[TU]Vectorworksプレゼン公開#06 ブルースタジオ大島芳彦2 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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Presentation method revealed
by Yoshihiko Oshima / blue studio(2/2)
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著名デザイナーのプレゼン手法公開! #06

[インタビュー]ブルースタジオ 大島芳彦:ストーリーで共感を育み、まちをつなぐ(2/2)

大島芳彦 / ブルースタジオ プレゼン公開

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著名デザイナーのプレゼン手法公開! #06

[インタビュー]ブルースタジオ 大島芳彦:ストーリーで共感を育み、まちをつなぐ(1/2)

デザイナーが準備したプレゼンの資料を公開するシリーズ「著名建築家・デザイナーのプレゼン手法公開」。ブルースタジオ・大島芳彦氏へのインタビューの前編では、共感を呼ぶビジョンのつくり方やリサーチの方法、ビフォー・アフターを見せるビジュアルイメージの使い方などを語ってもらった。

後編では、プレゼン内容が役立つ幅広い対象や効果、また想像力を補い引き出す役割について、近年取り組んだプロジェクトを中心に解説。BIMを導入した背景についても紹介する。

前編INDEX

  • 「リノベーション」とは多様な社会資源を掘り起こし再編集すること
  • 共感を呼ぶプレゼンテーションとビジョンづくり
  • 「逆プロポーザル」で企業を招致したエリアリノベーション
  • 徹底したリサーチから市民とビジョンを描く
  • ビフォー・アフターのイメージは段階が進んでから

後編INDEX

  • 人的資源を活かす「なりわい居住」の提案
  • プレゼンでクライアント内の合意形成を促進
  • BIM導入で効率を高めプレゼンテーションに活かす
  • クライアントの想像力を補い、引き出すプレゼン

大島芳彦|Yoshihiko Oshima

大島芳彦|Yoshihiko Oshima

ブルースタジオ一級建築士事務所 建築家・クリエイティブディレクター。
武蔵野美術大学建築学科 客員教授。
1970年東京都生まれ。3代目大家。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後アメリカ、ヨーロッパに学び大手組織建築事務所を経て、2000年ブルースタジオ一級建築士事務所としてアセットマネジメント、都市再生を目的とするリノベーション事業をスタート。その業務範囲は建築企画・設計、都市計画、ランドスケープデザイン、グラフィックデザイン、ブランディングと多岐にわたる。全国各地では自治体とともに地域再生ワークショップ「リノベーションスクール」の開催やまちづくり構想の立案などにも携わる。一般社団法人リノベーション協議会 副会長。
2016年団地再生プロジェクト〈ホシノタニ団地〉でグッドデザイン賞ファイナリスト金賞受賞。〈北条まちづくりプロジェクト morineki〉では2022年都市景観大賞(国土交通大臣賞)受賞、2024年日本建築学会賞(業績賞)受賞。2024年障害者シェアハウス〈はちくりはうす〉がグッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)受賞。

blue studio
https://www.bluestudio.jp

人的資源を活かす「なりわい居住」の提案

── 住宅地での開発事例についてお聞かせください。

大島:最近取り組んでいるテーマに、住居系の用途地域における「なりわい居住」があります。これは、軒先や家の一部で店舗などを営むことのできる店舗兼用の居住形態です。この1事例として、路線バスの終点折返場の土地に新築したプロジェクト〈hocco〉があります。通常、バス路線の終点は住宅地のど真ん中、都市計画の用途地域的には「第一種低層住居専用地域」であるケースが多く、この地域に建築が認められるのは住宅のみであり単独の商業施設や診療所の建築は認められていません。また駅からは最も遠い場所であるがゆえに賃貸住宅の建設もほとんど行われない場所です。そのような場所に5世帯の店舗兼用住宅を含む全13世帯のなりわい居住が可能な賃貸長屋をつくり、ここを地域コミュニケーションの拠り所とする計画です。

