2024年9月15日初掲、9月20日会場写真を更新
東京・紀尾井町のニューオータニガーデンコートの3Fにあるオカムラのショールームにて、企画展「OPEN FIELD(オープン・フィールド)」の第2回が、9月13日より2週間の会期で行われます。
同展は、建築史家の五十嵐太郎氏がキュレーターを務め、建築家とアーティストをカップリング、それぞれの作品単体の魅力だけでなく、コラボレーションによる相乗効果によって、通常のショールーム空間とは全く異なる、創造の場の出現させるものです。
昨年開催された第1回の企画展では、五十嵐氏の監修のもと、建築家の中村竜治、アーティストの花房紗也香、テキスタイルデザイナーの安東陽子の3氏が参画し、「ほそくて、ふくらんだ柱の群れ ―空間、絵画、テキスタイルを再結合する」展が開催されています。
五十嵐太郎企画、オカムラ「OPEN FIELD(オープン・フィールド)」第1回企画展:中村竜治×花房紗也香×安東陽子「ほそくて、ふくらんだ柱の群れ ―空間、絵画、テキスタイルを再結合する」会場レポート
今回の参加作家は2名、建築家の山田紗子氏と、アーティストの丸山のどか氏です。本展が初顔合わせで、丸山氏にとっては、第三者との作品づくりも初めてのこと。
両者を引き合わせた五十嵐氏のテキストから企画コンセプトの説明を引きます。
本展キュレーター / 五十嵐太郎氏によるテキスト
予期されない出会いや出来事の場として生まれた「OPEN FIELD」の2回目の展覧会では、異なるジャンルのクリエイター、すなわち建築家の山田紗子さんと、アーティストの丸山のどかさんによるコラボレーションを企画した。2人とも期待されている若手である。
山田さんは、ジャングル・ジムのような屋外空間を備えた野心的な自邸〈daita2019〉などで注目されたほか、インスタレーションや展覧会の空間構成も手がけている。また丸山さんは、家具や小物など、身近な日常生活で見られるモノを対象としつつ、ベニヤや角材を用いて再現する手法で知られ、各地の展覧会に参加している。
そこで今回は、日常の風景に違和感をあたえながら、異世界の存在を想像させる空間の創出をめざした。そもそも「OPEN FIELD」の会場が、オカムラのガーデンコートショールームの一部であることを踏まえ、ここをニュートラルなホワイトキューブとしてリセットせず、普段の雰囲気を残しながら、むしろ製品を陳列する「ショールーム」という位相をズラすことができるのではないか。丸山さんがつくるのは、本物のようなモノ。これらは実用性を備えた家具や小物ではなく、抽象化された立体作品=彫刻である。しかも表面は絵画のようにペイントされている。三次元の存在でありながら、2次元的だ。一方、山田さんは空間の中で踊る線というべき細いスチールパイプのインスタレーションを制作し、それらが重なりあう室内の風景を生みだす。これは意味を剥奪された抽象的なモノのように見えるが、座るなどの機能をもち、家具的にふるまう。ときとして2次元に感じられるかもしれないが、3次元に展開する。
したがって、アートとデザイン、あるいは2次元と3次元が反転したり、宙吊りになるのが、「ショールーム・フィクション」の空間となるのだ。
参加作家プロフィール
山田紗子氏(やまだ すずこ)
1984年東京都生まれ。大学在学時にランドスケープデザインを学び、藤本壮介建築設計事務所で設計スタッフとして勤務の後、東京芸術大学大学院に進学。在学時に東京都美術館主催「Arts&Life:生きるための家」展で最優秀賞を受賞し、原寸大の住宅作品を展示する。独立後の主な仕事として、屋内外を横断する無数の構造材によって一体の住環境とした〈daita2019〉、形や色彩の散らばりから枠にとらわれない生活を提案した〈miyazaki〉などの住宅作品や、樹木群と人工物が渾然一体となる環境を立ち上げる2025年大阪関西万博休憩施設(2025年公開)などがある。主な受賞に、第3回日本建築設計学会賞大賞、第36回吉岡賞、Under 35 Architects exhibition 2020 Gold Medal、 第3回小嶋一浩賞などがある。山田紗子建築設計事務所 / Suzuko Yamada Architects Website
https://suzukoyamada.com/
