■東京2020 マラソンコースで注目の札幌建築
東京2020オリンピック競技大会もいよいよ終盤に差し掛かり、「五輪の華」と呼ばれるマラソンへの期待が高まっています。
幻となった東京でのマラソンコースの名建築巡りも楽しみでしたが、札幌にも見どころがある建築物は数多くあります。
この記事では、札幌で開催される東京2020オリンピック マラソンコースに登場する主な建築物を一挙に紹介します。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点で、競技のスタート・フィニッシュ地点の札幌大通公園をはじめ、コース各所では立ち入り禁止エリアが設けられています。
テレビ・インターネット中継などでの応援・観戦に、お役立てください。
また、紹介する各施設の開館・営業状況などの詳細については、各施設のホームページなどをご確認ください。
(トップ画像は〈北海道庁旧本庁舎〉(赤れんが庁舎)〉)
■東京2020オリンピック マラソンコースはどこを通る!?
札幌で開催される東京2020オリンピック マラソンコースは、札幌大通公園をスタート・フィニッシュとして、変則的な周回コースが設定されています。
大通公園を出た後の1周目は約20kmの大きいループを反時計回りに周回し、2周目と3周目はおよそ10kmの小さいループを、やはり反時計方向に回ります。
(札幌市ホームページ より)
「さっぽろテレビ塔をバックにスタートしたのち、すすきの~中島公園~豊平川~創成川通~北海道大学~北海道庁旧本庁舎(赤レンガ庁舎)と北海道・札幌の発展の歴史を巡り、その魅力を世界に伝えるコースになっています。」
(札幌市ホームページ より)
(参考)札幌市ページ
https://www.city.sapporo.jp/sports/tokyo2020/marathonracewalk/index.html
なお、競歩は大通公園を南北に貫く札幌駅前通を周回するコースで行われ、男子と女子の20kmが1kmのコースを20周、男子50kmが2kmのコースを25周します。
■札幌大通公園 - 延焼防止から設けられた特殊公園
▲〈大通公園〉(Photo: Adobe Stock / tkyszk)
札幌市の中心部に位置する〈大通公園〉は、大通西1丁目から大通西12丁目までの長さ約1.5km、面積約7.8haの特殊公園(註:目的や立地が制限される公園)です。
設計は、近代公園の先駆者であり「日本人初の公園デザイナー」である長岡安平(ながおか・やすへい)。
今回のマラソンコースで傍を通る〈中島公園〉も、長岡の基本設計によるもの。東京・港区の〈芝公園〉も長岡が手掛けています。
大通公園の発祥と歴史は、札幌市の発祥から歩みを共にしています。
北海道開拓使が札幌に置かれ、碁盤の目状の区画が構想されたのが1869年のこと。1871年には中心部を北の官庁街と、南の住宅・商業街とに分ける「火防線(かぼうせん:延焼を食い止める空地帯)」がつくられました。これが「後志(しりべし)通」という道路になり、改称されて「大通」に。
多目的に利用されるようになった大通の整備計画のために長岡が招かれ、公園として整備されることになりました。
現代では、市民の憩いの広場であるとともに、年間を通じてさまざまなイベント会場として多くの観光客にも親しまれています。
(参考)公益財団法人 札幌市公園緑化協会ページ
https://odori-park.jp/history/
今回、五輪シンボルマークのモニュメントが、マラソンコースに面した大通公園10丁目西側広場に設置されました。高さ3.5m・幅5.5mの大きなサイズで、パラリンピック最終日の9月5日まで。
公園西側の西8丁目と西9丁目の中間には、札幌ゆかりの彫刻家イサム・ノグチのデザインによる滑り台遊具〈ブラック・スライド・マントラ〉(1992)も設置されています。
公園に隣接する西13丁目には、国の登録有形文化財に選定された〈札幌市資料館〉(1972。もとは〈札幌控訴院〉1926、設計:関根要太郎)もあり、大通公園には見どころが満載です。
▲〈札幌市資料館〉
■さっぽろテレビ塔 - 東京タワーの内藤多仲が設計したランドマーク
▲〈さっぽろテレビ塔〉
大通公園の東側の端・西1丁目に位置するのが、〈さっぽろテレビ塔〉です。
札幌でのテレビ放送開始を機に1957年に竣工した塔は、高さ147.2m。高さ約90mの位置に展望台があり、360度の眺望を得られるスポットとして現在でも人気を博しています。
設計は、「塔博士」として知られる内藤多仲(ないとう・たちゅう)。
鉄塔を多く設計し、〈東京タワー〉(1958)や〈名古屋テレビ塔〉(1954)、〈通天閣〉(1956)も手掛けており、他の都市と同様に札幌市のランドマークとして建ち続けています。
(参考)さっぽろテレビ塔ページ
http://www.tv-tower.co.jp
■札幌市時計台 - 大空間を抱き 鐘を鳴らし続ける由緒ある演武場
▲〈札幌市時計台〉
大通公園にほど近い〈札幌市時計台〉も、札幌市の歴史と共にあるシンボル的な建築物。
正式名称は「旧札幌農学校演武場」。現在の北海道大学の前身となる札幌農学校の演舞場として、初代教頭・クラーク博士が構想し、北海道開拓使工業局の設計により1878年に竣工しました。
