CULTURE

東京藝術大学に国際交流棟が完成     

[Report] 隈研吾建築都市設計事務所がデザイン監修、建築とアートが融合した"Hisao&Hiroko TAKI PLAZA"

CULTURE2022.12.16

東京・上野にある東京藝術大学(学長: 日比野克彦)上野キャンパス内に、国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA(ヒサオ アンド ヒロコ タキ プラザ))が完成。12月15日(木)に完成記念式典が執り行われました。
『TECTURE MAG』ではこれを取材、以下にレポートします。

東京藝術大学 国際交流棟

中央の建物:東京藝術大学 国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)外観

本施設は、若い世代の国際交流の場となることを願う、滝 久雄・裕子夫妻[*1,2]からの寄附を受け、建設されました。大学内としては、今回で3棟目の国際交流拠点〈Hisao&Hiroko Taki Plaza〉となります

建物のデザイン監修は、建築家の隈 研吾氏が率いる隈研吾建築都市設計事務所が担当。同事務所では、東京・文京区のお茶の水女子大学キャンパスに2019年に竣工した国際交流留学生プラザ、目黒区の東京工業大学大岡山キャンパスに2020年12月に竣工、翌春にオープンした国際交流・学生支援施設の設計も手がけています(東工大の同プラザ内覧会時の『TECTURE MAG』レポートはこちら)。

東京藝術大学 国際交流棟

東京藝術大学 国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)外観

滝 久雄氏コメント:「東京藝術大学との縁は、日本画の平山郁夫画伯と、藝大(旧称東京美術学校)出身で私の母校である東工大でも長年にわたり教鞭を執られた清家 清先生とおつきあいがあった。長年お世話になったお二人にやっと恩返しができる。これまでの国際交流棟の建設では、いずれも私からは1つだけ、パブリックアートを設置してほしいとお願いをした。3棟目となる今回は、学長の日比野克彦先生のアイデアで、1つに限らずさまざまなアートが制作され、展示されている。さすがは藝大ならではという施設になり、嬉しく思う。」(完成記念式典での挨拶を要約)

東京藝術大学 国際交流棟

完成記念式典に出席した関係者(右から3番目:隈 研吾氏、その左側の3氏:滝 裕子氏、滝 久雄氏、藝大学長の日比野克彦氏)

国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)施設概要

所在地:東京都台東区上野公園12-8
発注者:国立大学法人東京芸術大学
設計・監理
基本設計:東京藝術大学キャンパスグランドデザイン推進室、施設課、隈研吾建築都市設計事務所
実施設計・監理:東京藝術大学キャンパスグランドデザイン推進室、 施設課、前田建設工業株式会社一級建築士事務所
デザイン監修:隈研吾建築都市設計事務所
施工:前田建設工業株式会社東京建築支店

耐火種別:耐火建築
建築面積:373.24m²
延床面積:1,494.48m²
構造:鉄骨造・木造
階数:地上5階建て
建物高さ:18.65m

東京藝術大学 設計・工事スタッフ
キャンパスグランドデザイン推進室 ヨコミゾマコト、谷 章生(基本設計)
施設課:東海林憲生、櫻井絢子、大沼邦成
隈研吾建築都市設計事務所:名城俊樹、田野口紘大、叶 子萌
前田建設工業:永松航介、近藤佑哉(設計)/ 西川 功、 宮崎裕将(工事)

