9月6日に一部の先行まちびらきが行われた「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」に属する都市公演・うめきた公園内に、ネクストイノベーションミュージアム〈VS.(ヴイエス)〉が開業。施設のオープンを祝うこけら落としの展覧会として、アーティストである真鍋大度による新作個展「Continuum Resonance(コンティナム・レゾナンス):連続する共鳴」が開催されています。
同施設は建築家の安藤忠雄氏(安藤忠雄建築研究所 主宰)が設計監修、日建設計が設計・監理を担当した建物です。
VS.(ヴイエス)外観(画像提供:スーパーステーション 2024年8月8日プレスリリースより)
グラングリーン大阪の中核機能施設・JAM BASEの主要施設で、地下空間に約1,400m²の展示空間を有する。今後の施設運営はVS.共同事業体(トータルメディア開発研究所+野村卓也事務所)が行う
アーティスト ステートメント
本展では当初、これまでの個⼈としての活動の軌跡を再検証するため、過去20年間の作品を包括的に展⽰する企画を考えていました。しかし、安藤忠雄⽒の建築に触発され、新たな挑戦へと⽅向転換しました。
私の制作の根幹には数学と⾳楽があります。⼤学時代に読んだヤニス・クセナキス(1922-2001 プロフィールは後述)の著書『⾳楽と建築』に衝撃を受け、現在の活動の萌芽が⽣まれました。それ以来、さまざまな⼿法を学び、経験を積み重ね、多様な表現を追求してきました。
本展「Continuum Resonance:連続する共鳴」では、この建物の持つポテンシャルと空間特性を最⼤限に活かし、私の制作の原点を現代の⽂脈で再解釈する新作の制作に取り組むことにしました。「VS.」という安藤建築の空間との対話を通じて、これまでの経験と最新の技術的成果が融合した新たな作品を⽣み出したいと考えています。」(真鍋大度)
真鍋大度 近影 Photo by Akinori Ito
アーティスト プロフィール
真鍋大度(まなべ だいと)
アーティスト、プログラマ、コンポーザ
2006年Rhizomatiks(ライゾマティクス)設立、2022年Studio Daito Manabe 設立。
身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、人間と機械、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、様々な領域で活動している。
真鍋大度の新作個展「Continuum Resonance(コンティナム・レゾナンス):連続する共鳴」は、数学的アルゴリズム、音楽プログラミング、3D建築データを活用して制作された作品群が、〈VS.〉の4つの空間で展開されます。
計34台のプロジェクターと41台のスピーカーによる超高精細なサウンドシステムを駆使して、それぞれで異なるオーディオ・ビジュアル・インスタレーションとなっており、このうちWork1からWork4の計4作品は本展が初披露となる新作です。
テクノロジーとクリエイティビティの融合により、見る者のインスピレーションを掻き立て、新しい価値体系と世界観の提供を目指す、新施設〈VS.〉の象徴となる展覧会として用意されました。
展示室 配置図
真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景 / 会場エントランス(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
4つの新作のオーディオおよびビジュアル要素は、真鍋がアーティストでコンポーザのシナン・ボケソイ(Sinan Bokesoy)と共同で開発した画期的な3D音響ソフトウェア「PolyNodes(ポリノーズ)」(*1.後述)を基盤として制作されているのが特徴です。各空間のデータ、鑑賞者の位置移動データ、生成される音がそれぞれで統合され、音と映像の要素が融合した没入感のある体験を創出、これまでにない鑑賞体験を提供します。
「PolyNodes(ポリノーズ)」とは
音楽制作と3Dサウンドデザインの常識を覆す革新的なジェネラティブ・オーディオ・シンセシス・ツール(*2.後述)。シナン・ボケソイ(アーティスト / コンポーザ)と真鍋大度によって2024年に共同開発・発表された。従来のDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)とは一線を画すアプローチで開発されたシステムで、音を3D空間で視覚化し、直感的な操作を可能にする画期的なもの。音楽理論や高度なプログラミングスキルがなくても新しいサウンドを創造できる一方で、深い音響学の知識を持つ専門家には、その知見を視覚的に表現し、新たな音響設計の可能性を探求できる制作環境を提供する。
「PolyNodes」は、アルゴリズムやルールによって音の生成やエフェクトを自動化し、人間が直接的に入力することなく、システムを構築することにより、時間軸に沿って展開する音響風景や音響構造を生成することができる。また、線形幾何学的発想だけではなく、ブラックホール(Black Hole)、ホワイトホール(White Hole)といったパラメータにより、非線形的変化への対応も組み込まれている。PolyNodes 操作画面 sonicLABウェブサイトより © sonicLAB
PolyNodes 操作画面 sonicLABウェブサイトより © sonicLAB
*2.ジェネラティブ・オーディオ・シンセシス・ツール
コンピュータによるアルゴリズムで自動的に音を生成・変化させる音楽ツール。アルゴリズムの設計自体が作曲過程となり、音の進化や相互作用を表現できる。多様な技術で設計者のビジョンを具現化し、音楽制作の新境地を開拓。テクノロジーと芸術の融合を体現する先進的創作手法。モデルの複雑性、アルゴリズムの操作、最新のAIの手法だけで定義されるものではなく、むしろ、音色の進化、音響的相互作用、音の構造的ニュアンスといった音響設計要素を的確に把握し、具現化するソフトウェアとして、設計者の思考を直感的に反映させることができるのが最大の特徴。「PolyNodes」開発の背景
「PolyNodes」は、現在的視点から大幅に発想を拡張し、さまざまなアイデアを統合しながら開発されたソフトウェアです。
