中国・上海の黄浦江沿いにスノヘッタ(Snøhetta)が設計を手がけた舞台芸術施設〈上海グランドオペラハウス(Shanghai Grand Opera House)〉が誕生しました。
川の流れや都市の躍動に呼応する螺旋状の屋根が特徴であり、屋上を市民に開放することで、劇場としての機能と公共空間を融合させ、都市とウォーターフロントをつなぐ新たな文化的ランドマークを形成しています。
注目ポイント
- 市民のための公共空間へと拡張する螺旋状の屋根
- 都市と川をつなぐ、幾何学的かつ流動的な建築構成
- 多様な公演に対応する3つのホール
- 環境に応答するパッシブデザイン
(以下、スノヘッタから提供されたプレスキットのテキストの抄訳)

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
中国・上海の黄浦江沿いに、新たな文化的ランドマークとなる〈上海グランドオペラハウス〉が誕生した。世界でも有数のダイナミックな都市である上海において、開放的な文化的ランドスケープを形成する施設である。
世界水準の舞台芸術を提供する劇場施設と、誰もが気軽に訪れることのできる公共空間を融合させることで、市民や来訪者を等しく迎え入れ、文化、建築、そして都市生活に触れる機会を創出している。
上海がもつ「開放性」「交流」「革新」の精神を礎に、文化へのアクセスを広げると同時に、芸術表現と市民参加のための新たなプラットフォームを生み出すプロジェクトである。

©︎ Tian Fangfang

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
2016年に開催された国際設計コンペティションで、ノルウェーの設計事務所スノヘッタの提案が選出された。その後、2019年にはスノヘッタ、華東建築設計研究院(ECADI)、シアター・プロジェクツ(Theatre Projects)、永田音響設計(Nagata Acoustics)からなる国際コンソーシアムが正式に委託を受け、構想から完成に至るまでプロジェクトを推進した。
スノヘッタが培ってきた舞台芸術施設の設計経験と、現地のパートナーや専門コンサルタントの豊富な知見を融合させることで、グローバルな視点をもちながら、地域の文脈にも的確に応える設計アプローチを実現している。
延床面積146,786m²を誇る〈上海グランドオペラハウス〉は、伝統的なオペラやクラシック音楽から、新たな観客層に向けた実験的な作品まで、幅広いジャンルのパフォーマンスに対応する施設である。
総座席数4,200席を有する3つの客席ホールを備え、公演、リハーサル、制作、教育、展示、ホスピタリティといった多様な機能を1つの屋根の下に集約している。充実した設備を備えた本格的なオペラハウスとして、幅広い舞台芸術活動を支える施設である。

©︎ Honne Dang

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
設計の指針となったのは、「動き」「帰属感」「体験」という相互に関連する3つの概念である。
「動き」は、建築的かつ社会的なつながりを生み出す要素であり、人々が建物に近づき、内部へと入り、各空間を移動する一連のプロセスを形づくる。「帰属感」は、すべての人を温かく迎え入れる開放的な環境を生み出す、寛容な公共的配慮(シビック・ジェスチャー)を通じて醸成される。そして「体験」は、デザインの中核となる概念であり、来館者、観客、出演者それぞれが感じる空間の雰囲気や、連続する空間体験(シークエンス)を決定づけている。

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
敷地を包み込むような大きな「動き」は、黄浦江の潮の満ち引きや、周囲の都市の躍動に呼応している。その動きによって形成された一体的な屋根が、レストラン、展示スペース、教育センター、客席ホールといった多様なプログラムを1つにまとめ上げている。相互につながる空間は周囲の景観と対話し、オペラハウス、都市、そして川の間に視覚的なつながりを生み出している。
都市、ウォーターフロント、ランドスケープをつなぐ流動的な境界によって、公共領域は敷地全体に拡張され、さらに建物の内部へと連続していく。幾何学的なファサードは、複数の公共フロアを統合し、建物全体を一体的な構成としてまとめ上げることで、この連続性を強化している。一方、建物の外装は、透明性と保護、開放性と閉鎖性という相反する性質を調整する役割を担っている。
屋根は、年間を通じて利用できるステージや展望デッキ、人々が集う場所として機能し、市民が建物を自分たちの共有財産として感じられる空間を生み出している。地上と屋根をつなぐ螺旋階段は、黄浦江や上海のスカイラインへの眺望を切り取りながら上昇する構成となっており、単なる移動行為そのものを、建築の公共性を特徴づける空間体験へと変えている。

