建築家やデザイナーと共創しながら、それぞれが思い描く夢をかたちにするバスルームブランド「aq.(エーキュー)」。
1台からのオーダーにも対応するのは、オーダーバスを多数手掛けてきた「aq.バスアーキテクト」。
aq.のブランディングディレクターを務め、東京と軽井沢で二拠点生活を送るartless代表の川上シュン氏が、軽井沢の自宅のバスルームをさらに居心地のいい空間にするためにaq.のバスルームデザインを体験。
クライアントの目線で気づいた特徴と、“バスアーキテクト”との協働から見えてきたメリットは?
aq.専属バスアーキテクト鎌田直樹、大坂美保、臼井和也の各氏との対話からお伝えします。
川上:今回は、軽井沢の家のバス空間のリフォームを、aq.のバスアーキテクトにシミュレーションしてもらいました。最初にその相談をしたのは、2022年8月の終わりごろ。僕の家は森の中にあり、朝、昼、夕方と、木立を通してそれぞれ違う印象の光が入るので、Pinterestなどで見つけたグリーンのタイルを使いたいという要望も交えつつ、自然光を採り入れた居心地のいい空間をつくりたいとお伝えしたところから始まりました。
鎌田:最近のシステムバス(ユニットバス)では、外からの光を採り込むオプションがあって大開口窓を使った提案なども増えています。ただ、その場合は窓枠に樹脂部品などが使われるので、そうしたチープな素材感を出したくないという要望には対応が難しいのが実情です。そのため、既存の商品ではなく設計要素を入れながら、いかにそういう素材感を出さないかがポイントになります。aq.では実際にどういう開口にしたいか、これまで手がけた案件のバスルーム写真などを参考にしながら、ヒアリングを通してお互いのイメージを擦り合わせていくのが最初のステップになります。
鎌田直樹 | Naoki Kamata
1995年入社、浴室工場設計課にて15年間、ホテル客室、集合住宅などの浴室特機設計を担当。2010年より名古屋支店に駐在し、ホテルオーナーや大手設計事務所、ゼネコンに対するオーダー浴室提案(技術営業)を担当。2021年よりaq.バスアーキテクト。国内・外資系ホテルや高級分譲マンション、大規模病院の特殊個室といった新築・改修案件のオーダーユニットバスを多数設計。
川上:パースでは見えませんが、この左側に大きな窓があって、そこを固定のFIX窓にするのか、それとも開閉できるようにするのかは建築のほうでやるとして、そのほかはaq.のメンバーが内装設計するということで合っていますよね?
鎌田:そうですね。バスルームをしつらえる空間に対して、どういう納まりができるのかを考えるのが、我々の仕事になります。CGでつくったパースではわかりにくいのですが、今回は真四角ではない空間をイメージしています。こういうちょっと変わったかたちに対応できるのも、aq.の強みの1つだと考えています。
川上:安全性と品質が担保されているのは前提として、在来工法との差異化やaq.らしさは、どのようなところにありますか?
大坂:在来と比較をすると、システムバスは掃除のしやすさや防水性の面で安心して長くお使いいただけます。あと、システムバスは浴室自体が暖かいところも大きなメリット。在来が壁や床に直接タイルなどを貼って仕上げをするのに対して、システムバスは家の部屋の中に箱をすっぽりはめ込んだかたちが特徴です。こうした構造が、断熱性、保温性を向上させるため、特に寒冷地では有効だと思います。
大坂美保 | Miho Osaka
2008年自動車部品メーカーより転職、浴室開発部にて13年間、ハウスメーカー・ビルダー向けオリジナルシステムバスの提案・設計を担当。2021年よりaq.バスアーキテクト。家族構成やライフスタイルなど住まう方に寄り添ったバスルームの提案・設計ができることが、aq.の魅力と考え大切にしている。プライベートでは2児の母。
川上:二重構造ということですね。
大坂:在来が建築工事で浴室空間ができあがっている一方、システムバスは床と壁と天井がすべて独立していて現地で組み立てます。そのため、躯体壁や床と離れており、浴室内を暖かく保ってくれるという長所があるんです。
鎌田:窓でいうと二重窓のような感じですね。
川上:システムバスの壁にタイルを貼るとなると、かなりの手間になるのではないでしょうか?