真鍋は自身のアーティスト活動の基盤として、数学と音楽の関係性の探求を重視しており、その影響を受けたものの1つに、ルーマニア生まれでギリシャ系フランス人の現代音楽作曲家、ヤニス・クセナキスが著した『音楽と建築』(1971)を挙げています(前述)。クセナキスは、1958年にベルギーで開催されたブリュッセル万国博覧会(Expo 1958)のフィリップス館において、建築家のル・コルビュジェ(1887-1965)とともに、実験的かつ革新的な作品を発表。建築・空間・音響を担当したクセナキスは、有機的な生体内蔵の形態と数学的な双曲放物線を融合的に用いた独特の幾何学的建築形態を生み出し、425個のスピーカーを内部壁面に分散配置することで独特の音響空間を創出、空間全体を有機的な光・色・映像・リズム・電子音響で満たした、現代のメディアアートの先駆けとなるような表現を行ったとのこと(その後、クセナキスは、空間の音響粒子的な発想を展開させ、電子音響光学インスタレーション「ポリトープ」シリーズ(1960〜80年代)を制作。1970年の大阪万博(Expo 1970)では、鉄鋼館にて、1,008個のスピーカーを全面に配した円環型音楽ホールのために、テープ音楽「ヒビキ-ハナ-マ(響-花-間)」を作曲している)。
Work1
会場:STUDIO C
「PolyNodes」の作用や機能について具体的に理解できる空間として最初の展示室に用意された。
空間内の鑑賞者の位置データと展示場所の空間特性データを解析し、「PolyNodes」の複雑なパラメータ制御によるリアルタイムの音響生成とアウトプットを行っている。投影されるプロジェクション映像は、このセンサーの情報と「PolyNodes」の作動を表示したもの。
〈PolyNodes Installation Debug Views〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Installation Debug Views〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Installation Debug Views〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Installation Debug Views〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
Work2
会場:STUDIO B
展示室内にいる鑑賞者の位置データと展示場所の空間特性データを解析し、「PolyNodes」のパラメータ制御(特に「Black Hole」(*後述)パラメータを使用)によるリアルタイムの音響生成による作品。これに加えて、シンセサイザー、ドラム音などを追加した音響を作成し、アウトプットしている。プロジェクション映像は「PolyNodes」、音響、そしてセンサーデータを用いてリアルタイムで生成したもの。
*Black Hole(ブラックホール):「PolyNodes」内に設定された非線形的空間作用を発動するパラメータ
〈PolyNodes Visualization〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Visualization〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Visualization〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
Work3
会場:V Space
鑑賞者の位置およびその移動、カメラ映像などの動的データと、建築空間の静的データを解析し「PolyNodes」によって音響を生成。さらに「PolyNodes」の稼働する立体的オブジェクトの影を壁面へのプロジェクションによって可視化し、オーディオビジュアルとして表現する。なお、本作品は特別なディスプレイを通じてARを用いた鑑賞方法も用意されている。
〈PolyNodes Augmentation〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Augmentation〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Augmentation〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈PolyNodes Augmentation〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
Work4
会場:STUDIO A
マルチプロジェクションによる没入的なオーディオ・ビジュアルを体験できる作品。床面積約280m²、天井高15mの同施設最大規模の空間・STUDIO Aにて、空間の計測データおよびダンサーの身体運動データと、事前に作成された「PolyNodes」音源を素材として使用。身体・空間・音楽をテーマとした、この空間ならではの表現を試みている。
〈Synthesis of Body-Space-Music〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈Synthesis of Body-Space-Music〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈Synthesis of Body-Space-Music〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
〈Synthesis of Body-Space-Music〉真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」展示風景(VS.、2024年) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
本施設を運営するVS.共同事業体の発表によれば、9月6日に開業して1週間で来場者1万人を超え、同月24日には来場者3万人を突破したとのこと(2024年9月13日プレスリリース、2024年9月24日プレスリリースより)。
会期:2024年9⽉6⽇(⾦)〜10⽉14⽇(⽉・祝) ※会期中無休
開館時間:10:00-19:00
※9月28日(土)は18:00閉館(関連音楽イベント開催のため)
会場:VS.
所在地:大阪府大阪市北区大深町6番86号 グラングリーン大阪 うめきた公園ノースパーク VS.(Google Map)
⼊場料:無料 ※日時指定の予約制
主催:VS.(ヴイエス)
協力:グラングリーン大阪開発事業者
機材特別協賛:タケナカ
※掲載内容はすべて2024年9月11日時点のもの、内容は予告なく変更・中止する場合あり(最新情報は下記・VS.ウェブサイト本展案内ページを参照)
※本稿の作品概要および専門領域に関するテキストは、VS.共同事業体が発信したプレスリリースを参照した
真鍋大度新作個展「Continuum Resonance」を開催中の〈VS.〉エントランス(カフェうめきた公園側 外観) Photo by Muryo Homma (Rhizomatiks)
展覧会詳細
https://vsvs.jp/exhibitions/daito-manabe-new-installation