ロボット学者の石黒 浩氏がプロデュースしたEXPO2025 大阪・関西万博 テーマ事業「いのちを拡げる」のシグネチャーパビリオン〈いのちの未来〉は大地からせり上がったような形状で、二重の膜と流れる水に包まれています。遠藤治郎氏(SOIHOUSE)が建築・展示空間ディレクター、住吉正文氏(ファロ・デザイン)が建築・展示空間プロジェクトマネージャーを務め、基本・実施設計を担当したのは石本建築事務所です。
パビリオンは「ZONE1 いのちの歩み」「ZONE2 50年後の未来」「ZONE3 1000年後のいのち“まほろば”」の3つの空間で構成され、人間らしさを追求したアンドロイドや、障害物を避け自動走行できる万博仕様にデザインされたロボットが登場します。
Photo: TEAM TECTURE MAG
骨格
中央に直径約10m、高さ制限を最大限生かした17mの筒状空間‘まほろば’を内包するパビリオンです。
外観は全周軒高12mのカテナリー形状をした、ポリ塩化ビニールとカーボンファイバーメッシュ膜の二重構成と、流体的な5つの開口部による真っ黒な外壁で構成しています。
地震力を‘まほろば’の壁である、赤い3次元的な筋交いの役割を担わせた鋼板耐震壁に負担させることで、ロングスパンで自由度の高い展示空間を形づくりました。耐震壁・外壁膜・エントランスゲートなど、デジタル技術により水や人の動きをなめらかにつなぐ曲面形状のファブリケーションを実現させながら、中央の赤い耐震壁に関しては、鉄という物質の持つ性質と、人の手といういのちの痕跡の二つが止揚する起伏のある形状としました。
Photo: TEAM TECTURE MAG
境界
静的な建築に、水と大気そして重力を媒介として形づくられる動的な“渚”を計画しました。
屋上面からなだらかにカーブする外壁にそってあふれる水は、気化熱から境界の温度を下げ、空気中の塵などを除去しながら、地盤面の水盤を満たし、再び屋上へと循環します。
外壁メッシュに波紋をまとう水の流れは、その流量の変化によって、内外の空間への繋がりに変化と多様性をもたらす“渚”をつくります。待ち列スペースはピロティー空間で、外壁メッシュ膜につたわる水の満ち引きを内部からもみることができます。人、機械、光、風がまざりあうみぎわを体感できる空間で、屋根のない敷地境界まで広がる水盤から、導入展示室となる「いのちの歩み」に連なるグラデーションのある境界をうみだしています。
Photo: TEAM TECTURE MAG
動線
いのちパークから“渚”をくぐるようにエントランスゲートを通り、待ち列スペースに入ります。展示はゲストを向かい入れる、いのちを象徴する輝く赤い壁に沿った1階の「いのちの歩み」から始まり、エスカレーターもしくはエレベーターを経て、2階の「50年後の未来」では外周にそって時計回りで展開します。そこを経て、螺旋階段で最後の展示空間である1階の大吹抜け空間である「1000年後のいのち“まほろば”」に降り立ち、最後に再び待ち列スペースに戻る回遊ルートとなっています。この“まほろば”は、ここまでの水平的空間から17mの垂直的なシリンダー空間への劇的な転換によって1000年後の未来という設定の抽象性と象徴性を超えて、鑑賞者の自由な想像力を誘い、自らが考えるいのちの未来へのゲートとなる空間を目指しました。
Photo: TEAM TECTURE MAG
Photo: TEAM TECTURE MAG
プロデューサーが語る「パビリオンの推しポイント」
私は「いのちを拡げる」という科学技術の力で人間のいのちを進化させていくテーマで、パビリオンをプロデュースしました。
パビリオンは3つのゾーンに分かれていて、ゾーン1では日本において過去から命を宿してきたいろんな人の形をしたものを展示し、ゾーン2では2075年、50年後の未来ではどういうプロダクトが登場して、どういう生活を営むことができるのかを物語形式で展示しています。非常に感動的な物語になっているので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
ゾーン3は1000年後の人間がどうなっていくかという、いわゆるアート作品なのですが、今まで見たことのないようなロボット、アンドロイドが登場します。ビジュアル的にはゾーン3が一番きれいです。
こういった展示を見ていただいて、1人1人が未来を自分たちで考えてつくっていく。そんなことができればパビリオンも万博も成功するんじゃないかと思っています。(完成披露・合同内覧会 会見より)
トップ写真:TEAM TECTURE MAG
※ 特記なきグレー囲み内のテキストは「シグネチャーパビリオン8館完成披露・合同内覧会」オフィシャル素材より