臼井:システムバスでもきちんとタイルを貼れる下地があり、技術的にも確立されています。パネル自体にウレタンが入っているので、タイルを貼っている下地に断熱効果があって、保温材などをプラスしなくても暖かさが担保できています。
臼井和也 | Kazuya Usui
2015年入社、浴室工場設計課にて7年間、ホテル客室、集合住宅などの浴室特機設計を担当。2021年よりaq.バスアーキテクト。外資系ラグジュアリーホテル浴室を中心に設計し、ホテル改修工事での浴室リフォーム実績も多数。
鎌田:壁もそうですし、床と天井も同じで独立構造になっていて、やろうと思えばそこにも断熱材となるウレタンを吹き付けられます。箱全体を保温するというかたちなので、真冬の軽井沢でも大丈夫です。
川上:僕が入れたいと言ったグリーンのタイルは、どのように考えましたか?
鎌田:特注でつくることにしました。1つの参考になるのが、自社の窯変ボーダータイルを縦使いするイメージです。この自社製品をオリジナルの色で焼こうと考えています。タイルは焼き物なので、つくろうと思えばいろんな色がつくれるんですよ。
臼井:特注品に関しては、自社でタイルを焼けるので、例えばベースになる色をいただいて、それに合わせたもの、一段階薄くしたもの、一段階濃くしたものの3つのサンプルを用意することもできます。それを見て、「もう少し濃いほうがいい」「薄いほうがいい」といった話し合いを経て、実際にパネル化していくとか。タイルの色の特注は、幅広く提案できますし、どんな色でもできると自負しています。
川上:少しデザインに飽きたので交換したいという場合にも対応できますか?
鎌田:そこがシステムバスのよさでもあるんですが、一部の交換で済みます。一方、在来で機器を埋め込んでしまっていると、そこを壊さないといけないことがあります。システムバスではパネルを外して付け直せばできてしまう手軽さはありますね。
川上:aq.はバスデザインの経験豊富で知見もたくさんあるので、いろんな相談をしながら打ち合わせを進めていけるのは心強いですね。
鎌田:イメージが具体的になっていくなかで、打ち合わせには候補の現物サンプルなどをお持ちしたり、その要望にはこういう設計ができますという紹介をするための事例や図面の用意もあります。建築家だったら図面が必要ですし、エンドユーザーだったら現物や写真のほうがわかりやすい場合もあるので、相手によって使い分けています。
臼井:川上さんは、エンドユーザーにあたりますが、「建築家を通してほしい」という人もいれば、「直接、施主と会ってほしい」という建築家もいます。そういう場合は、建築家と施主と僕の3者でお会いして、「ここはタイルにできます」「ここは特注色ができます」「水栓はこのあたりでいかがですか?」と、PC画面でマテリアルを見ながら打ち合わせをします。逆に、施主が同席せずに建築家さんとオンラインで打ち合わせしたうえで、システムバスにした場合のパースを起こして「これでいかがですか? とやり取りするケースもあります。リフォームの場合は建築家がいないことが多いので、リフォーム業者と直接エンドユーザーの自宅におうかがいして、現場調査で、いま何が入っているのかとか、ここを改善してほしいとか、直接お話を聞く流れになります。
川上:シャワーヘッドなどの水栓金具は、デザイン性の高いものを入れたいとリクエストしたときに教えてもらったのがGESSI(ジェシー)という水栓金具ブランドでした。デザイン性、機能性を含めて海外ブランドと国内ブランドの違いはありますか?
鎌田:日本ブランドは実用性、使いやすさを求める傾向が強い印象があります。水栓金具はドイツが有名で、水栓界のロールス・ロイスといわれるDORNBRACHT(ドンブラハ)も、hansgrohe(ハンスグローエ)もドイツのブランドです。ドイツは日本と近いところがあって、質実剛健というか、実用的なデザインが多く、昔からトレンドリーダー的な役割を担っています。GESSIはイタリアのブランドで、ファッションにかなり寄せています。あと特徴的なのは、切削技術が優れていて、ほかではやらないようなカットや加工・切削なども多く、面白いデザインが豊富ですね。
臼井:切削技術というのは、金属をカットする技術で、指輪のカットみたいにシャワーヘッドに線を入れたりとか。こういう仕上げはけっこう難しくて、ステンレスなどにもできるのがGESSIの強みのひとつです。国内の水栓ブランドではあまりやりませんが、仕上げに対して削っていくことで凹凸のある見え方になります。
川上:なるほど。僕の希望としては、コッパーや少しゴールドっぽい色の水栓金具を使いたかったのですが、そうすると国内ブランドではあまりないんですか?
