「水道水がもっとおいしく、もっと便利になったら、どんな暮らしになるだろう?」という思いから、LIXILとSuntoryが共同開発したのがキッチン用ミネラル浄水栓「Greentap(グリーンタップ)」です。
「キッチンのショールームは25年ぶり」と話す建築家・谷尻 誠氏が、ウォーターサーバーのように冷水も出るという「Greentap」を体験。「属性を合わせてキッチンらしさを消す」という、キッチンの設計で心掛けていることについてもうかがいました。
谷尻 誠氏(以下、谷尻):広島と東京の自宅や千葉の別荘など、新築もリノベーションも含めていくつも住宅などを設計していますが、いかにも「ここがキッチンです!とならないようなキッチンって何だろう?」と常に考えています。キッチンもインテリアとして捉えたいという感じですね。設備に見えないよう、家具みたいにつくりたいし、空間に寄り添うようなものにつくれないか、と。

〈HOUSE T〉Photo: Toshiyuki Yano
谷尻:所員たちにも「情報量を制御する」ということをいつも言っています。材料情報だったり、線の情報だったり。代々木上原の自宅のときは、モルタルとコンクリートがメインなので、そこに属するよう設計していくんです。
キッチンにはシンク、水栓、キャビネット、カウンター、コンロ、換気扇など構成する要素が多いので、どうしても材料情報が多く出てきます。キッチン以外の空間にはそれほど材料の情報は出てきません。
僕らがいつもキッチンをつくるときは、なるべく設備機器として存在しないように、その空間の材料でデザインします。その空間に使われている材料で揃えるとその空間に属したものになって、キッチンもインテリアになってくるんです。今、下北沢でリノベーションしている住宅は和の空間にしたくて、壁に和紙を張っているので、キッチンの構成要素もすべて和紙を張っています。同一のものを使うと、おのずと空間が洗練されてモダンなものになってくるので、こうして情報量を制御しています。

和紙を張ったキッチン
谷尻:誰しも必ず食事をとりますし、その時間って食事にフォーカスするじゃないですか。僕は食の時間が一番豊かだと思っているんです。1人暮らし用の部屋でちゃんとした食事をつくって食べていなかった人でも、キッチンがちゃんとしていると、友達を呼んでつくったりするようになることもあります。
居住空間の広さに関わらず、食事にまつわる行為や時間は変わらず豊かだと思うし、「小さなシンクと1口コンロが付いていればいい」みたいなキッチンにするのではなくて、もっとそういう豊かな時間をもちたくなるようなキッチンを心掛けています。料理はとてもクリエイティブなものなので、はまると面白いと思うんです。つくってふるまうと喜ばれるのもいいですよね。

谷尻:料理をつくっている人と座っている人の目線が揃うように設計すると気持ちよく会話ができます。料理をつくりながら飲み、食べて会話しながらまたつくる。つくっている段階から食事は始まっています。そのためにも、キッチンやダイニングテーブルも、機能として必要なものより大きくつくるんです。
作業スペースやカウンターに余白があれば、お皿を並べたり、スタンディングで来客が食事をとったり、花器を置けばディスプレイ台にもなり、空間が華やかになりますよね。
私はいつも5mくらいのキッチンをつくろうとしていて、ダイニングテーブルも食事するのに必要なぶんより、わざとスケールを大きく設計します。余分に大きくするとワークスペースになって、横で勉強や作業をしていても食事する人はそのまま食べることができます。

〈DAICHI ISUMI〉Photo: Kenta Hasegawa
谷尻:余白をつくると間がつくられるというか、何かが起きる。使い方を想起させる余白をつくりたいなと思って大きくします。そうするためにはリビングの広さも必要なので、自宅でもリビングダイニングを大きくして、ほかの部屋をめちゃくちゃ小さくしたりしました。寝室も寝るだけならベッドを置けるスペースさえあればいいですからね。

〈HOUSE T〉Photo: Toshiyuki Yano
谷尻:レンジフードも自分たちでつくります。先ほど話した下北沢の事例では、一度スケルトンにして天井を下げたなかに換気扇を付け、パネルを張りました。パネル周りにスリットを開けて隙間から吸わせるようにしています。レンジフードがあるけど見えない。スリットがあるだけなので、レンジフードっていう情報が消えますよね。
レンジフードがあると、どうしても「ここはキッチンですよ」となるんです。冷蔵庫やレンジフードは存在感があって主張してくるので、そうならないように工夫します。水栓も同じです。空間に馴染ませる色やかたちを選んで採用しています。

