大谷石の産地として知られる栃木県宇都宮市大谷町に、新たなスポット〈大谷グランド・センター〉が誕生、今年1月5日にグランドオープンしています。
この建物はかつて、宴会場や浴場を備えた「山本園大谷グランドセンター(旧称、以下「山本園」と略)」として営業し、人気を博したものの、昭和の時代が終わる頃に閉館。その後は廃墟となっていましたが、建物の再生プロジェクトが数年前に立ち上がり、昨年12月に改修工事が完了。1階にアートスペース、2階にレストラン・カフェがそれぞれオープンしています。

内覧会風景(2階) Photo: TEAM TECTURE MAG
『TECTURE MAG』では、2025年12月10日に行われたメディア向け内覧会を取材。改修設計を担当した建築家の針谷將史氏(針谷將史建築設計事務所代表)に話を聞きました。
・山本園の歴史
・建物再生の経緯
・針谷將史建築設計事務所による改修設計
・YOSHIROTTEN氏 初の常設展示施設が1階に
・施設および建築概要
山本園は、既存の地形をそのまま生かし、採掘で露出した巨大な岩にへばりつくようにして建設されました。1967年の竣工以来、地元ではよく知られた観光施設でしたが、閉館後の建物は約30年のあいだ使われることなく、雨漏りなどで荒廃。廃墟愛好家のあいだでは「西のマヤカン(摩耶観光ホテル)[*1] 、東の山本園」と称されていたとのこと。

「西のマヤカン、東の山本園」と言われた改修前の旧山本園大谷グランドセンター鳥瞰(画像提供:大谷グランド・センター)
建物の再生に乗り出したのは、栃木県宇都宮市を拠点とする井上総合印刷です。1953年に謄写印刷(通称 ガリ板印刷)から創業し、現在は「ミウラ折り」[*2] に関する技術・販売ライセンスを有する会社でもあります。また、本施設からも近い大谷石採石跡「稲荷山」[*3]を所有し、空地に面して蕎麦処を営むなど、大谷町を含めた地元のまちおこしにも熱心な会社です。
*1.摩耶観光ホテルについては本稿フッター関連TOPICSを参照
*2.航空宇宙工学者の三浦公亮氏(1930-)が考案した折り畳み方。人工衛星が搭載する太陽光パネルの宇宙空間での展開などに用いられる(詳細は井上総合印刷による「ミウラ折り」公式ウェブサイトを参照)
*3.その奇景から映画やミュージックビデオなどのロケ地にも使用されている。安全面への配慮から現在は非公開、立ち入り禁止

改修前の旧山本園大谷グランドセンター 外観(画像提供:大谷グランド・センター)
地元の人々に親しまれた山本園が朽ちていく姿は忍びないと、井上総合印刷は建物と土地を2016年に取得、新たなまちおこしの拠点とすべく再生の方法を模索しました。再生プロジェクトでは、全体プロデュースをbonvoyage(ボンボヤージュ)が担当。都内の集合住宅新築プロジェクトでタッグを組んでいた建築家の針谷將史氏が率いる事務所に改修設計を打診します。2022年に現地調査に臨んだ針谷氏は、想像以上に劣化が進んだ建物の状態に驚く一方、スラブの穴や壊れたサッシ陽光が差し込み、そこでたくましく生育する樹木といった、廃墟空間ならではの光景になんともいえない美を感じたといいます。