丸山のどか
1992年新潟県生まれ。2018年愛知県立芸術大学大学院美術研究科美術専攻彫刻領域修了。ベニヤや角材などの製材された木材を用いて、言葉や風景を表象的に切り取り、立体化する作品を制作。現実と虚構が入り混じり、次元の境界が曖昧となる作品を発表している。
近年の主な展覧会に、「味/処」(神奈川県民ホールギャラリー、神奈川、2023年)、「アートサイト名古屋城2023」(名古屋城二之丸庭園、愛知、2023年)、「Encounters」(粟津邸、神奈川、2023年)、個展「資材館」(YEBISU ART LABO、愛知、2022年)、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020」(旧・名古屋税関港寮、愛知、2020年)などがある。NODOKA MARUYAMA Website
https://www.nodokamaruyama.com/
初日の夜には関係者らが出席してオープニングレセプションが開催されました。『TECTURE MAG』ではこれを取材。関係者によるスピーチのあと、五十嵐氏と山田氏に改めて詳しい話を聞きました。
前回、中村竜治氏らが77本の”ほそくて、ふくらんだ柱”を整然と配置したフロアには、山田氏がスチールパイプで製作した7つの作品と、それらと呼応するようにして、丸山氏の作品がレイアウトされています。
上記・五十嵐氏のテキストに明記されているように、丸山氏の作品は「実用性を備えた家具や小物ではなく、抽象化された立体作品=彫刻」であり、これがタイトルにある”家具のような立体”です。それらの上にさりげなく、一見して無造作に配置された”小物”も同様に。逆に、空間に線でかたちを描いている立体が、五十嵐氏が言う「意味を剥奪された抽象的なモノのように見えるが、座るなどの機能をもち、家具的にふるまう」、山田氏がつくった作品であり、両氏によるインスタレーションによって、本展の会場には要所で位相が逆転した”異空間”が創出されています。
会場では、丸山氏がつくった椅子の彫刻には座ることができず、一見するとアート作品のようで、触れることすら憚られる黒いスチールパイプ製の立体に座面として用意された部分(作品としてのモノが置いてないところ)には腰を下ろすことができます。座面以外のパイプに触れることも許されています。
山田氏の作品に恐る恐る腰を下ろすと、自身の体重で座面が沈み込みます(強度的に問題なし)。硬質な金属が「たわむ」という、この作品ならではの身体性に、殆どの来場者は戸惑うことでしょう。この違和感が、本展が仕掛ける位相の逆転によるものであり、本展ならではの魅力となっています。
今回の展覧会について、山田氏は次のように語っています。
「どこか人の日常的な生活を想起させる、家具のようで家具ではない、不思議な魅力をもつ丸山さんの作品に対して、どのような展示空間を用意すればいいかを考えました。最初にイメージしたのは、作品がスッと入り込める、影のような存在なんだけれども、緩やかに空間を仕切ることもできるというもの。素材に鉄を選んだのは、事前にオカムラさんの工場を見学した際に、とても力強い印象を受けたパーツ類が、とても繊細に加工されて、次第に有機的なかたちになっていく工程にとても感動しまして、生み出されるオカムラさんのプロダクトには、これまでに積み重ねてきたお客さまたちとの対話や歴史性があるのだと感じて、私たちも鉄(スチール)で何か作品をつくりたいと思いました。」(レセプション冒頭での挨拶と、その後の山田氏への取材内容を編集部にて要約、下の段落に続く)
「スチールパイプによる表現は、昨秋に都内で開催された『アートウィーク東京(AWT) 2024』のために私たちが空間設計したスペシャルなバー〈AWT BAR〉でも発表しています。このときは、直径13mmのスチールパイプを用いて、がらんどうにフリーハンドで線を描くようにして、”線で空間をつくる”ことにチャレンジし、なかなかおもしろい表現ができたと思っています。その一方で、自立させることが難しいなど、やや繊細すぎた面がありました。今回の展示では、”アウトラインだけで家具をつくる”ことに挑戦しています。〈AWT BAR〉を一緒につくった北九州の製作所と再び協働して、人が座れる家具として、スチールパイプをどこまで太く強くできるのかに取り組みました。直線が長いとそのままでは垂れてしまうので、キャンチのためのパーツを追加したりして、完成した7つの作品は、いずれも単独で自立しています。そして、人が座ることができ、触れると、ぼよんぼよーん、ぶるんぶるーんと揺れ動く。金属なのに少しだけ柔らかい。この軟質に、ふだんは建築という物理的にハードな硬質なものを設計している私たちはおもしろさを感じています。ぜひ会場で座って触れて、体感してみてください。」(レセプション冒頭での挨拶と、その後の山田氏への取材内容を編集部にて要約、下の段落に続く)
