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House on the Rias Coast | no.10, NOMURA
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[Interview]月間PVランキング1位から読みとく、いま注目される建築 – リアス海岸の住宅/乃村工藝社 no.10

多くの読者の関心を集める建築には、必ず理由があります。設計の巧みさや空間の魅力はもちろんのこと、現代の社会性や使い手の身体感覚とどこかで深く共鳴しているからこそ、人を惹きつけるのではないでしょうか。

この記事では、「PROJECT」月間PVランキングで上位となった作品を、多く読まれたという事実を1つの手がかりに、建築がどのように構想され、かたちになっていったのかを紐解いていきます。

2026年4月の月間PVランキングの1位は、乃村工藝社 no.10による〈リアス海岸の住宅〉。設計を担当した安藤陽介 氏にインタビューを行い、圧倒的な大自然と向き合う本作の設計背景や、BIMやゲームエンジンを駆使した緻密な思考プロセス、そして多くの読者の関心を集めた理由を探りました。

INDEX

  • 原風景と響き合い、土地の魅力を味わい尽くす
  • リアス海岸の陰影と「枡形構成」を写し取る形態
  • BIMとゲームエンジンが実現する、ブレのない空間体験の共有
  • no.10が目指すデザインの領域
  • なぜ、この建築は読まれたのか

乃村工藝社 no.10
空間デザインを通じて国内外の境界を越え、グローバルに活動することを主軸として、2020年に設立されたデザインチーム。
2016年から2019年までの約4年間活動した「onndo」が前身のチーム。「onndo」とは、nendoと乃村工藝社との業務提携により設立されたデザインオフィスである。

安藤陽介|Yosuke Ando
1979年 愛知県生まれ。2003年 東京都立大学建築学科卒業。2005年 同大学大学院修士課程建築学専攻修了後、乃村工藝社入社。2016-20年 onndo所属。2020年よりno.10所属。

乃村工藝社 no.10
https://www.no-10.jp/

 

リアス海岸の住宅 / 乃村工藝社 no.10

原風景と響き合い、土地の魅力を味わい尽くす

── まずは、〈リアス海岸の住宅〉のプロジェクトの経緯と、建物の概要についてお聞かせください。

安藤陽介 氏(以下、安藤):敷地は、日本海に面した美しいリアス海岸沿いにあります。近くにはクライアントのお母さまのご実家があり、ご本人にとっても、幼少期の記憶が色濃く刻まれた土地でした。普段は東京で多忙な日々を送られている方ですが、都会の喧騒を離れてリフレッシュできる別荘をつくりたい、というご依頼をいただいたのが始まりです。

日本海のリアス海岸と豊かな山並みが織りなす、圧倒的な周辺環境。Photo: 太田拓実

安藤:建物の構成は、スキップフロアを含む3階建てです。1階にはバーコーナーやプレイルームといった余暇空間を中心に、来客を迎える離れ、ゲストルーム、ガレージを配置しました。2階は寝室をはじめとするプライベート性の高いフロア。そこから半階上がった中3階には、眺望に開かれたリビング・ダイニングを設けています。そして最上層の3階は浴室と脱衣室のみで、眼前の景色を独占する特等席のような空間となっています。

現在は、ご家族が休日を過ごす別荘としての用途に加え、親しい友人や賓客を招き、記憶に残る時間を共有するためのゲストハウスとしても機能しています。

平面図

── 設計にあたって、クライアントからはどのような要望があったのでしょうか。

安藤:当初のご要望は、「旅館のような別荘にしたい」というものでした。ただ、「旅館」から一般的に連想されるような、数寄屋風の和風旅館を模した建物をつくるだけでは、ご要望の奥にある本質には届かないと考えました。そこで私たちは、旅館の本質を「その土地の魅力を五感で味わい尽くすための器」と捉えることにしたのです。

お話を伺うなかで見えてきたのは、幼少期にこの海で過ごした記憶と、その記憶を鮮やかに支えている土地の豊かな表情でした。雄大な水平線、岩肌を打つ波の音、日暮れに浮かぶイカ釣り船の漁火(いさりび)。そうした五感に響く情景が、クライアントの原風景をかたちづくっていたのです。だからこそ、特定の様式を模すのではなく、周辺のコンテクストや固有の文化をすくい上げ、この圧倒的な自然と向き合う建築を目指しました。

日暮れとともに水平線に浮かび上がる漁火。イカ釣り漁が盛んな、この土地ならではの情景。Photo: 太田拓実

リアス海岸の陰影と「枡形構成」を写し取る形態

── 複雑なかたちですが、配置やボリュームはどのように決定されたのですか。

安藤:この地域には、波の侵食によって生まれた天然の岩のアーチ「洞門(どうもん)」が点在しています。このダイナミックなリアス海岸の地形を建築へと翻訳するにあたり、手がかりとなったのが街の構造でした。

