北欧・フィンランドを代表する建築家の1人で、同国のモダニズムの原点を築いたとされるエリエル・サーリネン(1873-1950)にスポットをあてる企画展が、東京・汐留のパナソニック汐留美術館で9月20日まで開催されています。
サーリネンと聞くと、建築・デザイン業界では、ニューヨークの《JFK国際空港TWAフライトセンター》のターミナルビルの設計や、FRP成形で優雅なフォルムを実現した「チューリップチェア」のデザイナーであるエーロ・サーリネン(1910-1961)がよく知られていますが、本展でスポットをあてるのは、父親のエリエル。1917年12月に独立したフィンランドが生んだ最初の国際的な建築家として、国民からも圧倒的に支持された人物でした。
エリエル・サーリネンは1873年に当時のフィンランド大公国東部の生まれ。ヘルシンキ工科大学在学中に出会ったゲセリウスとリンドグレンと共同で設計事務所を設立し、1900年パリ万国博覧会フィンランド館での建築が好評となり、国際的なデビューを果たします。この頃の作風は、ナショナル・ロマンティシズムと称される、アール・ヌーヴォーの影響をうかがわせるとともに、独立機運が高まっていたフィンランドにおいて、民族の独自の文化的ルーツを表現した建築は人気が高く、人々を鼓舞させるものでした。
ゲセリウス・リンドグレン・サーリネン建築設計事務所はその後、ポホヨラ保険会社ビルディング(1901)、フィンランド国立博物館(1910、開館1916)などの設計を手がけたほか、建てられた湖の名からのちに「ヴィトレスク」と呼ばれたヴィラから、商業施設、公共建築や駅舎、都市計画から、家具やカーテンなどインテリアのデザインまで、次第に幅を広げていきます。同時に、民族のルーツを希求した初期のスタイルは、多様な文化を受け容れながら、新しいフィンランドらしさを提示しようというモダニズムへと展開していきます。サーリネンのデザインは、アルヴァ・アアルト(1898-1976)ら後進のデザイナー・建築家たちにも大きな影響を与えました。
やがてサーリネンは、1922年に米国で行われた、大手新聞社シカゴ・トリビューンの本社ビルの国際設計競技で2等を獲得。これがきっかけとなり、翌年に米国に移住します。この時はまだ幼い息子のエーロは前述の通り、後にアメリカを代表する建築家の1人となり、インディアナ州のコロンバスで競作を果たします。
本展では主に、エリエル・サーリネンが1923年に渡米するまでのフィンランド時代にスポットをあてています。建築図面や写真、現存する家具やインテリアの実物展示や貴重な資料を通して、彼の活動の軌跡を辿ります。エリエルの人生は、フィンランドが歩んだ独立と近代化の歴史とも重なるもので、やがて北欧デザインの代名詞の国となる前の、個性的な萌芽も確認することができます。
会場構成は、久保秀朗氏と都島有美氏による建築家ユニット・久保都島建築設計事務所が担当。ヴィトレスク湖をイメージしたという曲線を描く、間接照明付きの低い展示台が壁側に巡らされ、来場者の足元を照らします。
会期:2021年7月3日(土)~9月20日(月)
会場:パナソニック汐留美術館
所在地:東京都港区東新橋1丁目5-1 パナソニック東京汐留ビル4階(Google Map)
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)
休館日:水曜、8月10日(火)~13日(金)
※緊急事態宣言発令下の開館状況は会場Webサイトを参照
※日時予約制導入(予約は会場公式ウェブサイトにて)
入館料:一般 800円、65歳以上 700円、大学生 600円、中・高校生 400円、小学生以下無料
※障がい者手帳の提示で付添者1名まで無料
会場構成:久保都島建築設計事務所(久保秀朗+都島有美)
会場グラフィック:顧 知香
展示協力:インターオフィス、ノル(Knoll)、株式会社ひかり
主催:パナソニック汐留美術館
問合せ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)
パナソニック汐留美術館 公式ウェブサイト
https://panasonic.co.jp/ls/museum/