農業分野での人材育成事業などを展開する株式会社パソナ農援隊(本社:東京都港区、代表取締役 田中康輔)は、淡路島の畑をフィールドとした農業体験付きの滞在型施設『はたけのリゾート 燦燦Villa』を、自然循環型ガーデン「Awaji Nature Lab&Resort」(兵庫県淡路市)内に2025年8月1日(金)にオープンします。
パソナ農援隊はこれまで、農業分野の活性化や地方創生に取り組むとともに、自然循環型ガーデン「Awaji Nature Lab&Resort」や農家レストラン「陽・燦燦」(設計:坂茂建築設計)を2021年に開設。
新たに開設する『はたけのリゾート 燦燦Villa』は、“農ある暮らし”をコンセプトに、藤本壮介氏、原田真宏氏、中村拓志氏など国内外で活躍する9組の建築家が、50㎡の条件のもと農業体験と一体となった宿泊施設を設計しました。全11棟からなる同施設では、施設の建材や内装材など可能な限り自然素材を使用することで環境に配慮し、畑や森林など周囲の自然と調和する空間になっています。
TECTURE MAG編集部は、2025年7月16日に開催されたオープニングセレモニーに参加し、Villaを見学するとともに、各設計者に取材しました。記事では各設計者のコメントとともに、すべてのVillaを紹介します。
はたけのリゾート 燦燦Villa 一覧 *( )は施設内呼称
- 土茅庵(月の家 / TUKI)|芦澤竜一+Studioonsite+滋賀県立大学芦澤竜一研究室
- 懐庵(稲の家 / INE)|芦澤竜一+Studioonsite+滋賀県立大学芦澤竜一研究室
- 花(花の家 / HANA)|牧野嶋彩子(株式会社人と古民家)
- 杉(杉の家 / SUGI)|後藤栄一郎(後藤木材株式会社)*レセプションルーム
- ログハウス(木の家 / MOKU)|原田真宏、原田麻魚(株式会社マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所)
- 渦(渦の家 / UZU)|藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所)
- 畑と窓の家(樫の家 / KASHI)|西田司+長堀美季+伊藤健吾(オンデザイン)
- 楼(楼の家 / ROU)|藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所)
- 風(風の家 / KAZE)|オーレル・エビ、アルマン・ルイ、パトリック・レイモン(atelier oï)
- 木漏れ日(陽の家 / HARU)|板坂 諭(株式会社 The design Labo)
- ツリーハウス(鳥の家 / TORI)|中村拓志(株式会社 NAP建築設計事務所)
▶︎土着の素材である淡路島の暮らしから生まれる土・竹・藁などを使用してつくられた土茅庵。中央に据えられた土の塔(浴室)が空間を緩やかに分設しつつ、藁と竹と土でできた壁が全体をやわらかく包み込み、ひと続きの空間になっている。壁はストローベイルという藁を圧縮したブロック状のものが竹で緊結されており、土で表面が仕上げられ、地面がそのまま立ち上がったような意匠となっている。

入り口側より建物を見る。屋根中央に見えるのが浴室の天窓。

土間が室内へと続く。円形の浴室が中央に配置されており、右側に浴室の壁が見える。

入り口左側の壁の一部が空けられており、壁の構造であるストローベイルが見える。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:49.91㎡
- 延床面積:46.80㎡
- 構造:木造
- 階数:1階
- 高さ:7.666m
▶︎大きな開閉式の扉によって内と外の境界線が変化する内庭を持つ懐庵は、外の畑・内庭・室内に大地とつながる土と縁を持つ。土茅庵は地面が立ち上がり大地に守れているような空間であるのに対して、地面が室内に入り込み大地と地続きのような空間になっている。土間の天井には、採光と換気の観点から天窓が設けられており、土間と2階のそれぞれの空間に明るさと開放感をもたらしている。

建物の平面を見る。

開放的な土間には植栽がある。

土間の上部には採光と換気を兼ねた開口がある。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:50.70㎡
- 延床面積:61.61㎡
- 構造:木造
- 階数:2階
- 高さ:5.795m
▶︎外壁が花で覆われた〈花(花の家 / HANA)〉は、1階フロアを80cm地面より低く設計することで、入り口から地中に入り込むような空間体験になっている。「花に覆われた花の山をイメージさせる建物」をという依頼に対し、ピラミッド型を採用し、段差には草花が植えられ、灌水装置が仕込まれており、草花を維持する運営にも配慮している。また建物をピラミッド型にすることで、屋根の勾配が段々になっており、天井高を確保するとともに、開口を設け外への視線も作っている。

入り口側より建物を見る。ピラミッド型の形状で、表面は草花に覆わている。

入り口から80cm下がり、1階がある。地下に潜るような空間体験。

ピラミッドの形状は、室内の天井高と採光を確保している。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:43.34㎡
- 延床面積:43.34㎡
- 構造:RC造
- 階数:1階
- 高さ:4.620m
▶︎レセプションルームとして使用される〈杉(杉の家 / SUGI)〉は、国産材の魅力を発信するため、「丸太を一本丸ごと使い切る」建築として設計された。国産杉に秘められた温かみや見た目の美しさ、耐久性や強靭性といった機能を、最先端技術でさらに際立たせた。床材など耐久性が求められる部分には、木を加工する際に出る粉を圧縮して強度を高め、傷にも強い建材を使用している。