計画地の従前の様子。画像提供:blue studio

hocco

〈hocco〉のアプローチと全体。Photo: Kenya Chiba

都市計画の今までを振り返れば、住居系の用途地域はあくまでも居住を促進すべきエリアで、商業系や工業系の用途地域に比べてビジネスを成立させうる場として認識されておらず住宅開発以外の民間投資は少なく、宅地開発時の街並みがそのまま放置されているのが通常です。一方、現代社会が抱える最大の課題、人口減少、高齢化、福祉、子育てといった課題のほとんどはこのような住宅地で発生しています。つまり住宅地には課題解決の糸口を常に求める人々が大量に暮らしているわけで、そのためのアイデアやビジネスはまさに住宅地のバスの終点にこそ起きるべきではなかろうかと。「社会課題は新たな不動産価値の卵」です。このような場所にこそ、地域価値創造のきっかけとなる場づくりができるはずだと考えました。

この考え方が特に顕著になったのは、コロナ禍のステイホームによる働き方の変化です。家で過ごす時間が増える中で、人々は住宅地に必要なものが十分ではなかったことに気づくと同時に、地域のポテンシャルも実感しました。住宅地の魅力の本質は「生活者」そのものにあります。住んでいる人々の個性や生き様、趣味や特技はシェアすることによって地域の活力や魅力となり得ることがわかってきました。日本全国各地域、公園などで頻繁に開催されるようになった素人(生活者)参加によるマルシェイベントはその象徴です。それらは、地域独自の文化やコミュニティを支える大きな力になります。

店舗兼用長屋住宅、つまり居住実態のある店舗は、第一種低層住居専用地域でも一定の範囲で建築可能です。〈hocco〉では、ここに暮らす住民が自分の趣味や特技を活かした小商いを自宅の軒先と土間スペースで営むことができます。プロが商機を見出せないような住宅地の只中でも、バス終着点ターミナルは表現者たる生活者にとっては格好の自己表現の場になり得るという仮説です。第一種低層住居専用地域であっても、その法が施行された60年近く前には駅とは無関係に古くからの生活商店街があったような場所はたくさんあります。地域の生活者が地域住人のために営んでいた「なりわい(生業)」としての商売です。「商業」は禁止されたが「生業」は認められた。しかしそのようななりわい商店街は、大型駅前商業施設の隆盛によって今はほぼ消滅しました。「なりわい長屋」は、この仕組みを利用した地域商店街リバイバルのようなものなのです。

郊外住居地域では、高齢者が買い物弱者として孤立しています。多忙な共働き子育て核家族もやはり孤立し、不安を抱えています。一方で、経験豊富な団塊高齢者やミレニアル世代の子育て夫婦は、自分らしい暮らしと自己表現の場を求めています。そうであれば、今こそ自己表現可能な「なりわいスペース」を持った住宅がここに集結することによって、救われる人はたくさんいるはずだというビジョンでした。

実際に今暮らしている方々のなりわいは、雑貨店や惣菜店、パン・菓子工房、ヨガスタジオなど多種多様です。

〈hocco〉の軒先空間では各住戸の小商いの活動があふれる。Photo: Kenya Chiba

平成以降日本の住宅はプライバシーやセキュリティの観点から「個人のプライベート空間」として閉じられがちでしたが、その価値観は急速な人口減少と高齢化で住宅地の中に地域社会の分断と「孤立」という大きな問題を生んでしまっていたのです。〈hocco〉の住人たちは生業=なりわいという「半公共的な顔」を持ち、暮らしや生き様が地域に開かれています。居住者が主体となることで地域内の人的資源が活かされ、コミュニティ内での交流や学びのきっかけが自然に生まれます。また周辺農家との連携も行い、地域の野菜を販売する場を設けるなど、地域循環型の仕組みも取り入れました。結果として、単なる住宅や商店の集積ではなく、住民の個性や暮らしの価値が反映された地域づくりが実現されています。