谷尻:実はキッチンのショールームに来るのは25年ぶりくらいなんです(笑)。すごく進化してますね。
LIXIL:「Greentap」は、LIXILの浄水、冷水技術とSuntoryの美味開発技術から生まれたキッチン用ミネラル浄水栓です。LIXILの浄水カートリッジでろ過した水道水に、Suntoryが独自開発した植物ミネラルエキスをプラスしたもので、家庭の蛇口から冷たくおいしい「ミネラル in ウォーター(※)」を楽しんでいただけます。
Suntory:もともとSuntoryが植物ミネラルエキスを開発して、自社でウォーターサーバーや浄水機能付きの水栓の開発など、お客様に提供する方法をいろいろと検討しました。しかし、機材開発の難しさもあり、浄水と冷水技術のあるLIXILに声をかけ、共同で開発しました。

Greentap 機構
LIXIL:シンクの下に3つの機材を納めていて、水道水を浄水カートリッジで浄水したのちに、Suntoryが開発した植物ミネラルエキスがプラスされ、冷やされてミネラル in ウォーターが出てきます。奥にある箱が冷水ユニットです。ミネラルボトルやカートリッジの位置を手間にし、納まりや交換のしやすさにも配慮しています。ハンドルのLEDライト表示やひねったときのクリック感にもこだわって設計しました。

谷尻:自宅では水道引き込みのところに浄水器を付けているのでキッチン水栓部分はすっきりしているのですが、「Greentap」も見えている部分はスマートな蛇口のみですね。
浄水などの機能がつくと水栓はごつくなる、というイメージでした。すっきりしたデザインなのもいいですし、先ほど飲ませてもらいましたが、蛇口からすぐ冷たい水が出るのでウォーターサーバーを置かなくても済むのがいいですね。
LIXIL:ヘッドやスパウト部分にカートリッジを装着するタイプの浄水器もありますが、「Greentap」はカートリッジなどはシンク下に納まるので、水栓の形状も美しくすっきりしています。2024年度グッドデザイン賞、2024年度キッズデザイン賞、Red Dot Design Award(レッド ドット デザイン アワード)2025などのデザイン賞を受賞しました。
カラーはクールシルバーとクロムの2色展開です。レンジフードや取手と色を合わせるお客様が多いので、ここではクールシルバーを採用しています。

谷尻:私は空間に馴染ませるため、黒か真鍮の水栓をよく使います。クールシルバーも光が反射しなくていいですね。定番のクロムだと水栓が光って、どうしても水回りっぽくなるんです。今後、黒色系もラインナップされたら嬉しいです。
倒せるタイプの水栓もありますが、住宅でそこまでしなくていいと思います。設備機器を空間に馴染ませるなら、そのもの自体をなくすとか、見えなくするというよりは、これからは「統合」がキーワードなのかもしれません。たとえば今の携帯電話はカメラでもあり、財布でもある。統合の時代なんだと感じます。なのに空間に付随するものってあまり統合しないですよね。
でも「Greentap」は水栓とウォーターサーバーの機能が統合されているから、単体のウォーターサーバーや予備のウォーターボトルを置くスペースが必要ない。設備や機能がそのほかの何かと統合したら、キッチン空間は今後、よりすっきりとした余白の生まれる空間になるかもしれません。
谷尻 誠|Makoto Tanijiri
建築家・起業家 / SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
1974年 広島生まれ。2000年建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田 愛と共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、近年「絶景不動産」「tecture」「DAICHI」「yado」「Mietell」をはじめとする多分野で開業、事業と設計をブリッジさせて活動している。2023年、広島本社の移転を機に商業施設〈猫屋町ビルヂング〉の運営もスタートするなど事業の幅を広げている。
主な著書に『美しいノイズ』(主婦の友社)、『谷尻誠の建築的思考法』(日経アーキテクチュア)、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』(エクスナレッジ)、『1000%の建築~僕は勘違いしながら生きてきた』(エクスナレッジ)、『談談妄想』(ハースト婦人画報社)。作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)。12月中旬に『建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」』(三笠書房)を発刊予定。
※ ミネラル in ウォーターとは、飲用水に植物ミネラルエキスをプラスした水のことです
(この商品のミネラルとはナトリウムのことです)
インタビュー:LIXILサンウエーブ製作所 深谷工場 2025年11月12日
Photograph:toha(特記以外)