建物の平面を見る。

木を加工する際に出る粉を圧縮して強度を高め、傷にも強い床材。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:49.96㎡
- 延床面積:45.81㎡
- 構造:木造
- 階数:1階
- 高さ:4.868m
▶︎木の塊のような〈ログハウス(木の家 / MOKU)〉は、壁だけでなく、屋根まで丸太を組み上げており、木をふんだんに使用した重厚感のある組石造のような建築となっている。山林資源を循環させるため、需要低下で山に残った県産杉の大径材を耳付きで製材することで、製材ロスを減らし、歩留率90%を実現しながら、ログ工法で無駄なく活用することで、巨大なCO2のストレージとして機能している。この木の塊は、構造体であり、断熱性能も担保し、意匠性も持ち合わせている建材で、弱点である雨から守るため外装はポリカーボネートで仕上げている。

入り口側より建物を見る。

屋根まで積み上がられた丸太。上部には採光を調整できるシェイドがある。

木材の弱点である雨から守るためポリカーボネートで建物を覆う。

大径材の丸太断面を見る。

歩留90%の耳付き製材をした大径の丸太。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:49.37㎡
- 延床面積:45.45㎡
- 構造:木造
- 階数:1階
- 高さ:6.0189m
▶︎外から部屋の中までひとつの道が渦巻き状に繋がるような建築。渦巻の形態で外部と内部が共存しながらグラデーショナルに切り替わり、外部に開かれていると同時に、内部に包まれていることを体感できる、多様な場を内包する建築。天井高があり、ゆとりのある開放的な空間となっている。(*7/16現在、工事中)

外観パース
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:57.75㎡
- 延床面積:49.56㎡
- 構造:木造
- 階数:1階
- 高さ:5.000m
▶︎立体的に積み上げた窓から構成されたL字のボリュームと、自然素材であるコルクで構成されたL字ボリュームが、2つ向かい合う形で構成されている建築。この2つのボリュームが対峙し、混ざり合うことで、小さな家の中にも、多様なスケールと畑や森林・周囲の自然との関係性を作り出している。窓で構成されたL字のボリュームは外へと開き、コルクで構成されたボリュームは内へと閉じ、居住スペースとなっている。またWB工法* により、夏は壁の中の熱を排出し、冬は外気を遮断して保温効果を高めて織り、機械換気に頼らず、自然の力を利用してながら限られた空間を快適に保っている。
*壁の中に二重の通気層を設け、形状記憶合金で自動開閉する通気口を利用して、家全体を快適な状態に保つ工法

窓で構成された外に開けたボリュームと、コルクで構成された内に閉じたボリューム。

天然素材であるコルクを外装材として使用する。

2つのボリュームで構成される建築模型。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:49.41㎡
- 延床面積:80.33㎡
- 構造:木造
- 階数:2階
- 高さ:7.770m
▶︎リビングとして使われる塔を中心に個々の部屋が集まり繋がり合う空間をもつ建築。塔の内外を巡る階段を介して室内から屋上の庭へ、周囲を一望できる頂上へと辿り着く。塔を中心に、内と外の距離感が変化し、さまざまな高さに窓があることから、小さな建物でありながら多様な居場所が見つけられる。(7/16現在、工事中)

外観パース
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:46.10㎡
- 延床面積:43.07㎡
- 構造:木造
- 階数:1階
- 高さ:7.650m
▶︎1日を通しての自然光の移り変わり、風、四季を通して変化する自然を建物の中から感じることができるようにと設計された建築。ゆるやかに内部空間を3つに分け、それぞれの空間としての場をつくり、上部の開口から家の中に自然を取り込み、人と自然を繋げる。

入り口側より建物を見る。周辺環境を室内に取り込む上部の窓。

室内は天井高や梁により、ゆるやかに3つの空間に分けられている。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:51.05㎡
- 延床面積:49.68㎡
- 構造:木造
- 階数:1階
- 高さ:5.521m
▶︎〈木漏れ日(陽の家 / HARU)〉は、1本のムクの木を囲むように建てられ、木の周囲を一周してから玄関へと続くアプローチになっている。「木漏れ日を感じられる建物」という依頼から、階段に上がるとき、あるいは寝室の天窓から差し込む柔らかな木漏れ日を感じられるよう設計されている。自然に敬意を払いながら積極的に土に触れ、その恵みを味わい、心身ともにリフレッシュできるよう1階は畑からのアプローチが容易になるよう計画されている。また平面は、「循環」を意味するRegenerationの頭文字である、ローマ字の「R」になっている。

西側より建物を見る。

ムクの木の周囲を一周してから玄関へと続くアプローチ。

畑からキッチンへアクセスしやすいように計画された1階。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:35.01㎡
- 延床面積:34.54㎡
- 構造:木造
- 階数:2階
- 高さ:6.495m
▶︎草木や虫たちのために大地を開放しつつ、海の眺望を得るための2階建てファームハウス。2つのコンテナでボリュームを構成し、直行させることで敷地の多方面に眺望をつくる。上のボリュームの開口は、夏至の日の入りと、冬至の日の出の方向に設けられており、農業における季節の移り変わり、太陽の動き、時間の流れの重要性を、建築に取り入れている。束基礎で建物を持ち上げ、大地を自然に開放している。

西側より建物を見る。

束基礎により持ち上げられ、自然に開放された大地。

冬至の日の出の向きに設けられた寝室の窓。
建物データ
- 敷地面積:84.00㎡
- 建築面積:31.36㎡
- 延床面積:24.94㎡
- 構造:CLT造一部鉄骨造
- 階数:2階
- 高さ:8.270m
photo: TECTURE MAG