2021年11月19日初掲、11月26日 昼夜の画像と本展タイトルに関する説明テキストを追加
東京藝術大学大学院で教鞭を執る建築家の青木淳氏の研究室に所属する、修士1年生の主催による展覧会が東京・渋谷のSACS渋谷(SACS: Shibuya Art Collection Store)にて、2021年11月15日(月)から12月2日(木)までの会期で開催されます。
一般の入場が可能なのは11月20日(土)から29日(月)の10日間のみで、その前後の搬入出の様子も、会場のガラス越しに道ゆく人々に公開されます。
かつ、開場する10日間においても、1日のうち10時から13時と17時から21時のあわせて7時間しか入場できません。その間は連日、会場設営の作業時間とし、前後で異なった会場構成で展示を行うのが特筆点です。1日を通して会場が変化していく様子を、前面道路側からもガラス越しに鑑賞することができます。
主催者曰く、「行われる操作はテンポラリーなものであり、会場を構成するものたちがどこから来てどう処理されるのか、展覧会の前後の動きも設計対象になって」おり、「私たちが会期を通して入場可能時間に行うことは、リノベーションした空間そのものの展示であり、一見すると静止している状態の会場を来場者に開放する。私たちは日々、空間に改変を行うが、作業時間は入場することができない。この場で行うのは、パフォーマンスの上演ではなく、加えた操作はもちろんのこと、空間体験そのものを楽しんでもらいたいと考えて」いるとのこと。
詳細は、以下・青木研のプレスリリース全文にて。(en)
主催者メッセージ:
何かが“動きつづけている” ことは決して特別な現象ではありません。またそれは、私自身が止まっていながらそれに重なる細胞単位では動き続けているように、“止まっている” ことと両立され得るものです。東京藝術大学大学院 青木淳研究室では、2020年12月に、学内の1室を会場として「テンポラリーなリノベーションとしての展覧会[*1]」を開催しました(編集部註:会場レポート)。2021年度は、渋谷区桜丘町にあるビルの1階部分に会場を移し、展覧会を開催します。
注1:テンポラリーなリノベーションとしての展覧会とは
展覧会が開催される時に起こる事象を観察すると、展覧会とはある空間を作品の配置によってある一定の時期に元の場所とは異なる空間にする行為です。一度作品を差し置いて考えれば、それはテンポラリーなリノベーションと言えると思われます。本シリーズでは「作品」を展示するのではないあり方で空間を変容させることを試みます。その会場ではリノベーションが空間を改変する手段であり、展示内容という目的にもなります。会場を含む渋谷では大規模かつ長期間におよぶ再開発が行われ、常にどこかで工事が行われています。しかしその一つ一つの動きはバラバラで、例えば、1つの建物が竣工した時点であるところでは別の建物が解体されはじめ、またあるところではプロジェクトが完成に向かっています。そのような「動きの集積としての渋谷」を訪れる時、私たちは、総体として進んでいるのか後退しているのか分からないような都市の一断面を目にします。
本企画では、本来作品を展示する手法として用いられてきた“展覧会” という形式そのものに着目します。私たちは、全期間を通して、会場に展覧会としての空間と、それが始まる/ 終わるための空間を共在させました。そこでは展覧会を開く時に必然的に生じる梱包や搬入、組み立て、あるいは解体や搬出が行われている光景が同時に展覧会でもあるという状況が生まれます。
来場者が目にするのは、渋谷の街のように途切れない動きの中のほんの一場面です。2020年12月、東京藝術大学正木記念館にて「シン・マサキキネンカン」として同様の趣旨の展示を行い、8日間で 1200人ほどの来場者を記録しました。またテンポラリーなリノベーションとして企画された本展覧会場が高く評価され、以降の展覧会にリノベーションの一部が継承、使用されました。
展覧会を展示するということは、展覧会の空間に加えて、その際に生じる梱包・搬入・搬出・設営・移動といった時間をも見せることです。本来、搬入→展示→搬出と流れる時間軸を読み替え、搬入、搬出と展示を重ねます。そのため、企画のあらゆる場面に前後の時間を感じていただける操作があります。展示中でありながら設営中にも感じられ、はたまた搬出中であるかのような空間で、不思議な居心地の良さを感じていただけることを期待します。
特徴、見どころ
本展の特徴は、連日、1日を以下の3つの時間帯に分け、日中に作業時間をとり、その前後で異なった会場構成で展示を行います。1日を通して会場が変化していく様子は、前面道路からも鑑賞することができます。
入場可能時間:10:00-13:00 / 17:00-21:00
作業時間(搬入・設営・搬出を行う時間帯):13:00-17:00設計対象
