TECTURE MAGでは、2025年の4月13日(日)から開催される大阪・関西万博について、さまざまなコンテンツを作成しています!
本記事では、大阪・関西万博の見どころの1つである「シグネチャーパビリオン」について、各パビリオンのコンセプトや、それを手がけた8人のプロデューサーと建築家の取り組みを紹介します。
「いのち輝く未来社会のデザイン」という万博のテーマを、空間として体現するこれらのパビリオンには、建築を通して未来へのメッセージが込められています。それぞれの設計や思想から見えてくる建築の可能性を読み解きながら、万博の理解を深める一助として、また実際に会場をめぐる際のガイドとしてもご活用ください。
「シグネチャーパビリオン」とは?
シグネチャーパビリオンは、万博のコンセプト「いのち輝く未来社会のデザイン」を建築空間として体現する施設群です。それぞれのパビリオンには異なるテーマが与えられており、各分野のトップランナーである8人のプロデューサーと、国内外で活躍する建築家がタッグを組み、唯一無二の空間を創出しています。
展示や体験の内容だけでなく、建築そのものが未来への問いを投げかける実験場となっており、来場者は空間を通じてテーマと出会い、考えることができるよう設計されています。つまりシグネチャーパビリオンの取り組みは、建築と思想、テクノロジーと感性が融合する、万博ならではのコラボレーションのかたちと言えるでしょう。
8つのパビリオンが物語る「いのち」とその建築
シグネチャーパビリオンは、それぞれ異なるテーマを軸に、プロデューサーと建築家の対話から生まれた「未来の社会像」をかたちにした空間とも言えるプロジェクトです。個性豊かな8つのパビリオンは、建築表現もスケールも素材もまったく異なりながら、それぞれが「いのち輝く未来社会」という共通のテーマに向き合い、響き合うように設計されています。ここでは、その建築的な特徴とともに、空間に込められた思想や体験のあり方を紹介します。
(以下、大阪・関西万博HPにて紹介されている順番に基づき掲載)
1. 〈Better Co-Being〉
テーマ:いのちを響き合わせる
プロデューサー:宮田裕章(慶応義塾大学教授)
建築デザイン:SANAA

Photo: TEAM TECTURE MAG
〈Better Co-Being〉は、この場所で生まれる体験を通じて、人々が自然や他者、未来と深くつながる瞬間を生み出すため構想されたパビリオンであり、森との境界線を引くのではなく、森と溶け合い、響き合う、万博会場中央の「静けさの森」と一体となった屋根も壁もない空間です。
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2. 〈いのちの未来〉
テーマ:いのちを拡げる
プロデューサー:石黒 浩(大阪大学教授、ATR 石黒浩特別研究所客員所長)
建築・展示空間ディレクター:遠藤治郎(合同会社SOIHOUSE)

Photo: TEAM TECTURE MAG
多様な企業やクリエイターが考えた50年後の社会や製品、日本文化の在り方、1000年後のいのちの姿、そしてさまざまなロボット・アンドロイドと出会うことで自分自身の「いのちの未来」を拡げるパビリオン。いのちの象徴ともいえる”水”と”渚”をモチーフとした建築からはじまる未来への旅を提供します。
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3. 〈いのちの遊び場 クラゲ館〉
テーマ:いのちを高める
プロデューサー:中島さち子(音楽家、数学研究者、STEAM 教育家)
建築デザイン:小堀哲夫(小堀哲夫建築設計事務所)

Photo: TEAM TECTURE MAG
創造性には「揺らぎのある遊び(余白)」が大切であるという気づきから、創造性やいのちの象徴であり、時に説明できないものを表す象徴として「クラゲ」をコンセプトとしたパビリオンであり、五感(特に聴覚・触覚・嗅覚)や身体性など言語にならない体験や「一期一会の揺らぎのある遊び」を提供します。
小さな部材が集まり構成されたパビリオンは会期後に移築・リユースされ、新たないのちとして生まれ変わる予定となっています。
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4. 〈null²〉(ヌルヌル)
テーマ:いのちを磨く
プロデューサー:落合陽一(メディアアーティスト)
設計:NOIZ