「会場構成では、まず、私たちが7つの家具を配置し、黒い実態とフロアに落ちる影とがシームレスにつながっていくようにライティングしています。そのあとで、丸山さんが作品を1つ1つ配置。彼女が所有している作品のリストを共有していたので、おそらくここにはあの作品が置かれるだろうなとある程度は予想していたものの、やはり彼女なりのジオメトリー、バランス感覚があり、作品の向きなどを調整しながらレイアウトされていました。私たちがつくった空間をおもしろがってもらえたようです。丸山作品の配置完了をもって、本展の会場も完成しています。」(会場での山田氏談話を編集部にて要約)
今回の作品と展示について、丸山氏は次のように語っています。
「今回の私の作品は、会場内に展開している、家具のような実態です。本来の椅子が持っている”座る”という機能が奪われ、その上にはモノが置かれていたりして、人の生活の痕跡を一時的に留めています。私は通常、1人で1つの空間をつくったり、インスタレーション作品を展示しているのですが、今回は初めて自分以外の方とのコラボレーションで、いつもとは異なる組み立て方でした。山田さんがつくった家具は、実際に座ることができ、座った時に見える風景が、人や場所によって異なり、視線の高さや、モノとモノとの重なりも場所によって違い、見え方が全然変わってくるので、そのあたりも楽しんでもらえるといいなと思っています。」(レセプションでの丸山氏の挨拶を要約)
「今回のコラボレーターは、建築家とアーティストです。アートとは、デザインとは違い、ある種、明快な機能を持たないものです。けれどもこの会場では、デザインのように見えるもの、つまり家具とか文具とか、そういったものが実はアートであり、これに対して、アートのように見える立体が、機能を持ったデザインになっているという、関係性が転倒しています。さらに、線と面とでつくられた山田さんのインスタレーションは、どこか遠近感を喪失させるような効果もあって、2次元的なんだけれどもこうして3次元に存在しているし、逆に、丸山さんの作品は、3次元として存在する立体の彫刻作品なんだけれども、表面が非現実的なテクスチャーになっているというか、まるで2次元的なものにも見えるという、ちょっと不思議な次元の位相にあり、ここでもある種の入れ替えが起こっています。
ふだんはショールームなんだけども、展覧会場である。そういった、いくつかの位相が宙づりになったような展示ができたらと、本展を企画しました。お2人がつくった空間は、見事に、僕の予想以上の仕上がりになっていて、感謝しています。」(五十嵐氏談、レセプション冒頭の挨拶より要約)
タイトル:「ショールーム・フィクション 線のような家具と家具のような立体」
企画:五十嵐太郎(建築史家、東北大学大学院工学研究科教授)
参加作家:山田紗子(建築家)、丸山のどか(アーティスト)
会期:2024年9月13日(金)~9月27日(金)
会場:オカムラ ガーデンコートショールーム
所在地:東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート3F(Google Map)
開場時間:10:00-17:00
※9月23日(土・祝)はイベント開催のため13:00-17:00
休館日:日曜・祝日
入場料:無料(予約不要)
主催:オカムラ
日時:2024年9月18日(水)15:00-17:00
※要申込(参加方法、詳細は下記特設ページを参照)
オカムラ Webサイト「OPEN FILED」特設ページ
https://www.okamura.co.jp/corporate/special_site/event/openfield/