東京藝術大学 国際交流棟

東京藝術大学 国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)外観

隈研吾氏メッセージ
藝大に来た留学生を応援するために、アート作品が主役になるプラットフォームのような建築をデザインした。 キャンパス側に向かった西面ファサードは、アートの下地となるメッシュで構成され、さまざまな作品が入れ代わり立ち代わり取り付けられて建築の顔をつくる。
屋内にもさまざまなところにアートが散りばめられ、4階の茶室では取手キャンパスで採れた竹や藁を原料とした繊細な和紙や、欄間(らんま)彫刻や枯損木を活用した床柱も参加して、 アートと建築とが一体となって日本の文化を発信する。細かいサインに至るまで、藝大のアートが入り込んでいる。
また、藝大の杜(もり)に融け合うように、建築の構造の大部分が木造となった。さらに、内装や家具にも木をふんだんに使って、あたたかみのあるアートの杜をめざした。
生まれ変わった学生食堂から藝大の杜を眺めながら、世界のさまざまな地域から集まった学生たちが、互いの作品と文化を語り合う場になることを願っている。(施設パンフレットより全文を転載)

フロア構成
1F:生協
2F:GEIDAI LIVING(学食)
3F:コミュニティサロン ※12月15日完成記念式典会場
4F:コモンスペース(和室あり・茶室付き)
5F:研究室ほか

東京藝術大学 国際交流棟

生協が入る予定の1F(撮影時は前田建設施工による工事関連のパネル展示と関係者インタビュー映像を上映)

東京藝術大学 国際交流棟

1F天井見上げ / NLT(Nail Laminated Timber)の床システムを採用したプロジェクトとしては、これが先例となる見込み

隈研吾氏コメント:「木造と鉄骨造の混構造であるこの建物は、NLT(Nail Laminated Timber)工法を採用している[*3]。みなさんの足元、会場の床を見てほしい。最先端のハイブリッド構法により、これだけふんだんに木材を使うことができた。アート作品を展示する建物のファサードでは、メッシュの色に学長の日比野さんがとことんこだわり、彼が『このグレーだ!」と指定した”日比野グレー”で塗装している。そのほか館内では、取手キャンパスの工房で藝大の先生が漉いた特別な和紙を用いたり、これまでなかなか互いに超えることができなかった、建築とアートの境界線がようやくなくなり、一体化した建物になったと思っている。」(記念式典での挨拶を要約)

東京藝術大学 国際交流棟

3F コミュニティサロン ※12月15日完成記念式典開催時のレイアウト

東京藝術大学 国際交流棟

記念式典で挨拶する学長の日比野克彦氏 / 日比野と、建物を設計した隈 研吾氏は、1995年にイタリアで開催された第46回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展にて、出展者と会場空間デザイン担当者としてコラボレーションしている。「ヴェネチアの街を共に飲み歩いた仲」とのこと(日比野氏談)

東京藝術大学 国際交流棟

東京藝術大学 国際交流棟 西面ファサード 5Fフロアからの内観

コンセプトは「共に藝(う)える」

館内およびファサードには、以下の大きく3つのカテゴリーに分類されるパブリックアートが多数、設置されています。

(1)留学生交流パブリックアート
(2)地産地消パブリックアート
(3)変化し続けるパブリックアート

(1)留学生交流パブリックアート

留学生および同卒業生が、施設全体のコンセプトである「共に藝(う)える」をテーマに、藝大上野または取手キャンパスでのワークショップ、または2D・3Dデータ提出による方法で、熱海市に拠点を構えるパブリックアート制作集団・クレアーレ熱海ゆがわら工房とコラボレーション、陶板レリーフを制作した。参加者はおよそ30カ国・150名におよぶ。
1年目は72名分の作品を設置、来年は78名分の作品制作を予定し、ワークショップも進行中。

東京藝術大学 国際交流棟

1F階段壁面に設置された留学生交流パブリックアート

設置場所:国際交流棟 1F階段吹き抜け部壁面
総合ディレクション:日比野克彦(東京藝術大学学長)
制作統括:藤原信幸(東京芸術大学工芸科陶芸[ガラス造形]教授)
制作コーディネート:藤田クレア(グローバルアートプラクティクステクニカルインストラクター)
企画:公益財団法人日本交通文化協会
製作:クレアーレ熱海ゆがわら工房