外観 / ©Yoichi_Ochiai
ヌルヌルと動く、伸び縮みする特殊な鏡面膜で構成された大小の立方体が集まり、内部のロボットアームにより歪む立方体が「変形しながら風景をゆがめる彫刻建築」を体現するパビリオンです。
内部においても鏡面反射を極限まで多用することで、鏡を通じた身体の無限増殖と自己の溶解体験を演出し、主体が複数化し、主体性そのものが解体される感覚を引き起こします。
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5. 〈いのち動的平衡館〉
テーマ:いのちを知る
プロデューサー:福岡伸一(生物学者、青山学院大学教授)
建築デザイン:橋本尚樹(NHA|Naoki Hashimoto Architects)

Photo: TEAM TECTURE MAG
大災害や経済停滞、そして新たな戦争によって、社会の分断はますます深まる現実。なぜ混迷から抜け出せないのか、という問いに対し、「いのちとは何か」を考える視点、すなわち”生命哲学”が欠けているという仮説のもと、〈いのち動的平衡館〉では「動的平衡」というキーワードを通じて、より良い社会と地球の未来に向け、いのちの本質を見つめ直すための哲学を届けます。
ふわりと浮かんだ大きな屋根をもつ建築は、生命が”動的平衡”を保ちながらうつろいゆく流れの中で、一瞬だけ立ち現れる自律的な秩序を表す姿を具体化しています。
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6. 〈いのちめぐる冒険〉
テーマ:いのちを育む
プロデューサー:河森正治(アニメーション監督、メカニックデザイナー、ビジョンクリエーター)
建築デザイン:小野寺匠吾(小野寺匠吾建築設計事務所)

Photo: TEAM TECTURE MAG
〈いのちめぐる冒険〉は、宇宙・海洋・大地に宿るあらゆるいのちのつながりを表現し、人間中心からいのち中心へのパラダイムシフトと、いのちを守り育てることの大切さを訴求することを目指すパビリオンです。
建築には、貴重な資源である真水を使用した一般的なコンクリートではなく、海水を使用したコンクリートパネルを採用。この海水コンクリートには、鋼線の代わりに炭素繊維ケーブルを使用することで大阪湾の海水を配合することが可能になり、長寿命化等の多くの革新性をもたらします。
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7. 〈EARTH MART〉
テーマ:いのちをつむぐ
プロデューサー:小山薫堂(放送作家、京都芸術大学副学長)
建築意匠監修:隈 研吾(隈研吾建築都市設計事務所)

Photo: TEAM TECTURE MAG
地球環境や飢餓問題と向き合いながら、日本人が育んできた食文化の可能性とテクノロジーによる食の最先端を提示し、食べ物を通じていのちを考えるパビリオン〈EARTH MART〉。
建築の大きな特徴となっている茅葺き屋根の茅は、万博会期終了後にはアップサイクルを予定しており、会期後の運搬、再利用を考えて茅束をそのまま葺く段葺工法を採用し、屋根の傾斜は雨が滞留しにくい45度に設計されています。
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8. 〈Dialogue Theater –いのちのあかし–〉
テーマ:いのちを守る
プロデューサー:河瀨直美(映画作家)
建築設計:周防貴之(SUO)

エントランス棟(左)、対話シアター棟(中央奥)、森の集会所(写真右)、手前が記憶の庭 ©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.
人はそれぞれの違いから、「分断」をうみます。しかし、人は心を持ち、「対話」をすることができる生き物です。〈Dialogue Theater –いのちのあかし–〉は、「対話」を通じて世界の至るところにある「分断」を明らかにし、解決を試みる実験場として計画されたパビリオンです。
奈良県十津川村と京都府福知山市から、廃校となった2つの木造校舎を移築・活用したパビリオン会場は、シンボルツリーのイチョウの木を囲むようにエントランス棟(ホワイエ)、対話シアター棟、記憶の庭、森の集会所で構成されています。
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建築から読み解く、未来社会のビジョン
これらのシグネチャーパビリオンは、テーマ・展示・建築の三位一体で構成されており、万博のコンセプトである「未来社会の実験場」にふさわしい、唯一無二の体験空間となっています。また、未来の都市、暮らし、技術、感性の在り方を、建築として問いかける存在でもあります。
それぞれのパビリオンが独立していながらも、「いのち輝く未来社会のデザイン」という共通テーマに向かって有機的につながる構成は、まさに建築による社会実験とも言えるでしょう。構造、素材、展示手法、体験設計のすべてが、未来の建築の在り方を模索するヒントに満ちています。