谷尻 誠が語る「暮らし」と「商い」の境界を越える新しい都市型ライフスタイル 週末カフェからSOHOまで、低コストでまちに開く賃貸モデル「商住宅」 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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谷尻 誠が語る「暮らし」と「商い」の境界を越える新しい都市型ライフスタイル 週末カフェからSOHOまで、低コストでまちに開く賃貸モデル「商住宅」

谷尻 誠が語る「暮らし」と「商い」の境界を越える新しい都市型ライフスタイル

週末カフェからSOHOまで、低コストでまちに開く賃貸モデル「商住宅」

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都市の賃貸住宅において、1階はもっとも空きが出やすい弱点とされてきました。住む人にとってはプライバシーや安全性の面から敬遠されがちで、街としても1階は空きテナントになりがちという課題に対し、新しいアプローチを打ち出したプロジェクトが「商住宅」です。

©︎SUPPOSE DESIGN OFFICE

「暮らし」と「商い」が両立する空間の再解釈|谷尻 誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE)

昔の日本の家は、玄関先で商いをし、奥には座敷があって、子育てや生活と仕事が自然に重なっていました。しかし現代では“食住分離”が進み、暮らしと働く場が切り離されてしまっています。そこで、昔ながらの小商いができる住まい方を再現できないかと考えました。打ち土間を設けてお客さんを招き入れる仕組みは、そのための工夫です。

また、一般的な賃貸住宅では1階の入居が最後まで決まらず、家賃も下げざるを得ないケースが多いのに対し、商住宅では1階をもっとも高い家賃に設定しながら、最初に入居者が決まったのです。お客様との接点を持ちやすい1階は、商いをする人にとっては利便性が高い一方で、通常の住居利用者には敬遠されやすい。その価値観の逆転こそが、大きな特徴といえます。

– 「商い」と「住まい」が両立している商住宅の特徴について教えてください。

谷尻:商住宅は、賃貸住宅の1階部分を「店舗併用住戸」として設計する新しい試みです。単なる店舗付き住宅ではなく、住む人が暮らしと商いを一体化できることを前提に構想されています。その特徴は、かつて当たり前にあった「玄関先で商い、奥で家族が暮らす」ような小商いの住まい方を現代に再現した点にあります。

昭和初期までの日本では、生活と商いはひとつの空間に重なって存在していました。商住宅は、かつて当たり前だった「暮らしと商いの一体化」を現代に取り戻し、その知恵を現代都市に置き換え、週末だけカフェを開く、趣味の延長で物販を行うといった、住みながら小商いを営むライフスタイルを可能にする建築的提案です。

– 商住宅の、建築的・空間的な工夫や特徴は、どのような点にありますか?

谷尻:空間設計の要となるのは「土間」です。土間を住居と店舗の中間領域とすることで、日常生活と商いが自然に切り替わる柔軟な空間を生み出しています。さらに、外部に対してはガラス面を広くとることで、住宅でありながらまちに開く姿勢を示し、街並みに賑わいを取り戻しています。

また、居住スペースについては、水回りは浴槽は設けずシャワー室のみとし、洗面はキッチンと兼ねる形にしています。現代のライフスタイルに則したコンパクトな仕様とし、家具のように隠せる仕組みを採用しました。限られた面積を効率的に活かしながら、都市生活者に適したサイズ感を追求しています。

谷尻:商住宅のもうひとつの強みは、入居者にとって開業のハードルが低い点にあります。例えば、飲食店を新規開業する場合、通常は数百万円規模の初期投資が必要となります。しかし、商住宅では保健所の規定を満たすキッチンや水回りを標準で備え、家具を置くだけで営業可能な状態が整えられており、入居直後から自由に商いをスタートさせることが可能になっています。また、敷金は通常の住宅と同様の1カ月分に設定されているほか、フリーレントを設けるケースもあり、これまで高い障壁とされていた「開業資金」を大きく抑える仕組みを実現しています。

商住宅のモデルが持っている可能性について教えてください。

谷尻:一般的な賃貸では、1階は人気が低く、賃料を下げざるを得ないことが多い中、商住宅は店舗利用を前提に設計したことで、1階がもっとも需要の高い住戸となり、建物内で最も高い賃料にもかかわらず最初に入居が決まりました。これはオーナーにとっても有利なビジネスモデルとなり、従来の価値感が逆転した賃貸経営の常識を覆す事例といえます。

谷尻:また、入居者にとっては「住みながら商う」という新しいライフスタイルを可能にし、オーナーにとっては収益性を高める賃貸経営の仕組みを提供しています。さらに、街にとっては、閉ざされた空間が開かれることで新しい賑わいが生まれ、入居者・オーナー・地域の三者それぞれにメリットが循環されるような構造が実現されています。

商住宅は、「賃貸住宅の弱点を克服し、個人の小商いを後押ししながら街に活気をもたらす」という、かつての知恵を現代に置き換えた都市における暮らし方の更新、住まいと商いを重ねる新しい選択肢として、これからの都市型ライフスタイルに大きな可能性を示しています。

佐藤 丹音(つくる地所株式会社 担当)

谷尻さんから商住宅のアイデアを最初に伺ったとき、大きな刺激を受け、「ぜひ実現したい」とワクワクしたのを覚えています。私たちディベロッパーの視点からは、建物の収益性に加え、実務・スキームの側面を組み合わせることで、その構想を実効性あるプロジェクトとして具体化し、拡張性あるモデルへと育てていきたいと考えています。引き続き、この新しい賃貸住空間の可能性を、ともに広げていければ嬉しく思います。

宮城 裕介(YURAGI ARCHITECTS)

商住宅は「住みながら働ける空間」をコンセプトとし、各住戸は道路や廊下に面して大きく開口し、外に開いた土間空間を設けています。1階を長屋、2・3階を共同住宅として構成し、内部は、大きな間仕切りで土間空間とリビング空間に分かれています。共用部にはトイレを設け、店舗利用時に対応できるようにしました。各住戸はコンパクトな面積ながら、最大限の活動ができるように、収納と水回り(トイレ・キッチン・洗濯機置場・シャワーブース)をコンパクトにまとめました。外観は打放しコンクリートに200角のリブを施すことで、装飾にとどまらず構造や庇、手すり、排水溝の機能を持たせています。内部はコンクリートの質感を活かし、グレー、ブラック、ブラウン、ホワイトの4色に抑えた落ち着いた構成としました。1階店舗にはオリジナルキッチンを造作し、部屋のトーン&マナーを合わせ統一感を持たせています。サインは「住」と「商」を組み合わせたロゴを用い、住宅と商いの融合を表現しています。(ロゴデザイン:稲垣小雪)

 

写真:TECTURE MAG
参照:「商住宅」内覧会配布資料


商住宅 中野新橋 概要

基本設計・デザイン監修・企画:Office yoh株式会社
企画・開発:つくる地所株式会社
実施設計:YURAGI ARCHITECTS
施工  :FUJIKEN株式会社

商住宅ウェブサイト   https://shojutaku.com/
商住宅Instagram   https://www.instagram.com/sho_jutaku/

 

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