鎌田:国内ブランドではやはり選択肢は少ないですね。トレンド面で欧米の後追い傾向が強いので、感度が高いのは海外ブランド。水栓金具の塗装に関しては、GESSIには4種類の塗装技術で約30色あって、おそらく水栓金具メーカーの中では最も多いと思います。
川上:現在の家はシステムバスなんですが、家づくりの際に決められた選択肢から選ぶか、それでなければ在来というチョイスでした。その点、aq.は自由度が高いのがいいですよね。僕はこのシャワーなどの水栓金具がシルバーだったら空間が面白くならないと思うんですよ。金具がアクセントになっているから、ほかのバス空間とは少し違う。特にここは、僕のこだわりが表れたところですね。
鎌田:海外の水栓金具でいうと、日本で使うには1つハードルが存在していて、日水協(日本水道協会JWWA)やJISなど日本の水道法に適合させる必要があります。海外製品を直輸入でもってきた場合、その基準をクリアしていないと問題になるので、法規制や日本独自の基準などに合っているかをチェックするのも、我々の大事な仕事の1つとなっています。
川上:あとはアフターケアのメンテナンスが重要ですよね?
鎌田:システムバスを含めた住宅設備商品の保証は、お引き渡しから2年間というのが一般的ですが、aq.では10年にしています。オーダーの部分が多くなると、どうしても通常のシステムバスより問題が生じる可能性が高くなるので、そうした不安を少しでも解消できるように保証期間を長く設けました。さらに、年1回訪問して使用上問題がないのかを浴室のプロ目線で見て点検します。そこで使っている人が気づかない問題点などがあれば、修理の提案をする体制をとっています。
大坂:実際に水栓から水漏れがするなど目に見えるようなトラブルは、そう頻繁に起こらないと思います。起こるとすれば、目に見えないところで水が漏れていたり、部品が劣化していて、気がついたときには手遅れになるケース。それもめったにあるわけではありませんが、あったときに事故につながるので、年次点検で訪問したときに「使用していて何か困りごとはありませんか?」といったヒアリングをしながら、事前にトラブルのもとを見つけ出すことは大事だと思います。
臼井:従来のシステムバスだと、水が出なくなってから連絡があるとか、パッキンが切れて水が漏れてしまってから連絡をいただくことが多いので、aq.ではそういうイメージを払拭したいというか、そういうところにも価値を見出していきたいと考えています。定期的に点検を行うことでたいていのトラブルは未然に防げるので、よいものを長く使っていただけると確信しています。
「aq.」の世界観を表現しているウェブサイトでは、業界の第一線で活躍する建築家や注文住宅設計事務所などのつくり手が考える、今後の展開におけるコンセプトイメージや、理想のバス空間のデザインを公開しています。
今回の「aq.バスアーキテクトとのコラボレーションによるコンセプトデザイン」は、ここで紹介した内容以外にも「水圧や給湯器に応じた水栓の選び方」「特注の置きバスタブを入れるには?」など、より踏み込んだディスカッションが特設サイトでご覧になれます。
川上シュン | Shun Kawakami
artless Inc. 代表
1977年東京都生まれ。独学でデザインとアートを学び、2001年artlessを設立。グローバルとローカルの融合的視点を軸としたストラテジーからデザイン、そして、建築やランドスケープまで包括的なブランディングやコンサルティングを行っている。受賞歴は、NY ADC Young Guns 6, NY ADC, NY TDC, ONE SHOW, D&AD, RED DOT, IF Design Award, DFA: Design for Asia Awards など、多数の国際アワードを受賞。また、アーティストとしても作品を発表するなど、その活動は多岐に渡る。
artless.co.jp
https://artless.co.jp
(この記事はaq. 特設サイトでのインタビュー記事をもとに再編集したものです)
Text by Toshiaki Ishii (river co., ltd.)
Photographs by Yu Kawakami