2025年冬の発売に先駆け、6月に開かれたオルガテック東京2025にて初披露された「ingCloud(イングクラウド)」。コクヨが「座る」という行為に真正面から向き合い開発を進めてきた、新型オフィスチェアーです。

オルガテック2025 コクヨブースに展示された「ingCloud」
座面が360度あらゆる方向へ動くオフィスチェアー「ing(イング)」シリーズ
コクヨの「共感共創」の価値づくりを体現するプロダクトの「ing」シリーズ。コクヨは座りすぎに対する健康への影響を、座ること自体に問題があるのではなく、「同じ姿勢を続けることが負担」と考え、2017年から座面が360度グライディングするオフィスチェアー「ing」シリーズを展開。
滑空するように前傾や後傾はもちろん、左右、斜めやひねりまでカバーし、座りながら骨盤や筋肉を動かせ、脳の活性化にもつながる「ing」に続き、2021年からリビングにも調和するフォルムや素材感をもつ「ingLIFE」も発売している。
「ing」シリーズ第3弾となる「ingCloud」発売にあたり、同シリーズの開発を手掛けた木下洋二郎氏、前田怜右馬氏(どちらもグローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 1Mプロジェクト)に、「ing」シリーズの変遷や「ingCloud」の特徴を聞きました。

左より「ing」(2017年11月発売)、「ingcloud」(今冬発売予定)、「ingLIFE」(2021年12月発売)
木下洋二郎氏(以下、木下):開発のきっかけは、日本人の座りすぎによる健康リスクが問題視されるようになり、オフィス家具、特に椅子も手掛けるメーカーとして、対策を考えなければならないというものでした。
まず、「座るという行為」に真正面から向き合い、やがて座っていること自体が悪いのではなく、「じっとして動かない」ことがよくないということが分かってきました。とはいっても、椅子によっては悪い姿勢で座っている場合もあるので、この2点に対する提案ができないかと考えました。
通常、開発というのはマーケティングをしてターゲットや価格帯を決めて、という順を追うのですが、今回は「座るという行為にどう向き合うか」という本質的な課題意識から、それを実現するプロトタイプをたくさんつくり、そこから生まれてきたものが「ing」になります。

「ing」製品写真(2017年11月発売)
前田怜右馬氏(以下、前田):最初に開発した「ing」は、オフィスワーカー向けの製品です。2層の機構が前後と左右に動き、体重による重力の移動に座面が追従してくれる仕組みを搭載しています。リクライニングするときにレバーを引くといった操作や、角度を変えるなどの調整が不要なこと、バネを使っていないスムーズな動きもこのメカの特徴です。
木下:姿勢が悪くなることや、姿勢が固まってしまうという先ほどの問題点が、自分の体重移動によってバランスボールに座っているような感覚で、自然と背筋が整います。ディスプレイに向かって前のめりになったり伸びをしたりと、軽い動作で常に動くので、座っていて動かないという課題も解決できました。

前後と左右にかみ合う2層のメカを搭載している「ing」

「ing」シリーズ2作目の「ingLIFE」(2021年12月発売)。自宅では床の傷などを気にするケースも多いため、4本脚タイプや、リビングにもなじむよう合板の背もたれタイプをラインナップ
前田:「ing」はオフィスチェアーだったのですが、2代目は会議用椅子として開発をスタートしたものの、コロナ禍になって在宅勤務が増え、身体の疲れを感じる人が多かったことから、在宅向けの椅子として企画を変更して開発しました。
自宅で仕事もするし、食事もするし、くつろいだりもする、その境界ははっきりしたものではないので、「ing」のようにアクティブに動くものではなく、リラックスもできるような動きを想定して開発しています。動かすという概念は引き継いでいますが、ゆっくりと動く機構を採用しました。
簡単にいうと、平面にすり鉢状の円盤が載っていて、ゴロゴロと動くような仕組みです。バネを使わずに、シート底面に内蔵されたすり鉢状の円盤が起き上がりこぼしのように重力で揺れる独自の機構です。

「ingLIFE」動きのイメージ。メカの内部にピンがあり、ピンの周りに巻いたゴムのリングとの摩擦によってゆっくりとした座面の動きを実現している
前田:通常、オフィスチェアに使われるバネを用いた背もたれでは戻る力も強いので、背もたれ部分が木だと痛いことがあるのであまり使われません。「ingLIFE」のような重力で動く仕組みは跳ね返りがないので、合板による背もたれが採用できたのはデザインとしてもメリットになっています。
オフィスチェアーにはない横に広い座面も特徴で、あぐらなど自由な姿勢で座ることもできます。ウレタンには家庭での指はさみ事故を防ぐ役割もあり、安心して使うことができます。