敷地周辺をリサーチすると、路地の交差部がクランクしている場所が多く見られました。文献を紐解くと、これは「枡形(ますがた)構成」と呼ばれる、海風が街の奥へと吹き抜けるのを防ぐための工夫であることが分かりました。日本海側の厳しい冬を生きるために培われてきた、先人の知恵です。

この特徴的な路地構成を、建物の配置計画へと落とし込みました。1階では機能ごとに分節したボリュームが枡形の路地をつくり出し、上層のボリュームをずらしながら積み上げることで、立体的な路地空間としています。このアプローチによって、この土地特有の形態を生み出すだけでなく、広大な敷地に建ちながらも、周囲の街並みに寄り添うスケール感に落ち着きました。

コンセプトダイアグラム

断面図

── 周辺環境への応答が、そのまま土地固有の形態として立ち現れているのですね。

安藤:そうですね。設計過程では風環境シミュレーションを重ね、この立体的な「枡形構成」の効果を検証しながら、形状の微調整を繰り返しました。竣工後、南隣にお住まいの方から「おかげで冬の北風が吹き込まなくなった」と嬉しいお声をいただいたときは、この土地のコンテクストに正しく応答できた手応えを感じました。

外装についても、地域の風景を参照しています。周辺のリアス海岸は、波に洗われる下部に荒々しい岩肌が露出し、その上部には力強い木々が茂る、二層的な風景を織りなしています。その構成を建築へと落とし込み、上層は杉板型枠による木目調のコンクリート、下層は波の侵食をイメージして骨材を露出させた洗い出しのコンクリートで仕上げました。型枠材や骨材には地域で採取できる素材を採用しており、この土地の記憶とダイレクトに繋がっています。

── 内部空間の構成やディテールにおいては、どのようなアプローチをとられたのでしょうか。

安藤:一貫して追求したのは、自然環境と連なる空間体験です。

たとえば、階段室を兼ねたエントランスホールでは、1階のフロアレベルで壁面いっぱいに開口を広げ、外壁の仕上げをそのまま内部へと引き込みました。内外の境界を曖昧にすることで、海へと続く視線の抜けが来訪者を迎えます。さらに上層においては、ボリュームのズレがところどころに開口部を生み出し、建物内に光を導いて陰影を落とします。単なる移動空間とするのではなく、土地の時間の流れに溶け込むような体験へと昇華させました。

エントランスホール。Photo: 太田拓実

日照シミュレーション

安藤:リビング・ダイニングにおいては、雄大なパノラマを取り込む大開口を設けつつ、テラスを深く張り出すことで公道からの視線を遮っています。また主寝室では、水平線がもっとも美しく見える位置に、1枚の絵画のように風景を切り取る横長の開口を設けました。

最上階の浴室では、湯船に浸かると手前のテラスが視界から消え、海へとそのまま連続していくような構成としています。入浴時の目線の高さに合わせて水平の間接照明を仕込むことで、夜には海の水平線と内部空間が、よりいっそう溶け合うよう計画しました。

リビング・ダイニング。Photo: 太田拓実

浴室。Photo: 太田拓実

安藤:このように、本作には自然と接続する多様な空間が内包されています。建築をひとつの地形のように立ち上げることで、大小さまざまな場が内に外にと折り重なり、季節や時間に応じて表情が変化する環境が生まれました。

人は、移ろう自然のなかから心地よい居場所を自ら見出すものです。住まい手がその時々の光や風、自然との距離感に応じて、居場所を能動的に選び取っていく。そうした自然のダイナミズムに身を委ねるような、おおらかな住まいとして計画しました。

BIMとゲームエンジンが実現する、ブレのない空間体験の共有

── 今回の設計を進めるうえで、もっとも大変だったのはどのような点でしょうか。

安藤:敷地には住宅や漁師小屋が隣接し、海岸との間には2本の公道が通っています。この環境において、プライバシーの確保と自然への開放をいかに両立させるかが、設計の大きなポイントでした。

そこで今回の設計プロセスで活用したのが、BIM(Building Information Modeling)です。国土地理院の数値標高モデルをBIMソフトウェアに読み込み、敷地周辺の4km四方におよぶ広大な地形データを構築しました。

たとえば3階の浴室では、公道からの視線を遮りながら、湯船から海へとそのまま連続していく体験をつくるために、微細な調整が必要でした。実際の地形に基づいたシミュレーションが、このプロポーションの確かな根拠となっています。

BIMで構築した敷地周辺の地形データ

周辺建物のボリュームも立ち上げ、開口部のシュミレーションを重ねた

── そこまで精巧な3Dモデルがあると、クライアントへのイメージの共有も具体的になりそうですね。

安藤:そうですね。さらに、このBIMデータにゲームエンジンを連携させることで、実際に歩き回るような感覚で体感できる3Dモデルとしました。空間の広がりや開口部からの視線の抜け方など、図面では掴みきれない部分を、竣工前にかなり高い解像度で疑似体験していただきました。

ライティングにおいてはライトモーメントさんと協働し、実際の照明器具の配光データを取り込んだ精度の高い光のシミュレーションを行っています。前述した「旅館のような別荘」というご要望を踏まえ、行燈のように「足元から照らす光」がもたらす効果を、具体的に検証しています。

