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【会場レポート】「イサム・ノグチ 発見の道」東京都美術館にて回顧展 8/29まで

FEATURE2021.08.16

【会場レポート】「イサム・ノグチ 発見の道」東京都美術館にて回顧展 8/29まで

イサム・ノグチとは何者か? 再発見する回顧展

20世紀を代表する彫刻家で、洋の東西とジャンルを横断して活躍したイサム・ノグチ(1904-1988)の展覧会が、東京都美術館にて8月29日まで開催されています。

東京都美術館「イサム・ノグチ 発見の道」

東京都美術館 外観

洋の東西の間で揺れ動いた84年の生涯

ノグチはアイルランド系米国人の母と、詩人の野口米次郎を父に、1904年にロサンゼルスで生誕。出生時にはすでに日本に帰国していた父を頼り、3歳の時に母子で対日。父母は籍を入れないまま、幼少期を日本で過ごします[*]
イサム・ギルモアとして、横浜のインターナショナルスクールに通っていた時分には、自宅の建築現場に出入りしていた大工に木工の手ほどきを受けるなど、ものづくりへの素養が育まれました。
*この頃の母子の生活を描いた映画に『レオニー』がある(2010年公開)

イサム・ノグチ

イサム・ノグチ プロフィール
1904年(明治37)米国ロサンゼルス生まれ。20世紀を代表するアーティストの1人。
自然と通底する抽象のフォルムが生み出す世界を生涯を掛けて追い求め、彫刻のみならず、ハーマン・ミラー社との協働や、1951年に制作に着手した照明器具でノグチが”光の彫刻”と位置付けている〈あかり(Akari)〉シリーズなど、プロダクトデザイン、舞台美術の分野でも多くの足跡を残した。
丹下健三(1913-2005)、谷口吉郎(1904-1979)、剣持 勇(1912-1971)、画家の猪熊弦一郎(1902-1993)、岡本太郎(1911-1996)、北大路魯山人(1883-1959)、重森三玲(1896-1975)など、日本の建築家やデザイナー、造形作家とも親交があり、のちに大谷幸夫(1924-2013)や磯崎 新(1931-)らともコラボレーションを果たしている。
現存する日本国内の主な作品に、平和大橋・西平和大橋(1952)、ユネスコの日本庭園・平和の庭(パリ、1958)、IBM本社庭園(1964)、最高裁判所内の噴水彫刻「つくばい」(1974)、草月会館内・草月プラザ「天国」(1977)、札幌モエレ沼公園(1988-2005)などがある。1988年ニューヨークにて84歳で没。

イサム少年は14歳の時に渡米(1918年)。22歳の時にルーマニア出身の彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ(1876-1957)の個展に接し、のちに師事するなど多大な影響を受けます。
20歳の頃からイサム・ノグチを名乗り彫刻家として活動するも、実の父親からは野口姓を名乗ることを禁じられ、さらには1941年12月に日米が開戦。当時の日本人社会全体への迫害を経験するなど、洋の東西の間で人生が揺れ動き、自身のアイデンティティの確立にも苦しみました。独自の彫刻哲学を打ち立て、世界的に認められるまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。

牟礼町〈イサム・ノグチ庭園美術館〉の石彫群が東京へ!

3部構成、およそ90件の作品展示を通して、彼の創造の軌跡を辿る本展の見どころは、ノグチが晩年を過ごした香川県高松市牟礼町で制作された石彫作群が展示されること。1999年に同町にイサム・ノグチ庭園美術館がオープンして以降、同所以外でまとまった数が展示されるのはこれが初となります。

イサム・ノグチ庭園美術館 石壁サークル

本展は、これまでに日本国内で開催されたイサム・ノグチの回顧展に比べ、総展示数では上回らないものの、3章立てで作家のエッセンスを抽出。前述の特別出展をはじめ、国内外から石彫作品が集められ、それらを東京で見ることができる、貴重な展覧会となっています。

開催直前に開催された報道内覧会を『TECTURE MAG』編集部では取材。3部構成となっている会場の様子をお伝えします(特記なき場合を除き、会場画像は編集部撮影)

LBF展示室 第1章「彫刻の宇宙」会場
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713

第1章「彫刻の宇宙」

本展の最初の展示、第1章「彫刻の宇宙」では、国立国際美術館蔵の彫刻作品〈黒い太陽〉が来場者を迎えます。

その背後に見えるのが、イサム・ノグチがデザインした照明器具〈あかり(Akari)〉を大小合わせて約150灯、フロアの中央で大きく展開したインスタレーションです。

太陽と月を表現した「あかり」インスタレーションを囲むようにして、計26の彫刻作品が配置されています。

東京都美術館「イサム・ノグチ 発見の道」

手前左の作品:イサム・ノグチ〈黒い太陽〉1967-69年 国立国際美術館蔵
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713

ゆっくりと明滅を繰り返す「あかり」インスタレーション
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713

さまざまな素材による26の彫刻作品

第1章「彫刻の宇宙」では、太陽と月を表現した「あかり」インスタレーションを囲むようにして、計26の彫刻作品が配置されています。

東京都美術館「イサム・ノグチ 発見の道」

手前の作品:イサム・ノグチ〈化身〉1947年(鋳造1972年)ブロンズ イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713

世界的な名声を獲得する前、20代半ばから、ノグチはさまざまな素材を自身の作品制作に取り込んでいました。本展でも、石、ステンレスなどの金属、紙など、多彩なマテリアルを見ることができます。

また、14歳で渡米する前に住んでいた横浜で、自宅を新築する際に知り合った大工に木工の手ほどきを受けたり、渡米時には大工道具を携えていたこともあって、日本の伝統的な木造建築の手法からの応用が、例えば〈化身〉の構造などから散見できます。

