのに柔らかくて優しい。なんというか、玄関ドアには見えない雰囲気が面白いです。普通はドアといえば光を反射しないイメージがあるので、奥行きがあるように見える意外性を感じるのですよね。
谷尻:姿見にもなりそうじゃない? 出かけるときとか。
吉田:鏡になるほどハッキリと映るわけではないけど(笑)。アプローチまわりに植物が植えてあれば、風で揺らぐ緑がガラスドアに映り込んで、清々しい風景が生まれそうです。
── ハンドルのバリエーションはどうでしょうか?
「ディスクハンドル」。真鍮素材に金属皮膜を蒸着させることで 耐腐食性・耐摩耗性を向上させた
吉田:円形「ディスクハンドル」は、私はデザイン的に好きですね。いろんなタイプの設計に合わせてチョイスすることができそうです。
谷尻:あとは、手触りがいいよね。
「ウッドバーハンドル」。日本古来の焼き杉技法を用いた天然木製のハンドル
吉田:そう。特に焼き杉のバージョンは、本当に手触りが良かったです。他のハンドルでも、塗装は2層にして「触感にこだわった」と言われていましたよね。あとは、ハンドルを握るときの奥のRと手前のRの曲率を変えるといった、すごく細やかな設計がされています。パッと見ただけではわからないけど、毎日触るものだし、お客さんの場合は初めて触れる場所だから、印象として良いですよね。
谷尻:以前は既製品でシンプルなハンドルがないから、僕らは頑張って制作でシンプルなものをつくろうとしていたんですよね。でもこれぐらいシンプルになってくると、既製品とかオーダーといった概念を気にすることなく使う領域になっていく気がするんです。
吉田:私たちはハンドルをシャープにしたい、と角パイプなどで制作してきたのですが、触った時の感覚が良くないと、なんとなく触りたくないという気持ちが芽生えてしまう。そのあたりで細やかさがありつつもシャープという着地点が見出されていて、設計者が使いたいものになっていると思います。
── エントランスまわりのデザインは「XE」で変わってきそうでしょうか?
門扉まわりも玄関ドアとセットで揃えられている
谷尻:「XE」では、門扉なども同じシリーズとして揃えられていますよね。建物と外構って、どこか分けられていたように思うんですけど、「XE」では建物全体としての景観をつくることができる雰囲気があります。一方で、ドアの面材の雰囲気の外壁材があったらいいのにと思いました。ドアと外壁を揃えたい場合もあるだろうから。
吉田:同じ素材のパネルが張られていて、どこがドアかわからないエントランスやファサードというのも格好いいなと思うよね。そうした使い方でも、ドアノブやハンドルがないことを活かせそうだなと思います。機能が見えてこないことが、シャープなデザインにつながるはずなので。
── 隠し扉のような雰囲気ですね。
吉田:例えば私たちはキッチンをオリジナルで設計するのですが、その時に食洗機を入れる部分の扉の面材は、ほかの収納扉の面材と同じ材料を張ります。そのように機能を見えなくして、同素材のマッシブなボリュームとなるように仕上げるのですね。玄関ドアでも同じように設計していくと、出入り口感のない素敵なデザインが実現できそうな気がします。主張していないけど、実は主張しているような。
谷尻:そうだね。僕らはキッチンは設備というよりは、家具に寄せようとデザインする。同じことが玄関ドアにも言えそうです。ドアとして目立つというより、外壁や建築の1つの要素として玄関ドアがたまたまあるというほうが、僕らとしては設計してみたいね。
とはいえ、「XE」の機能性が高まり、バリエーションが広がったことで設計の自由度が上がったことは確かで、機会があれば使ってみたいと思います。
※ インタビューは2025年2月に実施したもの
※ 顔認証システム、新素材・ハンドルについて、一部対応できない機種もあるので、LIXILオフィシャルサイトなどでご確認ください
Movie & Photo: toha(一部動画からのキャプチャを含む)
Interview & text: Jun Kato