現在、館内は1階が大展示室、2階がホールとなっており、見学可能です(註:現時点では臨時休館)。
2階の大きな空間は洋風の小屋組を使用し、両側の壁の広がりを防ぐために細い鉄管(タイバー)で緊結することで、実現しています。
外観で特徴となっている大きな時計は、当初は付いていませんでしたが、開拓長官の指示で付けることに。
設置から140年が経った現在も現役で動き、毎正時に鐘を鳴らしています。
これは電動ではなく、機械式。週に2回、時計の針と鐘を動かす2つの重りを人の手で巻き上げて動かしています。
(参考)札幌市時計台ページ
http://sapporoshi-tokeidai.jp/know/structure.php
■北海道大学 札幌農学校第2農場(モデルバーン) - 赤い屋根が目を引く農場施設
マラソンコースは、北海道大学のキャンパス内を通るルートが設定されています。
(北海道大学ホームページより。マラソンコースと紹介する建物を示す赤マーカー部は加筆) https://www.hokudai.ac.jp/introduction/campus/campusmap/
クランク状に曲がるルートの付近で登場するのは、〈札幌農学校第2農場(モデルバーン)〉。
「模範的畜舎」を意味する「モデルバーン」の名のとおり、酪農や畜産経営の実習施設として1876年に開設されました。
▲〈札幌農学校第2農場(モデルバーン)〉
赤い切妻屋根を載せた建物群は、クラーク博士の構想にもとづくもの。
札幌農学校第2農場には9棟の歴史的建造物が保存されており、現在はW.ホイラーが設計した〈模範的家畜房〉、W.P.ブルックスが設計した〈穀物庫〉が内部公開されています(註:現時点では屋内公開を休止)。
大きな内部空間をつくるため、ツーバイフォー構法に含まれる「バルーンフレーム」という構法を使って建てられました。
(参考)北海道大学総合博物館ページ
http://www.museum.hokudai.ac.jp/outline/dai2noujou/
■北海道大学 総合博物館 - 重厚な外観と開放的な吹き抜けを持つ施設
▲〈総合博物館〉
同じ北海道大学キャンパス内で南北を貫くメインストリートに面する、重厚な建物は〈総合博物館〉。
鉄筋コンクリート造3階建てで、茶褐色のスクラッチタイルやテラコッタが張られた外壁に、アーチ形状の窓やポーチがつくられています。
設計は、北海道帝国大学営繕課の萩原惇正(あつまさ)によるもの。
〈北海道帝国大学理学部本館〉として1929年に竣工しました。
札幌農学校開校以来の学術標本を管理し情報を発信するために、総合博物館として再利用することが決定し、2001年に第1期の改修工事を実施して公開展示がされています。
内部では、「アインシュタインドーム」と呼ばれている、リブヴォールトの白い天井を持つ吹き抜け空間が見どころの1つとなっています。
(参考)北海道大学総合博物館サイト
https://www.museum.hokudai.ac.jp/outline/building/
■赤れんが庁舎(北海道庁旧本庁舎) - 赤れんがの愛称で知られる札幌のシンボル
▲〈北海道庁旧本庁舎〉
北海道大学を抜け、札幌駅前に建つのは〈北海道庁旧本庁舎〉。
八角塔やマンサード屋根を抱くアメリカ風ネオ・バロック様式の建築物は、「赤れんが」の愛称で呼ばれています。
札幌近郊で焼かれてつくられた、約250万個のレンガが使われています。
建物は、平井晴二郎(ひらい・せいじろう)の設計により、1888年に竣工。
1968年に北海道100年を記念してJR札幌駅前に復原され、北海道立文書館などとして公開されています。
内部の主な見どころは、正面ホールの三連アーチと階段。格調高い設えが各所に施されています。
(参考)北海道 ホームページ
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/sum/sk/akarenga.html
■その他にも札幌建築は多種多様!
東京2020オリンピック マラソン競技会場となる札幌では、開拓以来の歴史的な建造物を中心に保存・活用が積極的にされており、さまざまな建築が楽しめます。
マラソンコースで傍を通る「中島公園」内には、〈豊平館〉〈八窓庵〉〈北海道立文学館〉〈札幌コンサートホールKitara〉(設計:北海道開発コンサルタント[宮部光幸・小杉秀明・木村孝])など、文化・歴史に関する施設も充実。
札幌市内にはその他にも、訪れたい名建築がいろいろ。
安藤忠雄氏による設計も多く、〈渡辺淳一文学館〉や、〈北海道庁立図書館〉をリノベーションした〈北菓楼 札幌本館〉、少し足を伸ばせば〈真駒内滝野霊園 頭大仏殿〉があります。
原広司+アトリエ・ファイ建築研究所、アトリエ・ブンクの設計による〈札幌ドーム〉は、東京2020オリンピックでサッカー会場に。
そして、彫刻家イサム・ノグチがデザインした壮大な〈モエレ沼公園〉も、札幌市内にあります。
オリンピック マラソンコースをたどるもよし、周辺の建築を巡るもよし。
機会をみて、札幌の建築探訪をぜひ楽しんでください。
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