第2章「かろみの世界」

東京都美術館「イサム・ノグチ 発見の道」

第2章「かろみの世界」会場
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713

第1章で圧巻のインスタレーションが展開された〈あかり(Akari)〉のそのほかのバリエーションを、こちらの第2章で見ることができます。

庶民でも手がとどくイサム・ノグチ作品

照明器具〈あかり(Akari)〉は、ノグチが1951年に来日した際に本美濃紙(ほんみのわし)に出会ったことで誕生しました。購入できるイサム・ノグチ作品であることを作家自身も強く意識していたといいます。

イサム・ノグチの年譜(展覧会図録巻末に収録、展覧会場にも掲示あり)によれば、1951年はノグチと日本にとって転換期の1つと言えます。ノグチがデザインした庭園が初めて実現した〈リーダーズ・ダイジェスト東京支社ビル〉が5月に竣工(現存せず、跡地には毎日新聞社本社が入る〈パレスサイドビルディング〉が建つ)。6月には、広島平和記念資料館および平和記念公園の設計コンペに勝利した丹下健三とともに広島を訪問、広島市から平和大橋・西平和大橋の欄干デザインを打診されています。

第2章のテーマは「かろみの世界」

本美濃和紙でつくられた〈あかり〉の展示が象徴しているように、第2章は「かろみの世界」がテーマ。日本の折り紙から着想を得た金属彫刻や、ノグチがデザインしたソファーや遊具、スタンド照明など、石がもつ物量とは対照的な「軽さ」をテーマにした展示です。

東京都美術館「イサム・ノグチ 発見の道」

手前の作品:イサム・ノグチ〈座禅〉1987年 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713

赤い〈プレイスカルプチュア〉

〈プレイスカルプチュア〉は、日常生活の中にアートを持ち込みたいという思いでノグチがデザインした、子どものための遊具彫刻の1つ。札幌のモエレ沼公園、高松の山椒山公園など国内数カ所に、黄と紫色のツートン仕様の〈プレイスカルプチュア〉が設置されていますが、赤い色は国内ではこの1台のみ。

この赤い〈プレイスカルプチュア〉は、茨城放送がつくば局開局など放送エリアの拡大を記念して制作に協力したもの。本展終了後は、水戸市南町三丁目の自由広場「M-SPO」に設置される予定です。設置後は、よじ登ったり、またがったり、自由に遊ぶことができるようになります(茨城放送2021年7月7日プレスリリースより)

ノグチ作品で用いられた石のサンプル展示

第2章と第3章の間には、イサム・ノグチ作品で用いられているさまざまな石、ノグチが最も好んだ石の1つである花崗岩や、牟礼町で採れる花崗岩「庵治石」のサンプル展示もあるので、最終章へ行く前に足を止めて眺めておきましょう。

最終章・第3章に展開する「石の庭」

本展最後の展示室、第3章では、ニューヨークのイサム・ノグチ財団 庭園美術館蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)の最晩年の作品を、「石の庭」と題して展開します。

東京都美術館「イサム・ノグチ 発見の道」

第3章「石の庭」会場
©︎2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum / ARS, NY / JASPER, TOKYO E3713

第3章では、石彫のほか、牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館で本展のために撮影された映像、在りし日のノグチを撮影した記録映像なども上映されており、晩年のノグチが愛した彼の地の雰囲気を最後に味わうことができます。

ノグチにとって彫刻とは?

ノグチにとって彫刻とは何だったのか?
自身が生涯を通じて模索したであろう、イサム・ノグチとは何者なのか?

本展は、イサム・ノグチと、彼が遺した作品や映像資料などを通して、来場者が「イサム・ノグチを発見する」ための道を探し、辿ることができるよう、構成されています。

本展をさらに楽しむスペシャルコンテンツとして、サカナクションのボーカリスト・山口一郎とのコラボレーション企画「サウンドツアー 『イサム・ノグチと音楽』」も会場にて実施中です(別途800円が必要)。
ノグチが生きた時代、旅した場所、出会った人物、耳にしたサウンドなど、ノグチの辿った足跡をもとに、山口が楽曲をセレクト、3章の展示空間にあわせて構成されたもの。
東京都美術館において、音楽中心のコンテンツを音声ガイド端末で提供するのは今回が初めての試み。ヘッドホンで聴くこのサウンドツアーには、山口によるガイドコメントも収録されています。(en)


朝日新聞 Arts & Culture YouTube公式チャンネル「【イサム・ノグチ展】サカナクション・山口一郎、イサム・ノグチを語る【Vol.1/全6回】イサム・ノグチがアートへの初期衝動をもたらした。」(2021/04/09)

「イサム・ノグチ 発見の道」開催概要

会期:2021年4月24日(土)~8月29日(日)
休室日:月曜
開室時間:9:30-17:30(入室は閉室30分前まで)
臨時休館:4月25日(日)~5月31日(月)
会場:東京都美術館 企画展示室
所在地:東京都台東区上野公園8-36(Google Map
問合せ先:TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
観覧料:一般 1,900円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,100円
※日時指定予約を推奨
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、スケジュールや会館時間が変更となる場合あり
※最新の情報や入場規制など詳細は、会場および展覧会WebサイトやSNS発信を参照)

東京都美術館「イサム・ノグチ 発見の道」ポスター

主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション、文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会
協賛:DNP大日本印刷、三菱商事
特別協力:イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)、公益財団法人イサム・ノグチ日本財団 イサム・ノグチ庭園美術館
協力:茨城放送、日本航空

東京都美術館 公式Webサイト

https://www.tobikan.jp/index.html

展覧会特設サイト

https://isamunoguchi.exhibit.jp/

丹下健三〈草月会館〉内 草月プラザ「天国」

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