CULTURE

セーヌにて水没した「アジール・フロッタン」が再浮上に成功!

ル・コルビュジエと前川國男がリノベーションした"浮かぶ避難所"

CULTURE2020.10.23

知る人ぞ知る、ル・コルビュジエがリノベーションを手掛けたコンクリート船「アジール・フロッタン(=浮かぶ避難所)」。アジール・フロッタン(Asile Flottant)」とは、1918年に終結した第1次世界大戦後に、パリ市内にいた難民の避難所として、ル・コルビュジエがリノベーションした船(ルイーズ・カトリーヌ号)のプロジェクト名です。もとは石炭を運搬するコンクリート船でしたが、救世軍が1929年にル・コルビュジエに改修を依頼し、当時、パリのコルビュジエの事務所で働いていた前川國男がリノベーションを担当したという経緯があります。1995年までさまざまな難民のために使われ続けてきました。

その後、老朽化により廃船の危機に幾度となく晒されますが、2006年にパリ在住の有志5人が救世軍から船を譲り受け、補修工事がスタート。2006年には日仏共同で修復プロジェクトも立ち上がりました。2008年に建築家・遠藤秀平氏による工事用シェルターの設計、2017年には再生プロジェクトが始動し、同年8月から11月にかけて、東京・丸の内を皮切りに全国4カ所で、再生プロジェクトを紹介する企画展も開催されました。再生への機運と関心も高まって、日本企業による桟橋の寄贈などが進められてきました。
そんな矢先、信じられないニュースがパリからもたらされました。2018年2月、セーヌ川の増水による船体の水没です。

プロジェクトは一時、暗礁に乗り上げたものの、前川國男を含む3人の建築家が共同設計した唯一の建物としても知られる、東京・六本木にある国際文化会館が助成・協力を決定。日本建築設計学会による「アジール・フロッタン復活プロジェクト」も始動し、ついに2020年10月19日に船体の引き上げに成功しました(公益財団法人国際文化会館 2020年10月21日プレスリリース)。
今後は船体補修と内部の修復を行い、ル・コルビュジエのオリジナルデザインを復元した文化施設として再生し、2022年秋の公開を目指すとのことです。(en)

引き上げに成功し、再びセーヌに浮かんだ「アジールフロッタン」

ル・コルビュジエは1929年に「アジールフロッタン」の改修を行う際、箱型の船体に、柱と屋根、水平窓を加える増築を行い、近代建築の理想型としての内部空間を実現しました。コルビュジエが提言した「近代建築の5原則」を体現するものであり、2016年にユネスコ世界遺産となった代表作〈サヴォア邸〉の設計に先だって実現した、建築史上、大変重要な作品と言えます。また、当時最先端の技術が搭載されていた客船や飛行機、クルマなどに着目していたコルビュジエが手掛けた唯一の“動く建築”という点でも注目されます。(en)

「アジール・フロッタン」©︎スターリン・エルメンドルフ撮影


「アジール・フロッタン」これまでのあゆみ
1917年 石炭補給船リエージュ号(のちの「ルイーズ・カトリーヌ号」)建造
1927年 近代建築5原則発表
1928年 前川國男が渡仏。コルビュジエのアトリエで働き、アジール・フロッタンの設計を担当(女性画家ルイーズ=カトリーヌ・ブレスローのパートナーであったマドレーヌ・ジルハルトが、ルイーズの死後、彼女の遺産などを救世軍に寄付。使われていないリエージュ号を買い取り、難民のための避難船へと改造するプロジェクトがスタート)
1929年 避難船プロジェクトに義援金を出したウンナレッタ・シンガーの推薦により、コルビュジエにリノベーションが依頼される。1929年竣工(1995年まで救世軍の管理のもと、さまざまな難民のために使われ続けた)
1931年〈サヴォア邸〉竣工。
1995年 船底に浸水の疑い。危険防止条例に基づき当時のパリ知事が廃船を告知、避難所としての活動が禁止される
2005年 船の安全性が確認され、廃船の告知が撤回される
2006年 フランシス・ケルテキアンなど有志5人が船を買い取り、文化施設への再生プロジェクトをスタート。修復工事開始。遠藤秀平(遠藤秀平建築研究所)に工事期間のシェルター設計を依頼
2008年 シェルターのデザインが決定。建設が許可。リーマンショックの影響で工事が中断
2015年 文化財指定を受け、修復工事再開
2017年 修復工事の内部撤去がほぼ終了。日本で「アジール・フロッタン再生展」開催(主催:遠藤秀平建築研究所、キュレーター:五十嵐太郎)を全国4都市で開催。日本のアロイ社による桟橋寄贈が決定
2018年2月 セーヌ川の増水の影響により、船体が水没
2019年3月 国際文化会館の協力により「アジール・フロッタン復活プロジェクト」がスタート。日本建築設計学会の企画のもと、セーヌ川からの浮上と修復のための工事を進める
2019年4月~ 調査および河川局、運航局、文化局、コルビュジェ財団などとの諸手続きを開始
2020年3月 工事許可を得るも、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大・コロナ禍によるパリ市ロックダウンにより、浮上工事開始直前に中断
2020年10月8日 引き上げ工事開始
2020年10月19日 船体の引き上げに成功
2020年11月6日 引き上げ工事完了予定

2017年8月 東京・丸の内ASJ TOKYO CELLで開催された「アジール・フロッタン再生展」会場の様子(撮影:Naoko Endo)

2017年8月 東京・丸の内ASJ TOKYO CELLで開催された「アジール・フロッタン再生展」会場の様子(撮影:Naoko Endo)

2017年8月 東京・丸の内ASJ TOKYO CELLで開催された「アジール・フロッタン再生展」会場の様子(撮影:Naoko Endo)

復活プロジェクト統括・復元設計 / 工事監修 遠藤秀平氏のコメント:
「アジールフロッタンがセーヌ川の水面に再浮上しました。
2018年2月に水面下に姿を消してから、2年10カ月が経過しました。2005年に初めてアジールフロッタンを訪れてから15年が経ちますが、この2年10カ月はとても長い年月でした。再浮上は稀にしか立ち会うことのできない、本当に嬉しい出来事です。このコンクリート船が生まれてからこれまでの100年ほどの間、何度も廃船の危機に瀕し、水没後もセーヌ川河川局から解体撤去の申し出がありました。また、文化や制度の違いによるさまざまな困難もありましたが、日仏で協力してくれる多くの人々の尽力により再浮上が実現しました。これは奇跡と呼んでもいい出来事ではないでしょうか。このプロジェクトに関与していただいた皆さんに感謝申し上げます。今後は修復と復元、長い道のりが続きそうですが、アジールフロッタンを日仏の文化と建築の交流の証として、未来へ引き継ぎたいと考えます。この数奇な運命を辿っているアジールフロッタンに向けて、皆さんが関心を持ち続けてもらえることを願っています。」

遠藤秀平氏(建築家・神戸大学教授)

「アジール・フロッタン」復活プロジェクト 公式ウェブサイト
http://www.asileflottant.net/

日本建築設計学会「アジール・フロッタン 復活プロジェクトII」レポート
http://www.adan.or.jp/report/3135

国際文化会館 アジール・フロッタン復活プロジェクト
https://www.i-house.or.jp/programs/activities/asile/

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