大阪・関西万博では安井建築設計事務所とともに〈EXPO ナショナルデーホール「レイガーデン」〉を設計し、〈太田市美術館・図書館〉や〈ハラカド〉、〈小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。〉など、多くの人が心地よく過ごす空間を手掛ける平田晃久氏にインタビューしました。
要望が多様化する公共建築や商業空間のデザインに加え、データ解析による設計手法、人が集まる大空間で意匠と安全性を両立するための「天井の考え方」についても興味深い話を聞くことができました。パナソニックの不燃軽量天井材「エアリライト」の薄さ、軽さを実際に体験し、使い方や今後のラインナップについても話題が広がります。

〈ハラカド〉Photo: Kenya Chiba
平田晃久氏(以下、平田):僕は人が集まる空間を設計する際、「どこか1カ所で大きく集まっている」のではなく、「各々が好き勝手なことをしている場所が散らばっていて、それぞれ別々のことをしているのをなんとなく感じられる建築」を心掛けています。
公共建築のつくられ方としては、被災地でいろいろな手伝いや設計をするなかで「その場所にいる人たちの思いが集まって生えてくる建築」が一番いいなと感じました。先に1つの目的や役割、機能ありきで空間をデザインするよりも「こういう場所で、こういう人たちが集まるならどういった場所がいいのか?」ということから始まる建築のあり方です。
どんな建築でどんなプログラムが必要か、今は非常に多様で行政の人たちも取りまとめるのが不可能になってきています。つくりながら明らかにしていかないと分からない。じゃあどうやって明らかにしていくかというと、いろんな人の意見を取り入れるということしかないな、と。そしてコロナ渦以降だと、特に誰かと会って話すわけではないけれども、なんとなく人々の存在を感じて時間を過ごせるのは貴重なことだと、より感じましたよね。

〈太田市美術館・図書館〉Photo: Daici Ano
平田:以前から同時にいろんな人が視界に入って見えているわけではないけど、この場所にはいろんな人がいると感じられることが人の集まる場所に求められているのではないかと思っていて、2017年に完成した〈太田市美術館・図書館〉では、自分の好きな場所を見つけられるように、ちょっとずついくつか仕掛けをつくりました。
新潟県小千谷市でも図書館を設計しましたが、人口が3万2000人ほどしかいないこの自治体では、公共建築を建てる機会は何度もありません。そこで図書館だけでなく、公民館のようにいろんなことをしてもらいたいと考え、その場所で何をしたいか市民の方たちにヒアリングしたところ、100以上の活動が出てきたんです。
それぞれの活動に1個ずつ場所を与えてはとてもじゃないけど面積が足りないし、それらの活動はすべて一緒にやるわけでもない。「〇〇室が〇m²」と、きちんと決めるのではなく、適度にすみ分けられたいくつかの場所があって、その時ごとに別々のことに使われたり、組み合わせたり、いろんな使われ方のバージョンがある空間が用意されていたほうがいいのではないかと考えました。
平田:自由に使える環境のバリエーションがいくつあれば最適だろうか?ということを考えるときに、明るい空間なのか暗い空間なのか、静かな場所なのか、もうちょっとアクティブな場所なのか、空間の性質としていろいろな軸があると思うんです。それらがどういうふうに混ざり、いくつあるとちょうどいいのかというのは、実はコンピュータで解析して出しています。
〈小千谷市ひと・まち・文化共創拠点〉のときは、京都大学の自分の研究室と共同でデータ解析をしました。これからはデータやコンピュテーション、あるいはAIを使って解析して、今まで取り付く島もなかったような要望や事案も見えるかたちにして、建築に反映させることができるかもしれないと思っています。