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
建物の大きなガラス面は、主要な空間に自然光を取り込み、時間帯や季節の移ろいとともに建築の表情を変化させる。夜間には、外部照明によってステージタワーが光を放つボリュームへと変貌し、屋根やスカイラインに躍動感を与える。
外観にみられる「動き」の表現は内部空間にも展開され、互いにつながりながらも、それぞれが独自の個性をもつ一連の空間を形成している。白を基調とした外観とは対照的に、内部には柔らかな質感の素材が採用されている。ギャラリーの床やホールの内壁を構成するこれらの素材は、空間の印象を形づくるとともに、優れた音響特性の実現にも寄与している。

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
メインホールは、深みのある暗赤色に染められた大きな塊から、内部を削り出したかのような空間として構成されている。オペラ上演に求められる条件に基づいて設計された空間の形状や表面は、人の声と共鳴するように綿密に形づくられている。
3つの客席ホールは、雰囲気や規模、技術仕様がそれぞれ異なるものの、1つの屋根の下で互いに補完し合い、多様な公演形式や観客層に対応している。素材や色彩のトーンは、暗い色調から明るい色調へと段階的に変化する構成となっており、各ホールの個性を際立たせながら、空間同士の間に繊細なヒエラルキーを生み出している。

©︎ Chen Hao

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
〈上海グランドオペラハウス〉の中核をなすのは、2,000席を有するメインホールである。1階のアリーナ席、2階の特別席、そして3層のバルコニーからなる計5層に客席が配置され、舞台までの視距離を最小限に抑える設計となっている。側壁沿いには小規模なボックス席も組み込まれており、親密な雰囲気を高めるとともに、観客と舞台との一体感を強めている。このメインホールは、最先端の劇場システムと綿密に調整された音響特性を融合させることで、精緻に調律された楽器のような機能性を備えている。

©︎ Chen Hao

©︎ Tian Fangfang
1,200席を収容する第2ホールは、より親密な空間で小規模な作品を上演するのに適した劇場である。特にバロック・オペラやクラシックオペラ、オペレッタ(喜歌劇)、地方作品、演劇などに適した空間となっている。
一方、1,000席を収容する第3ホールは、舞台や客席の構成を柔軟に変更できる設計となっており、実験的かつ多様な公演形式に対応可能である。伝統的な作品から既存の形式にとらわれない作品まで、幅広い上演に対応するほか、周囲の公園や屋上へと広がるパノラマビューも楽しむことができる。

©︎ Chen Hao

©︎ Chen Hao

©︎ Honne Dang

©︎ Honne Dang

©︎ Tian Fangfang
設計における大きな課題の1つは、大規模な劇場施設がもつ技術面・運営面の複雑さと、人々を惹きつける親しみやすい佇まいとを両立させることであった。
本プロジェクトでは、多様な機能を統合し、動線を明確化するとともに、公共の通路を分かりやすく魅力的な空間として設計する、統一的な建築アプローチによってこの課題に応えている。これにより、チケットを購入した観客だけが利用する施設ではなく、誰もが利用できる開かれた建築のあり方として、劇場という建築類型(タイポロジー)を再定義している。

