世界に冠たるラグジュアリーリゾートとして名高いアマン(Aman)の創業者として知られるエイドリアン・ゼッカ(Adrian Zecha)氏と、自然の営み、人の営みとその調和を探求するホテリエらが興したナル・デベロップメンツ(本社:京都府京都市)が立ち上げた、新しい旅館ブランド「Azumi(アズミ)」の第一弾となる宿泊施設が、広島県尾道市・瀬戸田に2021年3月1日に開業します(上の写真 撮影:Max Houtzager)。
「Azumi(アズミ)」立ち上げの背景
1950年代、ジャーナリストとして東京に住んでいたゼッカ氏は、箱根や伊豆に定宿をもち、その地に根付いた亭主や女将が経営する「旅館」という業態に魅せられました。その後、アマンを創業し、その後もGHMやAZERAI(アゼライ)などのホテルブランドを立ち上げてきたゼッカ氏が、日本独自の宿泊形態である「旅館」の在り方と日本文化の伝承を紐解きつつ、「旅館の再定義」にも挑戦するプロジェクトの第一弾となるのが「Azumi」です。。
ブランドのネーミング
ブランド名の「Azumi」とは、日本という島国の成り立ちから着想を得ています。数多の民族が海を越え、長い年月をかけて根を下ろし、持ち込まれたものが複雑に絡み合っていくという多様性に富む中で、日本の礎が形成されていったと「Azumi」では考えています。これから日本の各地に生まれていく旅館「Azumi」は、先人である古の海の民の名の1つとされるアズミ族に思いを馳せ、名付けられました。
旅館ブランド「Azumi」コンセプト
「Azumi」では、ゼッカ氏の日本での記憶をもとに、エクスクルーシブで凛とした側面を持ちつつも「旅館は”人”である」を第一義とし、地元とのインタラクティブで温かいつながりをコンセプトにしています。旅館が街全体に賑やかな連携をもたらすような「地域を代表する宿」の在り方を提案する新鮮なアプローチを行うとのこと。
第一弾は風光明媚な瀬戸内しまなみ海道エリア
「Azumi」のデビューとなる地として選ばれた瀬戸田は、豊かな土壌、澄んだ青い海、純粋で新鮮な空気に恵まれた瀬戸内の島の1つ。柑橘類をはじめとする農業や、漁業も盛んに行われている自然豊かな地域であり、広島から愛媛を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」のエリアにあり、アート系イベントも各種行われています。
設計は中村外二工務店出身の三浦史朗氏
瀬戸田にオープンするのは、旅館棟〈Azumi Setoda〉と別棟の銭湯付帯の旅籠〈yubune〉の2施設。瀬戸田港から耕三寺にかけてつながる地元の商店街「しおまち商店街」の入口に位置しています。
建物は新築ではなく、築約140年の「旧堀内邸」を改装したもの。設計を手がけたのは、中村外二工務店出身の建築家・三浦史朗氏(職人集団・六角屋)。商業店舗や、糸井重里の京都の自邸や同氏の事務所「ほぼ日」オフィスの内装などを手がけ、最近では、松岡正剛氏が編集工学研究所に”本茶会”用にしつらえた「半想庵」も設計しています(参照元:「ほぼ日」サイト、松岡氏との対談「ツッカム正剛」0038- / YouTube
mireva channel チャンネル)。
三浦氏は、「Azumi」のブランド創成期からチームに参画。日本旅館の伝統的な要素と革新性を兼ね備えた旅館という「Azumi」の世界観を表現しながら、邸宅として使われていた建物の記憶を尊重し、建物全体で「まるで邸宅に招かれているような」空間を目指しました。外観や柱、梁、石、植物など、改装前からそこに佇んでいたものを可能な限りで受け継ぎつつ、未来へと継承していけるように設計されています。瀬戸田ならではの潮風、日差し、気候といった自然環境とのバランスも心地良く呼応する空間にしつらえられています。
旅館〈Azumi Setoda〉概要
旅館〈Azumi Setoda〉の客室数は22室。そのほかにラウンジ、ダイニング、ギャラリー、庭園、あずまやなどがあります。
客室はそれぞれ50〜70m²の広さで、1階の客室には、部屋ごとに設計された坪庭が付属します。三浦氏と、造園設計集団WA-SO designによるもので、室内から眺めた時の美しさを追求しつつ、客室から外の自然とが一体となるよう、しつらえられています。
別棟の銭湯付帯 旅籠〈yubune〉施設概要
旅館棟と向かい合う別棟〈yubune〉には、銭湯(男湯+女湯)とサウナ、湯あがりラウンジ、客室14室を備えています。
藍染めと松の木の草木染めで作られた暖簾をくぐった先のフロントには、旧堀内邸に残されていた「新しい日、新しい風」と書かれた看板が掲げられています。
浴室のタイル壁画は、美術家のミヤケマイ氏によるもの。瀬戸内の島々、豊かな海と生き物をモチーフにした美しく斬新な銭湯壁画です。男湯には昼間の、女湯には夜の瀬戸内海の情景が描かれています。
サウナを含む銭湯は、宿泊客だけでなくビジター利用も可能となっています。旅館の一部でありながら、地域の人々にも積極的に利用してもらい、旅行客とのつながりを感じることのできる施設となることを目指しています。季節にあわせて趣向を凝らし、瀬戸田産のレモン風呂や塩の湯を提供する予定です。
旅館内に置かれる数々の上質な家具は、地元の土井木工(広島県府中市)との共同制作。三浦史朗氏が空間全体に合うようデザインし、檜など地元の自然素材をなるべく使用して、館内の雰囲気や庭の景色に溶け込むように計算されています。
食事も「旧堀内邸に招かれた」ように
建物全体で「まるで邸宅に招かれているような」空間を目指している〈Azumi〉では、食事も、かつての堀内邸が客を招いたときに振る舞うような、家庭料理ないし宴会料理をイメージしたメニューが提供されます。