(2)地産地消パブリックアート

藝大キャンパス内の植物を材料とした和紙や台風で倒木した樹木を活用した地産地消アート

東京藝術大学 国際交流棟

4Fコモンスペース 和室

設置場所:4Fコモンスペース 和室
壁面・天井・襖・障子の和紙制作:宮寺雷太(東京藝術大学絵画科版画研究室テクニカルインストラクター)
欄間・照明制作:入沢 拓(木工作家・元共通工房木材造形工房教育研究助手)
床柱・炉縁制作:中内安紀徳(東京藝術大学工芸科木工芸研究室テクニカルインストラクター)
コーディネート:藝大ファクトリーラボ

東京藝術大学 国際交流棟

和室 天井見上げ

東京藝術大学 国際交流棟

欄間のデザインは、学内応募作品から、隈研吾氏、藤原信幸氏らが「これまでにない欄間の在り方を期待させる」として評価、選出された

東京藝術大学 国際交流棟

東京藝術大学 国際交流棟

東京藝術大学 国際交流棟

床・床柱・炉縁は、2019年に発生した台風によって上野キャンパス内で倒木したヒマラヤ杉を用いている

東京藝術大学 国際交流棟

藝大キャンパス内で倒木した木材を用いた館内サイン(エレベーター付近)

(3)変化し続けるパブリックアート

外壁面をさまざまな作品の実験の場として活用する継続型アート

展示場所:西面ファサード(5-3F部分)

東京藝術大学 国際交流棟

展示作品(上から降順)
・木材を使って相互に支え合う構造で成立している〈unclouded globes〉 甲斐貴大(東京藝術大学建築科教育研究助手)
・工事中の現場から廃棄される手袋を再利用して3色de3つの単語を指文字で表現した〈g love s〉前田建設工業設計戦略部 ICI総合センター
・和紙をリボン状に造形し樹脂でコーティングした実験的な作品〈hida hida〉 東大KUMALAB
・〈WORLD PEOPLE CUP〉 日比野克彦+DOOR[*4]ほか
・QRコードの作品〈ART ←→ LOVE ←→ WALL〉はデザイン科教授の橋本和幸研究室が中心となって制作、スマートフォンなどの端末カメラでコードを読み込むと、藝大の学生らの作品をネット上で閲覧できる(作品は順次追加予定)
・諏訪部佐代子+藝大ファクトリーラボによる3Dプリンタで経年劣化を前提に植物性樹脂で出力した〈Unspecified Landscape〉
〈misfit〉 田中 航(共通工房金工機械室)

東京藝術大学 国際交流棟

3Fベランダからの眺め / 手前:アルミを鋳込む際に生じる”バミリ”を生かして制作された作品〈misfit〉

東京藝術大学 国際交流棟

東京藝術大学 国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)ファサード 見上げ

東京藝術大学 国際交流棟

東京藝術大学 国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)外観

東京藝術大学 国際交流棟

2F:GEIDAI LIVING(学食)※椅子の配置は完成記念式典開催時のレイアウト

“Hisao&Hiroko TAKI PLAZA”は今後、留学生と学生、教職員らが共に学び、共に交流し、憩う場となり、展示・演奏など作品発表の場としても運営されます。

東京藝術大学 国際交流棟

左:東京藝術大学 国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)/ 右:大学会館

東京藝術大学ウェブサイト
https://www.geidai.ac.jp/



*1.滝 久雄:文化功労者、東京工業大学 名誉博士、株式会社ぐるなび取締役会長・創業者、株式会社エヌケービー取締役会長・創業者、公益財団法人日本交通文化協会理事長
*2.滝 裕子:文学博士、公益財団法人日本ペア碁協会代表理事筆頭副理事長、一般社団法人全日本囲碁連合会長
*3.協力:カナダウッドジャパン(詳細:2021年11月30日プレスリリース)/ 国際交流棟1Fにて内覧会時に上映されていた資料映像より
*4.DOOR: Diversity on the Arts Projectの略称、藝大におけるプロジェクト(詳細はこちら

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