私たちは、展示壁や展示台、椅子などといった展覧会を開くのに最低限必要なものに加え、それらの搬入や組み立てにかかる時間や搬出までの動き方などを設計しています。展示壁や展示台、椅子などの各要素はそれぞれ自律したバラバラな動きをし、関係しあっています。また、行われる操作はテンポラリーなものであり、会場を構成するものたちがどこから来てどう処理されるのか、展覧会の前後の動きも設計対象になっています。
止まりながら動きつづけていること
私たちが会期を通して入場可能時間に行うことは、リノベーションした空間そのものの展示であり、一見すると静止している状態の会場を来場者に開放します。私たちは日々、空間に改変を行いますが、作業時間は入場することができません。この場で行うのは、パフォーマンスの上演ではないからです。
加えた操作はもちろんのこと、空間体験そのものを楽しんでもらいたいと考えています。
展望
本企画では、今この場所で展覧会を開くということにとどまらず、ショーウィンドウやテナントといった商業空間にある、中身の出入りが繰り返される場所について、建築家として何ができるかを考えることとなりました。
そういった場所ではある時には洋服が売られ、またある時にはアート作品が飾られますが、それらのいわゆるディスプレイは、情報を発信する「展示物」とその「受け手」という二項対立的な構図をとります。この時、二者以外の構成要素は考慮されていません。「テンポラリーなリノベーションとしての展覧会」では、いわゆる「作品」によって新たな文脈を提示するのではなく、展覧会場内の複数の事物・人・ひいては会場の外にある街の中に張り巡らされている関係性を顕在化することで展覧会という空間の完成を目指します。
そのとき、テンポラリーなリノベーションとしての展覧会は、都市でよく目にするガラス1枚で道から分断された場所を、ある意味で占領し、その空間の所属を建物内部から都市空間に取り替える可能性をもつ手段でもあると考えます。
展覧会タイトルについて:
例えばペンギンは、抵抗の大きい水の中で推進力を得るために、水を掻く動作と静止して抵抗を減らす動作を繰り返す。外側から見ればペンギンは進みつづけているが、そのためにペンギン自身は運動と静止という2つの状態を反復している。
渋谷では所々で再開発が行われ、巨視的に見れば常に動き続けている。しかし多くの場合、渋谷の体験として私たちはその動きの中の、ほんの1つの断面を目にしている。
しかしまた、再開発の動きはそれぞれが自律的であり、渋谷は総体として構築と解体というように何かに向けて動いているのではなく、ただ動いていることそれ自体になっている。
本展覧会では展示のために設えられている壁や展示台、動線などが作業時間では搬入から搬出の過程で動き、入場可能時間では静止しているというように2つの時間の枠組みの中で運動と静止を繰り返している。展覧会は動きつづけているが、来場者が訪れる各場面では静止し、設営中なのか撤収中なのか定かでない。本展覧会はペンギンの引き伸ばしとも言えるし、渋谷の圧縮とも言える。私たちにとってペンギンは速すぎるし渋谷は遅すぎる。展覧会とは、静止と運動からなる動きを私たちのもつ時間的スケールに引き付けるための手法でもある。(青木淳研究室修士1年 出展者一同)
会期(設営・搬入出期間を含む):2021年11月15日(月)〜12月2日(木)
入場可能期間:11月20日(土)〜29日(月)
開場時間:10:00-13:00 / 17:00-21:00(13:00-17:00は入場不可、入場は各回閉場30分前まで)
会場:SACS渋谷(SACS: Shibuya Art Collection Store)
所在地:東京都渋谷区桜丘町16-12 桜丘フロントビル1F(SACS公式Twitter @sacs_shibuya)
入場料:無料(予約不要 / 但し、当日あるいは事前に「入場記録フォーム」への記入が必要)
※会場ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を実施(混雑状況によっては入場制限あり)
入場記録フォーム(&青木研究室SNS)
https://linktr.ee/junaokilab
主催:東京藝術大学大学院 青木淳研究室
メンバー(修士1年):大貫友瑞、河上朝乃、高井 爽、松井一将
担当教員:青木 淳(東京藝術大学教授)、笹田侑志(同大学教育研究助手)
協力:マコトオカザキ(写真、映像補助)/ Pablo Haiku(音楽)
助成:一般財団法人乃村文化財団、藝大フレンズ賛助金
青木研Webサイト
aoki-lab.tumblr.com
Instagram @jun_aoki_lab
https://www.instagram.com/jun_aoki_lab/