地元の旬な食材、特に魚介類や柑橘類、野菜を主に使いながら、素材と向き合い、地産地消で日々メニューを考案。瀬戸田は古くから海上交易の要所であったことから、アジアやペルシャを感じさせるハーブやスパイスを取り入れていることも特徴の1つです。繊細な小皿料理から、活気のある大皿料理まで、美しい器に盛り付けて供されます。
〈Azumi〉では、旧堀内邸に保管されていた貴重な食器類も受け継いでおり、時の重なりを感じてもらえるような時間を料理と器が一体となって演出します。
このほかにも、宿泊客のための地域に根ざしたアクティビティも各種用意。サイクリストに人気の「しまなみ海道」ならではのサイクリングツアー(初級・中級・上級レベル)をはじめ、瀬戸田の特産品であるレモン狩り体験、瀬戸内海の魚釣りツアー、サンセットクルーズ、寺社での座禅体験、料理教室など、多様な表情のある瀬戸田および瀬戸内の魅力に触れる機会を提供します。
さらに、2021年4月には「街のリビングルーム」をコンセプトとした複合施設「SOIL SETODA」も開業します。
瀬戸田港は、江戸末期から明治時代に盛んだった塩田の製塩業、造船業、そして北前船の西廻り航路での舟付き場として賑わった歴史を持ちます。かつては1日1万人もの人が訪れていたとも言われている島の魅力を掘り起こし、未来に向けて活気を取り戻すべく、地域住民の声を反映しながら、さまざまなプロジェクトが進行中です。
「街のリビングルーム」では、中長期滞在者向けゲストルーム、ワークラウンジ、観光案内所、コーヒースタンド、レストランが備わる予定です。活気を生み出すとともにリラックスできる環境をつくることで、地元住民と国内外からの旅行者との交流が生まれ、瀬戸田全体がより活発になっていくことを期待しています。
アマンの精神を受け継ぐ旅館ブランド
ナル・デベロップメンツ(Naru Developments Co., Ltd)の創業者で共同代表を務める早瀬文智氏と岡 雄大氏は共に、2014年の〈Aman Tokyo(アマン・トーキョー)〉立ち上げに参画したメンバーでした(岡氏は別会社である株式会社Insitu Japanの代表も務める。※同社は2022年8月1日に株式会社Stapleに改称)。
開業を予告した2020年10月のAzumi Japanのプレスリリースにて、ゼッカ氏とあわせ、3氏は以下の通り初心を表明しています。
エイドリアン・ゼッカ氏コメント:
「日本で暮らしていた時のお気に入りの旅館は、都会の喧騒から離れた隠れ家でした。家族経営されている旅館で、地域社会に深く根付いていたことも明確に記憶に残っています。
旅館の最も重要な要素は、主(あるじ)とその家族が、ゲストをまるで家に招待しているように感じさせるような、心からのおもてなしを提供することです。自宅の延長にあるものとも捉えられるような時間が流れ、極めて家庭的でありながら整っていてプライバシーを確保できる場所。
Azumiは、旅館の持つ家庭的なおもてなしの概念を拡張するようなイメージで進めており、同時にアマンで表現してきた贅沢さとは一線を画す「豊かさの再解釈」を、旅館を通じて表現したいと思っています。」岡 雄大氏コメント:
「シンガポールで初めてゼッカ氏と会い、自分が日本人だと挨拶した時、彼は『多くの日本の美しい文化に出会ってきたが、中でも、旅館はその最たるものの一つだった。』と言いました。ゼッカ氏がアマンを離れたことを知り、日本旅館というジャンルで新しい定義を打ち出すチャレンジを一緒に取り組むことが、私の目標の1つになりました。」早瀬文智氏コメント:
「現代社会において、日本のホテルやレストランの多くは各地域のルーツに深く入り込むのではなく、日本の文化や歴史を表面的に表現することに重点を置いているケースをよく見かけます。グローバルな経験を積みながらも日本にルーツのあるホテル経営者として、旅館の在り方や豊かな体験を追求する本プロジェクトの意義を非常に強く感じながら取り組んでいます。それが「Azumi」ブランド立ち上げの原動力となっています。」
今回の瀬戸田での開業を皮切りに、Azumi Japanでは今後、日本文化の新しい表現としての旅館の在り方を、世界的なホテリエであるエイドリアン・ゼッカと共に提案し、開業する土地と地域とのつながりを大切にしながら、旅館「Azumi」を展開していくとのこと。
〈Azumi Setoda〉の詳細は、公式ウェブサイトを参照してください。(en)
開業日:2021年3月1日(月)
所在地:広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269(Google Map)
TEL:0845-23-7911(代表)
旅館棟:
ゲストルーム(最大利用人数 3名):22室(約50〜70m²)
共有部:ダイニング、ブライベートダイニングルーム、庭園、ラウンジ、ギャラリー、あずまや
銭湯棟〈yubune〉:
ゲストルーム(最大利用人数2〜4名):14室(約20〜30m²)
共有部:男女別浴場およびサウナ、湯あがりラウンジ(yuagari)
※ラウンジスペースは、朝食ラウンジまたは休憩所として利用
料金体系:
Azumi Setoda:約65,000円(税・サ別、銭湯入浴込み、朝食込み)より
yubune:約20,000円(税・サ別、銭湯入浴込み、軽い朝食込み)より
公式ウェブサイト
Azumi Setoda:http://azumi.co/setoda
yubune:http://azumi.co/yubune