〈東急歌舞伎町タワー〉、大阪・関西万博の〈パナソニックグループパビリオン ノモの国〉、〈LOUIS VUITTON大丸京都店〉、〈TOKYO TORCH Torch Tower〉低層部など、印象的なファサードを数多く手掛ける建築家・永山祐子氏に、高層建築のファサードがつくる都市の表情、機能などについてインタビューを行いました。
あわせて、インタビューでは脱炭素社会の実現に向け、発電しながら意匠性にも寄与できる建材一体型太陽電池としてパナソニック ホールディングスが開発中の「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」について、機能と意匠を両立する建材として、これからのファサード設計にもたらす可能性といった視点からもお話をうかがいました。

〈LOUIS VUITTON大丸京都店〉Photo: Daici Ano
永山祐子氏(以下、永山):以前から私がファサードを考えるときは、現象的なことからアプローチしています。建築のかたちやファサードのデザイン、そして素材は、長く街に与える影響やイメージも大きいので、〈東急歌舞伎町タワー〉や〈LOUIS VUITTON大丸京都店〉に限らず、街の物語やブランドの伝統などから紐解き、表層の表現は計画のスタートから考えることが多いです。
私たちの事務所が提案する構造や素材は、これまであまりやられたことのない初めてのことが多いので、デザインをもとに1分の1のモックアップを製作しています。そこから得られる気づきや課題というのがすごく大事で、さらに改良を重ねて最終的に決定していきます。
超高層の場合は、地上とは風などの環境も大きく変わります。ゴンドラによるメンテナンスや安全性にも十分に留意したなかで施工方法を検討し、材料の選定、デザインを進めています。

〈パナソニック グループパビリオン ノモの国〉Photo: OMOTE Nobutada
—– 万博パビリオンのファサードと都市建築のファサードにおいて、デザインや素材選びのプロセスにおける違いはどのようなところでしょうか?
永山:万博パビリオンである〈パナソニックグループパビリオン ノモの国〉の場合は、シンボルとしてつくる必要性と、半年という会期で解体しなければならないという条件のなかで、循環や再利用を念頭に考え始めました。万博ではもう1つ〈ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier〉も手がけていたのですが、〈ウーマンズ パビリオン〉は形状が幾何学で力の流れが見えやすい構造システムです。
〈ノモの国〉は全然違うものにしたいなと思って、あまり力の流れを感じない構造体を目指しました。α世代の子供たちに向けたパビリオンでしたので、どんどん成長してかたちを変えていく自由な子供たちの存在やありようをファサードで表現したいと考えました。

永山:〈ノモの国〉のファサードの構造体はバタフライモチーフと呼んでいたのですが、スチールパイプを曲げた約12種類のリング状の立体モチーフを積み重ねるアーチ構造をつくっていきました。分解するとコンパクトになって、次の場所へ循環していけるということを意識してデザインしています。
そこへ有機的に動くオーガンジーを素材に用いて、常に風によって揺らめくような表層をつくりました。オーガンジーには金属スパッタをかけているのですが、スパッタの色はどの布にどの色が合うか、考えられるパターンをすべて試しながら配合や加工を決めてオリジナルで製作しています。
実際にこのファサードは循環して、横浜で開かれる次の万博(国際園芸博覧会)で別の企業パビリオンに生まれ変わるので楽しみにしていてください。そしてオーガンジーは、実は服飾専門学校の生徒によってウエディングドレスに生まれ変わりました。


〈東急歌舞伎町タワー〉Photo: Daici Ano
—– 〈東急歌舞伎町タワー〉はこれまでの新宿のイメージを変えたと思います。街の歴史や背景をファサードで再構築するデザインはどのようにアプローチされたのでしょう?
永山:新宿西口は高度経済成長期に多くのオフィスビルが建ち、権威的でちょっとマッチョな感じがしますよね。今までの超高層ビルはオフィスがメインで、そこに入っている会社ということが権威の象徴のようなものでした。一方で〈東急歌舞伎町タワー〉の大きな特徴は「オフィスが一切入らない」という点でした。権威とは切り離されています。
この土地は元々沼地で弁財天も祀られている場所です。民間の手で戦後復興が成し遂げられた貴重な場所でもあります。水につながりのある場所を象徴するものとして、さらには戦後復興から続いてきた湧き上がる強い想いの象徴として「噴水」をイメージしたデザインにしました。

永山:噴水は下からの勢いがなくなれば止まってしまう儚さをもっています。権威とは正反対のデザインを考えるうえで、そのような儚さや揺らぎを建築に取り込みたいと考え、「噴水を建築で表したらどんなかたちになるんだろう」「揺らいでいる水はどう表現しよう」といったところからアプローチしています。
噴水を表すならガラスで、じゃあガラスの表面をどうしたら噴水に近づくだろう…と、徐々にマテリアルを分解していきました。水の透明感としぶきのマットさは、スタディを重ねてガラスの外部側表面にプリントを施すことでガラスの反射をコントロールして表現しました。