ゲームエンジン上の3Dモデル

安藤:建築というのは、クライアントの多大な時間とコストが投じられるものです。だからこそ、設計段階と竣工後の印象のズレは極力ゼロに近づけなければなりません。とくに本作では、豊かな自然環境を最大限に享受するために、周囲との関係性を微細にコントロールする必要がありました。結果として、BIMデータとゲームエンジンを活用し、設計段階から高い解像度を維持したままプロジェクトを進めることができました。

── そうした手法は、no.10では一般的なアプローチなのでしょうか。

安藤:no.10においては、すでに1つのスタンダードとなっています。現在、私たちのプロジェクトの約半分は海外案件であり、言葉や文化の壁に直面することも珍しくありません。そうした状況において、従来の図面やパースのみで空間の質を共有することには限界があります。

この取り組みの起点となったのは、2018年頃のことでした。当時多く手がけていた中国のプロジェクトでは、クライアントがビジュアル表現を重視する傾向にありました。建築を直感的に理解してもらうため、初期段階のコストや労力を惜しまず導入した結果、コミュニケーションのスピードと精度が格段に向上したのです。

ゲームエンジン上の3Dモデル

竣工後のリビング・ダイニング。Photo: 太田拓実

no.10が目指すデザインの領域

── 乃村工藝社には複数の設計チームがありますが、no.10の特徴を教えてください。

安藤:no.10は、空間デザインを通じて国境を越えたクリエイティブを展開することを目的に、2020年1月に設立されました。前身となったのは、デザインオフィス「nendo」さんとインテリアデザインにおける業務提携を行っていた「onndo」という組織で、そのメンバーを母体として現在のチームが発足しました。

現在は約25名のデザイナーが在籍し、建築からインテリア、 プロダクトにいたるまで、空間を起点にあらゆる領域を横断しながらグローバルに活動しています。文化や言語の違いを超えて共感を生み出すデザインを目指しているのが特徴です。乃村工藝社という組織の中にありながら、「no.10」としてのデザイン性を評価していただいています。

── 今後、チームとして取り組んでみたいテーマはありますか。

安藤:これまで通り領域を限定せず、あらゆる空間の可能性を開拓し続けたいですね。そのうえで機会があれば、今後はより上流から関わるプロジェクトにも挑戦していきたいです。たとえば現在も、土地の造成計画から関わっているほかのプロジェクトが進行しています。

no.10のルーツはインテリアデザインにあります。だからこそ、人の身体に近いスケールから空間を捉え、提案できることが私たちの強みです。その視点を大切にしながら、より大きなスケールへと活動の幅を広げていきたいと考えています。

乃村工藝社というと、施工やディスプレイ、空間演出の会社というイメージをもたれる方が多いかもしれません。一方で最近では、チーム名やデザイナー個人の名前を表に出して発信できる環境も、社内で少しずつ整ってきています。私たちだけでなく、各デザインチームがそれぞれの個性を武器に切磋琢磨し、組織の先導役となることで、乃村工藝社におけるデザインの新しい価値を、これからも社会へ発信していきたいと思います。

なぜ、この建築は読まれたのか

── 月間PVランキングで1位となった理由を、設計者の視点でどのように分析されていますか。

安藤:リアス海岸という環境そのものがもつ魅力に加え、一見すると複雑に映る造形が、一般的な住宅とは少し異なる印象を与え、記事を開くきっかけになったのではないでしょうか。

── 最後に、乃村工藝社の社内でお気に入りの場所を教えてください。

安藤:私が設計を担当し、昨年竣工したリクルーティングスペース〈tokeru〉です。

〈tokeru〉待合ラウンジ。Photo: 藤井浩司(TOREAL)

安藤:ここを訪れる方の緊張が「溶ける」ことをコンセプトに掲げました。

間仕切りには曲面ガラスを配し、その内側にレースのカーテンを設けています。上下に仕込んだ照明の調光によってガラスの透過度をコントロールし、空間全体にグラデーションを生み出すことで、来訪者との間にある心理的な緊張感をゆっくりと溶かしていくような意図を込めました。什器もすべて丸みを帯びたものを採用し、空間全体の印象を統合しています。

Photo: 藤井浩司(TOREAL)

Photo: 藤井浩司(TOREAL)

安藤:ガラス張りの空間は本来、音が反響しやすく、会話が聞き取りづらくなりやすいという課題があります。ですが、このプロジェクトでもBIMによる3Dモデルで音響解析を行い、適切な位置に吸音パネルを施工することで機能性を確保しました。

この音響効果もあり、内部に入ると空気感ががらりと変わる柔らかい空間に仕上がりました。実際にこの場所で採用面接を受けた方にもご好評いただいている、とても愛着のある場所です。

Photo: 藤井浩司(TOREAL)

(2026.05.21 オンラインにて)

特記なき図版・画像提供:乃村工藝社
Interview & text: Naomichi Suzuki

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