旧 山本園大谷グランドセンター 改修中の1階大浴場風景(画像提供:大谷グランド・センター)
大谷グランド・センターは、1960年代に大谷の採掘が全盛期だった頃に温浴・宴会施設として建てられた施設です。大谷石でできた岩盤を切って平場がつくられ、その上に RCラーメン構造でできた2階建ての建築が、懸造りのように岩と関係し合いながら接地しています。
今回、長らく廃墟のままだった既存建物をアートスペースとレストランにリノベーションしました。改修設計では、なるべく新たなエレメントを付加することなく、スラブの減築と開口部の整理を行い、自然光と風が通り抜ける環境と、岩との関係性を再構築することに注力しました。(針谷將史建築設計事務所による当日配布資料より)大谷グランド・センター 改修後の外観イメージ(画像提供:大谷グランド・センター)
「既存建物は、壁の躯体が既存の巨岩にくっついている特殊な構造でした。でもこれこそが旧山本園の特色であり、仮に新築で同じものは2度と建てられないでしょう。今回の改修設計では、スラブの鉄筋や柱の立ち上がり部分などを補修し、減築も行っています。男女の大浴場があった1階は、多目的に使えるようにスケルトンとしました。ここが今、アートスペースとなっています。昭和期の浴場らしい床や腰壁に残っていたタイルの仕上げや、給水給湯管の立ち上がりなど、往時のにぎわいを思い起こさせるものはその一部をあえて残しています」
天井高もある1階の大空間では、The Chain Museumが運営するArtSticker(アートスティッカー)のプロデュースのもと、アーティストのYOSHIROTTEN氏の作品を展示中です(展示風景、作家プロフィールは後述)。

〈大谷グランド・センター〉1階内観 Photo: TEAM TECTURE MAG

〈大谷グランド・センター〉1階エントランスまわり Photo: TEAM TECTURE MAG

〈大谷グランド・センター〉2階レストランへと続く階段 Photo: TEAM TECTURE MAG

北西側に新設された開口部 Photo: TEAM TECTURE MAG
「大広間があった2階は、厨房を行き来する配膳スタッフらのための裏動線確保のためか、外周側が壁でぐるりと囲われていました。階段を2階まで昇ったところの片側(北西側)は壁のように巨大な岩が鎮座していて、暗くてじめじめした空間だったところを、屋上階と2階のスラブの一部をカットし、新たに開口を設けて、風がしっかりと通り抜けるようにしています。反対側の南東に向いた大開口からは、高さ27mの平和観音や奇岩など、大谷町ならではの景観を望むことができるようにしています」(針谷將史氏談)

〈大谷グランド・センター〉2階 南東方向の眺め。右奥の朱色の扉から外のテラスに出ることができる Photo: TEAM TECTURE MAG

建物の外からも見えるこの大きな岩は、既存のスラブに直接くっついていたという。「今回の改修では、水が入りこんで腐食しないように新たにコンクリートで立ち上がりをつけ、防水処理も施してます」(針谷氏談) Photo: TEAM TECTURE MAG

格子状の大きなガラス窓は、手で開け放つことも可能 Photo: TEAM TECTURE MAG

「この大きな石を、ガラス越しではなく、直接手で触れられる距離で見せたかった」と語る針谷氏は栃木県出身。「大谷グランド・センターのようなおもしろい施設ができることで、この周りで何かやってみたいと思ってくれるプレイヤーが増えていくことを期待しています」と展望を語った Photo: TEAM TECTURE MAG
建築家プロフィール / 針谷將史(はりがい まさふみ)
1980年栃木県生まれ。2004年横浜国立大学卒業。2007年横浜国立大学大学院(Y-GSA)修了。2007-2014年隈研吾建築都市設計事務所勤務を経て、2014年に針谷將史建築設計事務所を設立、同代表を務める。2021年よりM.A.R.K.S.共同代表。
2014-2016年横浜国立大学Y-GSA設計助手、2016-2019年横浜国立大学非常勤講師を務める。現在、日本女子大学、武蔵野美術大学、静岡理工科大学非常勤講師。

Photo: TEAM TECTURE MAG

カフェメニュー(画像提供:大谷グランド・センター)

レストラン フードメニュー(画像提供:大谷グランド・センター)

1階 ギャラリー(アートスペース)YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

オープン記念としてYOSHIROTTEN氏の代表作〈SUN〉を期間限定で展示(画像提供:大谷グランド・センター ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

