杉本博司氏と榊田倫之氏が主宰する新素材研究所が、黒豆専門卸店の老舗・小田垣商店の本社エリアにおける、国登録有形文化財でもある本店および庭園の大規模改修を手がけました。ショップとカフェが2021年4月14日(水)にリニューアルオープンしています。
小田垣商店は1734年(享保19)の創業。生産者が手間暇かけて大事に育てた黒豆を、熟達した職人が、昔ながらの「手より選別」で1粒1粒選り分け、最高品質の「丹波黒」に仕上げています。
小田垣商店では、この「丹波黒」の素晴らしさと丹波文化の国内外への発信、黒豆文化の継承、地域社会へのさらなる貢献を目的とする空間を創出すべく、本社敷地内にある、江戸時代後期から大正時代初期の間に建てられた10棟のリノベーションプロジェクトを進めています。
このうちの5棟がこのほど、新素材研究所の手で改修され、ショップやカフェに。さらに杉本氏は施設中央に位置する庭も再構成し、石庭「豆道」を作庭しています。
新素材研究所は、これまでに新しい建物の中で古き良き素材や趣向を表現し、空間やそこに流れる長い時間を生み出してきました。しかし今回のプロジェクトでは、時間を経た古美術品のような建物に対して、現代における建築の合理化に流されるのではなく、建物を本来構成している様式に倣った方法で耐震補強を進めながらも、過去に戻っていく修復のような形で取り組みました。蓄積された時間と対話を重ねるという全く異なる挑戦をしています。
小田垣商店には、店舗や事務所棟を含め、江戸後期から大正初期の間に建てられた10棟の建物が国の有形文化財として登録されています。この場所には1700年代から1900年代初頭に至るまでの時間の変遷が蓄積されており、そこに想いを馳せて「時代を還る建築」という考えをコンセプトとして掲げ、設計しました。(新素材研究所)
新素材研究所が手がけたショップでは、「大玉丹波黒大豆」「丹波大納言小豆」「丹波の黒さや」に代表される優れた素材、こだわりの素材を原料とした菓子や黒豆染めの雑貨などを販売。丹波篠山地方で受け継がれる工芸品を展開。古い棗形手水鉢(ちょうずばち)に盛られた黒豆が、目も心も楽しませてくれる空間です。
今回のリニューアルではカフェ「豆堂(まめどう)」もオープン。杉本氏揮毫の行灯と、黒豆茶の焙煎の香りが訪れた人を迎えます。
カフェの先、無垢の杉材のカウンター越しに見えるのが、杉本氏が手がけた石庭「豆道」です。
また、こちらのカフェでは、建築、美術、食や旅などをテーマにした新刊書籍、古書も販売します。
新素材研究所は、杉本博司と榊田倫之によって2008年に設立された建築設計事務所。その名称に反して、古代や中世、近世に用いられた素材や技法を研究し、それらの現代における再解釈と再興に取り組んでいます。近代化のなかで忘れ去られようとしている技 術を伝承し、さらにその技術に磨きをかけています。すべてが規格化され表層的になってしまった現代の建築資材に異を唱え、扱いが難しく、高度な職人技術を必要とする伝統的素材にこだわります。杉本博司と榊田倫之は、時代の潮流を避けながら、旧素材を扱った建築をつくることこそが、いまもっとも新しい試みであると確信し、設計に取り組んでいます。
新素材研究所
https://shinsoken.jp
リニューアルオープンを記念して、小田垣商店の改修を手がけた新素材研究所と、丹波篠山に拠点を置くセレクトショップ「archipelago」がコラボレーションし、期間限定のコンセプトショップもオープン。
新素材研究所による空間デザインのコンセプトを体現するショップとして、古くから残るものや使われなくなったものに新たな価値を宿すことをテーマとし、両者がさまざまなプロダクトをセレクト。丹波焼の窯元に古くから積み重ねられている「さや」を使った、「花屋みたて」とのインスタレーション形式での商品展示も実施されます。(en)
archipelago
http://archipelago.me
花屋みたて
https://www.hanaya-mitate.com
所在地:兵庫県丹波篠山市立町19番地(Google Map)
用途:物販店舗、飲食店舗、庭園
延床面積:368.40m²
設計:新素材研究所(杉本博司、榊田倫之、内海美里)
構造設計:門藤芳樹構造設計事務所
設備設計:ZO設計室
照明設計:FDS
施工:吉住工務店
撮影:森山雅智
営業時間:9:30-17:30
カフェ営業時間:10:00‒17:00(L.O.16:30)
定休日:年始(臨時休業は小田垣商店サイトに掲載)
竣工:2021年3月
開業日:2021年4月14日
公式ウェブサイト
https://www.odagaki.co.jp