プレゼンでクライアント内の合意形成を促進

── クライアントのバス会社との連携について、詳しく教えてください。

大島:当初依頼されていたのは、小田急バス営業エリア各地に散在する複数の遊休不動産資産の有効活用戦略の立案です。最初にバス会社としての不動産活用のビジョンそのものをクリアにすることから始まりました。大都市圏では、バス会社は鉄道会社の子会社である場合が多く、小田急バスも同様です。通常グループとしては、不動産活用事業のメインプレーヤーは駅前商業地を保有する親会社が担っています。しかし、バス会社も鉄道会社にはない独自の個性的な不動産資産を持っています。例えば整備工場跡や社員寮、折返場、待機場など、営業の合理化などによって遊休資産化しているものです。これら資産の経済的な有効活用は当然のタスクでありながら、地域公共交通を担う企業として、それぞれの不動産活用プロジェクトによる地域社会の課題解決と活性化もタスクとしたわけです。

私たちは「鉄道会社にはできないことを、バス会社だからこそ実現する」プロジェクトをデザインしました。その観点において、駅前商業地から最も遠い住居地域の課題解決をテーマとする不動産活用モデルは、バス会社ならではのコンセプト事業として最適だと判断したのです。

クライアントと共有したビジョン

通常の不動産活用事業のセオリーとは一線を画する事業戦略の提案ですから、先方の社内における合意形成に寄与するプレゼンが必要です。地域公共交通を担う企業にとって、単なる不動産活用ではなく「地域の課題を解決し未来を支える」というビジョンには大きな意味があります。社員1人ひとりが「自分たちの会社が地域にどう貢献できるのか」を理解することにつながり、企業ビジョンそのものを育てる1つのきっかけにもなりました。〈hocco〉はバス会社にしかできない、地域社会にとって唯一無二の価値を提供するものとなりました。そして単なる不動産収益ではなく、コミュニティ価値や地域社会に貢献するものとなっています。

小田急バスが社内外に示したビジョン。画像提供:blue studio

〈hocco〉全体のイメージイラスト(画像提供:blue studio

ちなみに工事中には、プレゼン資料として描いたイラストを現場に掲示しました。完成イメージを住民と共有し、工事中からワクワク感を持ってもらう。建物はまだ形になっていなくても、イラストを通じて「こんな場所になるんだ」と感じられることで、地域の関心が高まり、オープン後は自然に足を運ぶ人も増えました。プレゼンのビジュアルは合意形成のためだけではなく、完成前からコミュニティづくりを始めるためのツールでもあるのです。

BIM導入で効率を高めプレゼンテーションに活かす

── 住宅のプロジェクトについて、教えてください。ブルースタジオで本格的にBIMを導入したプロジェクトと伺っています。

大島:〈icca〉という個人住宅のプロジェクトについて紹介します。もともとはオーナーご夫婦の「面白い自宅兼賃貸住宅をつくりたい」という要望から始まりました。そこで考えたのは、まずご自身の家族が自身の理想の暮らしの実現を徹底的に考え、その価値観、世界観のもとに複数の家族が集まって住む家とすることです。オーナーご家族自身がコミュニティのハブとなり、大きな屋根の下で生活や交流が生まれる顔の見えるコミュニケーションを実現する構想です。誰でもOKということではなく、気心の知れた間柄が一緒に暮らすような、そんなことで「セレクティブハウス」という呼び方になりました。不動産取得からお手伝いし、理想の街探しに始まり、理想の不動産を探し、最終的に埼玉の川越に決定しました。

〈icca〉のエントランス。Photo: Yoshiyuki Chiba

取得した土地はかつての川越城の城内を意味する「郭」にある場所で、いわゆる小江戸川越の蔵造りの商家が立ち並ぶエリアとは異なる高台の城址らしい、いわれのある森や寺社建築など歴史的資産が周囲に点在しています。この環境を活かして「森の中の家」、城の象徴である「楠の木」などをテーマでデザインしました。設計の過程でさまざまなデザイン案を検討し、複数の家が大きな屋根の下、あるいはツリーハウスのように集合しているイメージを重ねていきました。

設計プロセスでは、3階建て案が2階建てになったり、中央にシンボルツリーを設置したりと、設計変更が繰り返されました。このときに「Vectorworks Architect」にてBIM機能を活用してスタディを繰り返しながら柔軟に設計を進めることができました。〈icca〉は、私たちにとって初めて基本設計、実施設計もBIMで制作した住宅プロジェクトです。

