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清水建設と順天堂大学が、建物内の感染防止機能を評価する「感染リスクアセスメントツール(オフィス版Ver.1.0)」を共同開発、社会への実装を目指す

BUSINESS2021.02.22

順天堂大学と清水建設は、建物内の感染防止機能を評価する「感染リスクアセスメントツール(オフィス版Ver.1.0)」と、感染対策リスト「ソリューションマトリクス」を共同で策定し、発表しました(2021年2月19日記者発表+プレスリリース)。同時に、日常生活や業務の場面において、感染対策が予め織り込まれた建築「Pandemic Ready」[*1]の実現に向けた共同研究契約も締結しています。

この研究とツールは、順天堂大学大学院医学研究科感染制御科学の堀 賢 教授が中心となり、まとめられたものです。想定している主な対象は病院に限らず、学校、病院や宿泊施設への展開も視野に入れています。イメージとしては「病院で磨かれた技術を民間に応用する」とのこと(堀教授談)。

順天堂大学と清水建設は、2009年の新型インフルエンザ流行時におけるパンデミック(Pandemic=世界的感染爆発)の確認以来、建築設計の知見と医学的な知見とを融合し、感染リスクを低減する建築内部の空間・仕様・施設運用の在り方について共同研究を進めてきました[*2]。昨年来のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大を受け、オフィス向けの「感染リスクアセスメントツール」と「ソリューションマトリクス」の策定と発表に至ったものです。
COVID-19以外の未知の病原体によるパンデミックが今後発生したとしても、拡大防止の観点から、人が多くの時間を過ごす建物内部の感染リスクの低減を図れるようにしたものです。

「感染リスクアセスメントツール」では、新築・既存を問わず、建築計画とその運用方法について、あらゆる感染症に適合すると考えられている感染ルート=「接触」「飛沫」「空気」に加え、コロナ以降に登場した「マイクロ飛沫」[*3]の4つの経路ごとに、感染対策の効果をポイントで表しているのが大きな特徴です。

記者発表での清水建設の説明によれば、感染症への対策を「何もしていない」場合のポイントは1点で、内容により最大で5点がつきます。これにより、対象物件における感染対策の現状を、客観的に点数で評価することができるようになります。

設計者は、この「感染リスクアセスメントツール」で導き出された数値から、対象物件を評価し、建物の所有者や管理者と共に、感染リスク低減グレードを設定したうえで、目標とするレベルに達するのために必要な具体的対策--例えば、換気方法や気流制御、非接触化、家具レイアウトなどを「ソリューションマトリクス」に照らし合わせて提案します[*4]

清水建設では今後、オフィスを対象にした感染対策のコンサルティングを展開し、顧客が求める感染リスク低減グレードに適した建築計画と運用方法を提案することで、新築・改修工事の受注増を目指します。

これらの研究は、前述のとおり、ニューノーマル以前、COVID-19の流行前に始まったものです。COVID-19の強い感染力を示すワードである「マイクロ飛沫」の挙動解明が、今回の共同研究の核となっています。

堀教授によれば、日本は高温多湿で寒暖差が大きいため「空調大国」であり、培ってきたノウハウがあるとのこと。さらに、清水建設の研究所内での実験などを経て、あまり空気を動かさない放射空調のシステムを取り入れているのもポイントです。「シーズとニーズが結びついているのも、今回の目新しさの1つ」とのこと。

両社の共同研究では、飛沫が体外に出てからの径の変化や、ウイルス活性残存時間、室内での浮遊状況などの特性を明らかにしたうえで、それらに対処した空調気流や強制換気などを提案します。

さらに、データを蓄積していく中で、明らかになったマイクロ飛沫の挙動を「感染リスクアセスメントツール」に順次フィードバックし、精度の向上を図ります。並行して、ウイルスを不活性化・除去する空調システムの共同開発や、例えば、社会貢献の範囲内での認証制の導入も視野に入れ、社会への実装化にも取り組んでいく考えです。

今後は、テスト運用を4月まで行い、5-6月に正式なプログラムとしてローンチし、運用したい意向。さらには、病院のほか、学校、宿泊施設、大型商業施設、ホールなど、建物の用途ごとに対応したツールを順天堂大学と清水建設の間で策定し、感染対策を広く提案していく予定です。


*1.Pandemic Ready:広く感染対策を備えた建築を意味する(商標登録を申請中)
*2.2009年以降の研究には、早稲田大学理工学術院 創造理工学部 建築学科教授の田辺新一教授(建築環境学)も参画している(2月19日 記者発表会にて堀教授説明)
*3.マイクロ飛沫:咳やくしゃみから出た飛沫のうち、5μm(ミクロン)以上の径のものは、水分を含み重いため、1~2m程度しか飛散しないが、5μm未満のものは空中でしばらくの間、漂うと考えられている。空気感染の元となる飛沫核(1~2μm相当)よりやや大きく、5μm未満のものをマイクロ飛沫といい、2mを超えた距離にまで広がる可能性が指摘されている
*4.記者発表会での質疑応答によれば、採点から分析結果が出るまでの目安は1-2週間の見込み

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