〈小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。〉Photo: Kenya Chiba
平田:具体的に何をどう解析したかというと、ヒアリングで出た100個の市民がやりたい行為について、3つくらいの評価軸を平均的に導入して、その行為の「近い・遠い」をネットワークで重ね合わせる仕組みで図化します。そのなかで近いものをじっと見ていると、「この辺のグループは1つの空間を共有できるだろう」ということが分かってくる。さらに「この部屋は防音でスピーカーやスクリーンがあったほうがいい」とか、「このくらいの広さなら共有できる」といったことがだんだん分かってきました。空間の性質や構造、そこで市民がやる行為を関係付けていく方法を取れば、ある程度論理的に進められるんです。
今まではそれが分からなかったから、「とりあえず、こういう部屋を何m²でつくっとこう。足りなかったらそのときに考えよう」だったんですけど、そうじゃないんです(苦笑)。

〈小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。〉Photo: akihisa hirata architecture office
平田:自分たちが出した意見が解析、解釈されて設計を進めているから、設計段階から街の人たちは設計に関心をもってくれるし、施設が使われ始めたときにはもういろんな使い方が工夫されています。このときは書架が動く図書館だったんですけど、そこで阿波踊りしたり、太鼓をたたいていたり(笑)。図書館は図書館だと思わず、「図書館は単なる空間で書架を動かせば、広い野原のような空間になる」と思う視点ができたことで、もともと決まっていた用途以外の使い方を発見してもらえる率が高まったということは感じています。
「ここは〇〇室です」と言っていたら、それしかできないと思い込んでしまいますが、「高さ4m、幅10m、奥行き15mの場所」と考えたら、「ここでこんなことしてもいいかな」って考えることができますよね。これからは同じ空間が別の解釈で使い倒される、そういう建築がもっと普及すると思います。

平田:公共建築や多くの人が集まる空間では天井の設計が本当に難しいんです。特に東日本大震災以降は、ボードで仕上げておけばいい、ということでは必ずしもないと感じていますし、とにかく吊って仕上げて、それで地震が来たら落ちてきて…ということ自体、いいことではないと思っているので、天井をなるべく仕上げたくないんです。
でも、ある程度仕上げが必要になってくるところもあります。壁はもう少しやりようもあるけど、天井はある程度スパンを通したりするときなど非常に悩ましく感じることが多いですね。そういったときに既製品で選べる軽い天井材があるとすごく助かるなと思います。

〈小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。〉Photo: Kenya Chiba
平田:〈太田市美術館・図書館〉は、鉄筋コンクリート構造の5つの箱と、その周囲を鉄骨構造のスロープがぐるぐる回ってできています。その鉄骨部分に関しては一切天井を張ってないんです。鉄骨部分のスロープは揺れで動くので天井を張りたくない、でも設備機器や配管もできるだけ出てきてほしくないので、設備機器などは天井を張ったコンクリート部分に全部入れています。コンクリート造の箱自体は地震時も変形などの恐れもないので、そこまで天井を張ることに抵抗感はなかったんですけど、そういう場所であったとしても「軽い天井」ということがベターかもしれません。

不燃軽量天井材「エアリライト」を手に持つ平田氏
平田:周囲の鉄骨部分のように動きが大きいところへ天井を張るのは、よほどのことがないかぎり避けたいのですが、設備も整えて…となると大変で、何も仕上げないことに費用がかかったりするんです。費用をかけてもできる場合とできない場合とあったりして、いつも悩んでいます。
パナソニック:「エアリライト」は3.11の震災以降、人の集まる場所への防災性から開発した製品で、特定天井を回避できる1㎡あたり560gの不燃軽量天井材です(スクエアタイプ・オフホワイト色面材のみの場合。取付け金具込みで730g/m²)。スクエアタイプなら4㎜幅の奥目地で、2200㎜の長尺パネルは9㎜目地で施工できるので、目地を目立たせたくないという意匠面での要望にも沿うと思います。

「エアリライト 設備ラインタイプ」採用例(深川ギャザリア/設計:NTTファシリティーズ)写真提供:パナソニックハウジングソリューションズ
平田:最近もう1つ、太田市で手掛けた公共施設(エアリスベース)も、天井は張らないですっきりした天井にすることを考えましたが、地震で落ちてくる心配のないような設計をしたいといつも考えていたので、「エアリライト」のような軽い天井材は1つの選択肢になりますね。