最終的には家型のボリュームを2つ並べ、1階に大家さんの自宅、2階には3戸の賃貸住戸を配しました。大家さん住宅のダイニングキッチンは入居者にいつでも開放されており、ここでは入居者みんなが自由に過ごすことができます。

── 「Vectorworks Architect」導入の経緯や使い方を教えてください。

大島:私たちの世代は、手描きからCGまで幅広く経験してきました。私自身はアメリカ留学中にVectorworksの前身であるMiniCadに触れ、組織設計時代には他のCADソフトも使っていました。自分でコンペに出すときや設計スタディでは、Vectorworksと3DCGソフトでパースを描いてプレゼンをしていました。

ブルースタジオでは2年ほど前からBIM導入を目的に「Vectorworks Architect」を使用しています。主な目的は、2Dと3Dのデータの一致と煩雑な作業の効率化、また実施設計での間違い防止といったことです。これまで「Vectorworks」をベースに図面作成を行っていたため、同じソフトでBIM化を進めることは自然の流れでした。

BIMの導入における社員の反応はネガティブではなく、皆、積極的に取り組んでくれました。初期設定などのハードルはありましたが、Vectorworksのサポートを活用して乗り越えることができました。その後は、協力設計事務所とのやりとりなど、日々の業務の中でBIMの知識を学んでいくこともできるので、少しずつ知識も増えてきています。

〈icca〉を担当したスタッフによれば、途中でプランの大きな変更がありましたが、平面の修正だけですべての情報が変更できるので、変更にも柔軟に対応することができました。また「グラフィック凡例ツール」を使用することで、建具表の作成が自動化できています。

Vectorworks Architectのグラフィック凡例ツールにて作成した建具表

Vectorworks Architectのグラフィック凡例ツールにて作成した建具表

面積拾いにおいても自動で数値を拾い出せたので、手入力によるミスを軽減でき、さまざまな業務が効率化できたようです。今後は協働設計の「プロジェクト共有」なども活用し、さらなる効率化ができればと思います。

クライアントの想像力を補い、引き出すプレゼン

── デジタルツールは、プレゼンでどのようなメリットがあるでしょうか。

大島:建築の提案においては、クライアントの想像力を補うことが重要です。〈ukara〉でも説明しましたが、特にリノベーションの場合、古い建物についてはマイナスのイメージを持たれがちで、未来をイメージしてもらうことは大きなハードルになります。マイナスをプラスに変えるためのツールの1つとして、CGパースを含めたビフォー・アフターの表現は有効だと思います。

一方で、クライアントの想像力を引き出してあげることを考えると、具体的すぎずにぼかしたほうがいい場合もあります。そうした場合はイラストやスケッチ、模型などの表現がありますし、ストーリーを表す文章や語り、身振り手振りを交えたプレゼンが有効かもしれません。いずれにしても大切なのは、どんなツールを使うかよりも、どんなイメージを共有するかということ。プレゼンの方法やツールはクライアントやプロジェクトのフェーズに合わせて、多様であるべきでしょう。

── 改めて、プレゼンで大切にしている姿勢を教えてください。

大島:建築家としての職能の核心はイマジネーション、想像力にあると思っています。ですが、私が最も避けたいのはクライアントから「おまかせします」と言われる状況です。CGパースなどの表現を先に追求しすぎると、もしかすると設計者もクライアントも想像力を働かせることが妨げられるかもしれません。プロジェクトのプロセスでは、クライアントからも想像力を引き出し、当事者意識を持ってもらうことが絶対条件です。

公共でも民間でも、建物を運営して活かしていくのはオーナー自身。ブルースタジオがデザインしたと認識されることよりも、クライアント自身が自分の言葉で建築の意味や価値を語れるようにすることが、私たちの役割だと考えています。プレゼンは、その当事者意識を引き出すためのプロセスであり手段だと思っています。

(2025.07.28 ブルースタジオ設計の木造ビル〈OS melia〉にて)

特記なき図版・画像提供:ブルースタジオ
Photo & movie: toha
Interview & text: Jun Kato

大島芳彦 / ブルースタジオ プレゼン公開

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