YOSHIROTTEN 常設展示風景(画像提供:大谷グランド・センター) ©︎ 2025 YOSHIROTTEN

大谷グランド・センター 階段下からの建物見上げ(画像提供:大谷グランド・センター)
この場所は、大谷石を生かしたユニークな建築の中に食事処や大浴場を備えた旧「山本園大谷グランドセンター」の跡地です。1967年に建設された同施設は多くの来場者で賑わった宇都宮屈指の観光スポットでしたが、閉業後は30年以上にわたり廃墟となっていました。展示室が位置する空間はかつての浴場であり、浴場の窓から望む平和観音が当時の記憶をとどめています。
この空間が持つ力に共鳴したのが、自然や歴史への深い洞察をさまざまな媒体を通じて可視化するアーティスト・YOSHIROTTENです。YOSHIROTTENは、この特徴的な空間と大谷周辺地域の歴史を丹念にリサーチし、本展示を制作しました。 大谷グランド・センターにおけるYOSHIROTTENの取り組みは、太古の記憶を湛える不変的存在としての自然の気配に向き合うだけではなく、産業の発展とともに人間の手が加えられ、動き続けてきた「大谷石」のあり方にも目を向けたものです。
この展示は、ただそこに配置された作品を鑑賞するためだけの場所ではありません。私たちは、石が運んでくるメッセージを知覚し、石とともにこの街を浮遊し、過去と未来に思いを馳せることとなります。ここは、鑑賞者自身が作品と相互的に関わり、これからの大谷の記憶を形づくる空間であるといえるでしょう。(The Chain Museum プレスリリースより)
アーティスト プロフィール / YOSHIROTTEN(ヨシロットン)
1983年生まれ、アーティスト。創作の根底には、「未知なるもの」への尽きせぬ関心が横たわっている。自然とテクノロジーの双方に対する直感的な感受性を背景に、光と物質、霊性と実証、古代と未来といった概念が溶け合い、共存する世界観を描きます。近年は、色彩や地球、太陽など根源的な存在のリサーチや仮説を元に、S.F.的な視覚言語を探究するシリーズを発表している。

大谷グランド・センター 外観(画像提供:大谷グランド・センター)
所在地:栃木県宇都宮市大谷 1396-29(Google Map)
主要用途:物品販売業を営む店舗・飲食店
入館方法:有料(現地にて当日有効の入館パスを販売、事前購入はグランドパス専用サイトにて可)
営業時間:10:00-17:00
休業日:火・水曜、年末年始ほか全館休業日あり(予定はウェブサイト・SNSにて発信)
ウェブサイト
https://oya-grand-center.com/
インスタグラム
https://www.instagram.com/oya.grand.center/
建築設計:針谷將史建築設計事務所
構造設計協力:朝光構造設計
敷地面積:5975.57m²
建築面積:445.37m²
延床面積:799.86m²
構造:鉄筋コンクリート造
規模:2階建て
設計期間:2022年12月〜2024年5月
施工期間:2024年6月〜2025年11月
施主:プロジェクトi
トータルマネジメント:井上総合印刷
総合プロデュース:bonvoyage
アートプロデュース:ArtSticker(The Chain Museum)
アート:YOSHIROTTEN
レストラン監修:相場正一郎 (LIFE)
パティスリー監修:江森宏之(メゾンジブレー)
電気設備設計:one and one
ランドスケープ:ランドスキップ
什器デザイン:コンテデザイン
ロゴ・サインデザイン:清水彩香
解体工事:大久保
建築工事:ニチビル、DDD、大久保
機械設備工事:東栄設備工業
電気設備工事:五十二電気工事
内装工事:DDD
サイン工事:jam (jam creative association)、陶遊舎(谷口勇三)
特別協力:やどプランニング、大谷資料館

Photo: TEAM TECTURE MAG