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Honne Dang

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Chen Hao
これは、スノヘッタが設計したノルウェー・オスロの〈オスロ・オペラハウス〉でも探求してきた手法である。同施設では、一般の人々が建築に自由にアクセスできることが、建物のアイデンティティを形成し、公共施設として成功するうえで不可欠な要素となっている。
建築であり水辺のランドスケープでもあるオペラハウス、工業用ウォーターフロントを公共空間へと開発する、スノヘッタが設計した〈オスロ・オペラハウス〉ノルウェー
〈上海グランドオペラハウス〉においても、来訪者は必ずしも公演を鑑賞する必要はなく、建物そのものを体験することができる。自由に立ち入ることのできる屋上、流れるようにつながる公共エリア、周囲の景観との一体化、レストラン、展示スペース、教育施設などが、公式なイベントから日常的な利用まで、さまざまな活動を支えている。
建築と芸術が交差するこの公共空間は、人々を招き入れ、集い、探索する機会を生み出すことで、来訪者自身が建物の中で育まれる公共的な営みの一部となる場所を形成している。

©︎ Chen Hao

©︎ Chen Hao
〈上海グランドオペラハウス〉は、黄浦江沿いのウォーターフロント形成においても積極的な役割を担っている。公共空間を拡張するとともに、世博後灘(Expo Houtan)地区の再生にも貢献する建築である。
周囲のランドスケープは、建物の形状に沿った放射状のレイアウトで構成されており、オペラハウス、公園、都市、そして川の間のつながりを強めている。

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Tian Fangfang

©︎ Tian Fangfang

©︎ Yumeng Zhu
また、本プロジェクトでは、革新的かつ思慮深いデザインによる環境への配慮も重視されている。パッシブデザインの採用、ランドスケープとの一体化、自然光の活用といった設計手法によって、建物の環境性能を高め、エネルギー需要の削減にも寄与している。
これらの取り組みは、公共生活に対してオペラハウスが果たす幅広い役割を反映したものである。誰もがアクセスしやすい開放的な環境として構想されたこの施設は、文化活動への参加や地域コミュニティによる利用を促進し、あらゆる人々にとっての目的地として、長期にわたり価値をもち続けることを目指している。

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu
〈上海グランドオペラハウス〉は、建築、舞台芸術、公共生活、そして絶えず変化する上海の文化的アイデンティティを、1つの連続した空間へと融合させた施設である。そのデザインには、都市がもつダイナミズムや開放性に加え、芸術へのアクセスを拡大しようとする上海の志向が反映されている。
国内外の建築家、劇場プランナー、音響設計家、技術者、そして職人たちの共創によって実現したこのプロジェクトは、グローバルな視点と、地域の文脈を踏まえた緻密な設計とを融合させている。
単なる劇場施設という枠を超え、〈上海グランドオペラハウス〉は、芸術表現と市民生活のための共有の場を創出している。世界水準のパフォーマンスを支える舞台機能を備える一方、その公共空間は、文化体験を客席ホール内にとどめることなく、都市の日常的な営みへと広げている。
なお、2027年春には、〈上海グランドオペラハウス〉を表紙に据えたスノヘッタの作品集『Context and Concept: Selected Works』が、Thames & Hudson社より世界各国で出版される予定である。

Image by Snøhetta

©︎ Chen Hao

©︎ Chen Hao

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Yumeng Zhu

©︎ Snøhetta

©︎ Snøhetta

©︎ Snøhetta

©︎ Snøhetta

©︎ Snøhetta

©︎ Snøhetta

©︎ Snøhetta
上海グランドオペラハウス
所在地:上海
製作期間:2016 年~2026 年
状況:完成・開館済み
規模:146,786 m²
クライアント:上海グランドオペラハウス
協力:華東建築設計研究院(ECADI)、シアター・プロジェクツ(Theatre Projects)、永田音響設計(Nagata Acoustics)
設計範囲:建築、ランドスケープ・アーキテクチャ、インテリア・アーキテクチャ
用途:劇場施設、公共空間、デスティネーション、レクリエーション、教育施設、ギャラリー、レストラン、ホスピタリティ施設、トランスフォーメーション、ワークスペース・制作施設
写真:Chen Hao, Tian Fangfang, Yumeng Zhu, Honne Dang, StudioSZ Photo | Justin Szeremeta
スノヘッタ 公式サイト
https://www.snohetta.com/