東京都の駐日オランダ王国大使館にて、招待制の展覧会「日蘭アップサイクル建築・まちづくり」展 が3月5〜6日に開催されました。
本展は、文部科学省 / 科学技術振興機構(JST)による「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」2023-2032に採択された、慶應義塾大学が代表機関となり、鎌倉市や参画企業・大学との共創する「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」プロジェクトの一環として開催された展覧会です。
現在、世界各地でサーキュラーエコノミー(循環型社会)に基づくさまざまな「循環型まちづくり」の取り組みが行われています。なかでもオランダは、工業的・技術的プロセスを通じて新たな循環をつくり出す先進的かつ合理的な取り組みを進めています。
一方日本では、「循環」という言葉から自然の生態系や森羅万象のアニミズム(生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、もしくは霊が宿っているという考え方)を連想し、生物の多様性や天然資源、生物的サイクルとの結びつきから活動が推進されていく、という側面があります。
本展覧会では、オランダと日本、それぞれが「循環」に対して抱く世界観や特徴、文化的前提を互いにリスペクトしたうえで、今後、互いの良い部分を高次に融合していくための「共生アップサイクル」について考えます。
会場には2024年夏に制作予定の移動型資源回収施設「ゼロウェイステーション」の模型、CG、モックアップ、さらには、より機動的にまちを巡回可能な「循環車」の試作品が展示され、日本の「循環型まちづくり」に向けた構想と戦略を示しています。
建築は新築時、解体時のみならず、さまざまなタイミングで発生する改修時にも、大量の資材が投入・排出されます。だからこそ、建築を資源の流れの中における大きな渦「Vortex」として捉え、他にも自動車、食品、生活用品、衣料品など、地域に広がるさまざまな資源の渦をつなげて循環させる。複数の産業間を資源な連関し、地域全体で資源循環が成り立つ経済モデルが「Vortex economy®」です。
〈ゼロウェイステーション(Zero Waste Station)〉は、市民1人ひとりが、暮らしの中で生まれるさまざまなリサイクル可能な資源を持ち寄り、循環者となるためのまちのステーションです。市民と循環社会のタッチポイントとして、まちの各所に設置され地域の資源循環のハブとなります。その構造もまた、市民から寄せられた資源が基となり、市民の手によって造られることでアップサイクルを体現します。
〈ゼロウェイステーション〉は、さまざまなリサイクル材を用いた400×400mm(床は200×200mm)のパネル単位で、自在に着脱可能な壁「Detachable Wall」で構成されます。これにより、リサイクル材を少量でも床・壁・屋根として活用でき、他所で特定の資源が必要となったときには、そこだけ取り外して提供することもできます。また、「Detachable Wall」を支えるスケルトンフレームには地域の古材を利用します。
人工芝パネルをアップサイクルした屋根緑化パネル
樹脂製の人工芝パネルを粉砕、リペレット後に3Dプリンタで製造。成形する形状により、2種の透水層と排水層を実現。
詰め替えパックをアップサイクルする屋根採光パネル
フィルム部分と3Dプリントするフレーム部分ともに、洗剤の使用済みの詰め替えパックを主原料として作成する採光パネル。
床を構成するウッドファイバーパネル
間伐材などを粉砕したウッドファイバーとウレタン樹脂を混合し成形した木質パネル。
リサイクル材を3Dプリントしてつくる苔が根付くパネル
国産杉の製材過程で発生する端材を活用した木粉とPPバンドを混合溶融したバイオマスコンポジット材を3Dプリントで成形した、苔を養生するパネル。
3Dプリンタ成形によりさまざまな機能を付加する多機能パネル
再利用可能な材料を活用でき、製造時の材料ロスが少ない3Dプリンタを活用したパネル。3Dプリントならではの自由な形状により、さまざまな機能を付加する。
パーティションをアップサイクルするアクリルパネル
パンデミック時に多く利用されたアクリルパーティションからつくるパネル。使用済みのアクリルから切り出して使用し、端材はケミカルリサイクルして再度アクリル板として成形し使用する。
断熱性能をもつアルポリック壁パネル
両側のアルミニウムと樹脂の芯材という3層構造のアルミ樹脂複合板アルポリックを使用したパネル。アルミニウム、芯材ともにほぼ100%リサイクルが可能。
屋外では、ヤマハ発動機によるスローモビリティ「循環車」が展示されています。資源の運搬、人の移動の支援、人の集まる起点となる車両、といったサイクルを通して資源と人をつなぎ、循環をアシストします。
慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授は次のように語る。
「オランダはその国土の多くを干拓によりつくられており、人工の国とも言えます。だからこそ『無駄をなくす』という合理的な考え方が根底にあり、 資源の最適活用のためのサーキュラーエコノミーへ向かう感覚が立ち上がってくるのだと思います。他方で、日本では『循環』と聞くと、土や木、水や風など、四季折々を感じる自然な暮らしを連想する人が多いと思います。その両方をリスペクトしたうえで、このコンソーシアム分科会ではさらに、オランダ的な循環の感性と日本的な循環の感性を高次に融合する、新しいデザイン言語をつくりだしたいと考えています。」
「『蘭学』という言葉もあるように、日本が鎖国していた際にも唯一つながりをもっていたオランダとだからこそ、サーキュラーデザインを共通項として、互いに学びあえ、教えあえるような関係性を、この現代に再びつくりたいと思っています。」
「日蘭を融合した新たなデザインの第一歩となる〈ゼロウェイステーション〉は、今年秋を目指して実車を制作し、実際に見ていただける場所に設置する予定です。異なる「循環」を経たマテリアルが1か所に集まり、彩られる空間を、実際に見ていただきたいです。」
「日蘭アップサイクル建築・まちづくり」展 開催概要
場所:駐日オランダ王国大使館(東京都港区芝公園3丁目6−3)
日時:2024年3月5日(火)~3月6日(水)(事前登録・招待制)
主催:JST COI-NEXT「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」
デジタル駆動超資源循環参加型社会コンソーシアム アップサイクル都市モデル分科会
慶應義塾大学KGRI 環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター
共催:駐日オランダ王国大使館
展示参加企業:大成建設株式会社、株式会社オカムラ、花王株式会社、大成ロテック株式会社、TOPPAN株式会社、株式会社放電精密加工研究所、三菱ケミカル株式会社、ヤマハ発動機株式会社、YKK AP株式会社
Photograph by Jun Kato & Takuya Tsujimura
Text by Takuya Tsujimura