発売予定の「ingCloud」(ピートグレー/ブラック)
「ingCloud」は、ワーカーの快適性と集中力のさらなる向上を目指した、次世代のオフィスチェアー。働く人の身体の自由な動きをサポートする「ing」シリーズの最新モデルとして、重力を利用して体圧を流動的に分散させ、あらゆる姿勢にフィットするコクヨ独自の「3Dウルトラオートフィット機構」を搭載している。
座面下、背もたれ、肘掛け部の3カ所に搭載し、身体の動きに合わせて柔軟に稼働する「トリプルグライディング」と、従来のオフィスチェアーによく見られる背もたれ左右のフレーム構造を使用せず、立体的な面形状をかなえた「3Dハンモックメッシュ」。
これらを組み合わせた「3Dウルトラオートフィット機構」により、さまざまな体格・姿勢にフィットし、従来のオフィスチェアーに比べ、より広い面積で身体を支えるのが特徴。これにより高い圧力がかかる部分が減り、浮遊感のある座り心地につながっている。
前田:「ingCloud」は、座面の下には「ingLIFE」に似た機構を搭載していますが、後傾角度を増やしたり、グライディングの機能を背もたれとひじ掛けにも入れて、合計3カ所に増やしたことが一番の特徴です。デスクに向かっている間の微細な動きにもより付いてくるようになっています。3カ所ともグライディングの基本的な考え方は同じなのですが、サイズを変えたり、動き方は微妙に異なります。

グライディングメカを搭載した機構の部分はオレンジ色など別色にカラーリングされている
前田:また、背もたれはフレームがなくメッシュを張って構成しているため、座ったときに腕や肩に枠があたるストレスがありません。メッシュをピンと張っているだけではなく、さらに同素材のメッシュで後ろからも引っ張っているため、立体的な窪みができ、ハンモック状の立体形状になって自然と身体を包み込むように、背もたれを纏っているような感覚で座ることができます。

立体的な「ingCloud」背もたれ部のディテール
木下:今回の開発にあたり、オフィスチェアーに10時間座り続けるようなエンジニアやプログラマーの方々に協力していただきました。普段の業務を撮影させてもらうと本当に座ったままなのですが、早回しで見てみると実はじっとしているようで動いているんです。この本当に微細な動きにも追従して椅子も動くということが大事で、大きく身体を動かすことも大切なのですが、「ingCloud」は無意識にしている些細な動きにフィットできていることが分かりました。
前田:初代の「ing」は活性化のためにユーザーが身体を動かすという概念だったのですが、3代目となる今回の開発では、「椅子がユーザーに合わせて動いてくれる」という概念になってきたのが、開発していて面白いところです。
木下:「ing」シリーズの2代目、3代目と開発を進めるなかで、もっと軽く早く動いた方がよいのではと考えていたこともあるのですが、同時に椅子が軽い力で動いてしまうことを苦手に感じる方もいるということも分かってきました。健康リスクの軽減ももちろんですが、やはり椅子に求めるのはリラックスなのではないか、と一度開発したものをゼロに戻したりして、今の「ingCloud」が完成しました。

発売予定の「ingCloud」(ライトグレー/サンオレンジ)。背もたれの両脇はメッシュのみで、枠がないことが分かる
前田:今回、開発段階のヒアリングを通じて、主にテック系のエンジニアの方々は「このプロダクトやこの機能が、自分のどこに影響を与えているのか、視覚的に分かることが投資意欲につながる」という意見が多かったんです。そこで、「ingCloud」の背もたれ裏、ひじ掛け下、座面下の機構を搭載した場所を色分けし、はっきりと分かるようにデザインしました。
オレンジ色は可視化するうえでビビッドであることなどから採用しています。一方で、オフィス空間でノイズにならないよう、同色系で揃えたタイプもラインナップしています。
今後、「ingCloud」が長時間働く多くのエンジニアやプログラマー、クリエイターの健康だけでなく、業務や創作活動をサポートするオフィスチェアーとして認知されたらと思っています。
「ingCloud(イングクラウド)」概要
「ingCloud」
[発売]
2025年 冬[価格]
へッドレストあり ¥258,000(税抜)
ヘッドレストなし ¥238,000(税抜)[カラーバリエーション(本体/グライディング部)]
ライトグレー/サンオレンジ
ライトグレー/ソフトグレー
ピートグレー/サンオレンジ
ピートグレー/ブラック「座る」より「まとう」感覚を体験する
9月より、コクヨ東京品川オフィス・南館1階体験コーナーで座り心地を体験できます。また、東京・渋谷にあるコワーキングスペース・LULL TECH BEACH 渋谷に「ingCloud」の先行体験ブースを設置。予約不要で試座をすることができます。
ingCloud 公式WEBサイト
https://www.kokuyo-furniture.co.jp/products/office/special/ingcloud/
ingシリーズ 公式サイト
https://www.kokuyo-furniture.co.jp/products/office/special/ing-series/