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[Report]永山祐子建築設計、LIXIL、CACLによる共同プロジェクト

永山祐子氏らが能登半島地震で倒壊した家屋の瓦をアップサイクル

[Report]建材として生まれ変わり「創造的復興のシンボル」へ

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規格外として廃棄される工芸品、陶磁器片をプロダクトや建築材料などへ再活用する取り組みを行うCACL(カクル・本社:石川県能美市)とLIXIL、永山祐子建築設計の3社は、能登半島地震で倒壊した家屋に使用されていた黒瓦を建材(黒瓦入りテクストーン)へアップサイクルし、新たに建築物へ使用するための共同プロジェクトを9月1日に発足しました。

廃棄される瓦を再利用し、もう生産されない能登黒瓦の記憶を残す

Photo: TEAM TECTURE MAG

能登の黒瓦は艶のある表面が特徴で、熱を蓄え屋根に積もった雪を溶かすのに適していると言われています。表面は黒く、内側の濃いオレンジ色との配色が美しい瓦ですが、すでに生産している工場はありません。

このプロジェクトは、令和6年に発生した能登半島地震で全壊・半壊した家屋に使用されていた黒瓦を廃棄・埋め立てするのではなく、「創造的復興のシンボル」として建材へアップサイクルすることで、能登の想いや記憶を未来へとつなぐことを目的としています。

LIXILの窯業系新素材「textone(テクストーン)」へ黒瓦の破片を採用

黒瓦テクストーン

ある程度の粒感が残るtextone独自の技術により、能登の黒瓦の風景が目に見えるかたちで生かすことが可能となった

「textone」は、さまざまな素材を均一に混ぜ、加圧成形するLIXIL独自の配合技術により、高い耐久性を確保しながら無塗装の意匠を実現する窯業系の新素材です。一般的なコンクリートやタイルといった窯業材や石材と比較しても半分の重量であることや、割れにくく木材と同じように加工でき、大判の製造も可能です。

「黒瓦入りtextone」は、内外装の仕上げ材として使用でき、永山氏が設計中の都内・大型商業施設での採用が決まっています。

建材に再生することの価値|永山祐子

2022年、Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2022というイベントで、廃棄される漁網をアップサイクルした「うみのハンモック」を制作しました。その後もパナソニックグループの社有地であるさくら広場、日比谷公園のイベント、淡路島など全国を巡り、アップサイクルについて発信を続けています。建材へ再生することのメリットは、大量に廃棄物を使うことでサーキュラーシステムが生まれ、つくっていく中で雇用も生まれます。さらにそれを用いた建築を見たり体験したりした人へ発信することができる点です。

この黒瓦をLIXILに託し、ただ混ぜるだけでなく磨いてもらったり、粒を7㎜にしてもらったり、強度や性能を見ながらサンプルをつくってもらい、依頼から1年以内という普通では考えられないスピードで対応してくださいました。最近はコンクリートでも温かみや赤みのある土の色が求められる傾向にあり、「黒瓦入りtextone」もニーズに合っていると思います。

まずは私の設計している大型商業施設で使うことを考えていますが、もっとみなさんに知っていただき、見た人がアイデアを出し合えるような、いろんな人を巻き込むプロジェクトになればと思っています。

 

LIXILではすでに実験的なマテリアル製造を始め、今後は具体的な建築などへのアップサイクルを目指して、特に地域へ還元するためのパートナー企業と協働していく方針です。

 

公費解体(所有者の申請に基づいて、市が代わりに解体・撤去を行う制度)された住宅より黒瓦を回収し、指定工場にて粉砕。粉砕した破片をCACLがコーディネートする福祉施設などが梱包、LIXILへ発送し、窯業系素材「textone」の原材料となる

珠洲市の様子

プロジェクト発表では、黒瓦の仮置き場のほか、被害に遭われた公費解体を待つ住宅も見せていただいた(Photo: TEAM TECTURE MAG / 2025年9月1日撮影)

地域の思いを新しい価値につなげる|羽賀 豊(LIXIL 常務役員 デザイン&ブランド ジャパン部門 リーダー)

LIXILが開発した「textone」は、セメント、パルプを基材として、その中に竹炭など処分されていた素材を混ぜ込むことで価値のある建材になっています。今回は今まで使っていた竹炭でなく、永山祐子さんにアドバイスをもらい、粉砕した瓦素材を混ぜることに挑戦しました。アップサイクルするだけでなく、魅力ある建材とするために粒の大きさや配合も工夫しています。

最初は黒瓦と聞いて真っ黒なのかと思っていたのですが、粉砕したら中のオレンジが出て、建材、意匠材としていい風合いになりました。黒瓦のオレンジ色は地域の土の色から出ている地域独特の色です。単にリサイクル建材としてだけではく、地域に根差した黒瓦がもう一度、思いや文化とつながり新しい価値を生むことで、リサイクル素材の新しい在り方を見つけさせていただいた気持ちでいます。


被災者の記憶を残し、広げる|奥山純一(CACL)

永山祐子さんとは、偶然の出会いから二子玉川の高島屋S・Cの改修で九谷焼の規格外となった白磁の陶磁器片をベンチにするコラボレーションで初めて協業しました。本プロジェクトでは、解体、粉砕された黒瓦の梱包などは障害福祉施設の利用者さんに担ってもらい、LIXILさんは技術開発面、永山さんは意匠面の監修をしてもらっています。

能登では全半壊の家がまだ残り、公費解体も10月まで続くと言われています。被害に遭われた方は「壊れたままの家を見ているのもつらいが、更地になってしまうのは記憶が遠ざかってしまいそうだ」と話されています。この製品が広がり、能登の復興につながればと思っています。


珠洲市の現状と黒瓦への思い|珠洲市・泉谷満寿裕市長

昨年元日のM7.6の地震、そして津波、さらに昨年9月の奥能登豪雨により、珠洲市では大きな災害が続きました。住宅の被害は極めて甚大で、珠洲市では震災前5600世帯ほどのうち全壊1770あまり、全壊含む半壊以上が3900ほどになります。およそ5600の住宅のうち、公費解体の申請を出され、進んでいるのが2800あまり、珠洲市の住宅半分が公費解体という状況でございます。公費解体の約9割が完了して、どんどん更地が広がっている状態です。

この珠洲市において黒瓦は特徴で、誇りであり宝ですが、どんどん解体され、失われ、いたたまれない気持ちです。新しい能登瓦、黒瓦を生産している工場はもうありません。新しい能登瓦が世の中に出てこないなか、建材としてアップサイクルされ、生まれ変わって残っていくことは意義のあることだと思っています。

黒瓦アップサイクル

写真左より、羽賀 豊氏、永山祐子氏、泉谷満寿裕市長、奥山純一氏

 

グレー囲み内テキスト、およびトップ、特記なき写真は、プロジェクト発表記者会見およびプレスリリースより

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「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2022」の見どころ・まとめ

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