〈TOKYO TORCH Torch Tower〉提供:Mitsubishi Jisho Design
—– 〈TOKYO TORCH Torch Tower〉は見上げるファサードから、体験するファサードへの変化を感じます
永山:そうですね。私がデザインアドバイザーを担当する〈TOKYO TORCH Torch Tower〉の低層部は、外装デザインとしてファサード設計の依頼を受けた〈東急歌舞伎町タワー〉とは異なり、前広場が大きく、表層を超えてデザインできそうだと感じました。そのため、表層だけ考えるファサードでは不十分だと考えて、アクティビティそのものを表層化しています。
従来、高層ビルの低層部分にある商業施設は、ビル内側の公共空間に向けてできていることが多く、それだと周囲へ背中を向けることになります。ビルの場合、どちらが表か裏かということは常に起こりうる問題です。ここでは街に対して内向きにならず、外向きにひっくり返す装置として、広場から続いていく約2kmの「空中散歩道」を巡らせ、新しい体験をつくり出すことが1つの目標でした。

—– 建材が発電機能をもつガラス型の太陽電池は、これからのファサード設計にどう使われていくと思いますか?
永山:最近、機能ファサードが増えていますよね。ガラスとガラスの間にシャッターが入っていて日射をコントールして省エネに貢献できるファサード製品も、映像を投影できるようなファサードもあります。
〈東急歌舞伎町タワー〉で手掛けたファサードは、建築から言えば表層のほんの数ミリです。その薄さのなかで美観について考え設計しましたが、ガラス型ペロブスカイト太陽電池のようなものは、機能と美観をどちらも両立することができる点がすごいと思います。
パナソニック:薄くて曲がるフィルム型のペロブスカイト太陽電池はよく知られていますが、パナソニックは液状の材料を建築基準に対応するガラスの表面に塗布し、挟み込むことで長期に使え、街中のビルで発電するポテンシャルのある建材として開発中です。
レーザー加工でサイズや透過性、グラフィックパターンなど、カスタマイズできることもガラス型ペロブスカイト太陽電池の特徴です。

描画の自由度の高さを生かしてリーフ柄を表現したガラス型ペロブスカイト太陽電池(Photo: Kei Sasaki)
永山:今まで、太陽電池を屋根に載せてほしいとか、どこかに付けてほしいというクライアントからのリクエストがあると、「どこにどう黒いパネルを設置しよう…」と思うことはありました。このようにガラスと一体になって透過性のあるものなら意匠的にも取り入れやすいですね。
最近のクライアントは環境に関する予算も考慮してくれていますし、その点では提案しやすいかなと思います。ハイブランドの店舗ファサードなどは予算をかなりかけることができる場合もありますが、それでもビル1棟となるとコストは気になりますね。発電するエネルギーがランニングコストにどれくらい作用するか、デザインと並行して、今までのファサードの考え方とは別のアプローチでも検討することになるでしょう。
—– ガラス型ペロブスカイト太陽電池が実用化されたら、どのようにファサードへ採用してみたいですか?
永山:高層ビルにおいて、ファサードは都市の表情をつくるものでもありますが、建物を利用する人にとっては眺望への期待もあります。発電量の多い濃いグラデーションからだんだん透明なガラスにしていくようにコントロールできると思うので、発電と眺望を両立させながら採用できそうですね。
透過するという特性を活かして、ペロブスカイト側のパターンにさらにパターンを施したガラスを重ね合わせることでモアレ効果も期待できそうです。いろいろな使い方を実験してみたいです。
パナソニック ホールディングスが開発中のガラス型ペロブスカイト太陽電池とは?
透過度もコントロールできるガラス型ペロブスカイト太陽電池
極薄のペロブスカイト太陽電池の膜を、建築基準に適合した強度・厚みのガラスにインクジェット方式で塗布し、合わせガラス化した建材。パナソニックの材料技術とガラス封止技術により、劣化などの要因となる水や外気を通さない、ガラスを基板とした建材一体型太陽電池として開発中。
従来の結晶シリコン太陽電池は高純度シリコンの生成に1000℃以上の高温が必要となり、製造時に多大なエネルギーを消費する一方、ペロブスカイト太陽電池は100〜200℃程度の低温で製造可能なため、必要なエネルギーが大幅に抑えられる。
ガラス型ペロブスカイト太陽電池 構成イラスト
ガラス型ペロブスカイト太陽電池 実証実験の様子。後日、研究・開発拠点「Technology CUBE」でのインタビューを掲載予定です(Photo: Kei Sasaki)
インタビュー:2026年3月5日 永山祐子建築設計オフィスにて
Photograph:Kei Sasaki(インタビュー)