不燃軽量造作材「エアリライトルーバー」
パナソニック:パネルタイプのほかにも、不燃の天然鉱物と紙の繊維を利用した独自の素材で成型したルーバータイプもあります。アルミルーバーの場合は1mあたり1.2㎏ほどあるのですが、「エアリライトルーバー」は350gと軽量化を図りました。やはり頭の上に設置する造作ということで、万が一地震が起きてからの二次災害、天井落下などを考慮して安全安心なものでなければなりませんし、不燃性能が求められる天井材として採用できるよう、不燃認定も取得しています。

〈太田市美術館・図書館〉Photo: Daici Ano
平田:そういえば、艶のある天井に今興味があるんですね。空間の広がり感が全然変わるんです。「エアリライト」の塗装は珪藻土系の塗料とのことなのですぐには難しいと思いますが、メタリックではなくていいので今後、艶感のある仕上げのラインナップを期待したいです。目地底の色もコントロールできると嬉しいですね。
あと、「エアリライト」はボードで仕上げるタイプとルーバーのタイプがありますが、その中間もあると面白いなと思います。目地という概念はなくなりますが、厚さ4㎜の軽いボードなので、重なり合いながら吊ることができれば、まっすぐな天井より変化のある自由度の高い天井ができそうな気がします。
「軽い天井材」ということは安全面もそうですが、輸送時のCO2削減に貢献していると思います。製造面でも環境に配慮されると採用しやすくなるので、総合的にこれからもっと製品が進化するのを期待しています。
パナソニックの不燃軽量天井材「エアリライト」
「エアリライト(スクエアタイプ)」
地震などによる天井落下の危険性への対応として、2014年の建築基準法改定により、1㎡あたりの質量が2kgを超え、高さ6m以上、面積200m²以上の条件を満たす吊り天井は「特定天井」と定められ、揺れの影響を抑える耐震ブレースを下地に設置することが義務付けられた。
2020年12月に発売された「エアリライト」は、パナソニックの異素材複層成形技術で、ガラス繊維シートとアルミ箔をラミネートした表層材と軽量素材の発泡ウレタン樹脂をコア材とした厚さ4㎜の不燃軽量天井材。JIS規格の建築用鋼製天井下地と合わせて天井質量2㎏/m²以下を満たす、1m²あたり560gを実現(スクエアタイプ・オフホワイト色面材のみの場合。取付け金具込みで730g/m²)。
必要な金具は工場で取り付け出荷され、1枚あたりネジ2本で固定することで施工が完了し、耐震ブレースが不要となり省施工で設置できるため、安全性を保ちつつ人手不足にも貢献する。底目地で4㎜のクリアランスを開けて設置する「スクエアタイプ」、天井の設備機器をまとめられる「設備ラインタイプ」、金属製ルーバーに対して軽量化を図った「エアリライトルーバー」の3タイプ。
平田晃久|Akihisa Hirata
1971年大阪府に生まれる。1997年京都大学大学院工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務の後、2005年平田晃久建築設計事務所を設立。2015年より京都大学赴任。現在、京都大学教授。
主な作品に、〈桝屋本店〉(2006)、〈sarugaku〉(2008)、〈Bloomberg Pavilion〉(2011)、〈Tree-ness House〉(2017)、〈太田市美術館・図書館〉(2017)、〈9hoursプロジェクト〉(2018-2020)、〈Overlap House〉(2018)、〈八代市民俗伝統芸能伝承館〉(2021)、〈ハラカド〉(2024)、〈小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。〉(2024)など。
主な受賞に、第19回JIA新⼈賞(2008)、第13回ベネチアビエンナーレ国際建築展⾦獅⼦賞(2012、共同受賞)、村野藤吾賞(2018)、BCS賞(2018)、日本建築学会賞(作品、2022年)など多数。著書に、『Discovering New』(TOTO出版、2018)『平田晃久 人間の波打ちぎわ』(青幻舎、2024)、『建築は響きのなかに現れる』(王国社、2025)などがある。
インタビュー:2025年9月2日 平田晃久建築設計事務所にて
Photograph(人物): toha